No. タイトル システム 登録日 改稿日
0071 行方不明者の行方 CoC 00/04/08



はじめに

 このシナリオは、『クトゥルフの呼び声』の使用を想定して書かれた。
 他のホラーRPGでも使用は可能だが、『ゴーストハンター』のようにPCの戦闘能力が高いシステムの場合は調整が必要である。



サンプル・プレイヤー・キャラクター

 以下に、サンプルPCを4つ挙げる。
 シナリオの導入は、これらのPCを想定して書いた。自由にキャラクター・メイキングを行う場合、これを参考にして導入に手を加えて欲しい。

砦の兵士 昔日と異なり、山岳レスキュー隊同然の仕事をしている陸軍の辺境駐留部隊に所属している。階級は軍曹。
ジャーナリスト 所属する新聞社に「閉鎖的な村で中世の暮らしを送る謎のカルト集団」の長期取材を命じられて、舞台となる山岳地方にやって来た。
田舎の駐在 元都会の刑事。子供を誤射して殺してしまい、ノイローゼに陥った。今は、上司の計らいでリハビリの為に事件の少ない田舎に駐在(連邦保安官)として派遣されている。
異端生物学者 異端の生物学者で、UMAの存在を実証して学会に復讐しようと、単独で舞台となる山岳地方にやって来た。



登場NPC

レイボーン 人食い化物の神祖。銀の武器か火以外は傷を負わず、絶大な戦闘能力を持つ。人間を食わないと力が維持できないので、“人間牧場”を作ったのだが、雪崩で全滅して、飢えている。



事前状況および導入

 アメリカ西部開拓時代に、とあるオカルト事件に巻き込まれた末に人食いの化物となってしまったレイボーンという名の男がいた。彼は事実上の不老不死であり、変身する事で絶大な戦闘力と回復力を得るが、定期的に生きた人間を食わなければ命を保つ事ができなくなった。
 人が行方不明になっても怪しまれない西部辺境の地は、人食いに適していた。しかし時代が下ると、そう無軌道もできなくなった。人食いの化物と言っても、絶対無敵な訳では無い。徒党を組んだ人間がその気になればレイボーンとて無事ではいられない。
 19世紀に入ってから、レイボーンは“人間牧場”を作った。彼は人間を噛むだけで殺さなければ同じ化物にする事ができたので、まず、幾人か仲間を増やした。それから、人口密度が非常に低い中西部の山岳地方に自給自足の村を作り、誘拐・洗脳した人間たちを住まわせ、化物たちで管理した。表向きには、村はアーミッシュのような新興宗教のコミュニティーという事にした。
 それから数十年経が過ぎた。“人間牧場”には外部からの邪魔が入る事も無く、食う分だけ人間が増え、逃亡者も出さず、順調に機能していた。

 しかし1890年代のあるとき、大規模な雪崩が“人間牧場”を襲った。町は壊滅して、生き残ったのは化物の神祖であるレイボーンだけだった。
 レイボーンは飢え、仕方無く説を曲げて行きずりの人間を襲い始めた。そして人心地つくと、“人間牧場”の再建の前段階として、まず仲間を作る事から始めようと考えた。

 “人間牧場”から獣道を一週間ほど歩いた所に、陸軍の砦があった。西部開拓時代に、対メキシコや対インディアンを睨んで作られ、後に山賊対策となったが今ではその存在理由も薄れ、山岳レスキュー隊同然の仕事をしていた。人員は司令官を含めて6名で、些か左遷先のような雰囲気の場所でもあった。
 この砦は、街道沿いの山腹にあり、馬車を使っても隣村まで1週間近くはかかる場所にあった。補給は2ヶ月に1度で、その他、ときどき私物を買い出しに隣村へ人がやられるくらいだった。
 そういう状況を知っていたレイボーンは、兵隊たちを仲間にするかどうかを決めるテストを仕掛けようと考えた。まず、「自分は新興宗教コミュニティーの住人で、村は雪崩に遭って全滅した。自分独りで逃げて来たのだが、生存者がいる可能性もあるので救助して欲しい」と砦の兵隊たちに持ち掛けた。
 それを聞いた司令官は、部下3人を連れ、レイボーンの案内で村に向かった。砦には2人の兵士が残された。この内の1人は“砦の兵士”PCである。

 “カルト集団の村”に到着すると、レイボーンは本性を現わし、司令官たち4人を獲物にして“狩り遊び”を行った。気骨のある者がいたら仲間にするつもりだったが、眼鏡に叶う者がいなかった為に、全員を食ってしまった。

 “ジャーナリスト”PCは、所属する新聞社に「閉鎖的な村で中世の暮らしを送るカルト集団」(=“人間牧場”)の長期取材を命じられて、山岳地方にやって来た。

 山岳地方を通るルートで馬車による長距離輸送に行った隊商が、レイボーンに食われて全滅していた。予定日を過ぎても戻って来ないので、隊商の捜索願いが出されたが、遠方の僻地故に当局はあまり真面目に取り上げなかった。しかし、何もしないという訳にも行かないので、連邦保安官である“田舎の駐在”PCに単独での捜査命令が出された。

 山岳地方では、これまでにもたまたま変身した化物を目撃した者がいたりして、雪男の伝説が生まれていた。“異端生物学者”PCは、UMAの存在を実証して学会に復讐しようと、単独で山岳地方にやって来た。

 セッションは、砦から1週間かかる所にある村から始める。ここに“ジャーナリスト”PC、“田舎の駐在”PC、“異端生物学者”PCが同時期にやって来る。ここで各々、事前の情報収集活動を行わせる。導入なので、ロールプレイに凝ったりせず手早く進める事。
 以下に、村で分かる情報を列記する。

●UMAの目撃の噂は昔からある。熱心に調べていた者もいたが、スケッチ(二足歩行する人狼の姿)が得られた程度で噂話の域は出なかった。

●“カルト集団の村”はほぼ完全な自給自足をしている。希に金属製品など自給できない物の補充に男性が訪れる。最期に訪れたのは5年前だ。

●今年は、例年の何倍も行方不明事件が起こっているのは確かだ。村人は不安に思ってはいるが、自分自身に火の粉がかかっている訳では無いので、特に対処はされていない。

 その他、買い物なども済ませる事。銃でも食料でも在庫は何でもあるが、自動車やバイクは役に立たない点を注意しておく事。
 PCは目的に関わらず、取り敢えずは砦を目指すしかない。ここで、“砦の兵士”PCを除く全てのPCが当座の間、協力し合う事になるようにする。

 一行は、1週間の旅路の末に陸軍の砦に到着する。砦には、“砦の兵士”PCと、賄いをしているNPCの2人しかいない。適度に不気味さを演出した後で、全PCが合流する事になる。



本編

 全PCが合流した日は、本来ならば砦の司令官たちが戻って来る筈の予定日なのだが、音沙汰が無い。
 現状では“砦の兵士”PCは、砦の最高階級者であり、どうするかを決めなければならない。近くに軍隊や警察はいないし、1週間の旅程の所にある村人は民間人だし協力してくれそうには思えない。よって「援軍を呼ぶ」という選択肢は事実上、存在しない。
 導入なのだから、ここで「撤退する」という選択も無いだろう。
 幾らか様子は見るにしても、結局、PCは“カルト集団の村”を目指す事になる筈である。以降、そうとして進める。

 道中は、ねっとりとした嫌な空気がPCを苛む。道に迷わないか、一定時間おきにリーダー役が適当な技能判定を行う。失敗すると、全員が“成功0/失敗1”のSANチェックを行う。
 この辺りは、映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の雰囲気で演出して欲しい。

 あと1日で“カルト集団の村”に到着する段になって、PCはレイボーンと出くわす。
 レイボーンは、「司令官たちは二次遭難してしまった。自分は、救出作業に加わらずに休ませてもらっていたので助かった」と言い訳する。
 当然ながらPCたちはレイボーンを不信に思うだろう。探りを入れるならば、適当な技能判定を行う。例えば、<心理学>に成功すれば、レイボーンの言葉に嘘を感じる。レイボーンを観察して<目星>に成功すると、「レイボーンが着ている服は、司令官の物の筈だ」とか「返り血を浴びているのをコートで隠している」などと分かる。
 これらを指摘するか、それとも“カルト集団の村”の中に入れば、レイボーンは嬉しそうに正体を明かす。

 化物(=レイボーン)には、銀製の武器か火しかダメージを与える事ができない。それを知らないPCは、緒戦ではレイボーンに全く歯が立たないだろう。しかしレイボーンは、自分の力を誇示するだけで、PCに本気では攻撃して来ない。
 レイボーンは、取り敢えずPCたちを“カルト集団の村”に追い込もうとする。“カルト集団の村”はすり鉢の底のような場所にあり、監獄のように全方位を高い塀で囲まれているも同然で、ロープを使わないと出入りできない。PCは、ここに入るか、殺されるかの二択しかないと嫌でも悟らされる。

 この時点で、夜になっているものとする。レイボーンは、遠くからPCに「明日の日の出からゲームを始める。日没まで生き残れば、仲間にしてやる」と一方的に叫ぶと、哄笑しながら消えて行く。
 “カルト集団の村”は、雪崩で大半の家屋が潰れているが、夜露を避ける事ができる程度の形を残している建物も幾つかある。
 家々の構造は、まるで刑務所ないし収容所みたいになっている。処刑室があり、その隣に“精肉所”や“台所”があるなど、ここが“人間牧場”であった事が嫌でも連想できてしまう。これを悟ると、“成功1/失敗1D6”のSANチェックを行わなければならない。
 また、“カルト集団の村”の中で、砦の兵士たちの遺品(死体は食われている)を見付ける。その中に「火? 銀?」と書かれた手帳がある。一時的な狂気に陥っているPCがいるならば、それを見て「化物は聖なる銀で傷つき、聖なる火で焼かれる」などと口走る。

 “カルト集団の村”には、一切の銀製品が存在しない。しかし、松明や銀貨(25セント硬貨)は用意できる。火のついた松明は棍棒と同様に、銀貨は投石と同様に扱う。

 朝になると、レイボーンは気紛れにインターバルを取りながら戦いを仕掛けて来る。
 PCは、火と銀という武器を得ても、まだ不利である。PCの一部が傷ついた時点で、一旦、レイボーンは撤退する。
 傷ついたPCは、自動的に化物のウイルスに感染してしまう。2〜3時間の発熱の後、急速に怪我が治ってしまう。その頃合いを見計らって、レイボーンがテレパシーで話し掛けて来る。
 レイボーンは、化物に感染したPCに昔話(“人間牧場”の設立についてなど)をして、協力者を求めていると切り出す。「日没までに、人間を殺して食えば、仲間として認めてやる」と持ち掛け、返事も聞かずに接触を断つ。



結末

 化物となったPCは、銀と火からしかダメージを被らない。肉体を用いた戦闘ではダメージボーナスに“+D6”となる。移動速度も増す。

 PCの一部を化物にした後は、“カルト集団の村”の外に逃げ出そうとしない限り、レイボーンは襲って来ない。
 化物となったPCが、人間のPCに全てを明かし、共闘してレイボーンと戦うならば、今度はPC側の方が圧倒的に有利になる。ただし、化物となってしまうと人肉しか受け付けなくなり、食べなければやがて衰弱死する。

 化物PC対人間PCの戦いになる場合、人間PCが勝つとレイボーンが現れ、一度だけ「仲間にならないか?」と誘われ、断ると襲い掛かって来る。

 どういうオチが付くにしろ、生き残ったPCにはキャラクターのその後の人生を語ってもらうと良いだろう。



さいごに

 元ネタは映画『ラビナス』である。プロットはステロなので、プレイヤーに観た人がいても問題にならないだろう。

 プレイヤーがハッピーエンドを模索し始めると長引くと思うが、足掻くだけ足掻いてもらった方がセッションとしては盛り上がるので、“絶望”を上手く演出して欲しい。




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