No. タイトル システム 登録日 改稿日
0067 消えたロシア人 N◎VA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクでも使用可能である。

 『トーキョーN◎VAレボリューション』を使用の場合、『グランド×クロス』P.135で提案されているPC同士の円構造コネを持ち合う事。また、この中にNPCである“妹”も入れる事。



登場NPCおよび重要事項

ロシア連邦のドーム型閉鎖都市の高級官僚の娘。金髪碧眼の典型的な白系ロシア人でロシア語しか話せない。“新種の結核”に感染し、発病している。
上記の女性の腹違いの妹。黒髪の日系人で、片言の日本語を辛うじて話せる。姉の失踪に戸惑い、PCに助けを求める。
展示会関係者 展示会の成功、地域振興の為に、“新種の結核”の存在を隠そうとしている。元々、荒事に慣れた者は少なく、PCより少ない人数しか実行部隊に投入されない。スタイルとしては、レッガー、カゲ、エグゼグを含める事。



事前状況

 ロシア連邦には、“ゴエルロ”と呼ばれるドーム型閉鎖都市が無数に存在し、国民はその中に引きこもり、ほとんど外に出ることなく暮らしている。ゴエルロの1つである“レナード”という名の自治体の高級官僚の娘である2人の姉妹は、都市レナードの代表として、トーキョーで開かれる国際見本市展示会に参加する為に来日した。
 実は、都市レナードでは“新種の結核”が発生していて、上記の姉妹は本人たちも知らぬまま感染している。レナードは貧しい都市である上に、今までは貧民街にしか蔓延っていなかったため、治療薬の研究などはなされていない。また、先進国にしても“新種の結核”の基礎研究などはしていないので、万一にも病原体が外国(トーキョーとか)に入れば、対応策が追い付かず大きな被害をもたらす事は確実である。

 「都市レナードのエリート官僚の娘」と言ってもトーキョーの基準からすれば中流(それも中の下)に過ぎない。そもそも「“ゴエルロ”の外に出る事ができる」というだけで“特権階級”と見なされるような社会なのであり、当然、姉妹の他に“都市レナード”の出身者はトーキョーにいない。ロシア連邦の他の“ゴエルロ”出身者はいるが、ほとんど外国人同士のようなものである。
 姉妹がトーキョーの空港に着いたとき、姉は病気が進行して発熱していた。バックパッカーに近い貧乏旅行なので、出迎えなどおらず、ホテルの予約もしていない。「初めての長旅で疲れが出たのだろう」と思った妹は、急いで国際見本市会場(アサクサのイエローエリア)に隣接するビジネスホテルに入った。

 ところで、この姉妹は腹違いだった。父親と姉の母親は白系ロシア人、妹の母親は日系人だった。姉は金髪碧眼の典型的な白系ロシア人でロシア語しか話せないが、妹は黒髪で片言の日本語を辛うじて話せる。
 ホテルのフロント係は、ロシア語など話せず、コミュニケーションは妹の怪しげな日本語で行われた。妹としては、自分たちの事情を全てありのままに伝えたつもりだったが、どういう訳かフロント係は「金髪ロシア人と、東洋系ロシア人は赤の他人である。金髪ロシア人が空港で気分が悪そうにしていたので、親切な東洋系ロシア人がここまで連れてきた。それで2人ともこのホテルに泊まりたいと言っている」と解釈した。
 シングル・ルームが2つ手配され、妹はちょっと奇妙に感じたが、再交渉するのが面倒で受け入れた。2人は別々の部屋に入り、姉(=金髪ロシア人)の為に医者が呼ばれた。検査の結果、すぐに“新種の結核”と診断され、事態の意味を正確に把握した医者は上司に判断を仰いだ。

 医者の上司は、関係省庁(国際見本市会場維持管理会社、展示会主催団体、アサクサ地区行政官、病院・保健所担当企業)と諮った結果、「患者を隔離する」「この情報が漏れると少なくともアサクサ地区はパニックに陥り、国際展示会も中止せざるを得なくなる。よって部外秘とする」という決定がなされる。
 “展示会関係者”は、姉妹が部屋を取った2階を完全閉鎖して、即席の隔離病棟とする事にした。幸い、同じ階には他の客がいなかったので、東洋系ロシア人(=妹)さえ追い出せば良い。その実行を一任されたホテルのフロント係は、考えあぐねた末に以下のような手段をとる。

 まず、東洋系ロシア人(=妹)に手紙と地図を渡し「白系ロシア人(=姉)の為に、この手紙を持って、この場所へ行って欲しい」と伝える。詳しい理由を問い詰める事もできないまま、慣れない街に出され、妹は長い時間かかってようやく辿り付くが、そこはロシア連邦大使館で、手紙には日本語で「この人は言葉が分からず迷っていらっしゃったので、大使館までの地図を渡しました。よろしく御世話してあげて下さい」などと書かれている。狐につままれた気分で妹が戻る頃には、ホテルの2階は完全閉鎖されていて、従業員も“展示会関係者”の手の者と入れ替わっている。
 ニセ従業員は、戻ってきた妹に「あなたなど知らない」「白系ロシア人の客などいない」と言い放つ。妹は、他人ならともかく実の姉がいなくなったでおいそれと納得するハズも無く、食い下がり続けた。



導入

 上記“事前状況”の現場に、たまたまPCが出くわす。この中に、妹とコネ関係のある2人のPCを加える事。PCと妹は、ウェブ(ネット)での知り合いとする。

 ニセ従業員の1人は、実はトライアド系のヤクザで、騒ぐ妹に一発かまして大人しくさせようとする。PCがその間に立ち、妹を連れ出すように誘導する事。
 妹はロシア語か、怪しげな日本語しか話せない。馬鹿話ならばともかく、込み入った事情を聞き出す為には、PCはロシア語を習得するなり、通訳を雇うなりしなければならない。
 ロシア語の問題がクリアーされれば、「腹違いの姉と共にトーキョーに来た。姉が発熱していたので、すぐにホテルを取った。しかし手紙を持って大使館に行かされた挙句、姉などいないと言われた」という事情が説明される。渡された手紙も見せてもらえる。
 この後、PCは調査を買って出るものとして以降を進める。



本編

 ホテルへ聞き込みに行くと、ニセ従業員は武器こそ使わないものの好戦的で、PCを裏口に連れ出して痛めつけようなどとする。PCは「たかがボーイ」と侮るかもしれないが、カタナやチャクラが入ったバリバリの戦闘系ゲストである。
 PCが特殊技能や神業を駆使して中を覗こうとする場合、NPCは可能な限り妨害する。必要ならば、<チャイ>、<アンタッチャブル>、<インセンサブル>、<M&A>といった神業を積極的に使ってしまって構わない。妨害に成功して、PCの存在に気付いたならば、積極的に殴り掛かって来る。
 ホテル周辺にいる者(浮浪者など)に聞き込みをすれば、「入口にシルヴァー・レスキューの大型トレーラーが横付けされ、何か荷物(実は医療機器)が運び入れられた」「今朝はゴミを出さなかった」などの情報を得る。

 展示会および会場については、調べても怪しい点は無い。ただし、“展示会関係者”が以前にトライアド系ヤクザの力を借りたらしい事が分かる。トライアド系ヤクザの調査を進めれば、好戦的なニセ従業員がその構成員である事が分かる。

 頃合いを見計らって、次の日になったものとする。翌日になると、“展示会関係者”は「東洋系ロシア人(=妹)も都市レナードの出身者であり、新種の結核に感染している疑いがある」と気付く。
 この後でPCと“展示会関係者”が接触した場合は、<インセンサブル>で隠れて跡を付け、妹の居所を探り出そうなどとする。

 “展示会関係者”は、PCと接触して交渉を試みるが、「大勢の人々の財産生命に関わる事なのだが、詳しい事情は喋れない」「我々を信用し、武装解除の上で妹と共に同行し、軟禁を受け入れて欲しい。一定期間後の釈放と、協力に対する礼金の支払いを確約する」としか説明しない。
 断る場合は、戦闘を仕掛けて来る。


結末

 “展示会関係者”は、勝てるつもりで戦闘を仕掛けている。神業を打ち果たし敗色が濃厚になったならば、真実を告げる方針に転換する。
 ここで、告げる暇を与えなかったり、聞いても信じなかったりするならば、“新種の結核”がアサクサを中心に広まって大惨事になる。
 或いは、「ホテルにミサイルを打ち込む」などの手段を取った場合も同様の展開になる。

 投降するならば、遅くとも隔離病棟で真相を聞く事ができる。PCに生命の制御判定をさせ、失敗すると感染した事になる。
 PCが協力的だった場合は後で礼金が支払われるが、感染していたPCには、礼金と同額の治療費が請求される。



さいごに

 1900年にパリで万博が開かれたとき、インド在住のイギリス人母娘がパリを訪れた。この母娘は、英語しか分からず、フランス語は分からない。母親が気分を悪くしていたので、娘はホテルを取ってすぐに医者を呼んでもらった。診察後、ホテルの支配人と何か相談していた医者は「必要な薬を自宅に置いてきてしまった。自分は患者の側を離れられないので取ってきて欲しい」と娘に告げた。
 娘がホテルに戻ると母親の姿は無く、ホテルの支配人は「あなたも、あなたの母親という人も知らない」と言う。確かにどの部屋にも母親はおらず、それでも納得せず半狂乱になった娘は、とうとう精神病院に入れられた。
 実は母親はペストに罹っていて、娘がホテルを離れてすぐに死んだ(殺された?)。万博の成功の為にペスト患者が出た事は内密にするしか無く、パリ市の役人と話し合った末にこういう事をしたそうな。

 この話から、シナリオを思い付いた。
 それと、最近、ロシアで従来の抗生物質が効かない新種の結核が発生しているが、金にならないので先進国の医療メーカーが治療薬の開発をしてくれないというニュースを聞き、そのネタも混ぜた。

 裏の事情に一捻りあるものの、構造的には単純なストーリーなので、戦闘シナリオと割り切ってマスタリングして欲しい。




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