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0066 3日間飛行船の旅 GA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『ギア・アンティーク〜ルネッサンス』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のスチームパンクや類する世界背景のRPGでも使用可能である。

 『ギア・アンティーク〜ルネッサンス』を使用する場合、P213の『3:航空に関するルール』を使用するものとする。

 PCの内、飛行機を操縦できて、高速飛行船(P110)を所有している者が最低1人は必要である。時代もそれに合わせる事。
 また、魔道士、発明家、整備士もいた方が望ましい。



登場NPCおよび重要事項

4課課長 ユーレンブルグ宇宙開発局の中にハミダシ者の集団“開発4課”の課長。「貴族出身の課長の為の私的な“お遊戯場”」と周囲に軽んじられていたが、コロンブスの卵的な発想で新しい宇宙機を開発する。



事前状況

 ユーレンブルグは、ロシア(ソ連)をモデルにした国で、国土の多くが降魔汚染されているせいで貧しいものの、軍事力は高く、マキロニー世界の大国の1つに数えられている。
 ユーレンブルグはまた、ロケット分野の科学技術で他国を大きく抜きん出ていて、小型〜大型のミサイル兵器を唯一擁し、有人月ロケット“マリエル・シリーズ”の開発も着手していた。
 マキロニー暦1999年に“月面航行用巨大推進弾マリエル4”を有名な科学怪盗ヴェルン卿に盗まれたユーレンブルグは、2001年に“マリエル5計画”を発動した。使い捨て多段ロケットを垂直発射する方式で、膨大な予算をかけたユーレンブルグにしかできない計画で、国家の威信が掛かっていた。
 同時期、ユーレンブルグ宇宙開発局の中にハミダシ者の集団がいた。一応、“開発4課”という1つの組織として括られ捨扶持予算を与えられていたが、実際上は「貴族出身の課長の為の私的な“お遊戯場”」であると周囲には認識されていた。
 しかし、4課は彼らなりに真面目に宇宙機を研究開発していた。
 彼らは「赤道上の高々度に巨大飛行船を飛ばし、それを母機にして有翼ロケットを空中発射する」と言う原理を採用していた。比較的低予算で実現でき、しかも技術の多くはフィラム王国(航空機の先進国)の物を元にしていた。
 ユーレンブルグ政府からすれば、4課の計画は宇宙分野における自国の優位性を脅かすもので、さらに小国や結社レベルでも扱えるとなると世界のミリタリー・バランスをも覆しかねない。とても承服できない裏切り行為で、計画の内容を知って慌てて中止命令を下したが、4課は拒否して発射準備を進めた。ユーレンブルグは発射阻止に動いたが、既に泥縄状態で投入できる戦力は少なかった。

 ところで、この世界では“雷風効果”のせいで電気技術の発達が阻まれ、無線通信も存在しない。そこで4課課長は宇宙機と地上との通信の為に、レーザー通信(のような物)を使用するつもりだった。それには、とある小国の発明家(PCまたはNPC)が精霊紋章を応用して作った「光を電気信号に変換する装置」と、妖精エンジン(妖精または魔道士を燃料として半永久的に動く永久機関)を利用した機械式コンピュータが必要だった。
 小国の発明家は、故国ではサッパリ評価されなかった自分の発明品が必要されていると聞き、ユーレンブルグに亡命するつもりで4課課長の求めに応じて、指定された合流地点に向かった。



導入1:飛行家

 飛行船を所有するPCは、フリーランスの飛行家で、“ユーレンブルグ出身の貴族”を名乗る4課課長の依頼を受けて複数の人物を海上の特定のポイントまで輸送する。その過程で、以降の導入のPCを拾う。
 飛行家PCの友人という形で、この導入に関わっても構わない。



導入2:魔道士

 4課課長と、この導入のPCと知り合いで、互いの正体も知っている。4課課長は、新しいプロジェクトに立ち会って欲しいと言ってPCを呼び寄せる。その為に、荒野で導入1のPCの飛行船に乗るように指示される。
 上記“事前状況”にある機械式コンピュータに使用する妖精エンジンのバックアップ燃料として利用する心積もりもあったが、その事は黙っている。

 PCの中に魔道士がいない場合、魔道士NPCを護衛する為にPCが雇われ、同行するものとする。



導入3:発明家

 4課課長の求めに応じた小国の発明家は、自分の発明品をアタッシュケースに入れ、荒野で導入1のPCの飛行船が到着するのを待つ。発明家は、4課課長がユーレンブルグ宇宙開発局の課長である事を知っている。
 PCは、発明家を護衛する為に雇われ、同行するものとする。

 PCに発明家がいる場合は、この役割をPCに割り振ると良い。



本編

 3つの導入の全てを使用し、それにPCが乗るものとして進める。

 導入3のPCが飛行船と合流する地点である荒野には、実はユーレンブルグの特務部隊が塹壕を掘って潜んでいて、目標人物(=発明家)を待ち伏せている。飛行船と導入3のPCはほぼ同時に目的地点に到着して、特務部隊員は発明家に攻撃を仕掛ける。

 飛行家PCが<飛行船操縦>の“×1判定”に1回で成功すれば、2ラウンドで着陸して、1ラウンドで発明家たちが乗り込むことができる。失敗すれば、その分だけ時間がかかる。飛行船に乗るPCが、飛び道具で援護射撃する事もできる。
 ここでは、演出的には脅しの意味合いしかないので、結果的に無事に飛行船に乗れるように誘導する。適当な判定を要求して、着陸していない飛行船から飛び降りて援護するなどの行動を認めても構わない。「特務部隊兵は、発明家に攻撃を集中するべきなのに、戦闘系PCの勢いに押されて、つい目標を散らしてしまう」などとすると良い。

 目標地点は公海上で、そこまでの無着陸で3日間かかる予定である。しかし、以下のような妨害が起こる。

@ロケット機ケッヘンティッセの攻撃。
 発明家が乗船してから2日目に、ユーレンブルグ製の新型ロケット機ケッヘンティッセ(P118)3機の攻撃を受ける。
 ケッヘンティッセは、推進弾1発を撃ち、それが当たらなかった時は体当たり(7D爆弾扱い)する。まず間違いなくPCの飛行船はHP0にされてしまうだろう。ゆっくりと高度を下げながら不時着する事になる。その近くにフィラム領の町があり、ここに立ち寄らない事には飛行船は修理できない。

A工作員のテロ。
 町には、ユーレンブルグの工作員が潜入している。
 PC一行が飛行船の補修部品を買い求める事を見越して罠を張っていて、隙を見て攻撃する。工作員の最期の1人は、死の間際に「そいつを届けたら、空は恐怖で覆われるのだぞ」と言い残す。
 戦闘を凌いでも、買った補修部品に爆弾を仕掛けている。整備するPCが適当な判定に気付かなければ、飛び上がったところで爆発して、再び墜落する。もう一度整備をしなければならず、結局、ユーレンブルグの増援工作員と再戦する羽目になる。
 爆弾は高度計に繋がっている。4級技術資格以上を持つ者が調べれば、ユーレンブルグ製だと分かる。

Bエルハイム型高速飛行船の尾行。
 町を出発した後、エルハイム型高速飛行船(P118)が付かず離れずで尾行されている事に気付く。速度の関係から攻撃可能距離に近づく事はできない。どこかに着陸してやり過ごそうとする場合は、マスターが適当に判定して欲しい。

C巨大空中母艦エミール登場。
 目的地である公海上に着くと、巨大空中母艦エミール(P118)が現れる。PCは当初は驚くかもしれないが、すぐに「味方である」と伝える発光信号に気付く。エルハイム型高速飛行船は、これを見るとすぐに陸地に向かって取って返す。
 巨大空中母艦エミールは、4課課長が私財も使って得たフィラムの試作飛行船で、これが有翼ロケットの空中発射母機である。

 なお、旅の途中でPCが依頼主(=4課課長)の正体や発明家の持つアタッシュケースの中味に興味を持ったならば、NPCは知っている事を正直に話す。
 巨大空中母機エミールにPCの高速飛行船は収容され、4課課長の歓迎を受ける。
 そこで4課課長は、何か含みのある態度を見せる。実は宇宙機の飛行士と妖精エンジン燃料が届いておらず、それをPCに頼ろうと考えている。
 PCに食事や入浴を勧め、落ち着いたところで4課課長はロケット打ち上げ計画や、ユーレンブルグ宇宙開発局との確執を話す。その後で、飛行家PCおよび魔道士PCに、協力要請をする。勿論、魔道士PCに対しては、他の者に正体を知られないようにこっそり依頼する気遣いは見せる。

 PCが断った場合は、その場は引くが、後で兵士を連れて来て脅してでも言う事を聞かせようとする。

 PCが応じたり、脅しに屈した場合、飛行家PCに宇宙機の操縦マニュアルを渡したり、光通信機を取り付けたりする。

 翌日、赤道上に到着する。エルハイム型高速飛行船の尾行を振り切れなかった場合、ここでケッヘンレルス(P118)の飛行小隊4機の襲撃を受ける。その状況下でも、4課課長は有翼ロケットの発射の強行する。



結末

 宇宙機は、母艦発射時に飛行家PCは<飛行機械操縦>の“1/2判定”に成功しなければならない。失敗は、タイミングを計れなくて発射し損なったものとして、その間に母艦はケッヘンレルス4機の攻撃を受ける。ケッヘンレルスは小型推進弾2発を搭載していて、3ラウンド目になってもまだ宇宙機が発射されなければ体当たり(7D爆弾扱い)する。80点以上のダメージを受ければ発射不可能となる。
 宇宙機が軌道に出て、巨大空中母機エミールと通信を果たす為に妖精エンジンが使われ、その為に魔道士は1Dダメージを被る。
 帰還時にも飛行家PCは<飛行機械操縦>の“1/2判定”に成功しなければならない。この行為には、軌道計算の為に妖精エンジンが必要で、1回試みる度に魔道士は1Dダメージを被る。成功する前に魔道士のHPが0以下になると、帰還できない。
 帰還すると、着水したところを巨大空中母機エミールが回収してくれる。ユーレンブルグの戦闘機は、取り敢えずいない。
 4課課長は、実験成功の実績を引っ提げてどこぞの国家なり結社なりに亡命するつもりで、PCにも仲間になろうと誘いを掛ける。

 PCが4課課長への協力を拒む場合は、巨大空中母機エミールからの脱走劇がクライマックスとなる。
 ケッヘンレルス飛行小隊攻撃で生じる混乱を通じて、PC所有の高速飛行船までの逃亡を演出して欲しい。



さいごに

 元ネタは、『ピュアガール』という雑誌に掲載されていたコミック、Mey Suzukiの『Break Down The TotemPole side A』である。
 ロケット打ち上げネタというのは、既に基本パターンは出尽くした感があるが、このコミックで使われた「有翼ロケットを母機から空中発射する方式により低予算で宇宙機を飛ばそうと考えた連中が、国家の反感を買う」というネタだけは、ちょっと目新しいと感じて、シナリオに織り込んだ。
 とは言え、『ギア・アンティーク〜ルネッサンス』で遊ぶ為に無理矢理まとめた感は拭えない。




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