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0065 女学生に這い寄る影 GA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『ギア・アンティーク〜ルネッサンス』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のスチームパンクや類する世界背景のRPGでも使用可能である。

 PCの内、戦車を操縦できる者が1〜2人いる方が望ましい。また、ヴァルモン軍人が1〜2人いる方が望ましい。



登場NPCおよび重要事項

ミュラー大尉 ヴァルモン軍特務戦車部隊隊長。多脚戦車シュワルツハーゲンBに乗り、2人の部下と共にフィラム領に潜入している。
“強化戦車兵計画”の被験者であった事から、彼が操縦した場合、車両戦闘において<回避>を使用できる。
よって車両戦闘時において、敵の攻撃が命中しても<回避>の“×3判定”に成功すれば弾に当たらない。故障する確率もそれだけ低くなる。また、<回避>したラウンドにも攻撃する事ができる。
ロゼ フィラム側の“強化戦車兵計画”を行っている研究所所長の一人娘という事になっている。しかしその正体は、完成した唯一の自動人形戦車兵であり、人間では無い。本人は、自分の正体を知らない。
暗示を与える事で、戦車兵としての能力を発揮する。
戦車兵状態でのロゼは、ミュラー大尉と同様に<回避>を行う事ができる。
それに加えて、同乗する射手が<ガントリック>を使用できるようにする共感力を発揮する。
所長 元々は自動人形(アンドロイド)の研究をしていた発明家。フィラム政府の要請に応じて、戦車を操縦できる自動人形の研究を行った。しかし自動人形に情が移り、フィラム政府を裏切って逃亡するつもりでいる。



事前状況

 フィラム王国とヴァルモン帝国が対峙して小競り合いを繰り返す“浮動国境地帯”と呼ばれる地方がある。現在は休戦状態だが、ヴァルモン帝国の機密部隊が密かにフィラム王国領に潜入していた。
 ヴァルモン機密部隊の目的は、「新開発の多脚戦車シュワルツハーゲンB(P116)を用いて、秘密裏にフィラム領奥深くまで行って戻ってこれるかの実地テスト」を行う事だった。この機密部隊を率いているミューラー大尉は、元々は“強化戦車兵計画”という優れた戦車兵を人工的に作り出そうという研究の被験体だった。しかし、計画は「実用にならない」として廃棄され、今は特務部隊の士官として働いている。

 ところで、フィラム側でも“強化戦車兵計画”と似たような計画があり、その研究施設が浮動国境近くの山地にあるという情報をミューラー大尉は掴んでいる。自国の計画の中止を不満に思い、アイデンティティーの崩壊の危機に陥っていたミューラー大尉は、今回の任務をチャンスだと思った。部下には任務について偽りを伝え、「フィラム産の強化戦車兵と決闘する」為に勝手な行動に出る。

 フィラムの研究施設の正確な位置を、ミューラー大尉は知らなかった。
 しかし、研究所所長の娘(ロゼ)が近郊にある“薔薇の園女学校(在学生の20%は戦地で死んでしまうという実践的な看護学校)”の寄宿生である事と、その氏名の情報だけは掴んでいた。最初は部下に命じてストーキングしていたが、慣れない種類の任務の為に気付かれて失敗してしまう。そこで、そういった仕事に慣れた者をケルシュターゼンまたはローゼンブルグで雇おうと考えた。

 さて、フィラムの研究所は、確かにこの地方にあった。
 元々は自動人形(アンドロイド)の研究をしていた発明家(=所長)が、研究資金を得る為にフィラム政府の求めに応じて、戦車を操縦できる自動人形の開発に取り組んでいたのだった。魔術その他も利用して1体の自動人形が完成し、ロゼと名付け、所長の娘として教育(プログラム)を始めた。
 しかし、育てて行く内に情が移り、所長はロゼを殺人機械にする事が忍びなくなっていた。そこで、フィラムから逃亡する計画を立てた。



導入1:尾行依頼

 ミュラー大尉は、民間人に変装し、単独で町に潜入する。
 PCにヴァルモン軍人がいる場合、フィラム駐留武官の任に就いているとする。この任に就いているのは、PCしかいない。予め本来の任務の為にもらった「この者の便宜を計れ」という上層部発行の曖昧な物言いの命令書を悪用して、ミュラー大尉はフィラム駐留ヴァルモン武官PCを騙して協力を要請する。
 ミュラー大尉は、薔薇の園女学校の寄宿生であるロゼという名の娘の実家の住所を突き止めて欲しいと依頼する。実家は、この地方にある筈だと言い、方法として「行動を監視する」「手紙のやりとりを調査する」「薔薇の園女学院に忍び込んで名簿を盗み見る」といった事を提案する。理由を問われれば「極秘だ」としか答えない。求められれば調査費用も払うし、現地民間人協力者(=PC)を使っても構わないと言う。
 仕事には、明朝からかかって欲しいと頼まれる。寄宿舎の住所が教えられ、ロゼの隠し撮り写真など必要な物は渡される。報告は、定時に決められた場所に書面を置いておくという方法が求められる。
 ミュラー大尉は認識票などの類を身に付けていないが、問われれば認識番号や原隊などについては正直に話す。

 PCにヴァルモン出身者がいない場合、キャラクターの経歴などから判断して、アウトロー系の適当な者にこの導入を割り振る。



導入2:ストーカー疑惑

 導入2のPCは、事前に知り合い同士だとする。
 PCは、ケルシュターゼンまたはローゼンブルグの酒場で閉店まで飲み、それから町外れにあるPCの1人の家で2次会をしようという事になる。
 そのPCの家は、たまたまロゼが住む寄宿舎の近くにある。PC一行は、偶然にも帰る途中だったロゼからストーカーと勘違いされて一悶着起こる。

 ほどなく誤解は解け、ロゼは「最近、誰かに跡を付けられている」という話をする。
 ここでPCが、ロゼを気かけるという展開になるように誘導する。以降、その路線に乗ったものとして進める。



1日目夜

 PCは、導入1か導入2の何れかに属するようにする。

 ミュラー大尉は、導入1のPCへの依頼を済ますと、山中に潜む戦車のところに戻る。跡を付ける場合、適当な判定を要求する。ミュラー大尉は、能力値が高く、<気配消し>なども所有しているので気付かれずにいるのは難しく、PCの対応によっては戦闘になる。尾行に成功したならば、戦車から夜間戦闘服姿の兵士が1人出てきて、ミュラー大尉の指示で徒歩で薔薇園の方に向かうのを目撃する。

 寄宿舎および導入2のPCの家は、薔薇園の近くにある。PCが寄宿舎の方に注意を向けていると、ヴァルモン軍の夜間戦闘服を着た男が近づいて来るのに気付く。薔薇園にはもう1人、ヴァルモン軍の夜間戦闘服を着た男が潜んでいて、やって来た男と合流する。
 2人のヴァルモン兵は、ミュラー大尉の部下である。「フィラムの秘密研究所の位置を探す為に、所長の一人娘ロゼを監視する任務に就いている」つもりでいて、交代で寄宿舎を見張っている。彼らは、<遠視><聞き耳><気配消し>といった技能を持っておらず、この手の任務には向いていない。後から来た兵士は、ミュラー大尉の「明日からプロに任務を手伝ってもらえる事になったので、今夜一杯で帰隊するように」という命令を伝えに来て、早朝に2人で引き上げるつもりでいる。

 薔薇園に潜む2人のヴァルモン兵士に戦闘を仕掛けるならば、原則的に彼らは逃亡する。逃げられないとなれば応戦するし、捕えられてもできるだけ口を割らないように頑張るが、手酷い拷問に耐えられる程には強くない。
 認識票は持っておらず、警察などに連れて行かれた場合は、脱走兵だと主張する。
 兵士たちの跡を付けるならば、山中の戦車のところに戻る。部下が戦車に戻ると、ミュラー大尉は念の為に移動する。



2日目〜5日目昼

 所長は、ロゼや親しい研究員を引き連れてフィラムから逃亡するつもりでいる。逃亡先では、現在ほどの研究環境は望めないので、今の内にロゼのデータ取りを済ませ、将来的に不具合を起こしたときに修理できる体制を整えようとしている。
 ロゼは、父親(=所長)の研究を「人間と機械の新しいインターフェースの開発」だと思っていて、「自分は研究の為の人体実験を買って出ている」つもりでいる。薄々、軍事関係の研究である事に気付いていて、近い内に逃亡するつもりでいるのだろうなと悟っている。

 そんな訳でここ何日か、ロゼは「家庭の事情」で授業を休み、朝は自宅に向かい夜に寄宿舎に戻る生活を送っている。
 実家とは、研究所の事で、ヘスター山地の奥にある。ロゼは、ローゼンブルグ駅から山地駅まで汽車に乗り、その先は駐輪しておいた自転車を使う。
 ロゼはストーカーを警戒していて、わざと跡を付け難いような行動を取っている。

 導入1のPCは、この日の朝から寄宿舎を見張るように指示されている。尾行する場合、「宿舎→ローゼンブルグ駅」で1回、「満員の車内」で1回、「ケルシュターゼン駅での乗り換え」で1回、「ガラガラの車内」で1回の計4回の技能判定が必要になる。その上、「山地駅→研究所」を自転車で移動するロゼを追跡する為に有効な手段を考え出さなければならない。

 導入2のPCは、上手く振る舞えばロゼと親しくなり、実家(=研究所)まで護衛を兼ねて同行するという展開に持って行く事もできる。
 ただし、会ったばかりのPCをいきなり信用するというのも不自然な話なので、納得できる理由がなければ、やんわりと同行は拒否される。ストーカーとは実はヴァルモン兵士だったという話をして、証拠となるモノを見せれば納得してもらえる。
 ヴァルモン兵士実在を示す証拠が無かったり、話の仕方が不味ければ、拒否する展開になるが、その場合もプレイヤーのやる気を削がないようにマスターは注意する事。

 ロゼは、最終汽車でローゼンブルグ駅に戻り、寄宿舎に帰る。

 基本的にロゼは4日目の間、この行動を繰り返す。

 その他、起こり得るイベントを列記する。

@ロゼが手紙を投函する。
 寄宿舎では出入りする郵便物が一ヶ所に集められるが、その中には、ロゼ宛ての物も、ロゼが出した物も無い。ミスディレクションとして、「検閲を嫌った女学生が、外出を許されたロゼに手紙を預けた。それで、ロゼは郵便局で切手を買い求めて封書を投函する」というイベントを入れても良い。

Aミュラー大尉の部下が独断で実力行使に出る。
 展開によっては、ミュラー大尉の部下を捕えるチャンスを作っても良い。ただし、ミュラー大尉自身は戦車から離れない。
 戦車を発見した後で警察などに通報しても、その間に移動してしまう。相手は多脚戦車なので思わぬ場所に移動できるので、幾らPCが「確かにここに戦車がいた」と主張しても、嘘吐き扱いされてしまう。

B女学院または女子寄宿舎に潜入する。
 薔薇の園女学院および寄宿舎への潜入は、専門の警備員が見張っているので簡単では無い。名簿を盗み読む場合、何らかの理由を付けて内部に入り、それから各部屋を探し回る事になるだろう。その辺りの演出や、失敗した場合の扱われ方は、マスターに一任する。
 なお、ロゼの実家の住所は、生徒は誰も知らない。親しい生徒を脅すなどすれば、山地駅の近くにあるらしい事だけは分かる。

CPCがロゼを襲う。
 導入1のPCがロゼを襲う場合もあるだろう。基本的には導入2のPCに任せた方が良いが、場合によっては警官などのNPCを登場させて収めても良い。

D所長と接触する。
 PCが所長と接触した場合、当たり障りの無い話しかされない。PCが強い調子で「軍に追われているでしょう」などと突っ込んだ質問をすれば認めるが、ロゼの正体は明かさない。適切なロールプレイを取るならば、7日目に逃亡する予定である事を明かし、その際の護衛等をPCに依頼する。

E研究所の住所を突き止め、ミュラー大尉に報告する。
 導入1のPCが研究所の住所を突き止めてミュラー大尉に報告すると、速やかに目的地に向かう。
 ミューラー大尉は多脚戦車シュワルツハーゲンBで研究所を襲い、強化戦車兵との決闘を申し込む。所長は「戦車が未整備」「強化戦車兵は不在」と言い訳をする。ミューラー大尉はロゼを連れ去り、「24時間以内に決闘場所に現れないときは娘(=ロゼ)を殺す」と言い残す。
 PCが所長と知り合いになっていた場合は、相談を受ける。その際、「ロゼは自動人形戦車兵である」「暗示でその記憶は封印されているが、キーワードで蘇る」「情が移り、フィラムから逃亡して人間の親子として暮らすつもりだった」と告白される。



5日目夜

 5日目になっても報告が無い場合、ミュラー大尉は実力行使に出る。
 5日目の夜、寄宿舎に戻るロゼの前に戦車に乗ったミュラー大尉が現れて、強引に誘拐する。目撃者が出て、警察等がやっと捜査に乗り出すが、基本的に手後れである。
 やがて、研究所には「指定した時間に強化戦車兵が決闘場所に現れないときは娘(=ロゼ)を殺す」という内容の脅迫状が届く。PCが所長と知り合いになっていた場合は、相談を受ける。その際、「ロゼは自動人形戦車兵である」「暗示でその記憶は封印されているが、キーワードで蘇る」「情が移り、フィラムから逃亡して人間の親子として暮らすつもりだった」と告白される。

 導入1のPCとしてヴァルモン軍人がいた場合、この頃、本国から「特務部隊のミュラー大尉が離反したらしいので、彼が接触して来たら逮捕する事」という秘密指令が届く。



結末

 手持ち武器では、戦車にダメージを与える事はできない。経歴によってはPCが戦車や対戦車銃を持っている場合もあり得るが、街中に持ち込む事はできないので、戦車に搭乗したミュラー大尉とクライマックスの前に遭遇した場合、原則的に対抗手段は存在しない筈である。

 クライマックスの決闘場所には、PCは所有する戦車等を持って行く事ができる。そういった兵器を持たない場合は、所長が主力戦車エルセージュM1(P114)を1両貸してくれる。それら兵器に関して、整備が必要だとして技能判定を要求しても良い。
 プレイヤーが不満そうならば、PC所有分も合わせて2両までならば戦車を与えても良い。それでも決闘場所へ行くのを拒否する場合は、そこでセッションは終了する。

 決闘場所は、一方だけが開いた盆地になっていて、PCが逃げられない位置に入ると、ミュラー大尉は「人質が気になって負けたなどと言い訳されたくないから」と言ってロゼを解放する。戦車が2両いても咎め立てられない。
 「ミュラー大尉はヴァルモン軍から離反している事を知っている。この行動は任務では無いだろう」と指摘しても動揺は無く、必要ならば部下を殺す。ミュラー大尉を説得する術は無い。
 「強化戦車兵などいない」と言った場合は、信じる信じないに関わらずやはり襲い掛かって来る。

 <回避>を行う特殊能力を持つミュラー大尉に対して、PCが勝つのは困難であろう。PCが、ロゼにキーワードを囁いた場合、彼女は戦車兵として目覚める。
 目覚めたロゼは<回避>を行う事ができる。また、彼女を戦車長として指示に従う場合は、射手は自分が持つ<ガントリック>技能を使用して戦車砲を撃つ事ができるようになる。
 プレイヤーがキーワードを囁くと決めたならば、進行中の処理を止めてその直後から特殊能力を使用しても構わない。また、戦車を乗り移る必要がある場合は、事情を説明すればミュラー大尉は見逃してくれる。

 自分が人形だと知っても、ロゼはそれほどショックを受けた様子は見せない。
 PC側が勝利して、ロゼを研究所に連れ帰れば、所長たちはその足でこの地を離れる旅に出る。



さいごに

 元ネタは川上稔の『閉鎖都市 巴里(上)』である。上巻を読んだ時点で作ったのだが、後で下巻を読んで「やはりこういうオチだったか」と思った。この辺、ストーリーとしてはステロな部分なので、プレイヤーに元ネタを知っている人がいても問題にはならないだろう。

 川上稔に興味のある人は、御本人のホームページを参照して欲しい。初期の作品はつまらないが、『奏(騒)楽都市OSAKA』以降はお勧めである。しかしどうもこの作者は、タイプ的に庵野秀明(『エヴァンゲリオン』の監督)と似ていて、プロデューサー的な立場の人に管理されないと自滅しそうで危いのが気になる。自滅するには惜しい才能だと思うので、分をわきまえた創作活動をして欲しいと個人的には願っている。

 『ギア・アンティーク〜ルネッサンス』を使用する場合、特にP199の『17:車両の戦闘』のルールには注意してもらいたい。このルールを適用し忘れると、ミュラー大尉の強さが全く演出されない事になる。
 他のRPGを使用する場合は、ミュラー大尉やロゼの特殊能力のルールを適当に決めて欲しい。




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