No. タイトル システム 登録日 改稿日
0064 青年と町娘と女戦士 LUNA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、同人ファンタジーRPG『The Lunatic』の使用を想定して書かれた。
 しかし、『ソードワールド』など汎用ファンタジーとしても使用可能である。

 また、特に『天羅万象』を使用する場合について、「さいごに」に記したので参照して欲しい。



登場NPCおよび重要事項

No.6 A国軍人だったが、国のバーサーカー兵器計画の被験体にされ、記憶を失った。そして今、B国エージェントの策略によってB国に向かっている。
女戦士 かつて、No.6が所属する部隊によって村を滅ぼされた。仇として追っていたが、彼が記憶喪失と知り、白黒つけたいと願っている。
町娘 A国のとある町に住む薬草屋の娘。No.6に一目惚れした。
A国 舞台となる国。政府機関でバーサーカーの制御が研究されている。
B国 A国と国境を接する隣国。A国とは緊張関係にあるが、今のところ国交はある。
エージェント B国の手先。バーサーカー兵器奪取の為にA国に潜入している。
バーサーカー 怒りの精霊に憑依された戦士。
使用システムが『The Lunatic』の場合、バーサーク状態では「精神系魔法無効。気絶チェックの類は自動成功」として扱う。
使用システムが『ソードワールド』の場合、『ロードス島ワールドガイド』P80のルールに従う。



事前状況

 A国では、バーサーカーをコントロールする研究がなされていた。
 本来のバーサーカーは怒りに任せて死ぬまで攻撃を続けるが、希にその怒りが収まって、“静かなる狂戦士”と呼ばれる無感情な状態になる者もいる。魔法学者はその現象に注目した。バーサーカーの脳に「遠隔操作で脳内物質を制御したり、暗示を与えたりできる魔法具」を埋め込み、通常は“静かなる狂戦士状態”でいさせて、いざ戦闘になれば“バーサーク状態”にした上で攻撃目標を指定できるようにした。

 コントロール技術が確立されると、A国はバーサーカーの試験生産を始めた。予め制御用魔法具を仕込んだ特殊部隊の兵士を、わざと怒りの精霊に憑依され易い環境に放り込み、バーサーカーになったところで「戦う為だけに生きる兵器」にしてしまうのだ。
 とある兵士も、A国政府の陰謀にはまった1人だった。彼の所属する部隊員には制御用魔法具が仕込まれていて、辺境の寒村の無辜の民に難癖を付けては略奪の限りを尽くすという“任務”に就かされていた。次第に倫理観が麻痺してきたその兵士は、狂騒状態でいるうちにバーサーカーに憑依され、そして魔法学者によってコントロールされた。その兵士は以前の記憶その他を全て失い、“No.6”という番号で呼ばれるようになった。
 そしてNo.6は、最も高い性能を誇るバーサーカー兵器になった。

 ところで、魔法学者の中にB国(A国と緊張関係にある隣国)と通じている者がいた。B国と通じた魔法学者は、最も高い性能を誇るNo.6に後催眠を掛けて記憶を刷り込んだ。運用試験中にその後催眠が発動したNo.6は、「自分は記憶喪失で倒れているところを親切な老夫婦に助けられ、B国にいる有名な精神科医への紹介状を書いてもらったので訪ねに行くところだ」と思い込んだ。“有名な精神科医の病院”とは実はB国政府施設で、No.6は刷り込まれた偽記憶に従う事で自分の足でB国に新兵器サンプルを持ち込むという寸法だった。
 念の為に、B国の方も回収の為のエージェントをA国内まで派遣した。エージェントは、国境近くの町でNo.6と合流する予定になっていた。

 さて、ここに1人の女戦士がいた。彼女は、2年前に自分の村が自国の1個小隊の略奪を受けた事がある。特に両親と妹を殺し、自分を辱めた1人の兵士だけは忘れられず、それで戦士となってその仇を追っている。
 実は、女戦士の出身の村とは、No.6が特殊部隊時代に略奪行為をしていた寒村だった。仇とは、No.6自身であった。
 今現在、No.6は、如何にも純朴な青年という風体でB国に向かう旅をしている。偶然、彼の目撃情報を耳にした女戦士は、仇(に似た男)を追って街道を進んだ。

 また、No.6は、エージェントと合流する前に障害にぶつかっていた。
 国境近くの町のさらに手前の森の中で、薬草摘みをしている町娘が山賊に襲われている現場に出くわしたのだ。
 “純朴な青年モード”のNo.6は剣の握り方すら知らない。魔法学者からの指令が無い限りは、その仮面は剥がれない筈で、本来ならば山賊に殺されてお終いとなるところだった。しかし、町娘の存在が影響したのか、No.6は極限状況下で“バーサーカー・モード”になった。そうなったNo.6に山賊ごときが敵うはずも無く、全滅した。



導入

 No.6が山賊を全滅させた数十分後、たまたま近くを通り掛かったPCが血の臭いに気付いて現場にやって来るものとする。
 現場には、山賊の複数の死体と、血刀を握ったまま気絶している純朴そうな青年(No.6)と、彼に守られるようにしてやはり気絶している町娘がいる。2人はたいした怪我も無く、介抱すればすぐに目を覚ます。
 町娘は、No.6が“バーサーカー・モード”になる前に気絶してしまったので何も見ていない。No.6は自分が何をしたか覚えていない。
 町娘は、国境近くの町で祖母と2人で薬草屋を営んでいて、薬草の採集に来たところを山賊に見付かり、襲われそうなところを青年に助けられたと説明する。彼女は「青年が勇気を振り絞って自分を守って時間稼ぎをしている間にPCが到着して、山賊を倒してくれた」と勝手に理解していて、PCがその誤解に気付いて訂正すると「助けてくれた誰かは、PCが到着する前に去ってしまったのだ」と考える。
 青年は「記憶喪失で、B国の精神科医の所に行く旅の途中だ」と言い、基本的に町娘の証言を追認する。とても純朴そうで、「剣など振るった事も無いのに、つい無理して山賊の前に出てしまった。恐怖で気絶している間に、誰かが助けてくれたようだ」と言う。
 ちなみに、町娘は完全に青年に一目惚れしていて、それを隠そうともしない。

 プレイヤーは、「No.6は二重人格で、裏の性格は凶悪な戦士なのではないか?」とか、「握っていた剣に呪いがかかっているのではないか?」といった推理を巡らせるだろう。魔法などで調べれば、青年の体から魔力を感じるが、詳細は分からない。剣の方は単なる数打ちで怪しいところは無い。

 この後、PCは護衛がてら2人と一緒に国境近くの町へ行くものとする。
 町に着くと、町娘はNo.6を自分の家で世話すると言い出し、No.6も応じる。PCには宿屋の場所が教えられる。
 宿屋には、女戦士とエージェントが滞在している。
 女戦士は、激しい調子で仇を探している事情を一方的に話し、人相書きを見せる。人相書きは、No.6とそっくりである。彼女は、官憲を始め多くの人に訴えるが、NPCは誰もが面倒臭がって相手にしていない。

 エージェントは、そろそろ到着する筈のNo.6が来ないので少し心配している。PCに、「記憶喪失の治療の為に精神科の病院を目指して旅をしている青年を知らないか? 自分はその青年の叔父で、この町で落ち合って病院に付き添う事になっている」などと話し掛ける。



本編

 女戦士は、遅かれ早かれNo.6の存在に気付き、彼に詰め寄る。No.6は「自分は記憶喪失である」と打ち明け、「女戦士が求める仇自身なのか、他人の空似なのか分からない」と済まなさそうに言う。
 町娘は終始、そんなNo.6を庇い、女戦士に敵意の眼を向ける。
 基本的には、「仇なのか否かを見極める為に、女戦士もNo.6に同行する」「心配なので町娘も一緒に行く」と展開する。

 エージェントも、最終的にはNo.6との合流を果たす。当初のNo.6は、「病院に付き添ってくれる叔父」という記憶を持たない。しかし、エージェントを目の当たりにしたり、“叔父”の話を聞いたりする事で、辻褄の合う記憶が生成される。No.6の周囲で言動に注意していれば、この辺りの不自然さに気付く事ができる。
 エージェントは、個人的にはバーサーカーの制御技術に関して信用を寄せていない。上司の命令なので仕方無く輸送任務に就いているが、いつ“バーサーカー・モード”になるか知れたものではないと思っている。全滅した山賊の話を聞けば、「命令されなければ発動しない筈の“バーサーカー・モード”に切り替わったのだ」と悟り、ますます不信感を募らせる。とは言え、同時にNo.6の安全も願っている。

 この後の展開は、女戦士およびエージェントへのPCの対応によって幾らか変化する。基本的には、PC、青年、女戦士、町娘、エージェントが連れ立ってB国まで旅をする展開に誘導する。
 以下に、そう展開するパターンを列記する。この内、複数を採用しても構わない。

@No.6に対して、PCが同情したり、興味を持ったりする。

A女戦士に協力する。女戦士は仇討ち自体は自分の手で行いたいと考えているが、「青年(=No.6)の正体を探る」とか「記憶を取り戻した青年や叔父が、女戦士を謀殺するのを防ぐ」といった事への協力は歓迎する。

B町娘に護衛を依頼される。女戦士の動向も気にしているし、単純に「また山賊に襲われるかもしれない」との不安も抱いている。

Cエージェントに護衛を依頼される。エージェントは、「女戦士が、無抵抗のNo.6を殺すのを防ぐ為」と「No.6がコントロールを失って“バーサーカー・モード”になったとき、身を守る為」の両方を心配している。前者についてはPCに護衛の理由として挙げるが、後者は決して口にしない。

 町娘やエージェントは、護衛依頼の報酬として相場の額を提示する。以降、PCが同行するものとして進める。

 道中、青年はただ大人しくしている。
 町娘は、ひたすら青年にモーションをかける。
 女戦士は、常に青年に注意を払い、仇か否かを見極めようと必至になっている。
 エージェントは、町娘も女戦士も邪魔に思っているが、下手に暗殺などして青年の精神状態が悪い方向に転じるのを恐れ、不干渉を決め込んでいる。

 B国国境まであと1日というときになって、先回りしていたA国の魔法学者の待ち伏せを受ける。魔法学者は複数体(PCが総力を挙げても不利なくらいの数)のバーサーカーを連れていて、ヘッドセットを通してバーサーカーを操る事ができる。
 魔法学者は安全な位置に隠れた上で、「自分はA国政府の者だ。必ずここに来ると思って待ち伏せていた。大人しく“No.6”を引き渡すならば、命だけは助ける」と言う。



結末

 バーサーカーの足は早く、青年状態のNo.6や、町娘などを守ったまま逃亡するのは不可能である。
 PCだけで逃亡するならば、そこでセッション終了である。その後、NPCたちがどうなったかは知る術も無い。

 PCがバーサーカーと戦うならば、適当な頃合いを見計らって「PCや町娘、女戦士の苦境を見て、青年は苦しみ出す。そしてとうとう、“バーサーカー・モード”になって戦い始める」と展開させる。No.6が相当数の敵を引き受けたとして、PCには楽に勝てるだけの人数を割り振る。
 ちなみに、魔法学者は高空に浮かんでいるなどして、弓や魔法攻撃に備えているので狙い撃ちは難しい。その不利を押して敢えて魔法学者を倒した場合、バーサーカーは最も近くにいる者を攻撃するようになる。イニシアチブ、行動宣言、移動、戦線離脱などのルールを鑑みて、上手く振る舞えばコントロールされていないバーサーカーの同士討ちを誘う事は可能である。
 戦闘終了後、No.6は通常状態に戻る。漠然とだが記憶も戻っていて、バーサーカー研究について覚えている限りの概要を説明する。女戦士に対しては、「恐らく、自分はあなたの仇だ」と告白する。
 エージェントは、B国の手の者だと告白した上で、「A国の非道を訴え、研究を止めさせる為に、No.6の協力が必要だ」と訴える。これは事実とは異なるが、あくまでそう言って通す。
 町娘は、全てを知った上でも、No.6への想いを変えない。
 女戦士は、どうすれば良いか迷っている。

 どうオチを付けるかは、ここまでのPCの言動を考えてマスターが決める。
 例えば、NPCへの態度が冷淡・無関心であるようならば、女戦士は何も学ぶ事が無かったので、あくまで復讐を遂げようとする。その場合、「女戦士が攻撃を仕掛ける」→「No.6はあえてその刃を受けようとする」→「町娘がNo.6を庇い、死ぬ」→「町娘の死にショックを受けたNo.6が、再び“バーサーカー・モード”になり、周囲全てを攻撃する」となる。



さいごに

 このシナリオは、元々は『天羅万象』用にと考えていた。バーサーカーの代わりに「“業”の量を自由にコントロールできる装置を脳に埋め込まれ、ヨロイに乗る事ができるようになった元サムライ」を登場させるつもりだった。セッション直前にバーサーカーという設定に変更したが、むしろその方がしっくり来るストーリーになったようにも思えた。

 また、このシナリオを考えている最中に読んだ、岡野ゆうじ著『ペインキラー』の影響も少し受けた。とは言え、ステロタイプな小説なので、元ネタとして利用したという訳でなく、考えをまとめる定規代わりに使ったというところである。




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