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0063 殺人とゲームの関係 N◎VA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクでも使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

ジョン 精神を病んだ連続殺人犯。殺人でしか自己を表現できない。思わぬ事から大企業に利用されそうになるが、拒否する。
担当刑事 真相を知らず、警察内部に殺人模倣犯がいると思い込んで、外部の人間であるPCに捜査を依頼する。古いタイプの刑事。
女性レポーター 新型フォーマット・ゲーム排斥運動に大企業の謀略の影を感じて単独取材を続けるレポーター。押しが強すぎるので敵は多い。



事前状況

 この世界では、ワイア&ワイアという名のサイバーウェアを媒介にして、トロン(コンピュータ)と人間の脳を直結する事ができる。
 そうして直結された状態で、より高度なハッキングや車両の操縦などが行われている。

 そんな中、世間一般では、トロンと脳を直結した状態で遊ぶ疑似体験ゲームがそれなりに流行っていて、結構な市場を形成している。
 あるとき、ルテチア(サイバーウェア企業)が、新型フォーマットの疑似体験ゲームを開発したが、そのゲームを100%楽しむ為には専用のワイア&ワイアが必要だった。
 この専用ワイア&ワイアは、新型フォーマット・ゲームを楽しめると言う点を除けば、他の普通のワイア&ワイアと何ら性能は変わらない。しかし、もしこの新型フォーマットに基づくゲームがブレイクすれば、話は疑似体験ゲーム市場だけに留まらず、ひいてはワイア&ワイア自体のシェアや、それに伴う様々なアプリのシェアまでルテチアが奪いかねない。

 千早(メガコーポレーション)のトロン部門はそれを看過できず、妨害工作を企んだ。

 現段階では、まだこの専用ワイア&ワイアは監督省庁からの正式な認可が下りておらず、選ばれた数千人の被験者を対象にして在宅運用実験を行っている。
 そこで千早トロン部門は、「新型フォーマットの疑似体験ゲームをプレイした事によって精神を病み、連続殺人犯となってしまった者が短期間で多数いる」という口実でルテチア製品を攻撃する事にした。
 トーキョーには、少なくない数の連続殺人犯がいる。
 千早の工作員はそういった連中の幾人かと接触して「言う通りにすれば短期間だけ精神病院に入るだけで無罪になる」「その上にお礼も出す」と懐柔し、彼らが新型フォーマットのゲームをしていたと偽装した。

 そしてさらに偽装を強固にする為、新型フォーマット対応ゲーム・ソフトを製作するサード・パーティーを幾つか買収した。そして、「現実の連続殺人犯と同じ手口で、ゲームのプレイヤー・キャラクターが“残虐な”行動を取る」ようにソフトを改造して、その上、バージョンアップ履歴を偽造する事で「ゲームが先で、現実の犯罪が後」という状況証拠を捏造した。
 この計画が上手く行けば、新型フォーマット・ゲームは認可が下りず、せいぜいがアンダーグラウンドで細々と取り扱われるに過ぎなくなる。そうすれば、千早トロン部門への機会損失は防げる事になる。

 千早のエージェントの接触を受けたほとんどの連続殺人犯は言う通りにしたが、ただ1人だけ拒否したジョンという名の男がいた。
 ジョンにとって殺人は自己の表明であり、その責任を他者に被せるという事は、言葉を奪われるに等しい苦痛だったのだ。
 ジョンは警察と千早トロンの追手を逃れ、木更津の荒野に身を潜めた。

 ジョンが失踪したのを知った千早トロン部門のエージェントは、「どうせ人里離れた山奥にこもって出て来ないのなら後で矛盾を生じる事も無いだろう」と楽観的に考え、その後、勝手に「ルテチアの専用ワイア&ワイアを潰すネタ」を増やす為の偽装工作ネタの1つに利用した。本人の口から未公開の手口についても聞き出していたし、新しい“ネタ元”を探すのが面倒だったからである。



導入

 PCは、たまたま木更津の荒野にドライブに来て、ジョンを目撃する。
 ジョンの様子は明らかに異常で、PCは何かあると感じ、その場で警察に照会して、彼が賞金首だと知る。
 ここでPCは、賞金首のジョンを捕えようとするものとして、以降を進める。

 ジョンとの戦闘は、危なげなくPCの勝利に終わる。PCが生け捕りしようとした場合、ジョンは自殺する。
 ジョンは死に際に「俺の犯した殺人は、俺自身のモノだ。他の誰のモノでも無い!」と叫ぶ。
 PCがジョンの遺品を探ると、千早トロン部門からの手紙を見付けるが、半ば焼けて内容は判読できなくなっている。その他、大量の武器弾薬、食料、サバイバル用品などが見付かり、ここに篭城するつもりだったと分かる。

 警察では担当刑事が応対するが、PCの話に戸惑いの色を見せる。担当刑事は自分のポケットマネーから賞金に相当する額の金を払うと、事情を話す。
 担当刑事は、「件の連続殺人犯と同じ手口の殺人事件が、つい半日前に起きている。時間的に考えて本人が殺人を犯す事はできないハズなので、模倣犯の犯行という事になる。しかし、連続殺人犯の手口などというものはその全てがマスコミに公開される訳では無い。本人と模倣犯の区別を付ける為に秘密になっている手口に関する情報もあり、それも含めて全てが一致してしまっている」と言う。
 続けて担当刑事は、「PCが捕まえた男が連続殺人犯本人であり、かつての犯行も濡れ衣などではあり得ない」「警察のトロンにハッキングをかけるのもそう簡単では無いし、念の為に電子化せずにいた手口に関する情報とも一致する」「そうなると、結論はただ1つ、警察内部の者が、逃亡して生死不明の犯人に罪を着せる為に偽装したに違いない」と語る。

 この真相は、ジョンの手口を研究して熟知している千早トロン部門のエージェントが、暗殺任務のついでに、ジョンがやったかのような偽装工作を施していたのである。
 真相を知らない担当刑事は、「警察内部の犯行に違いないから自分は動けない。捜査の為、外部の人間であるPCを雇いたい」とPCに申し出る。これにPCが応じるものとして進める。



本編

 PCが最新の犯行現場に赴くと、既に鑑識の調査も済み、何も物証の類は残されていない。しかし、そこでこの事件を調査している女性トーキー(レポーター)と出会う。
 女性トーキーは「新型フォーマット・ゲームだけが特別扱いで責任を負わされている現状」に疑問を抱いていて、「責任は他のゲーム、映画、小説などメディア全体にある」との立場から特集記事の為の取材をしている。
 ジョンの捜査をしているPCに対して、女性トーキーは強引な取材を行う。PCがそれなりの情報を流すならば、彼女は「新型フォーマット・ゲームだけを狙い撃ちに非難するように世論が操作されているかもしれない。その操作は、千早が行っているかもしれない」と教える。

 適当なコネなどに頼めば、「新型フォーマット・ゲーム専用ワイア&ワイア」または「従来品ワイア&ワイアでも新型フォーマット・ゲームが遊べるエミュレータ」などを手に入れる事ができる。PCが試しても、特に悪影響は被らない。
 ゲーム評論系ホームページをチェックすると、「エミュレータでは真の面白さは伝わらない」というのが一般的な感想になっている。また、ゲーマーたちは「新型フォーマットだろうと従来フォーマットだろうと、ゲームに現実の犯罪の責任を負わせるなんてナンセンスだ」という論調が大半で、これは女性トーキーの自論とも異なる。そしてゲーマーたちも「ルテチア製専用ワイア&ワイアを潰す為の千早トロンの陰謀なのでは?」という憶測を抱いている。

 「連続殺人を誘発した」と槍玉に挙げられているゲームソフトを作った会社に行き、社員と接触して<交渉>判定に成功するなどすれば、話を聞き出す事ができる。
 社員によると「表向きにはなっていないが、新型フォーマット・ゲームの登場後になって、急に千早の資本が入った」「千早の指示でゲーム内容を変更したり、アップデート記録を改ざんした事がある」と言う。調べれば、そういった変更・改ざんは「連続殺人犯の事件内容に合わせてゲームの方が変更され、しかもそれが現実の事件の前からそうなっていたと見せ掛けるようにアップデート記録を改ざんしていた」と分かる。

 適当なコネ判定に成功すれば、「ゲームに誘発されて連続殺人を犯した」と主張する服役囚と面会できる。服役囚は、ただ「ゲームに誘発された」との主張をオウムのように繰り返す。PCが「千早に頼まれたのだろう?」などと鎌を掛けると、容易く動揺して言外に認めてしまう。調べれば、彼の弁護に千早の関係者が金を出している事が分かる。



結末

 適当なところで、千早のエージェントが口封じの為にPCや女性トーキーを暗殺しようとするクライマックス・シーンを入れる。

 千早のエージェントを撃退した後、PCが真相を推理してそれを担当刑事なり女性トーキーなりに話せば、NPCがそれを補完する情報を話してくれる。状況証拠しか集まらないが、NPCの協力の元で真相を噂として流せば、千早は立場が悪くなったと悟って計画を中止する。
 PCが上手く振る舞えば、それなりの額の金を手に入れる事もできる。



さいごに

 元ネタはベン・エルトンの『ポップコーン』である。タランティーノを連想させる人物を主人公にして、「映画等に悪影響を受けて銃を乱射したなどという事件」を題材にしている。
 思い付きとしては斬新と言うほどでは無いので、読んでいる人がいても問題にならないだろう。

 強制導入で始まり、プレイヤーが真実を言い当てない限り終わらないという構造になっているので、プレイヤーの反応を見てヒントの量を調節して欲しい。




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