No. タイトル システム 登録日 改稿日
0060 身元不明 N◎VA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクでも使用可能である。

 『トーキョーN◎VAレボリューション』を使用の場合、『グランド×クロス』P.135で提案されているPC同士の円構造コネを持ち合う事。プレイヤー数は4〜5人を想定している。



登場NPCおよび重要事項

長女 とある優良中堅企業の経営者の跡継ぎとなる筈だった若い女性。野心家の叔父に謀殺され、身元不明の脳死死体として献体に出される。
ルキフル 新米電脳神。SSSの罠にはまり捕えられそうなところを、献体に埋め込まれた“発展形IANUS”に逃げ込んだ。
叔父 野心家。人を殺してでも金や権力を得ようとする。
長女の弟で崇拝者。長女が行方不明になった事から、本心を隠して叔父の部下となった。



事前状況

 とある優良中堅企業の経営者が死んだ。
 遺言などの関係から、跡目は長女が継ぐはずだったが、野心家の叔父(故経営者の弟)は長女を謀殺し、さらに念の為、神業<アンダーカバー>を使って死体を完全に身元不明な状態にした。

 長女の死体は“身元不明の脳死患者”として献体にされた。
 サイバーパーツ開発の大手企業ルテチアは、「IANUSUの発展形となる、脊髄だけでなく大脳機能のサポートまで司る新型サイバーパーツ」の試作・実験を行っていて、この献体を買い、自社の病院で“発展形IANUS”を埋め込んだ。

 丁度その頃、警察(SSS)とルテチア(上記とは別部門)が共同で、“ルキフル”と名乗る電脳神(コンピュータ・ネット空間で自我を持つプログラム。ネット生物)の捕獲作戦を行っていた。
 ルキフルは違法なハッキングやデータ泥棒を繰り返しているが、電脳神としては新米で隙も大きかった。
 ルキフルは罠にかかり、入り込んだ回線を物理的に閉鎖されて閉じ込められ、正に捕獲される寸前まで行った。
 しかし、罠に使われたウェブ(ネット)に上記の病院施設が含まれていた事から、ルキフルは長女(献体)に埋め込まれた“発展形IANUS”の中に入り、その体を操って逃亡しようと考える。
 だが、どうした事か、長女の体に入ったルキフルは全ての記憶を失った。「逃げなければならない」という思いに駆り立てられて、ルキフルは病院の外へ逃れたが、しばらく街を彷徨ったところで意識を失い倒れてしまう。



導入1:親切な隣人

 PCの1人は、自分の家の前に裸同然の格好の女性(ルキフル)が倒れているのを見付ける。彼女を部屋に上げて介抱すると目を覚ますが、記憶を失っている。持物は何も無く、布きれを身に纏っているだけで身分を証明したり推理したりできる物は何も無い。容姿を頼りに身元を探ろうとしても、コネや社会技能や情報売買の類では全く何の手掛かりも見付からない。
 PCは、当座の間は彼女を同居させ、暇ができたら身元調査や聞き込みを行おうと考える。

 ……と以上の導入展開を受け入れ、その後も路線を保持すると言うPCにこれを振る。詳細はPCのスタイルなどによって変更する。

 導入1のPCは、導入5のPCのコネを1レベル持っている。



導入2:暗殺者

 暫くして、偶然にも“叔父”の配下が、導入1のPCと暮らすルキフル(=長女)を見掛けた。
 報告を受けた叔父は、「他人の空似だろうが、念の為に暗殺する」と決める。

 導入2のPCは、暗殺依頼を引き受けてもおかしくないスタイル、前歴を持っている者を選ぶ。PCは、クロマクを通して叔父から「導入1のPCの家屋に居候している女を暗殺して欲しい」と依頼される。
 ターゲットに関しては「X市民(戸籍を持たない不法人)である」という以外の何の付帯情報も与えられない。

 導入2のPCは、導入1のPCのコネを2レベル持っている。また、クロマクへのコネを持たせる事。
 暗殺依頼を受けた場合は、いきなり何の下調べも無くガチンコで暗殺任務に入るような展開にならないように気を付ける事。
 断る場合は、仲介したクロマクは「まさかPCが断るとは思わなかったので、『○×(導入2のPCの通り名)が実行する』と依頼主に告げてしまった」と告白される。クロマクは先走った事を謝り、すぐに別の者に仕事を回し、依頼人には訂正すると約束する。

 何れにしろ、導入1のPCに「こんな事があった」と注進に行く方向で誘導する。



導入3:カブト

 長女には“弟”がいた。長女の崇拝者だったが、今は本心を隠して叔父の配下に獅子身中の虫として収まっている。
弟は、忠実な部下の振りをしながら叔父を失脚させる証拠集めをしていたのだが、「姉に似た女性を暗殺する話」を聞き、例え他人の空似でも見過ごせないと思う。

 導入3のPCは、クロマクを通して弟から「導入1のPCの家屋に居候している女を護衛して欲しい」と依頼される。
 護衛対象の女(=長女)を殺す為に“○×(導入2のPCの通り名)”と言う名の暗殺者が雇われたと教える。

 導入3のPCは、導入2のPCのコネを2レベル持っている。また、導入2のPCの通り名もよく知っている。クロマクへのコネも持たせる事。

 護衛の依頼を受けるにしろ、受けないにしろ、或いは保留するにしろ、導入2のPCに「こんな事があった」と注進に行く方向で誘導する。



導入4:ニューロ・タタラ

 PCは、包囲網を抜けて逃亡したルキフルの追跡を依頼または命令される。或いは、PCの立場を「電脳神に興味を持つ好奇心旺盛なニューロキッズ」などとして、独自に「SSSのルキフル逮捕作戦」の概要を調べ上げ、自発的にルキフルを追おうとするというのでも構わない。

 導入4のPCは、導入3のPCのコネを1レベル持っている。



導入5:イヌ・フェイト

 ルテチアの“発展形IANUS”開発チームは、献体の行方不明を盗難と考える。この導入のPCは、「新開発のサイバーウェアを埋め込まれた献体」の捜査を依頼または命令される。
 献体(=長女)の写真や身体データが渡され、完全な身元不明死体である事も教えられる。長女(または導入1のPCの同居人女性)を知る者がこの写真を見れば、同一人物としか思えないほど非常によく似ていると思う。

 導入5のPCは、導入4のPCのコネを1レベル持っている。

 なお、PCの人数が4人の場合は、導入4と導入5を同一のPCに振る事。
 「行方不明の献体捜査を始めたら、病院で行われていた電脳神捕獲作戦の事を知った」としても良いし、「ルキフルの逃走経路を調べていたら、病院から献体が盗まれたという話を聞いた」としても良い。



本編

 導入1〜導入5は全て使用する事。これらの個別導入は、他のPCが登場できないオープニング・シーンとして、内容は各プレイヤーに紙に書いて知らせる。

 基本的に、円構造コネが活用されれば、PCは比較的すぐに互いの情報を持ち合う事になるだろう。
 PCが5人以上の場合、導入4と導入5が連携が取れずにいるかもしれないが、その場合は早い段階で合流させるようにマスターが誘導する。

 導入1のPCが女性(=長女)の身元を探る試みは、原則的に全て失敗する。聞き込み調査の成果もすぐには出ない。導入5のPCが持つ写真などを介するまでは、身元に繋がる何のヒントも全く無い。
 女性(=ルキフル)は無意識の内に技能や神業を使用できるので、IANUSU(に見えるが実は“発展形IANUS”)にアクセスしよういうような試みも基本的に失敗する。

 叔父や弟の正体に関しては、それぞれの担当PCが、仲介したクロマクに対して適切なロールプレイを行った上でコネ判定に成功すれば教えてもらえる。
 叔父、弟の周辺を調べれば、件の優良中堅企業の話や、跡継ぎの長女の失踪(および彼女の電子データの謎の喪失)といった事情が分かる。
 叔父は、見ず知らずのPCと直接会うような真似はしない。しかし、弟の方は「長女の為になる話だ」と言えば、警戒しながらも会見に応じる。
 弟は、「長女の脳が機械で、中に電脳神が入っている」と知ればショックを受けるが、そんな状態でも導入1のPCとの暮らしが幸せそうなら支援したいと望む。その上で、長女の魂の為に、叔父への復讐を果たしたいと願っている。
 利害が一致するならば、弟はPCに協力する。
 弟は、今まで長女の生存の可能性も考えて“叔父を失脚させる”事に拘っていた。しかし、PCの言動次第では、「叔父を殺して全てのケジメを付けよう」と考えを変える。



結末

 叔父は、長女の謀殺を始め様々な悪事を重ねているが、ほとんど証拠を残していない。

 PCが“叔父の暗殺”を躊躇うならば、「叔父が雇った新たな暗殺者が長女を襲う」と展開させて、“隙”を演出すると良い。
 このNPC暗殺者を捕えて口を割らせるなど、叔父の罪を追求する術をPCに与える事。



さいごに

 「脳死体に閉じ込められた電脳神」という思い付きを広げて形にしたシナリオ。試行錯誤の過程で、柴田昌弘のコミック『フェザータッチ・オペレーション』を思い出し、それに倣おうかとも思ったが取り止め、この形になった。
 『グランド×クロス』のアペンディックスにも少し似た話があるが、元々、ステロタイプなストーリー・パターンという事なのだろう。




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