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0058 孤児院の秘密 LUNA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、同人ファンタジーRPG『The Lunatic』の使用を想定して書かれた。
 しかし、『ソードワールド』など汎用ファンタジーとして、或いはその他のジャンルでも使用可能である。



事前状況

 この世界には、人間以外にもたくさんの種類の知的生命体が存在する。その中には、エルフやドワーフといったキャラクタークラスにもできるメジャーな種族とは違い、様々な理由からモンスター扱いされている被差別種族も存在する。
 そんな被差別種族の1つに“キトン族”という者たちが存在した。パッと見は人間とは区別が付かないが、医学的に診れば異なる種族と分かる。特殊な生来能力によって、植物に遺伝子操作(のような効果の魔法)を加える事ができるが、人間族からは「森の奥深くで毒を作ったり、植物モンスターを従えたりする怪しげな知的モンスター」と捉えられ、積極的・消極的な手段で独自のコミュニティーを持つ事ができない様にさせられてしまった。
 そこて、キトン族の者たちは、人間社会に混じり、正体を隠したまま、秘密の互助組織を作って助け合いながら暮らしていた。互助組織は、「低金利での貸付」「正体がばれた者の逃亡や再生活スタートの手助け」といった事をメインに行った。その活動は、全くの非暴力主義を貫いた訳でも無かった。少なからずマフィア的な側面も持ち、また関わりを持った人間族は“人間族のマフィア”と認識していた。
 そうして百年くらいが過ぎたが、キトン族と人間族の間に子供はできない事もあり、今では種族の滅亡は避けられそうに無く、互助組織も大部分が形骸化して碌に機能していなかった。

 以上の事実は歴史の裏側に隠され、マスコミ報道として流れた事は無い。

 互助組織のブランチ(末端組織)の1つに、キースという老人が管理する“孤児院”があった。キトン族の孤児を人間族に預ける訳には行かないからと、互助組織の創設初期に設立され、今現在に至るまで機能している数少ないブランチである。
 キースという老人は、キトン族のノーブル種(貴種)であり、その生来能力と秘伝の栽培法から“養命丸”という薬を作り出す事ができた。この“養命丸”は、毎日飲み続ける事で健康と長寿がもたらされるという薬で、互助組織の他のブランチを通じて一部の人間に販売されていた。世間では“養命丸”を偽薬と見なして馬鹿にする者もいるが、一方で愛用する信者も多い。少なくとも「飲んで害を及ぼした」という風評だけは無く、息の長い隠れたヒット商品となっている。
 キースは、最初は孤児院の資金繰りの為に“養命丸”の製造を始めたのだが、製造販売が軌道に乗ると利益の大半は互助組織の活動資金として吸い上げられ、さらに今現在では、「養命丸が互助組織の唯一の資金源」という状態になってしまっている。
 キースは、ノーブル種ゆえの長命からずっと“養命丸”を作り続けて来たが、流石にそろそろ寿命で、早く誰かに製法を伝えたいと思っている。互助組織としても、ノーブル種を探していたのだが、あるとき、メラという名の1人の娘が先祖帰りでノーブル種の能力を持っていると分かる。メラは、丁度、親を亡くしたばかりだったので、成人年齢に達していたがキースの孤児院に孤児として送られる。

 キースの孤児院には、「16才になったら卒院して社会に出る」という内規があった。昔は、子供の内は人間族として育て、卒院間近になったら「お前はキトン族なのだ」と伝え、互助組織が就職の斡旋などをした。しかし、組織の力が弱体化した今現在では孤児が独力で身の振り方を決めるしか無い。そんなこんなで、数年前からキースは「卒院生にキトン族であると伝える」事も止めてしまっていた。
 現在の孤児院には、16才を越える者が3人いる。
 ランサー義兄弟と呼ばれる男子2人は、元々の性根も悪かった上に就職先も見付からず、やっかい者状態で貧しい孤児院暮らし送らねばならない事で、すっかりすさんでしまっている。
 カレンという女の子は、3年前に孤児院を退職した老女に代わって職員同然の事をやっている。まじめな性格で、漠然と「自分はこのまま孤児院の職員として就職するという事になるんだな」と考えていたので、16才を過ぎても孤児院にいる事を当然と思っていた。

 ところで、キースの孤児院のある町には、ロドリゲスという男が住んでいる。
 ロドリゲスは巨大製薬会社の社長で、この地方一帯の薬を独占的に商う事を狙い、さらに麻薬の合法化運動にまで乗り出している。屋敷に荒くれ者を住まわせ、一端のヤクザの親分を気取っている。
 ロドリゲスは、“養命丸”を目の上のタンコブと思っている。独自の販売網まで持つ“養命丸”が存在していては、この地方の市場独占の夢は実現しない。また、研究によると“養命丸”の健康薬としての効果は確かなもので、ロドリゲスの製薬会社にとっては機会損失を被る事になる。
 ロドリゲスは、“養命丸”の調査を部下に命じるが、「キースにしか作れない謎の薬」としか分からない。販売組織については「最近はめっきり勢いが衰えたマフィア」と認識していて、「油断しない限り問題にならない」と考えている。

 ロドリゲスは取り敢えず、まずは穏便な方法で“養命丸”の製法を探る事から始める。
 そこで子飼いの高レベル暗殺者(レディーと名乗る20代後半の女性)をキースの孤児院に手伝いとして潜入させる。「知り合いの娘なのだが、未だ結婚する気が無いと言って親を困らせている。社会の厳しさを教える目的と、花嫁修業の為に無給で働かせて欲しい」と言い訳していて、キースも「何か裏があるのではないか」と疑いはしているが、ロドリゲスから短期借入をしている弱みもあり、裏があるのを覚悟した上で受け入れた。それから既に半年が過ぎている。
 レディーは、“養命丸”原料植物の栽培室の入室は許されないが、子供たちも彼女に慣れ、孤児院の風景にも溶け込んできている。その一方で、ランサー義兄弟を言いなりに操れるように手懐けたり、独学で植物学の勉強を進めて「キースは“特別な栽培方法”を用いていると言うより、“何らかの特殊アイテムか魔法”によって原料植物を栽培しているのではないか?」と推論付けるにまで至っている。

 1ヶ月前、前述のノーブル種のメラが入った事で、孤児院の雰囲気は険悪化している。キースはこっそりとやっているつもりだが、誰の目で見ても、キースがメラを後継者にしようとしているのは明らかで、その入れ込み様がランサー義兄弟を始め、孤児たちの不信感を買っている。
 中でもカレンは、「孤児院には2人もの職員を雇う余裕は無い。メラが雇われるなら、自分はここを出て行かなければならない」と独り思い、信じていたモノが一気に崩れて急速に精神を崩壊させ始めている。それを見て取ったレディーは、カレンも配下に入れようと工作している。



導入

 キトン族互助組織は、連絡に伝書鳩を使っていた。幾つかのブランチの所在地に帰巣する様に訓練されたハトを複数所有し、例えばA地点に帰巣するハトがある場合、B地点から手紙を括り付けてA地点に連絡を送り、その後、人力で地上を輸送してB地点に戻すといった事をしていた。費用もそれなりにかかるので、現在の組織の実態に合わない仕組みとも言えたが、一度止めたら復旧は不可能なので、“養命丸”生産所である孤児院を含む組織の重要施設に限り維持されてきた。
 この、10羽ほどの伝書鳩が入った鳥篭を孤児院に戻す仕事が外注に出され、たまたまPCが引き受けた事から事件に関わる。
 心配された山賊の襲撃もなく、鳥篭の輸送してPCは無事に町に辿り着く。
 町外れにある孤児院の前に来ると、チンピラ(ロドリゲスの配下)が「借金を返せ」と老人(キース)に詰め寄っている場面に出くわす。
 PCの来訪を機に、チンピラはその場は引いて帰る。キースは「最近は遣り繰りが苦しくて、掛買いをしないとやっていけない。その証文が町の権力者(ロドリゲス)に渡り、ああして土地を寄越せなどと詰め寄るなどの嫌がらせをしてくる。しかし借金と言っても小口で、収入のある日には満額返済している。ただ、その収入のある日が不定期なので、今回みたいに遅れ気味のときは難渋している」と説明する。

 PCが収入源について訊ねれば、「薬草を栽培して、ある特定の業者に卸している」「仕入に来る人の到着が遅れていて、それで現金が無い」と説明する。
 仕入先の人は2〜3日中には来る筈で、PCへの支払いはそれまで待って欲しいとキースは言う。
 PCが、「貧しいのにどうしてハトを飼っているのか?」と訊ねた場合、キースは咄嗟に言い訳が思い付かず、しどろもどろにお茶を濁す。

 こうして、PCは町に滞在する事になる。



本編

 PCが孤児院にこもりっきりになったり、或いは逆に町に出て戻らないという事が無いように誘導する。

 町の酒場で、前記“導入”にあるチンピラに出くわし、喧嘩を吹っかけられる。しかし、互いに手を出す前に突然現れたロドリゲスによって収められ、PCは客分としてロドリゲスの屋敷に招かれる。
 PCが招きに応じるならば、高価な酒を振る舞うなど気風の良さをアピールしつつ、ロドリゲスは「自分はこの地方の薬事関係の商売の独占を目指している」「キースが作っている健康薬“養命丸”がシェアの数%を持っている為に目の上のタンコブとなっている」「キースから“養命丸”を仕入れて販売している組織はマフィアである。疑うならば、隣町で聞き込みをすれば分かる」といった話をする。
 そしてPCの反応を伺った上で、「“養命丸”の製法を探るか、さもなくば二度と製造できないようにして欲しい」と依頼する。報酬は高額が提示されるが、後払い条件である。ロドリゲスとしては、原因がPCの責任範疇になくとも、事態が上手く進まなければ金を払うつもりは無い。また、レディーの存在も教えない。
 色好い返事をするならば、ロドリゲス宅に宿泊する事もできる。

 PCが望むならば孤児院に泊めてもらえるが、食事は塩スープ一杯で、隙間風の入る大広間で雑魚寝する事になる。
 何処に泊まったにしろ、PCは孤児院の子供たちと話をするなどの展開に誘導する事。ここで、「栽培している薬草とは“養命丸”という名の健康薬で、光の入らない地下室で栽培され、栽培や製法の重要な部分はキースしか知らない」といった話がされる。またここで、キース、メラ、レディー、カレン、ランサー義兄弟について、噂話を聞いたり自身で観察したとして、以下の説明を行う事。

キース  この地で何十年も孤児院の経営を続ける院長。地下で栽培した植物から健康薬“養命丸”を製造して、特定の業者に卸して孤児院の活動資金に充てていると言う。しかし、その“特定の販売業者”の正体は不明で、キースと伝書鳩を使った高速通信網を結んでいたりする。
メラ  16才になる少女。「16才で卒院」という内規があるにも関わらず、1ヶ月前になって入ってきた。遠くからわざわざ連れてこられ、入ってすぐにキースしか知らない“養命丸”の製造秘儀を教えられるなど“ひいき”が目立ち、孤児たちの反感を買っている。本人は余り自覚していない。
レディー  ロドリゲスの紹介で半年前から「花嫁修業の為」に無給で働いている女性。家事は苦手だが子供受けは良い。
カレン  16才の少女。物心つく前から孤児院にいて、幼い頃からリーダー的に振る舞っていた。13才のときから、当時退職した職員に代わって、孤児院運営の仕事をしていた。このまま正式な職員になると自他ともに考えていたが、最近になって入ったメラが職員になるなら、「2人の職員を雇う余裕の無い」のでカレンは出て行かねばならない事になる。そのせいか、最近は精神が不安定になって来ている。
ランサー義兄弟  血は繋がっていないが、孤児院に入る前から兄弟同然に育ってきた少年。もうすぐ17才になる。16才で本来なら卒院しなければならないところを、就職先が見付からなかった事から孤児院にいさせてもらっている。以前は“ガキ大将”という感じだったが、最近はすっかり“不良”と化していて、他の孤児たちは同情を寄せつつも2人に近寄りたがらない。

 地下栽培室は、暗所に広がるウドやモヤシのような畑になっていて、そこへ通じる階段には鍵付の扉が一応ある。技能を持ったPCが忍び込もうとするならば、そんなに難しい行為では無い。
 畑は幾つかの区画に分かれていて、“養命丸”の原料植物は1つの球根からその区画中に渡って地下茎が巡り複数の花を咲かせている。適当な技能判定に成功すれば、「“養命丸”の原料植物は、他の地ではこんな育ち方はしない。何か特殊な方法で栽培されているのだろう」と分かる。

 町でキースの孤児院の噂の聞き込みをするならば、「ちょっと気持ち悪い新興宗教的な孤児院」と見られつつも、存在は許容されていると分かる。
 隣町に出向いて“養命丸”の販売組織について聞き込みすれば、確かにロドリゲスの言うようにマフィアと見做されている事が分かる。ただし、“養命丸”は真っ当な薬だと考えられている。
 ロドリゲスについて聞き込みしたり、屋敷に侵入しての調査すれば、こちらとて製薬会社とは名ばかりのマフィアで、その上、一部では麻薬も扱っている分かる。
 孤児院の資金繰りについて調べれば、確かに収入の全てを“養命丸”に頼っていて、それも孤児たちが生きて行くギリギリしか販売組織から受け取っていないと分かる。また、この地方の景気を考えれば、孤児院が無くなれば孤児たちの多くは、死ぬか犯罪者になるしか無い事は自明である。

 適当なタイミングで、ランサー義兄弟が原料植物を盗みに地下栽培室に侵入するイベントを発生させる。基本的に実行は夜になるだろう。
 ランサー義兄弟は、「原料植物を盗み、何とか換金して、疑いの目が余所者のPCに向いている間に逃亡する」つもりでいる。PCが特に干渉しないならば、2人が逃げたのに気付いたレディーが追跡して、原料植物を奪った上で殺し埋める。
 これらの行為にPCが気付くかどうか、適当な技能でNPCとの対抗判定を行い、それ次第で展開を決める。



結末1

 この展開は、以下の条件で起こる。

@  PCがランサー義兄弟の盗みに気付き、2人を諌める。
 そして、孤児院内でこのような歪みが生じている事実をキースに突き付ける。
A  ランサー義兄弟の盗みに気付いたが見逃し、その後のレディーの凶行に気付く。
 目撃者を消そうとしてレディーはPCにも襲い掛かって来る。
 PCがレディーを倒した場合、彼女の荷物から暗号文書と植物学の専門書(教科書)を発見する。暗号文書はロドリゲスの指令書で、半日かけて適当な技能判定に成功すれば解読できる。これを読む事で、ロドリゲスの考えが分かる。
 ここでこの事をキースに明かす。
B  ランサー義兄弟の盗みに気付かず、その後のレディーの凶行にも気付かなかったが、翌日になってランサー義兄弟の足跡を付け、レディーの偽装を見破って埋められた死体を発見する。
 そこにはレディーが落とした指輪がある。レディーは「PCの陰謀だ」と叫びつつ襲い掛かって来る。
 PCがレディーを倒した場合、彼女の荷物から暗号文書と植物学の専門書(教科書)を発見する。
 暗号文書はロドリゲスの指令書で、半日かけて適当な技能判定に成功すれば解読できる。これを読む事で、ロドリゲスの考えが分かる。
 ここでこの事をキースに明かす。

 これらの場合は、遅れ馳せながらキースは孤児院内の歪みに気付き、皆を集めて話し合いを行う。

 そこでキースは、「“養命丸”の栽培・製造には、特殊な魔法が必要である。その魔法は誰にでも使えるものでは無く、ごく一部の人間だけが持つ資質が必要である。今まで資質を持つのはキースしかいなかったのだが、販売組織が調査した結果、資質を持つメラを発見したのだ。メラもほとんど魔法を憶え終わり、すぐにでも自分の後継者になれる」と明かす。そして「販売組織に掛け合い、誰も出て行かなくても良いようにする」と約束する。

 レディーが生存して孤児院にいる場合、それを聞くと頃合いを見計らってロドリゲスに報告する。「頑固なキースはともかく、メラならば扱い易いだろう」とロドリゲスは考え、世代交代を機会に孤児院を乗っ取ろうと決意する。
 町で接触したPCにも協力を要請する。この事から、孤児院にスパイがいるとPCは分かる筈である。

 レディーが死亡した場合、ロドリゲスは「PCが孤児院側に立った」と判断して、実力行使に移る。

 経過はともかく、PCが孤児院側に立ったならば、ロドリゲスは「キースは麻薬を製造している」と訴え、配下のチンピラと息のかかった保安官を送り制圧しようとする。レディーが生存しているならば、最も効果的な瞬間に裏切ろうとする。敵戦力はPCと同等程度だが、孤児たちが足手まといになるとする。
 これに勝利すれば、ロドリゲスも手駒を失い当分はちょっかいをかけられなくなる。
 キースは、キトン族の主立った者に伝書鳩で連絡をして、「数が減ってしまったキトン族を1ヶ所に集めて、“養命丸”製造・販売会社の社員という形で団結しよう」と話をまとめる。世話になったPCには、事の次第を説明して、充分な礼をする。

 ロドリゲス側に立つ場合は、話は非常に簡単である。2〜3人の子供が殺され、脅しに屈したメラはロドリゲスに協力する事になる。PCは充分な礼金をもらう。



結末2

 この展開は、以下の条件で起こる。

C  ランサー義兄弟の盗みに気付かず、その後のレディーの凶行にも気付かず、翌日のランサー義兄弟の足跡追跡も失敗する。
D  一部のPCだけがレディーと戦闘する事になり、負ける。
E  レディーとの戦闘に勝利するが、PCが事件の一切を伏せる。

 これらの場合、キースは行方の分からなくなった者が出た事に戸惑いは覚えるが、組織改革をしなければならないと思い切るところには至らない。

 そうこうする内に互助組織の構成員が金を持って町にやって来る。構成員は、まず酒場で一杯引っ掛けてから孤児院に来る習慣になっていて、これを知るカレンが酒場に出向き、顔見知りなのを良い事に、「急いでいるので取りに来た」と騙し金を横領して逃亡してしまう。これは計画的犯行であり、カレンと仲良くなっているPCがいる場合、事前に様子がおかしい事に気付く余地を与えても良い。
 暫くして構成員が孤児院を訪れたときに、カレンの犯行が発覚する。カレンは逃亡手段として駅馬車を利用しており、その事は聞き込みを行えばすぐに分かる。適当な技能判定に成功して、1〜2日かけるつもりがあれば、カレンを捕まえる事ができる。
 捕まった場合、カレンは「ランサー義兄弟だって同じ事をしたじゃない。真面目なだけでは馬鹿をみるだけよ」と言って慟哭する。

 カレンを捕まえたかどうかに関わらず、ここでPCがキースに対して「孤児院の問題点」を指摘して諭せば、遅れ馳せながらキースは孤児院内の歪みに気付き、皆を集めて話し合いを行う。
 これ以降の展開は、“結末1”に準じる。



結末3

 “結末1”と“結末2”で示した「遅れ馳せながら孤児院の問題が致命的な段階に達していると気付いたキースが、キトン族互助組織全体に及ぶ改革を決心する」という展開は、PCが「孤児院の問題を積極的に体を張って解決する」「口幅ったくなる事を承知で諫言・アドバイスを行う」という行動を取る事によって起こるイベントである。

 もしPCが、受け身で冷笑的な態度しか取らず、孤児と仲良くなるようなロールプレイも無いならば、この“結末3”になる。

 キースは、頑として“養命丸”の栽培・製造の秘密も、キトン族互助組織の話もしない。
 PCが金を諦めて去るならば、そこでセッションは終了となる。

 「ロドリゲスの味方をする事にして、秘密について口を割らせようとする」とか「誰の味方をするつもりも無いが、キースたちの存在が不気味なので、とにかく口を割らせようとする」などの場合は、陰惨な拷問の末に何も得られないという結末になる。

 キースたちを拷問したり殺したりした場合、後で生き残った者が当局に通報して、PCはお尋ね者になる。

 孤児院の人間を皆殺しにした上で、適当な技能判定に成功すれば証拠を残さずに去る事ができる。



さいごに

 元ネタは、劇団アルゴの99年度のミュージカル『小椋佳ファミリーミュージカルvol.13 フラワー・メズーラの秘密』である。ビデオ化され、キッズステーションで放映されたりもしたが、元ネタを知っている人は希であろう。
 興味のある人は、公式ホームページを参照して欲しい。
 シナリオは、元ネタとは大きくストーリーを変えているので、プレイヤーの中に知っている人がいても問題にはならないだろう。

 シナリオとしては、「キースとロドリゲスのどちらが悪人か?」でプレイヤーを迷わせ、真相究明に奔走させ、その間に孤児たちの立場に同情して深入りして行くという構成を狙っている。
 実際に私がマスターをしたときは、“結末3”になった。シナリオで設定したキーを縫うように行動するPCに対応するうち、何時の間にか陰惨な展開になってしまった。
 余談だが、このとき、プレイヤーの発案で

@キースや孤児たちを殺さない。その為なら、意見の異なるPCと戦う。
Aキースや孤児たちを殺さない。しかし、PCと戦ってまで止める気は無いのでそこまで強く出るPCがいる場合は殺人を看過する。
Bキースや孤児たちを殺す。しかし、PCと戦ってまで殺す気は無いのでそこまで強く出るPCがいる場合は殺人を諦める。
Cキースや孤児たちを殺す。その為なら、意見の異なるPCと戦う。

のどれかをPCが選択する事になり、その結果、@を選んだPCが殺された。
 ストーリーはマスターの手を離れて進み、プレイヤーの想像力が自らにプレッシャーを与え、ストレスとなり、“悪ノリ”とは意味合いの違う陰鬱な雰囲気となる様子は、ある意味部外者であるマスターとしては恐かった。こういったシナリオを越えた面白さが生れるところがRPGの醍醐味の1つでもある。
 そのようにシナリオとは別の方向にストーリーが転がり始めたら、プレイヤーを尊重するマスタリングをした方が良い結果になるだろう。ただし、マスターが手綱を離さぬ範囲で、である。




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