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0057 火葬の町 LUNA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、同人ファンタジーRPG『The Lunatic』の使用を想定して書かれた。
 しかし、『ソードワールド』など汎用ファンタジーとして、或いは『クトゥルフの呼び声』などホラーとしても使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

ネクロマンサー 5年前にアンデット軍隊を率いて辺境の町を占領した男。冒険者に倒されたが、復活して神父に憑依している。
アミー 両親と死別し、見知らぬ地で記憶喪失になった少女。心の隙をネクロマンサーの亡霊につかれ、復活に協力する。
対アンデット部隊 5年前の事件が解決した後で結成された、火葬推進組識。実状は高慢な青年たちによる素人集団。
富豪一家 たまたま、舞台になる町に立ち寄り、身内の1人を事故で亡くした。遺体を土葬にしたいと願っている。



事前状況

 5年前、強大な力を持つネクロマンサーがアンデット軍隊を率いて、とある辺境の町を占領した。ネクロマンサーは町の墓場からも死体を徴用し、また、気紛れに住民を殺してアンデット化したりとやりたい放題で、町は恐怖のどん底に落とされた。
 この事件は、たまたまこの町に滞在していた高レベル冒険者パーティーが、町の有志の青年たちの協力を受け、ネクロマンサーを倒す事で解決した。
 結局、ネクロマンサーが何を企んでいたのかは分からず終いだった。「この町を拠点にして侵略戦争を起こすつもりだった」「町の近くにある古代遺跡を本格的に発掘する為のベースキャンプにするつもりだった」など諸説出たが、何れも推測の域を出ず、理由は判明しなかった。

 一応の事態収拾を見て冒険者は町を去り、その後、町は「二度とネクロマンサーやアンデットの跳梁を許さない」為に極端な町政を敷いた。その政策により、古くからあったカタコンベ(地下墓地)は埋められ、用途不明の魔法アイテムの類も廃棄された。また、「町に存在する全ての死体は火葬された上で、3日間、聖水に漬け日光にさらす」事が義務付けられ、さらに現場の判断で形見になるような物も廃棄される事があった。
 事件解決に協力した青年たちは、常設の対アンデット部隊として組織され、その執行に当たった。
 町のほとんどの人間が信じる宗教では土葬が一般的であり、町民自身も土葬を望んでいた。事件直後こそ、火葬政策を全面支持していたが、やがて対アンデット部隊の行動が横暴としか映らないようになり、少しずつ確実に民意は離れていった。
 実際、トラブルも多発していた。対アンデット部隊は令状無しにどこへでも入り、勝手に土葬されていないかを探し回ったりもした。旅の途中で急死した人を、同行者の反対を押しきって火葬したりもした。

 アミーという少女も、そのトラブルの犠牲者だった。2年前、両親と旅行中にこの町に立ち寄った際、事故に巻き込まれて両親とも死んでしまった。それだけでも充分にショックな出来事なのに、アミーに対して何のメンタル・ケアもなされないまま、奪い去る様にして両親の死体と一切の荷物は荼毘に付されて(火葬されて)しまった。そのせいでアミーは一切の記憶を失い、町の孤児院に引き取られた。
 孤児院は教会の敷地にあり、その世話をする神父は孤児を虐待する人物だった。アミーは次第に「両親は生きていて、いずれ自分を迎えに来る」と空想するようになった。形見としてテレパシーの魔法を使えるアイテムを隠し持っていたのだが、それを使って毎晩「早く迎えに来て」と念波を送った。
 ところで、冒険者に倒された筈のネクロマンサーは、実はまだ完全には滅んでいなかった。
 火葬政策を憎むアミーの気持ちとシンクロする何かがあったのか、アミーの念波を拾ったネクロマンサーの霊魂は、彼女を言葉巧みに騙して協力させ、そして1年前、孤児院の神父に憑依する事に成功した。アミーはネクロマンサーを父親だと信じ、「父親の完全復活と、母親の復活と、町の歪んだ政策を正す事と、ちょっとした復讐」の為と言い含められ、手を貸す。

 神父(ネクロマンサー)は、まず孤児たちを手懐け、簡単な見張りや伝令として使える様にした。そして教会の地下にあるカタコンベを掘り起こし墓場として整え、「こっそりと土葬させてあげる」という活動を行った。
 やがて、大人の仲間も増え、今では一端のレジスタンスの体裁を持つまでに至った。表向きは、地道な土葬活動で支持者を増やし、資金を集め、それを背景に町長と町議会を“土葬派”で占めさせようという目標を持っていた。しかしその裏で神父(ネクロマンサー)は、レジスタンスの発足者としての地位と、貯えた“死体”で作ったゾンビで町を乗っ取り、本来の目的を達成するつもりだった。



導入

 上記“事前状況”の町に、PC一行はそうと知らずに立ち寄る。
 まずPCは、町まであと20分くらいという所で馬車同士の衝突事故に出くわす。一方の駅馬車には富豪の一家が乗っていて、その内の1人が死亡している。御者同士は互いの責任を追及して話が平行線になっているので、口出しする機会を見出せず富豪一家は途方に暮れている。通りかかったPCに対して富豪一家は「町に行って、保安官と別の馬車を呼んできて欲しい」と依頼する。PCはこれを受けるものとして進める。

 町では保安官が不在で、駅馬車の駅員が代理を務めている。
 駅員は、事故の処理の手続きを引き受けるが、「死人が出た」と聞いて何ともいえない表情を見せるが、口に出しては何も言わない。
 結局、駅員やPC、その他の男手の力で2台の馬車の残骸と関係者は町に入り、示談も済んで事故の処理の方は解決する。しかしそれにホッとする間もなく、富豪一家の1人の遺体は対アンデット部隊を自称する青年たちに「火葬する為に」と持って行かれてしまう。
 富豪一家の宗教でも土葬が一般的であり、対アンデット部隊の行為は常識外れの暴挙としか映らない。ここでPCは、「遺体を取り返す/土葬させる」「町に滞在中の富豪一家の護衛をする」という依頼を提示され、受けるものとして進める。報酬や不履行時の罰則などの条件面については、PC側に有利なように結ばれるとして構わない。



本編

 対アンデット部隊は町の中に“基地”と称する大きな建物を持っている。そこへ様子を見に行けば、彼らが狂信的だが、兵士としての練度は低いと分かる。根源的な部分では悪意が無いのだが、何かというと高圧的に振る舞い、典型的な“勘違い人間”の集団である。また、アンデットに対して病的な恐怖感を抱いてもいる。
 5年前の事件や、その後に取られた政策については、適当な町民から話を聞く事ができる。
 町民たちは、大っぴらに対アンデット部隊の悪口を言うのは避けるが、ちょっと水を向けてやればすぐに不平不満を口にする。

 富豪一家の1人の遺体は、対アンデット部隊で検分を受けた後、上記“導入”で登場した駅員が御者を勤める馬車で、町外れの火葬場に運ばれる。
 駅員は、神父(ネクロマンサー)のレジスタンスの構成員で、遺体をすり変える役目を担っている。二重底仕掛けになっている霊柩馬車で運んでいる間に、遺体の入った棺桶と、木切れの入った棺桶を交換して、火葬場には木切れ入りの方を渡している。
 火葬場は、対アンデット部隊員が立哨しているが、忍び足の得意なPCならば、潜入は難しくない。棺桶の中を見れば、木切れしかない。
 木切れの入った棺桶は、間を置かずに炉に入れられる。翌日までじっくりと燃やされ、灰は聖水と共にガラス瓶に入れられ、3日間天日に晒される。

 駅員を怪しみ、尾行などすれば、教会に出入りしている事が分かる。
 レジスタンスたちは、教会の地下にあったカタコンベを掘り返し復旧して、そこで葬儀と土葬を行っている。今回の富豪一族の事件に際して、事後承諾になるのを承知で遺体を盗み、カタコンベに運び入れ、関係者に通達した上で速やかに葬儀を執り行う事になっている。
 PCが教会の周囲で聞き込みなどをすれば、「教会は孤児院を営んでいる」「5年前まではカタコンベがあったが、政策により埋められた」といった話が聞ける。
 教会を見張れば、1日に何度も孤児たちがこそこそと出入りするのが見られる。彼らは、富豪一族の葬儀に必要な連絡を行っているのである。
 レジスタンスの構成員・孤児たちは、基本的に素人であるので、荒事には慣れていない。それなりの使命感を抱いているが、PCに捕えられて苛烈な拷問を加えられるなどすれば、知っている事を白状する。

 PCが特に極端な行動を取らなかった場合、次の日になって、富豪一家の泊まるホテルの部屋に手紙が投げ込まれる。それには「事後承諾で申し訳無いが、遺体を土葬してあげる為に盗んだ。依存が無ければ秘密の墓場で葬儀を執り行うので、公園まで来て欲しい」とある。富豪一家は、PCに同行を求める。
 公園では駅員が待っていて、富豪一家の意志を確認した後で教会に案内する。

 富豪一家の1人の葬式は神父が中心になって執り行われるが、孤児の中のアミーという少女が別格の扱われ方をしているのがPCの目に止まる。
 そうして葬式はつつがなく終わるが、一応、対アンデット部隊から「火葬して聖水と日光にさらした遺体の灰」を渡されるのは3日後で、怪しまれない為にも受け取る為にそれまで滞在せざるを得ない。当然、PCも引き続き滞在する事になる。

 PCは特にやる事の無い状態になるが、ここで教会、孤児院、レジスタンスといったものに興味が向くように誘導する事。「冒険者という存在に興味を持った孤児たちがお話を聞きに来る」などとしても良い。
 ここでPCは、以下の話を聞く。

@孤児たちのリーダーであるアミーは、旅行中に町に立ち寄ったときに事故で両親が死に、火葬政策の為に遺体も遺品も焼かれ、そのショックで記憶を失って孤児院にやって来た。

A暗い性格だったアミーがある夜を境に突然、『唯一の形見であるペンダントから声が聞こえた』などと言い出し、カリスマ性を発揮するようになった。

B元々、神父は町からの補助金にしか興味を示さない子供嫌いで意地悪な男だったのだが、カリスマ性を持つようになったアミーと2人だけで話をした後で、性格が一変した。その日から、教会(孤児院)を中心に土葬レジスタンス組織が結成された。

 こんな話を聞かされれば、PCは神父やアミーについて怪しむだろう。
 アミーの日記を盗み読めば、「神父は何かに憑依されている」と確信するだけの内容が記されている。
 神父の書斎を漁れば、魔術書が隠されているのを見付ける事ができる。
 カタコンベに潜入して、立ち入り禁止になっている場所のさらに奥にある鍵の掛かった扉の向こうでは、アンデットにされた死体がカタコンベの拡張作業を行っている。扉の手前からでも、土木作業の音がするのが聞こえる。扉を開ければアンデットとの戦闘になる。



結末

 神父(ネクロマンサー)は、現段階ではまだ表立った行動を起こすつもりは無い。しかし、PCに陰謀がバレてしまったからには、まずはPCの口を塞ごうとする。PCが逃亡した場合は、外部の干渉を受ける前にアンデットを使って町の制圧を行う。

 アンデットの種類と数については、マスターが適当に決定する事。
 神父(ネクロマンサー)と戦いになった場合、神父は貯めていた死体を次々とアンデット化してPCに差し向ける。孤児を人質にに取るなどの卑怯な真似も平気でするし、それをアミーがフォローする。
 神父を倒すと、もうそれ以上はアンデットは増えないが、コントロールを失ったアンデットが無差別攻撃を始める。放っておけば、町民は見知った顔の死人の襲撃で大パニックになる。



さいごに

 ミュージカルや映画で有名な『アニー』をネタにシナリオを作ろうと無理矢理に発想をこねている内にこんな話ができた。“孤児の少女アミー”に名残はあるが、完全に別物である。

 教会を調査する際の難易度と、クライマックスのアンデットの強さの設定次第で、セッションの雰囲気は大きく変わると思う。「真実を知ったときには既に後戻りできず、アンデットは絶望的なまでに強い」とすると、クトゥルフ的なノリになるだろう。




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