No. タイトル システム 登録日 改稿日
0056 ウイルス BK 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『Bea−Kid’s』の使用を想定して書かれた。
 しかし、様々なジャンルのRPG用への改造も可能である。



登場NPCおよび重要事項

狂戦士病 ウイルス性の感染症。ウイルスは哺乳類全般に感染するが、発病するのは人間または獣人のみ。発病すると正気を失う代わりに優れた身体能力を得て、文字通り狂戦士と化して敵味方の区別無く周囲の者に襲い掛かる。データ的には以下の通りで扱う。

●敏捷力、耐久値が+3になる
●<格闘>および<回避>の技能を所持していない場合、Aランク扱いになる
●攻撃方法として、“噛み付き”を行う。ダメージは3D6
●負傷によるペナルティーが1/2(端数切り捨て)になる
●理性的な行動を取れなくなる。銃や剣などの道具が使用できない。魔術が使用できない
●感染したのが一般市民NPCの場合、以下のデータを使用する

体力 耐久力 敏捷力 知力 精神力
±0 +5 +5 −3 ±0
IN値
格闘
回避
肉体耐久値 10
ダメージ 3D6(噛み付き)
  軽傷 中傷 死亡
修正 ±0 −1



事前状況

 数百年前、レストリア大陸に人間族が入植した初期の時代、人間族の支配階級にいた真言魔術師たちは呪われた研究を思うが侭に繰り返していた。
 研究は、魔術的と言うより科学的な分野もあり、その成果の1つに“狂戦士病ウイルス”があった。

 “狂戦士病”の感染者は正気を失う代わりに優れた身体能力を得て、文字通り狂戦士と化して敵味方の区別無く周囲の者に襲い掛かる。“狂戦士病ウイルス”は、狂戦士病患者が襲った者を噛んだり、傷口同士が触れ合うといった事から容易に感染する。感染から2〜3時間で発病し、遅くとも数日後には死亡する。また、このウイルスは熱に弱く、脂質やトリプシン等で溶解するが、低温には強く、−70℃下または凍結乾燥により数年間生き続ける。
 ウイルス開発グループは「予防接種を受けた工作員が、ウイルスに感染した哺乳動物を敵戦闘部隊に送り込み、何人かに感染させる。後は敵の自滅を待つ」という使用方法を提案し、実際に対獣人族の侵略戦争で使用された。「感染者全員を処分すれば二次的に広がる事も無く、通常のBC兵器よりも安全」と喧伝されたが、「発病すれば死亡率100%」という事もあって事故も起こり、何より非人道的である為、使用されなくなった。
 そうして“狂戦士病”は、歴史の闇の中に葬られた。

 時代が下って現在、グーデリアン国政府は、今では伝説となった“狂戦士病”を復活させて軍事利用しようと考えていた。碌なデータは残っていないので、哺乳動物の体内から取り出した幾種類かのウイルスに、それぞれ幾種類もの条件付けをした培養で塩基配列を変化させ、それらを人間や獣人に投与して結果を観察するという、行き当たりばったりの研究(ランダムスクリーリング法)を行った。実験自体は手間はかかるが高度な能力は要しないので、複数の下請け民間会社に委託され、下請け民間会社は、言われた通り盲目的に人体実験を繰り返し、結果を政府機関に報告していた。

 ある所に、M市という地方都市があった。
 隣は山で、M市から山道を歩いて2時間ほどの所に獣人族の村がある。
 その村の獣人族は、人間族と一方的に不利な条約を結ばされ、飼い殺し状態で生活している。また、かつて“狂戦士病ウィルス”の被害に遭った事があり、それが“謎の伝染病”として口伝されている。

 このM市に居を構える製薬会社A社は、“狂戦士病ウイルス”を復活させる政府機関のプロジェクトの下請け実験に従事していた。
 ある日、たまたま“狂戦士病ウイルス”が完成して、A社の人間はいつもと同じように人体に投与した。被験者は狂戦士化するが、ここで管理体制の不備から、被験者(複数人)に逃げられてしまった。



導入

 “狂戦士病”被験者の逃亡した日、上記“事前状況”のM市に、たまたまPCたちは滞在している。獣人族PCが望むならば、隣接する獣人族の村に滞在しているとしても良いが、この場合、序盤の出番が無くなるのでプレイヤーと相談する事。

 M市では、夕方から「謎のヒステリー患者(=狂戦士病被験者)が人を襲う」という事件が起きていて、M市々内に滞在しているPCはその現場に出くわす。
 騒動はA社研究所を起点に始まり、じわじわとその範囲を広げている。
 既に保安官やその他の戦闘力のあるNPCだけでは対応しきれない状況になっていて、ここでPCが「謎のヒステリー患者と戦って事態を収める」といった行動を取るように誘導する事。「暴れている者はただの一般市民とは思えない異常な身体能力を示すが、PC側は勝利する」と展開する戦闘を1回だけ行った上で、「こういった戦いが何度も繰り返された」と描写しておくと良い。
 PCの活躍如何に関わらず、たくさんの市民が狂戦士病患者によって怪我を負わされる。傷ついた者は、2〜3時間の昏倒の後に目覚め、狂戦士化して今度は襲う側に回る。戦闘に参加しなかったPCは、その旨を医者に報告したり、被害者を病院に送り届けたり、拘禁したりといった方向で活躍できるように誘導する。
 以降、PCがこれらの誘導に乗り、事件に深く関わっているものとして進める。



本編

 M市立病院は患者の多さにてんてこ舞いだが、そんな中で医師は以下の病気の特性に気付く。

@伝染性の病気である。患者に傷つけられた者は、高い確率で感染する。

A感染者は2〜3時間意識を失う。目覚めると、驚異的な身体能力を得た上で理性を失い、誰彼構わず攻撃する。

Bこの“狂戦士”状態がどれだけ続くのか不明。事件発生から12時間経つが、回復した者はいない。

 短い時間でこれらの症状を正確に見抜いた医師は、PCの手を借りて患者の拘束などを行う。
 なお、PCに医者がいる場合は、ここでの主導的な役割を振ると良いだろう。

 完全に朝が明けきった頃になって、どうにか全ての患者を殺害ないし拘禁し終えて、事件は一段落する。それと前後する時間に、M市の駅に政府専用特別高速列車が到着する。
 政府専用特別高速列車には、中隊規模の陸軍兵士と、医師・化学者などの科学調査団が乗っている。彼らは連絡を受けて火急速やかM市に派遣された特務チームで、「“狂戦士病”のサンプル・データ回収」と「真相の揉み消し」を目的としている。

 特務チームは、まず、M市内をチェックしてまわり、死体を1ヶ所に集め、M市立病院に拘禁されている患者を自分たちの直轄管理下に置く。PCやM市病院の医者は、患者から遠ざけられる。これに反抗しようにもPCだけの力では軍隊に逆らえない。表向きは「奇怪な伝染病患者を隔離する」としているので、幾ら胡散臭くてもこの時点ではNPCも扇動にはのらない。
 その後で、特務チームは何の声明も出さずに、真っ直ぐに獣人族の村へ分隊を派遣する。分隊は幾人かの兵士と科学者で編成されている。特務チームは市長にも同行を求め、それに応じる形で他にも市民有志がついて行く事になる。PCが参加を希望するならば、問題無く叶う。
 獣人族の村にて、分隊は幾人かの適当な村人を拘束して連れ帰ろうとする。理由を尋ねると、「M市での騒動の原因である可能性があるので、医学的な検査を行う」と主張する。しかし兵士の態度は乱暴で、適当に選んだ獣人族を拘束する辺りが如何にも胡散臭い。
 このとき、M市での出来事を聞いた獣人族の1人は、「その昔、人間族の真言魔術師が“狂戦士病”を敵(獣人族)に感染させ自滅させるという作戦を取った事がある」という口伝を思い出す。この口伝を思い出す獣人族の役割は、当初から村にいた獣人族PCに割り振ると良い。該当するPCがいない場合は、NPCの口を通して適当なPCにこれを伝える事。

 特務チームは、真相を隠す為に「全ての原因は、獣人族が媒介した珍種の狂犬病が原因だった」というシナリオを描くつもりでいる。被差別民族である獣人族をスケープゴートにする事で市民の注意を逸らし、ウヤムヤのまま事件を収めようという訳である。

 獣人族の拘禁をPCが止めようとする場合、戦闘になる。分隊の戦力は、その場にいるPCと同等にする。PC優勢の場合、分隊兵士はある程度の損害を被ったところで諦めて撤退する。PC劣勢の場合、深追いはせず獣人族を連れ去る事に専念する。
 分隊が獣人族を捕える事に成功したかどうかに関わらず、一定時間後、特務チーム本隊は「全ての原因は、獣人族が媒介した珍種の狂犬病が原因だった」との声明を発表する。医者(PCでもNPCでも)は、以下の疑問を抱く。

@狂犬病の潜伏期間は最短記録でも10日間である。珍種とは言え、潜伏期間が無いに等しいとは考えられない。

A狂犬病発病末期に患者が性格変化を起こし、狂暴になる事はある。しかし、前駆症状を示さずにいきなりというのはあり得ない。

B恐水症状など、狂犬病の典型的な症状が見られない。逆に、驚異的な身体能力の増大が明らかに見られるが、これは説明が付かない。

 つまり、医者から見れば「狂犬病とは全く別物の病気」としか思えない。医者のPCがいない場合、NPCの口を通して適当なPCにこれを伝える事。

 この声明に呼応して、M市に戒厳令が引かれる。鉄道・街道が封鎖され、外出も制限される。特務チームは、このどさくさに必要な人体実験をM市で行ってしまうつもりでいる。そして、予防接種薬の開発成功を以って撤退しようとしている。

 この辺りで、全PC、医者、獣人族の村の出身者等を一同に会するように展開させる。
 PCがそれぞれ得た情報を突き合わせれば、「特務チームは、“狂戦士病”を復活させてそのデータを得ようとしている」という推論が得られる筈である。プレイヤーがその推論を得られないようならば、忘れている情報を再確認させる事。
 推論が出た所で、NPCから「そう言えば、最初に暴れ始めた男は、A社研究所の近くにいた。A社は、製薬会社という名目だったが、何の研究をしているのか知られていなかった。それなのに政府から補助金を得ていた」といった追加情報が与えられる。



結末

 PCが傍観を決め込むならば、特務チームは狂戦士病のサンプル・データ収集を終え、「事件の原因は、獣人族が媒介した珍種の狂犬病だった」との声明を発してM市を去る。声明に扇動される形でM市では獣人族排斥運動が起こる。

 傍観はしないとしても、PCがどの程度の“正義”を貫こうとするかで、展開も変わる。

@市民に真実を伝える。
 市民に真実を伝えようとする場合、市長や市立病院長などの権威あるNPCの協力を取り付けた上で、ビラ配りやゲリラ演説を行わなければならない。一般市民は、見知った知識人の保証付で辻褄の合った話を聞かされればそれを信じる。
 市内各所にて「兵士の監視の目を縫ってビラ配り・ゲリラ演説を行い、戦闘で時間を稼ぎ、急ぎ撤収する」という行動を何回か繰り返せば、やがて市民は暴動を起こすまでに至る。この宣伝活動に際して、詳細はマスターに委ねる。
 暴動が起こるまでになれば、もはや獣人族が排斥される恐れはない。
 特務チームは、当初はPCの活動の妨害に奔走するが、ある段階で情報操作を諦め、居直ってA社研究所にこもり、狂戦士病ウイルスの研究に専心する。

A特務チームが狂戦士病のサンプル・データを得るのを防ぐ。
 特務チームが感染者の体(遺体)から狂戦士病ウイルスを分離培養し、適切な条件での保存を行うには、ある程度の試行錯誤が必要である。狂戦士病の研究を続けてきた科学者と言えども最速で2週間はかかる作業であり、その時間を稼ぐ為、捕えた健康体の獣人にわざと感染させたりしている。
 遺体と感染者はA社研究所内の1ヶ所に集められているので、ここに潜入して遺体(生きている感染者は殺す事になる)を全て焼却する事で、研究の完成を阻む事ができる。
 襲撃に際して、要求する判定はマスターに委ねる。兵士の注意を逸らす為に陽動を行ったり、市民を扇動したりといった作戦を立てたならば、<忍び足>などの難易度を下げたり、判定そのものを要求しなくても良い。
 研究の続行が不可能になれば、暫くM市周辺で捜索活動などを行った後で特務チームは中央に戻る。

 @とAの両方を達成できれば完璧だが、どちらか一方しか行わない事もあるだろう。そうなったとしても、無理にPCに誘導をかける必要は無い。



さいごに

 元ネタは、清水一行の『毒煙都市』である。「塩素系化学兵器→狂戦士病」「赤痢→狂犬病」と変更して、アクション要素を増やすと共に、元ネタを読んでいるプレイヤー対策とした。
 この辺りに関しては、元ネタ通りにして社会性が強くなるようにしても良いだろうし、或いはもっとSF的・ホラー的なものにしても良いだろう。マスターの好みで手を入れて欲しい。




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