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0055 走り屋の裏の顔 N◎VA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクでも使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

B氏 sWの被験者。表の顔はカーレーサー。裏の顔はストリート・パフォーマー。
C氏 sWの被験者。表の顔はバイクレーサー。裏の顔は仮面ヒーロー。
D氏 sWの被験者。表の顔は車が趣味のサラリーマン。裏の顔は連続殺人鬼。



事前状況

 ヴィークル・オプション(車両の電子装備品)の開発をメインに行う中小企業であるA社は、近年、業績不振に悩まされていた。
 A社に所属するとある開発チームは、WINDS(ヴィークルとドライバーを直結するオプション)を上回る性能を持つ、仮称“super WINDS(以降、sWと表記)”の試作品を完成させていた。
 従来のWINDSは、「ヴィークルのセンサから得た情報→ドライバーの脳」と「ドライバーの脳→アクセルやハンドルなどヴィークルの操縦系統」の一方向にしか情報伝達がなされない。しかしsWはそれに加えて、「ドライバーの五感で得た情報→ヴィークル搭載コンピュータ」や「ヴィークル搭載コンピュータの判断→ドライバーの身体制御」まで行う事で、より高度なドライビングを可能にする……との設計思想で作られた。
 しかし、ヒトの脳に深い干渉を与える事から、どんな障害が出るか簡単には分からない。本来ならば安全性を確認する為の綿密な調査研究が必要なのだが、A社の状況から言ってそんなまだるっこしい事をやっている余裕は無い。そこで開発チームのリーダーが独断で(という建前で)、極秘裏に試作品をユーザーに流し、人体実験同然の調査を行う事になった。そして試作品はランダムに選ばれたレーサー、暴走族、走り屋といった人々に使用試験に協力する旨の契約を結んだ上で渡された。

 ところが、実はsWには重大な欠陥があった。その基本設計コンセプトの結果、一種の洗脳機械として働いてしまう可能性があったのだ。その為、例えば“アムリタ・ソーダ(カムイST☆R製の合法ドラッグ清涼飲料)”などで酩酊状態にあるときにsWを使用すると、使用者が深層心理下で密かに望んでいる「こんな人間になりたい」「こんなふうに振る舞いたい」という欲望がコンピュータの方に刷り込まれてしまう。本来は些細な願望の筈が、人間の脳とコンピュータの間でキャッチボールされた末に強化され、最終的にその欲望は第2人格として確立してしまう。さらに別人格を構成する為に必要な技能も、コンピュータからダウンロードされてしまうというオマケまでついた。

 第2人格を持つに至ったsW使用者の内の3人は、特に奇矯な行動を取った。

 カーレーサーのB氏はカブキとしての第2人格を持ち、夜な夜なストリートでパフォーマンスを披露し、一部で名を馳せるまでになった。

 バイク・レーサーのC氏は、カタナなどの戦闘系の資質を得た上で“仮面ヒーロー・キャプテン・ジャスティス”なる第2人格を発現させ、ストリートでチンピラ退治などを行っていた。

 走り屋のD氏は、やはり戦闘系の資質を得たが、こちらは連続快楽殺人犯としての第2人格が発現してしまい、切り裂き魔として暗躍した。



導入1:タタラPC用

 A社は、B氏の事例のみ異常を察知していた。
 B氏に詳しい説明をしないまま原因をsWのコンピュータの誤作動と見当をつけて検査するが、何も分からない。そこで駄目モトで外部の人間(タタラ)であるPCに調査を外注する。



導入2:フェイトPC用

 B氏は、sWのお陰で本業のレーサーとしての能力も大幅に増していた。ライバルチームがその大躍進を怪しむが、特に不正の証拠は無い。そこで、NIK(探偵の斡旋組織)などを通じてPCに調査が依頼される。



導入3:トーキーPC用

 とあるメディアが、ストリートの最新のブームとして“幻の吟遊詩人”B氏の第2人格を追っていた。レッドエリアに好んで現れるという事くらいしか分かっておらず、それでPCに調査・取材を依頼される。



導入4:戦闘系PC用

 とあるヤクザ組織は、キャプテン・ジャスティスの存在を疎ましく思っているが、本気で対応するのはメンツに関わる。そこでフリーランスのPCを雇い、「生死は問わないが、キャプテン・ジャスティスが二度と正義の味方ごっこをできない様にして欲しい」と依頼する。



導入5:イヌ・カブトPC用

 SSS(警察)やブロッカー(ボディーガードの斡旋組織)などがPCに、連続快楽殺人犯(=D氏)の捜査を依頼する。



本編

 5つの導入を用意したが、基本的に「一見、無関係に見える幾つかの事件が、実はsWという1つの糸で結ばれている」というふうになっていれば良いので、マスター側で適当に調整して欲しい。

 3人のNPCが第2人格を表にしたとき、それぞれ基本的にレッドエリアで行動する。
 そこで、最初はマスター・シーンを連続して起こす。「NPCが事件・行動を起こす」→「PCが登場判定と適当な技能判定(知覚や隠密やコネなど)に成功すれば、舞台に登場して、それに対するリアクションを取る事ができる」という形式で進める。

 以下に、イベントを列記する。順番に関しては、マスターが恣意的に変えて構わない。

@B氏が第2人格を表にした状態で、sW付の車で自宅を抜け出し、レッドエリアのストリートで民族楽器を使ったパフォーマンスを始める。自宅からB氏をつけてきたPCは、B氏がレーサーとストリート・パフォーマーの2つの顔を持つ事を知る。

AC氏がsW付のオートバイに乗り仮面ヒーローの如く振る舞ってチンピラ退治をする。登場判定には知覚判定を組み合わせなければならない。C氏は基本的にPCを相手にしないが、PCの振る舞い方次第では戦闘に応じる。C氏を倒した場合、彼が現場に乗ってきたsW付のオートバイを回収するチャンスがある。確保したC氏を調べれば、彼の表の顔はバイクレーサーである事が分かる。

BD氏が第2人格状態で女性を襲う。登場判定には知覚判定を組み合わせなければならない。D氏は目撃者にも襲い掛かる。D氏を倒した場合、彼が現場に乗ってきたsW付の古いスポーツカーを回収するチャンスがある。確保したD氏を調べれば、彼の表の顔は車好きのサラリーマンである事が分かる。

 3人のNPCの人格変換は、愛車に乗る事を切っ掛けにしている。NPCを監視する場合、PCはそれに気付く。

 導入と3つのマスター・シーンを通して、3人のNPCの存在を強調し、かつPCが合流するように誘導する。



結末

 sWの不具合について真相を探る場合、その使用者の身柄と愛車を確保した上で、その両方を詳しく調べなければならない。通常の調査では、「sWが人格に悪影響を与えている」としか分からない。
 <究極鑑定>を使うなどすれば、「sWが使用者の脳の使われていない部分を刺激して、“第2人格”を作ってしまう」と分かる。或いは、そうではないかと見込みを付けた上で調査すれば、通常の調査でもそれを追認できる。

 結末は、導入の内容とプレイヤーの拘りで変わるだろう。以下にそれぞれの場合について列記する。

@A社に協力する。
 真相の隠蔽に協力し、改良の為のデータ集めの為に、B氏、C氏、D氏の身柄確保などに協力する。

AB氏のライバルチームに協力して、sWの危険性を証明する。
 B氏、C氏、D氏の事例を集め、真相を当局に報告するなどし、求めに応じて彼らの身柄確保に協力する。これによって自動的にB氏(およびC氏)はレースへの出場資格を失う。

BC氏を暗殺する。
 ヤクザの依頼に応じて、C氏を暗殺ないし再起不能の重傷を負わせる。

CD氏を逮捕する。
 連続殺人犯として、D氏を現行犯逮捕する。



さいごに

 「航法コンピュータがドライバーの体を乗っ取って車を操縦するという方式のヴィークル・オプション」という設定は、アニメ『サイバーフォーミュラーSAGA』が元ネタである。
 「副脳の機能を果たすサイバーウェアが、装着者の脳の使われていない部分を刺激して、“第2人格”を作ってしまう。一見すると副脳が装着者を乗っ取っている様に見えるが、そう推理して調べても異常は見付からない」という設定は、神林長平の『帝王の殻』である。ただし、この設定はあまり生きているとは言えないかもしれないので、マスター判断で削ってもらっても構わない。




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