No. タイトル システム 登録日 改稿日
0053 解剖請負業者 N◎VA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクでも使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

マックス レイド&ルーラー社の非合法部隊員。しかし、妻や近所の人にはサラリーマンで通している。
マックスの妻 夫の死の真相は、病院の医療ミスだと思い、追求しようと考えている。
解剖請負業者 フリーのメディカル・ドクター。マックスの妻に雇われて、マックスの遺体を解剖しようとしていたが、運搬中に強盗に襲われてしまう。
ヤクザ レイド&ルーラー社の為に半端仕事を行う独立系組織。
闇医者 強盗からマックスの遺体を買い、体に埋め込まれたサイバーウェアを転売した。



事前状況

 新興のサイバーウエア系企業のレイド&ルーラー社の非合法部隊の構成員には、特殊なサイバーアイが仕込まれていた。
 機能的には一般に出回っているアイ・オブ・ザ・タイガーと変わらないのだが、ドライバ(ソフトウエア)に仕掛けがあり、一種の暗号変換装置として使う事ができた。これによって、レイド&ルーラー社の非合法部隊員は、「一般の人間にはただの模様・染み・汚れなどにしか見えないモノが、意味のある文字や記号として見える」事ができた。単純に暗号文章の解読にも使えたし、レイド&ルーラー社の秘密施設関係の標識や、部隊員同士の緊急の符丁など、用途は多岐に渡った。
 マックスという男がいた。表向きは中小企業の営業マンで妻もそう信じているが、実はレイド&ルーラー社の非合法部隊員だった。
 ある夜、マックスは千早系列の研究施設に潜入して逃亡するが、そのとき偶然、車に轢かれて死亡する。ドライバーはすぐに救急車を呼び、マックスは病院に送られるが、やがて死亡。数時間後にマックスの妻が病院に到着し、そしてそれよりさらに遅れて、レイド&ルーラー社の担当者が事態を知って病院にやって来た。
 レイド&ルーラー社としては、マックスの体に埋め込まれたサイバーアイを回収したかったが、対応が遅れ過ぎていて、誰にも不自然に思われずに行うのは不可能だった。レイド&ルーラー社の担当者は、マックスを解剖せずに埋葬させるのが一番と考え、病院側に圧力をかけた。
 言い含められた病院付コンサルタントは、夫の解剖結果を尋ねるマックスの妻に対して「死亡原因は明らかなのに解剖なんてしたら、死んだ旦那さんが悲しみますよ」などと言い、解剖無しでの埋葬を勧める。しかしその一言で「医療ミスを隠そうとしている」と誤解した妻は、承諾した振りをしてその実、フリーの解剖請負業者に連絡して夫の遺体を引き渡した。

 解剖請負業者は個人経営で、遺体運搬車の運転から解剖まで全てを独りでこなしていた。
 事務所と住居と解剖室を兼ねた家はイエローゾーンにあるのだが、病院からそこへマックスの遺体を運ぶ途中、運悪くストリート・ギャングに襲われ、金目の物……マックスの遺体も含む……が盗まれた。



導入

 PC全員は、上記“事前状況”にある、解剖請負業者の遺体運搬者が襲われた現場の近くにたまたま居合わた。
 PCが現場に到着したときには、既に襲撃者は去った後だった。解剖請負業者は死亡していて(神業でも救えない)、運搬者には業務記録書が残されている。大分経ってから警察(SSS)がのんびりやって来るが、日常茶飯事と思っているのでたいして捜査らしい捜査をする様子も無い。PCが業務記録書を提出しても、面倒臭そうに一瞥しただけで、そのままポイ捨てしてしまう。
 実際、警察は路上の車の始末以外はしようとしない。

 この後、PCは、「金になるかもしれない」「捨て置けない」「興味が引かれた」などの理由から事件に積極的に関わるものとして進める。

 業務記録書によると、解剖請負業者はマックスという男の遺体を運んでいる最中だった筈だが、運搬車にそんなものは載っていなかった。
 PCが解剖業者の家に赴き、車の中にあった鍵を使って中に入って調べると、“解剖請負業”という耳慣れない仕事の内容を知る事ができる。解剖請負業とは、医療過誤を疑う遺族に依頼されて検死解剖を専門に行うメディカル・ドクターの事であり、襲撃者に盗まれたのはマックスという男の遺体で、調査の依頼人である彼の妻の住所なども分かる。

 ところで、その頃になってやっとレイド&ルーラー社の担当者は、マックスの遺体が業者に引き取られた事を知る。そこで配下のヤクザに連絡して、手段は問わないのでサイバーアイを回収ないし廃棄するように命じる。



本編

 以下に、捜査場所・対象とそこで得られる情報等についてまとめる。

イエローエリア  解剖請負業者の運搬者を襲った者について聞き込みを行うならば、「カゼのグループの1つが、高価なサイバーウェアを闇医者に売ってもうけたと言っていた」との情報を得る。
 ただし、闇医者の居所を掴む為には数シーンかかる。
マックスの家  マックスの妻に会う事ができる。解剖請負業者の名を出せば、基本的に信用して応対してくれる。PCが、マックスの遺体が盗まれた経緯を話すと、彼女は、解剖請負業者に依頼した経緯を話した上で「きっと病院側が医療過誤を隠す為にやった事に違いない」と言う。
 ここでPCは、マックスの妻から改めて捜査をして欲しいと依頼される。
警察(SSS)  適当なコネ判定などに成功すれば、マックスを轢いた男と面会できる。轢いた男に裏の背景があるようには見えない。事故記録と合わせて聞いても、「マックスが路地裏から飛び出して来たので、轢いてしまった」という話に嘘は感じない。
シルヴァー・レスキュー  マックスを病院に運んだ救急隊員に事情を聞きに行くと、「マックスの外見はウェット(サイバー化していない)に見えたので軽傷と判断し、轢いたドライバーにもその診立てを伝えた。しかし実際には高価なサイバーウエアが使われていて、その人工パーツが機能していたというだけで、マックス本人は死にかけていた」と話してもらえる。
 マックスの妻にサイバーウエアの事を聞くと、「夫は天涯孤独の身で、若い頃に何かあって大手術をしたとは聞いていたが、詳しい話をしたがらず、いずれ聞こうと思っていてそのままになっていた」と答える。
事故現場  マックスが飛び出してきた路地の壁から弾痕が見付かる。<ヴィークル>など適当な技能で交通事故鑑定を行えば、「路地に接する建物から逃げ出し、表通りに走り出ようとしたら、銃撃を受け、当たらなかったものの気が逸れて車に轢かれた」という図式が判明する。
 この路地に接する建物の所有者を調べると、千早系列の非合法研究施設だと分かる。
マックスの勤め先  電話は留守番サービスに繋がるだけだし、名刺に書かれた住所には該当する会社は存在しないと分かる。
闇医者  事件が起こった日から充分なシーン(2日間以上)が経った後ならば、イエローエリアでの聞き込みで調べた闇医者の居場所が分かる。
 適当な交渉を行えば、闇医者から話を聞ける。それによると、
「買ったサイバーウェアは、全て使ってしまった。患者の住所は知らない」
「ただ、サイバーアイを埋め込んだ少女だけは、手術を依頼した売春宿の店主が引き取りに来るまで入院させている約束だったのだが、逃亡してしまった」
「少女を捕まえてくれたら、それなりのお礼をする」
との事である。
ヤクザ  捜査がある程度の進展を見せたところで、PCの周辺にヤクザが現れる。
 PCが上手く交渉するならば、ヤクザはマックスの遺体を探していると明かし、
「マックスに使われていたサイバーアイを回収ないし破壊して欲しい。破壊した場合は証拠として残骸を持って来て欲しい。他のサイバーパーツはどうでも良い」
「この件に関して一切他言無用」
と依頼する。
 適当なコネ判定に成功すれば、このヤクザは独立系で、レイド&ルーラー社の為の半端仕事をよく請け負っているという事が分かる。
少女  上記のほぼ全ての情報を得た後で、イエローエリアを探し回れば、廃ビルの一室で少女を発見する。少女はサイバーアイの特殊機能で様々な符丁が視覚野に入ってしまい、「幽霊が見える」と思い込んで精神的に参っている。



結末

 PCが手術費用を負担するならば、少女の眼を通常のサイバーアイと交換して、マックスの物だったサイバーアイを手に入れる事ができる。
 少女の行く末に関しては、PCのフォロー次第である。

 PCにタタラがいて、<究極鑑定>で調べれば、マックスのサイバーアイについて詳細まで分かる。<レプリカ>を使えばそっくり同じものが作れる。
 タタラがいない場合は、「何か特殊な機能があるらしい」という事だけが分かる。

 大人しくヤクザにサイバーアイを渡せば、約束された報酬が払われ、それ以上の干渉は受けない。ただしマックスの妻の依頼を反故にする結果になるので、場合によっては「彼女がPCの不誠実さを訴えた結果、社会戦を受ける」などのオチを付けても良い。

 マックスの妻への義理を果たす場合は、上手くやらないとヤクザおよびレイド&ルーラー社を敵に回す事になる。オチに関しては、マスターが判断する事。



さいごに

 フリーの解剖請負業者というのが、アメリカに実在するそうで、このシナリオは、その話から思い付いた。
 マックスのサイバーウェアに関しては「単に強力なアイテム」であっても良かったのだが、一捻りして“サイバーアイのドライバ”とした。これは、神林長平の『ライトジーンの遺産』からアイディアをもらった。




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