No. タイトル システム 登録日 改稿日
0052 初夜権 天羅万象 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『天羅万象』専用である。



登場NPCおよび重要事項

A国新領主 前領主を謀殺して領主の座についた。周囲は“人間の”野心家と思っているが、実は妖である。シナリオには登場しない。
寒村の村人 現領主の圧政に苦しんでいる。全員がレジスタンスのメンバーで、革命の為に死を決意している。
寒村の子供たち 秘術で産まれた“妖の一族”。データ的にはアーキタイプの鬼サムライに準じる。その上、飛行能力を持ち、妖同士でテレパシーで話し合う事もできる。精神操作系の術に対して、1人にかけたとしても子供たち全員が抵抗を試みる事ができるので、ほぼ効かない。人数はPCと同じ数がいる。
A国 密かに“妖の国”として作り変えられている国。
B国 A国と不可侵条約を結んでいる隣国。ほぼ同等の国力なので、取るべき政策を迷っている。



事前状況

 天羅のとある場所に、小国が乱立している地域があった。
 この中のA国とB国は長い間小競り合いを続けていたが、15年前にA国の領主一族が断絶して、宰相だった男が新領主に就いたのを機に、不可侵条約が結ばれた。
 A国新領主は対外的には辣腕を振るい、条約同盟その他によって、対外戦争に備える為の過剰な軍事投資をしないでも済む体制を整えた。しかし、内政的には「生かさぬ様、殺さぬ様」の重税を課し、戒厳令下の如き厳しい法制を敷いて国民を管理した。
 さらには“初夜権”(国民が結婚するとき、夫婦が最初に性交渉をする前に、領主は花嫁を抱く権利)を発布して、国民に徹底させる為に全ての神社・神主を直轄管理して、国民が秘密裏に結婚の儀が執り行えない様にまでした。

 実はA国新領主は人間では無い。妖の一種で、策略でA国を乗っ取った後、自国の国民全てを自分の種族にするという野望を持つに至った。
 その妖は、通常の生物と同じ様な生殖行動で子孫を残す能力を持たなかった。そこで独自の術を編み出し、人間の女を仮腹として自分と同じ種族を残せる様にした。その為のカモフラージュとして“初夜権”を要求して、献上された女の胎内に術を施して妖が生まれる様に(そして2度と人間の子を産めない様に)してから、元いた地に戻していた。
 そうして産まれた子供は、外見的には人間とそっくりながら、高い知能と身体能力を有し、さらに必要ならば空を飛んだり催眠術を使ったりする事もできた。また、妖たちは精神を共有してもいた。
 そして、本来は個体1つしか無い妖を種族化した為、オニに似た種族的特性を持つ事になり、その為、体の中に“心珠”を持つに至った。

 A国の国民は、そんな真相だとは誰も知らない。
 「新領主が、旧領主一族を滅ぼしたのではないか?」「新領主は何かの術使いで、それで重臣たちを操っているのではないか?」といった程度の事は予想している。しかし、暴君とは言え“人間”であり、その欲望も「人間としての範疇に入る欲望」だとしか考えていない。

 A国の大半の国民は、現状に強い不満を持ちつつも、結局は堪え忍んで日々を送っている。一部の人間はレジスタンスを組織して、領主打倒を目指しているが、賛同者が増えない事に苛立ちを募らせている。
 そこでレジスタンスは、半ば自作自演で「領主の軍隊によって、寒村の村人全員が虐殺される」という事件を起こし、それで世論をレジスタンス側へ一気に傾かせようと考えた。虐殺の対象の村として、全員がレジスタンスに所属しているとある寒村に白羽の矢が立った。寒村は、領主に対して納税その他の全ての義務に従わないと宣言した。役人が説得・恫喝に来ても従わず、いずれ領主側が武力行使せざるを得ない様に仕向けた。軍隊が来たら、村人は捕虜にならない様に振る舞う事で“虐殺事件”を既成事実化する作戦だった。
 寒村の村人は、犠牲となる引き換えとして2つの条件を出す。
 1つは、「一組の恋人を、領主に秘密で結婚させたい。そこで結婚の儀を執り行うのに必要な神主を派遣してもらいたい」というもの。新領主就任以来、この寒村では夫と初夜を迎えた新妻がおらず、せめてもの意地だった。
 もう1つは、「子供は犠牲にしたくないので、軍隊が攻めてきたら『戦火の中、偶然にも落ち延びる事ができた』というシナリオにする」為の、護衛の派遣依頼だった。

 しかし、その“子供”は、全員が“妖の一族”だった。



導入

 PCの立場は、以下の何れかになる。「舞台となる寒村に組する立場が良い」というPCには@を、「敵では無いにしても味方でも無い立場が良い」というPCにはAを選ばせる。@とAは必ず誰かに選ばせなければならない。
 @やAような導入には乗れないというPCはBを選んでも良いが、希望するプレイヤーがいなければBは使用しない。

@レジスタンス本拠地から寒村まで1人の神主の護衛して、帰りは神主と寒村の子供を護衛するという契約でレジスタンスに雇われる。寒村の“自作自演虐殺”計画について知らされている。

AB国は、「A国は何か正体不明の術法の研究をしているらしい」との情報を得て、その詳細を掴みたいと思っている。しかし条約があるので、派手な事はできない。国境に近い寒村に“思念波”(実は、“子供”たちが無意識に使うテレパシー)がやりとりされているのをキャッチしたので、それを調べる事で術法の正体の一端でも分かるのではないかと期待している。さらに万一を考え、自国の人間では無い流れ者(=PC)を雇って、寒村の内情を調べに出した。

B旅の末にたまたま寒村に立ち寄り、事情も知らず廃屋となった神社跡に泊まろうと考えた流れ者。

 それぞれの導入の詳細については、互いに分からないようにする事。



本編

 導入@のPCは大歓迎される。
 村長宅の地下にある秘密の神社に案内されたり、新郎新婦を始め村の主立った者と話をする機会を持つ。PCが、“虐殺事件計画”を止めようと説得しても、静かな拒絶に会うだけで決して聞き入れられない。
 子供を逃亡させる方法に関しては、基本的に「A国領主の軍隊が寒村にやって来るのと入れ代わりに、獣道を通って逃がす」というやり方が提示される。もしPCから意見が出るならば大きく取り上げられるが、村人も馬鹿では無いので、「“虐殺事件計画”を失敗させる方便」として使おうとしても簡単には騙されない。

 導入Aと導入BのPCは、よほど怪しい行動を取らない限り、ただの流れ者であるという言い分を信じてくれる。「廃屋になど泊まる事はありません」と言って村人の家に案内され世話してくれるが、それでも警戒して、“虐殺事件計画”や結婚式などの話はされない。
 導入Aと導入BのPCにしても、この寒村の民がときどき鋭い視線を向けるのに気付き、ただの村ではないと分かる。
 村人としては、ギリギリまで導入A&BのPCに寒村に逗留してもらい、時が来たら、子供を逃がす為の追加の護衛になってもらおうと考えている。ただし、導入@のPCが口添えするならば、同じ扱いをしてもらえる。

 こうして寒村に逗留したPCは、早い段階で“子供”の様子が奇妙である事に気付く。
 子供たちは、寒村の子には珍しく勉学に励んでいて、異常に頭が良く、奇妙なまでに統率が取れていて、まるで交代でPCたちの様子を伺っているかのような素振りを見せる。
 導入AのPCなどは、子供たちを怪しんで色々と試すかもしれない。しかし子供たちは、ひとりひとりがアーキタイプの鬼サムライ並の能力を有している上に、その特殊能力から精神操作系の術法もほぼ効かない。戦闘を仕掛けるにしても、小手調べ程度のつもりでは正体を現わす事さえない。
 本気で戦闘を仕掛ける場合、基本的に子供たちは逃亡を選ぶ。寒村の大人たちの目に触れないのであれば、空を飛ぶなどの手段も取る。
 大人の目がある場合、当初は大人に助けを求める。本性を現わすのは、その場にいる大人全てが死んでからである。
 PCが入念に張った罠の為に逃亡できないなどのときは、テレパシーで仲間を呼んだ上で全力で戦う。それが寒村の大人たちの目に触れた場合は、先に確実に大人たちを殺そうとする。

 適当な頃合いになったとき、A国領主の配下である雑兵数名(人間)が、最後通牒を行いに寒村を訪れる。雑兵は非常に横柄に振る舞い、「年貢を強制徴収する」と称して略奪を始める。PCが止めないならば、やがて村長宅地下も発見されてしまう。放っておけば結婚式が開けなくなってしまうので、ここに至って村人たちは雑兵に戦いを挑む。
 PCの対応がどうであるにしろ、雑兵は逃亡するか、倒される事になる。雑兵の口を割らせるなり、術を使って遠方を偵察するなどすれば、あと2〜3日で本格的な軍隊が寒村にやってくる事が分かる。

 その翌日、村では結婚式が開かれる。PC全員も列席を求められ、その後の披露宴は盛大に行われる。

 結婚式の次の日、PCは子供(と神主)を護衛して、レジスタンスの本拠地への旅に出る事になる。この際、「背後の寒村から、大人たちの悲鳴が聞こえる。神主は居たたまれなくて耳を塞ぐが、子供たちは平然としている」などの描写を行う事。
 レジスタンスの本拠地の場所は、神主と導入@のPCだけが知っている。子供たちは、本拠地に案内されたところで、隙を見てレジスタンスを皆殺しにするつもりでいる。



結末

 子供が“妖”であるという話はNPCには信じてもらえないので、原則的に寒村に滞在している内は子供に手出しをする事はできない。どうしてもという場合は、PCが村人全員を手にかける結果になる。
 逆に、最期まで子供に手出しをしない場合、PCが本拠地を去った直後にレジスタンスは皆殺しにされ、その後でPCは子供の追撃を受ける事になる。
 本拠地への道中で子供たちに襲い掛かる場合は、通常の戦闘となる。PCの戦闘力次第で、NPCの神主のデータを調整して欲しい。

 導入AのPCが、子供たちの死体(または死体から出て来た特殊な心珠)をB国に持ち込んだ上で真相を語れば、B国は開戦を決意する。



さいごに

 元ネタは、ジョン・ウインダムの『呪われた村』である。クリストファー・リーブ主演で『光る眼』という映画にもなった。
 導入はいかにも、映画『ブレイブハート』を連想させるものなので、プレイヤーがそう考えているようならば、ミスディレクションとして積極的に活用してもらいたい。




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