No. タイトル システム 登録日 改稿日
0051 奇妙な夫婦 BK 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『Bea−Kid’s』の使用を想定して書かれた。
 しかし、『クトゥルフの呼び声』や『ゴーストハンター』でも使用可能である。その場合、獣人族をインディアンに置き換える事。



登場NPCおよび重要事項

牧師 かなり勘違いの入った正義漢。“異世界”への扉の存在とその効果を知り、頼まれもしないのにそれを人々の役に立てようとしている。
アナ 精神病院を脱走した元躁鬱病患者。舞台となる町では、評判の若奥さんとして暮らしている。
殺人鬼 元は精神を病んだ連続殺人犯。償金を掛けられて逃亡中、牧師によって“治療”され、今ではアナの夫として平穏に暮らしている。現在では殺人者だった頃の記憶を失っている。
シャーマンの子孫 ひょうきんを装うが、心の奥底では人間族を憎悪している獣人族のシャーマン。先祖の残した封印を維持する宿命を背負わされ、重みに感じつつも投げ捨てる事ができずにジレンマに陥っている。



事前状況

 何百年もの昔、レストリア大陸に人間族が入植する前の時代、獣人族の高位シャーマンによって邪精霊が封印された。邪精霊の力は強く、高位シャーマンの力をもってしても封印するのが精一杯で、しかも邪精霊から漏れ出す瘴気の為、封印は20年間くらいしか持たなかった。シャーマンの一族は封印の地に留まり、封印に貯まった“ケガレ”を外に出す儀式を定期的に行う事で封印を維持してきた。
 儀式によって外部に出た瘴気は、付近の住民の“心”に流れ込む事によって解消されていた。瘴気を抱え込んだ人間(獣人)は、『クトゥルフの呼び声』風に言えば「SAN(正気度)が減る」状態に陥り、時と場合によっては発狂に至る。
 当初はシャーマンの所属していた部族が瘴気の受け入れ先となっていたが、やがて時代が下り大陸に人間が入植してくる頃には、瘴気の影響で部族は滅びかけていた。封印の地の獣人族は、人間族の目には「容易く侵略できて、後腐れも少なそうな独立部族」と映った。シャーマンの子孫たちは「瘴気の受け入れ先として人間でも役に立つ」事を確認した後、敢えて無血で(封印の話は伏せて)土地を人間に譲り渡した。
 そして儀式のやり方を伝えられたシャーマンの子孫が定期的に町に入り、封印のかけ直しを行った。

 封印の儀式を行う土地は墓場として使われていたのだが、とある人間族の牧師が偶然から「墓場には“異世界”への扉があり、ある方法でその扉を開く事ができる」という現象に気付いた。牧師はこの現象について秘密にしたまま、墓場にカタコンベ付の教会を建てて責任者に収まり、こっそりと“異世界”の研究を行った。そして事実上の人体実験を繰り返した結果、「“異世界”の中に入った者は、中であった事の記憶を失って出て来る」「健常者は数時間で出て来る。しかし、精神病患者や犯罪常習者は“異世界”に長期間留まり、帰って来るときには精神病や犯罪癖が癒されている」と分かった。
 牧師の見付けた方法は、獣人族の封印の儀式の逆を行うもので、人の“ケガレ”を封印に注入するというものだった。そしてこの行為は、封印の効力を著しく衰えさせた。

 グーデリアン国の一般市民は魔法を非常に嫌悪する。だから当然、牧師は自分の行為が大衆に受け入れられない事は自覚していた。
 実験段階では、余所者を雇うなど人選に注意した。
 “異世界”に精神病の治療効果があると知ってからは、「この効果を生かす事こそ正義である」という使命感に目覚めてしまった。その使命感に導かれ、牧師は治療対象者を選定すると、本人にも家族にも了承を求めず、誘拐同然にして“異世界”に叩き込んだ。
 最初の“患者”は、学校でイジメられて自殺を考えていた女子中学生だった。
 2番目の“患者”は、新妻を亡くして失意の日々を送る青年実業家だった。
 2人とも、精神が癒されて“異世界”から帰って来るには1〜2ヶ月の期間が掛かった。当然ながら、連続誘拐・失踪事件騒ぎになり、その事から牧師は“患者”の人選に慎重になった。
 3番目の“患者”は、余所者でアナという女性だった。アナは、とある精神科病院から逃亡して封印の町に辿り着き、そこで何気なく立ち寄った教会で牧師に目を付けられて、“異世界”に送り込まれた。余所者故に、アナの失踪は事件にならなかった。
 4番目の“患者”も余所者で、精神異常の連続殺人鬼だった。指名手配を受け、逃亡の末にたまたま封印の町にやって来た殺人鬼の性癖を牧師は正確に見抜き、隙を見計らって“異世界”に叩き込んだ。
 アナと殺人鬼はほほぼ同時期に“異世界”に入り、滞在期間が重なった為に、精神的な繋がりを感じるようになった。セッション開始時の2ヶ月前にアナは癒されて現実世界に戻って来た。そしてセッション開始時の1ヶ月前になって殺人鬼も現実世界に戻って来たが、余りに元が酷かったせいか、癖まで違う全くの別人格になり、殺人者だった頃の記憶も失っていた。
 癒されたアナは、自分が逃げ出した精神病院に悪いと思い、無事を知らせる手紙を出した。そして元殺人鬼を迎え、2人での暮らしを始めた。
 牧師はさらに、5番目の“患者”として、地元の知恵遅れの少年を選んだ。以前から「救ってやらなければ」と(お節介にも)思っていた少年で、ほとぼりも冷めただろうと地元民を選んだのだ。この少年を“異世界”に送ったのが1ヶ月半前で、セッション開始時点ではまだ帰還していない。



導入

 導入として以下に3つ提示する。これらを適当なPCに振り分け、内容を紙に書いて渡す事。

@人間族PC向き導入。依頼人は大手精神病院の担当医。
「3ヶ月前、病院からアナと言う名の若い女性が脱走した。重度の躁鬱病で、ウツ状態のときには自傷行動に出る危険性があるし、ソウ状態でもどこまで社会生活が送れるか疑問だ。今まで行方が分からなかったのだが、1週間前にアナから『愛しい人と幸せに暮らしているので、探さないで欲しい』との手紙が届いた。手掛かりはこの手紙の消印しかないので、その町(舞台となる町)で探し、連れ戻して欲しい」と依頼される。
 アナを強制的に“保護”する為の法的な書類、アナの写真、診断書等がPCに渡される。手掛かりはアナが出した手紙の消印しか無く、初動捜査は町で聞き込み等をするしかない。

A賞金稼ぎPCで向き導入。
 「半月前、殺人鬼が舞台となる町で目撃された」との情報を掴んでその逮捕の為に訪れる。PCは写真入の手配書を持っている。やはり、初動捜査は町で聞き込み等をするしかない。

B獣人族PC向き導入。依頼人はシャーマンの子孫。
 「舞台となる町の地下には、数百年前に先祖が封印した邪精霊が眠っている。封印は永続的なものでは無く、20年に1度、儀式をやり直さなければならない。元々、自分たちの部族は封印の上に住んでいたのだが、百年前に人間族に明け渡す事になった。別の地に移住した以降も、時期が来たら秘密裏にシャーマンが町に潜入して儀式を行って来た」「次の儀式は5年後の予定なのだが、近年、急激に封印の力が弱まっているのを感じた。そこで調査の為に町に潜入したい」「ちなみに、自分は先祖に比べて格段に力は弱く、ただ伝承されてきた儀式を行う事しかできない。また、敢えて人間族には邪精霊の存在を教えていない」「封印が弱まった理由は不明で、不測の事態が起こるかもしれず、その為に調査と護衛をお願いした」と依頼される。
 シャーマンの子孫は、人間族に変装しようと提案する。PCが拒否しないならば、PCの変装も手伝ってくれる。この変装は、成功度4に相当(見破ろうとする側の知力または<変装>が3以下ならばバレない)するもので、一般市民NPCに気付かれる事は無い。




本編

 どの導入のPCでも、町にはほぼ同時に入り、一件しか無い酒場兼宿屋で顔を突き合わす事になる。
 PC同士の会話が終わった後、NPC(酒場の店主など)に聞き込み行う前の頃合いに、PCは偶然にもアナと殺人鬼が連れ立っているのを見掛ける。両者とも“精神病院からの逃亡者”にも“殺人鬼”にも見えない。町の人々とは顔見知りで、「訳アリの新婚オシドリ夫婦。夫はポーッとしているが真面目な働き者。妻は明るく気立てが良く、そつがない」と評判が高い。PCが暴力手段に訴えるならば、町の人を敵に回すのは火を見るよりも明らかな状況になっている。
 2人の跡を付けるなどすると、スラム街の小さな家に住んでいると分かる。
 PCが2人の確保を急ごうとするようならば、「近所の人とホームパーティーをしている」などと理由を付けて、当座の間は極秘裏に連れ去る事はできないとしておく。
 この段階で、導入@と導入AのPCが合流するように誘導すると良い。

 導入BのPCは、酒場兼宿屋でのシーンの後、シャーマンの子孫の案内で封印の場所に行く事になるだろう。
 15年前の儀式のとき、封印の場所の上は墓場だったとの話なのだが、現在は教会が建っている。教会にはカタコンベ(地下墓所)が作られていて、そこでならば弱まった封印を回復させる儀式を執り行う事ができるが、序盤は「祝祭日なので、昼夜を通して参拝客がたくさんいる」などの理由で実行できない。
 この段階でNPCであるシャーマンの子孫は、「実は“儀式”とは、封印に染み込んだ瘴気を、付近住民の“心”に流し込む事によって解消する行為」だと打ち明けた上で、事態の解決の方策立案に関してPCに一任する。

 PCがまずは聞き込み等の地固め捜査を行うように誘導して、下記の番号順に情報を与えたりイベントを起こしたりする事。

 以下に、事件のタイムテーブルと、情報を出すタイミング、予想される展開をまとめる。

時期  牧師の動向、教会周辺の動向  アナと殺人鬼の動向
5ヶ月前  牧師が“治療”活動を開始。女子中学生を“異世界”に送る。
4ヶ月前  女子中学生が“異世界”より帰還。彼女は「行方不明になっていた間の記憶は無い」と証言する。性格の変化と、失踪したという事実によって、それ以降は周囲と上手くやっていくようになった。
 この成功を受けて、牧師は2番目のターゲットである青年実業家を“異世界”に送る。
3ヶ月前  青年実業家が“異世界”より帰還。やはり「行方不明になっていた間の記憶は無い」と証言する。彼も以降はまともな社会生活を送れるようになる。
 2つの誘拐・失踪事件に関連があるとの噂が流れ、牧師は“患者”の人選に慎重になる。
 アナが精神病院から脱走する。
2ヶ月半前  牧師が余所者であるアナと殺人鬼を見付け、“異世界”に送る(右欄参照)。  アナと殺人鬼が、続けざまにに“異世界”に送られる。“異世界”に同時にいた事がどう作用したのか、2人の間に絆が生まれる。
1ヶ月半前  アナが“異世界”より帰還(右欄参照)。
 少年を“異世界”に送る。
 アナが“異世界”より帰還。空白期間の記憶は無いものの、「あと1ヶ月もすれば愛しい男が戻って来る」という予感にも似た思いを抱いていて、それに従って舞台となる町での新生活の準備を始める。装飾品などを売って作った金でスラム街に家を買い、何時の間にか近所の人から愛される存在になる。
半月前  殺人鬼が“異世界”より帰還(右欄参照)。  殺人鬼が“異世界”より帰還。アナに迎えられ、スラム街の家で新婚生活を始める。夫(=殺人鬼)の方も真面目な働き者だった事から、お似合いの夫婦だと周囲の評判は良い。2人に関して、近所の者は勝手に「何か事情があるのだろう」と納得して、追求はしていない。
 アナは元いた精神病院に手紙を出す。
 「殺人鬼が舞台となる町にいる」という情報が流れる。
初日  導入BのPCが教会を訪れる。しかし祝祭日の為に深夜になっても参拝客が絶えず、様子見以上の事はできない。
 シャーマンの子孫はPCに、「“儀式”とは、封印に染み込んだ瘴気を、付近住民の“心”に流し込む事によって解消する行為」だと打ち明け、事態の解決の方策立案に関してPCに一任する。
 導入@と導入AのPCが、アナと殺人鬼を目撃する。2人が夫婦として暮らしている家が分かるが、この日はホームパーティーが開かれるなどしている為に、暴力的な手段を取るチャンスが無い。
2日目  PCは、教会の近くで通行人に「息子を見掛けませんでしたか?」と聞きながらビラを配る中年女性を見掛ける。中年女性は知恵遅れの少年の母親で、「以前にも女子中学生と青年実業家が失踪して、1ヶ月後、その間の記憶を失った状態で現れるという事件があった」「自分の息子(=知恵遅れの少年)は失踪して1ヶ月半になるのに、未だ帰らない」「息子は教会に通うのを日課にしていたので、ここで目撃情報を集めている」という話を聞かせてくれる。彼女から、女子中学生や青年実業家の住所を聞き出す事ができる。
 このイベントは、教会の近くに行けばどの導入のPCに対しても起こる。場合によっては、ここで全PCの合流を計る。
 アナと殺人鬼が、教会に通っている事を知る。
 近所の人からそれとなく話を聞けば、「1ヶ月半前にアナが現れて、スラム街に家を買い求めた」「その半月後(今から1ヶ月前)に夫(=殺人鬼)がやってきて、夫婦として暮らし始めた」といった事情を知る事ができる。
3日目以降  祝祭日も終わり、カタコンベ(地下墓所)に潜入できさえすれば“儀式”を執り行う事ができる状態になる。
 最初にカタコンベに潜入したとき、まだ“儀式”を行う前に、PCの目の前で知恵遅れの少年が何も無い空間から現れる(“異世界”より帰還した)。この騒ぎにより、PCは撤退せざるを得なくなる。
 これ以降、保安官助手が教会の警備に当たる事になり、潜入が難しくなる。
 深夜など時と場所を選べば、アナと殺人鬼を誘拐する事も可能な状況になる。

 PCが全ての情報を得るまでは、絶対に強硬手段は取れないという展開を徹底する。表にまとめたところまでは、強制イベントと考えても良い。
 ただし、それ以降は、「カタコンベへの潜入」も「アナ夫妻誘拐」も実行可能になるという点に関して、プレイヤーに勘違いさせないように気を付ける事。

 導入@と導入AのPCは、自然に合流するだろう。
 教会を警備する保安官助手の人数と能力は、PCのデータに応じてマスターが設定する事。基本的に、「導入BのPCだけでは潜入できないが、他のPCの協力があれば可能」というレベルにする。潜入の方法として、「単純に<忍び足>と<鍵開け>に成功する」「助手を戦闘で倒す(殺す/気絶させる)」「助手の食事に薬を混ぜる」「他で騒ぎを起こして注意をそらす」など何でも構わないので、プレイヤーの発想に応じて適切な判定をする事。遅くとも、これを以って全てのPCの合流を計った方が良いだろう。

 “異世界”から帰還した少年は、非常に理知的になっているが、必ずしも幸せそうな表情をしていない。再会が叶った母親も、変わってしまった息子に対して戸惑いを覚えているのが傍目にも分かる。
 女子中学生や青年実業家を調査した場合、彼らは「悲しみの原因となる記憶を選択的に失っている」「失踪以前とは性格が変わっている」事が分かる。

 アナと少年は、漠然とではあるが“異世界”についてイメージを保持している。彼らとある程度の信頼関係を築く言動を取ったPCならば、その事についてポツリポツリとではあるが話を聞く事ができる。その“異世界”が封印の中を指す事に、導入BのPCが気付くように誘導する。

 教会の牧師の私室に侵入して物色すれば、“リスト”を発見する。“リスト”には、精神病患者や犯罪癖・奇癖のある町の者の名が書かれていて、「行った者」とされた欄に「女子中学生、青年実業家、アナ、殺人鬼、知恵遅れの少年」の名が、「帰って来た者」とされた欄に「女子中学生、青年実業家、アナ、殺人鬼」の名が記されている。ただし、少年の帰還について牧師が知っていて、その後で“リスト”を盗み見た場合には、「帰って来た者」の中に「知恵遅れの少年」の名もある。
 牧師は、使命感からPCに何をされても絶対に口を割らない。ただし、考えが顔に現れるタイプなので、「YES」「NO」式の質問(例:「お前が、少年やアナを“異世界”に放り込んだのか?」「“異世界”に入ると、精神病が癒されるのか?」)をすれば、事実上、真実を聞き出す事ができる。
 牧師に、獣人族の施した邪精霊の封印の話をしても、絶対に信じない。よって協力を取り付ける事もできない。



結末

 “儀式”が執り行われれば、封印の中から外に“ケガレ”が噴出する。難易度5の精神抵抗に失敗した者は、暴力的な衝動に駆られる。今回は牧師の所為で特に“ケガレ”の量が多く、町では暴動が起こる。失敗したPCがどうなるかは、マスターが決める事。
 牧師によって“治療”された者たちは、その反動でよりクリティカルな精神状態に逆行する。女子中学生と青年実業家は発作的に自殺を図り、少年は外出もできない状態になる。
 アナも明るさを失う。そして殺人鬼は殺人鬼に戻り、PCが何らかの手を打たなかった場合は、まずアナを殺してその死肉を喰らう。

 こうなるであろう事について、シャーマンの子孫は薄々気付いているが、けっして積極的にPCには話さない。PCから具体的に「そうならないか?」と聞かれた場合も、「分からない」と答える。

 “儀式”が執り行われる前にアナと殺人鬼を町から連れ出した場合、殺人鬼は即日裁判で死刑になり、アナは大切な人を失った失意の中で、精神病院の薄暗い部屋に拘束着を着せられて監禁される事になる。

 PCが“儀式”を行うフォローを行わなかった場合、シャーマンの子孫は“儀式”を執り行う事ができない。数年後、謎の災害によって、町のある地方が壊滅したとのニュースをPCは聞く事になる。



さいごに

 アニメ『聖ルミナス女学院』を観て思い付いたシナリオ。“異世界”として、『ルミナス』で少女たちが失踪した先をイメージしてもらうと分かり易いかもしれない。元ネタというほどのストーリー的な関連性は無いので、プレイヤーが観ていたとしても問題にはならないだろう。




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