No. タイトル システム 登録日 改稿日
0050 宮殿の殺人 TORG 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『TORG』専用である。



登場NPCおよび重要事項

エリザベス2世 英国女王。今でもロンドンのバッキンガム宮殿に住み、その地位を保持している。実際の力はほとんど無いが、誇りは失っていない。今回の事件に際して、「ほとんどの人間が誤った情報を信じていて、放っておけば真実が闇に葬られる。しかし真実の片鱗を掴んでいる1人として、事件解決に立ち上がるのは当然の行い」と考え行動に出る。
侍従長 女王と異なり、目先の体裁を気にするタイプの人物。メイドBを愛人としていたが結婚する気はなく、下僕Aに押し付けようとしていた。今回の事件に関しては、単純にスキャンダル隠ししか考えていない。
SP長 下僕Aを殺す動機を持ち得る人物。PCをミス・ディレクションさせる役回り。
メイドA 宮殿内でのPCたちの世話を担当する気さくな女性。何でも相談に乗ってくれるが、実は……。
メイドB 虚栄心の高い女。身分の高い男の妻に収まる事しか考えていない。
下僕A 下僕とは英語で言う所のfootmanであり、男性の使用人である。今回の事件の被害者。
下僕B 下僕Aの同性愛のパートナー。PCをミス・ディレクションさせる役回り。



導入と本編と結末

 ポシビリティ戦争以降、イギリス全土はアイル・レムルとなっていたが、ロンドン市内とその周囲は、コアアースのハードポイントとなっていた。
 イギリスの国力は著しく低下していたが国が無くなった訳では無く、ロンドンのバッキンガム宮殿は今でもエリザベス2世女王の居城として機能していた。

 あるとき、日本への視察旅行を終えて帰国したエリザベス2世女王が、ヒースロー空港で暴漢に襲われた。在りし日よりも警備体制が悪い事もあって暴漢たちはSPを突破してしまうが、ここで「たまたま居合わせたPCたちにより、女王は難を逃れる。そしてその礼に、PCは宮殿に客として招かれる事になる」という導入にする。
 強制導入展開だが、プレイヤーから不満が出るような事は無い筈なので、以降はこの路線が保持されるものとして進める。

 宮殿でPCの歓迎の夕食会が開かれる。女王はPCたちストームナイトに純粋に興味と好意を抱いている。侍従長は嫌味な男で、PCを胡散臭く思っていて、その事を隠しもしない。
 夕食会の後、メイド&下僕たちは「今夜、宮殿内にて、下々の者たちだけで気軽なパーティーを開くのだが、参加しないか?」とPCを誘う。誰か1人でも良いので、PCが応じるように誘導する事。
 そのパーティーには宮殿に勤めている大半のメイドと下僕、それに何故かSP長も出席している。皆、安酒で酔い、ジャンクフードをたらふく食って下品だが陽気に楽しんでいる。そんな中、下僕AがメイドBとの婚約を発表し、かつ既にメイドBのお腹には子供がいると付け加える。その発表を聞いて下僕Bは怒りとも悲しみともつかない顔をして部屋を出て行く。他のメイド・下僕たちは訝しげな様子をしている。その場にいる人にPCが事情を聞く場合、<説得>技能でそれなりの達成値を出すなり、何がしかのカードを使う(<知人>カードでメイドの中に知人がいたとするなど)などすると、ヒソヒソ声で説明してくれる。
 その話によると、「下僕Aと下僕Bは同性愛のパートナーで、下僕Aが女性に興味を持つとは信じられない」「メイドBは非常にプライドの高い女で、『最低でも爵位を持つ者でないと結婚する気が無い』と、いつも息巻いていた。それがただの下僕と結婚するだなんて信じられない」「下僕AとメイドBは、女王のお供として二週間、一緒に日本に行っていたのだが、その程度の間に何かあったとは信じられない」との事である。
 その後、深夜になって下僕Aを始め多くの者がパーティー会場を後にする。その頃にはPCの1人も部屋に戻ろうとする……といった展開に誘導する。
 PCの1人は部屋に戻ろうとしたが道に迷い、1時間近くも歩いた末に、女王のプライベート区画の方に出てしまう。すると、夜中に廊下の向こうを歩いていた女王を見掛ける。その直後、PCが声を掛ける暇すら無い間に、廊下の壁の隠し扉から人影が現れ女王に覆い被さる。
 人影の正体は下僕Aで、女王に覆い被さった時点で既に死んでいる。当然、PCは何らかのアクションを取るだろうが、「騒いで助けを呼ぶ」というような行動を取った場合、早目にこの事実をプレイヤーに伝え、「呼び声が他人に届く前に、女王に落ち着くように言われる」などとする。戦闘を仕掛けたとしてもすぐに様子がおかしいと分かるし、後で<医学>で調べれば「死因は薬物で、PCと別れた以降に死んだ」と診断される。
 落ち着いて見れば、下僕A(の死体)は、今は使われていない警備兵用の隠し部屋から出てきたのだと分かる。

 女王は電話で侍従長だけを呼び出す。侍従長は、事情を知り、下僕Aの死体を自分自身の部屋に運ぶ手伝いをPCに頼む。その後で、事件は「宮殿の下僕が、薬物でラリって女王に襲い掛かり、その末に死んだ」と結論付け、「宮殿でそんな事件が起こったとあっては外聞が悪過ぎる。そこで事実を隠蔽し、下僕Aは自分のベッドの上で死んだものとする」との解決方法を強く提案する。

 女王は、その場では侍従長の提案をもっともだと判断して支持し、PCにも協力を要請する。しかし翌朝になって思い直して、PCを秘密裏に呼び出す。
 女王は、「下僕Aが単に自分で薬物を飲んだ末に死んだならば、その事実を隠蔽する事に何の躊躇いも無い。しかし、事実がそうで無いならば話は別で、殺されたのに自殺(自業自得)で死んだという話になってしまうのは気の毒でならない。しかし、既に国としては事実を隠蔽する方針で固まってしまい、女王とは言え、自分には何もできない。英国には、君臨すれども統治せずという原則があるからだ。しかし個人的な調査はその範疇では無いから、PCに真実を探って欲しい」と依頼する。関わったPCは、他のPCと共同で捜査に当たるものとして進める。
 PCが夜の段階から積極的に調査を進めようとする場合は、女王はそれを黙認・フォローして、改めて依頼するという形にする。

 下僕Aが潜んでいた隠し部屋を調べると、中に握り拳大の石を見付けるが、それが何なのか分からない。他には何も無い。

 死んだ下僕Aの部屋に(改めて)忍び込み中を漁ると、手紙を発見する。それによると、実は下僕Aは「死に掛けている伯爵の推定相続人」で、近い内に貴族の地位と財産を手に入れる事になっていたと分かる。また、何故かその部屋に下僕Bに宛てられた家族からの手紙があり、「下僕Bはオーロシュ出身」「家族が借金をしていて、このままでは妹がその抵当として金貸しに差し出されてしまう」といった事が分かる。

 下僕Bは部屋にもパーティー会場にも居らず、部屋を調べると診断書が見付かり、彼がエイズに罹っている事が分かる。その事が分かった後のタイミングで、PCは宮殿内にいる下僕Bを見付ける。交渉系技能にてそれなりの達成値を出せば、話を聞き出す事ができる。それによると「エイズに罹っていると分かり、下僕Aにそれを告白しに行ったら、その前に別れ話を持ち出された。カッときてついエイズの話はしなかった。そうしたら下僕Aは次の日に日本に行ってしまった。そして個人的な話をする間も無く婚約を聞かされた」「妹の事で金が必要だったが、色々あって下僕Aに相談する事ができなかったので、その話はしていない」との事だった。

 下僕Aの死体から採取した血液を医者に調べさせるなどすれば、下僕Aはエイズに罹っていなかった事が分かる。
 下僕Aの死体はスコットランド・ヤードが秘密裏に回収に来る。PCが疑うならば、跡を付けるなどすればヤードの人間だと確認できる。

 この辺りの適当な場面で、「女王のプライベート区画にて、隠し部屋で見付けたのと同じ様な石を見付けるが、やはり何なのか分からない」というシーンを挟んでおく。

 『英国貴族年鑑』で下僕Aが継ぐ筈だった伯爵について調べると、「推定相続人第1位は下僕Aである」「推定相続人第2位はSP長である」「現在の伯爵が死んで下僕Aが正式に伯爵位を継いだ後では、下僕Aの次の相続人はメイドBのお腹の子になってしまう」事が分かる。

 メイドBに関しては、部屋を探ったり、交渉系技能でそれなりの達成値を出したりすれば、「メイドBのお腹の子の本当の父親は侍従長」「侍従長と結婚できそうに無かったのだが、侍従長から下僕Aが伯爵の推定相続人である事を教えられた。日本でそれとなくお腹の子供について下僕Aに相談したところ、『仮面結婚で良ければ』と結婚する事になった」事が分かる。

 この後、女王のプライベート区画に立ち寄った折りに、また石を見付ける。きちんと掃除をしているならば落ちている筈の無いモノである。PCが石の事を疑問に思い、誰がその部屋を掃除していたのか調べるならば、掃除の当番表を見るしか無いとなる。ここから、「幾らPCが頼んでも頭の固いメイド長は、掃除の当番表を見せてくれない。そこで盗み見る事となり、メイドAが手引きしてくれる」との展開に誘導する。

 実は、件の当番はメイドAだった。メイドAはユーソリオン(アイルの闇の勢力)の手下で、ロンドンをコアアースのハードポイントでは無くしてしまおうという計画に従事していた。その一環として、“思い”の象徴の1つである女王自身を殺し、バッキンガム宮殿を壊そうとしていた。
 石は特殊な条件で爆発する一種の魔法爆弾で、以前、メイドAがそれを仕掛けているのを下僕Aが見咎めていた。下僕Aは友情から、メイドAに自首を勧めていて、パーティーの夜にその為の話し合いをする事になっていた。その機会にメイドAは下僕Aを裏切って殺し、薬物でラリって自殺した様に見せ掛けたのだった。

 メイドAは、掃除当番表を盗み見る為にPCが分離するように促し、各個撃破しようとする。そのPCの危機や、他のPCとの合流を演出してクライマックスを盛り上げる事。

 後でメイドAの部屋を探ると、下僕Aを殺した薬物と、ユーソリオンの命令書を見付ける。
 それを女王に届けて報告すれば、感謝の言葉、ナイトの称号、幾許かの金をもらえる。



さいごに

 元ネタはC.C.ベニスンの『バッキンガム宮殿の殺人』で、引用率は高い。セッション前にプレイヤーに対して元ネタを読んだ事があるか否かを確認して、既読者がいる場合には使用を避けた方が良いかもしれない。

 舞台をアイルにして、「アーディネイ女王の命を受けて捜査する」という翻案も考えたが、それでは「PCが強権を持ってしまう」「PCが捜査を行わなければならない理由付けが無い」ので取り止めた。
 元ネタを見抜かれない為のカモフラージュという観点から考え合わせても、いっそソードワールド等を用いて、条件に整うオリジナルの小国を舞台にして、もっと翻案を重ねた方が良いかもしれない。元ネタ小説の雰囲気を重要視してこういう形にしたが、その辺りはマスター諸氏には自由に手を入れてもらいたい。




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