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0042 原人のギャンブル TORG 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『TORG』専用である。
 また、未訳サプリメント『スペースゴッズ』ないしその内容を紹介した記事を参照する必要がある。



登場NPCおよび重要事項

原人の荷主 リビングランドの原人。隊商を組織して商売する事を覚え、それらの出来事を通してポシビリティ能力者となった。
研究所の所長 アカシャンの研究所の所長。実はコマーズ病患者。密かに、リビングランドでもコマーズ病が感染できる様になる研究をしている。



事前状況

 リビングランドの領域内にも、侵略者に敵対する(或いは、不服従の)人間が住んでいる。
 ある者たちは、コアアースのハードポイントに住んでいる。
 またある者たちは、リビングランドの世界法則に馴染んでしまったせいで原人となってしまったが、ヒトの姿を保って暮らしている。
 そんな原人たちのとある村は、リビングランド内に住む人間の為の輸送路の中継地点の1つとして重宝がられていていた。やがて原人たち自身も、輸送の仕事を引き受けるようになった。原人たちの内の何人かは頭角を現わし、他の原人を雇って自分の財産だけを元手に隊商を組織するまでになった。
 隊商は、無事に戻って来る物もあれば、二度と戻らない物もあった。当初、原人たちにとって隊商の安否は直接的な利害には結びつかなかった。しかし、原人主導の隊商ができるに至って、その成否は重大な関心事になった。
 そして自然と、娯楽が少ない原人たちは、「隊商が無事に戻って来るか否か」という賭けを考え出し、たちまち流行した。

 ある男が、自分が荷主になっている隊商が帰って来ない方に賭けておけば、万一のときにも大損せずに済むと思い付き、秘密裏に自分の荷が帰って来ない方に賭けた。この賭けの事を知ったライバル商人は、“保険”などという概念を持ち合わせていないので、荷主は詐欺を行うつもりなのではないかと疑った。
 実際、荷主に詐欺の意図は無く、本当に保険をかけたつもりでいた。しかし、荷の方は真っ当なものでは無かった。
 荷の届け先は、南米にあるアカシャン(スペースゴッズのレムル)の研究所で、中味はコマーズ・ウィルスの入った真空容器だった。
 コマーズ・ウィルスとは、最近になってアカシャンに蔓延した精神寄生ウィルスで、感染した者は一定の潜伏期間後に集合意識に乗っ取られ、ウィルス生存の為だけに活動する人形となってしまう。コマーズ・ウィルスは嫌気性なので空気中では存在できず、感染者から接触感染しかしない。
 また、あくまで“ウィルス”なので、“ウィルス”が存在し得ない世界(リビングランドとか)でも生存できない(ポシビリティ能力者の体内ならば存在できる)。

 実は、アカシャンのとある地方の研究所の所長がコマーズ患者で、彼は秘密裏に「リビングランドでもコマーズ病が感染できる様になる研究」を進めていた。その為の実験として、ウィルスの詰まった真空容器をリビングランドに運ばせ、一定期間後に回収させていたのだった。



導入

 上記“事前状況”にある原人の村に、たまたま立ち寄っていたPCたちは、このライバル商人に「隊商を監視して詐欺の証拠を掴んで欲しい」と依頼される。
 依頼主は、「詐欺が行われるとすればニセの襲撃犯が襲ってくるだろうから、それを捕まえれば依頼達成と見做す。明らかなワンダリング戦闘以外は起こらなかったならば、やはり依頼達成と見做す」との条件を出す。
 プレイヤーが気付かないならば、わざわざ「保険である事」を教えてはならない。
 ちなみに、幾ら説明しても、依頼主は“ホケン”という概念は全く理解できない。

 常識的な範囲で、報酬などの交渉には応じる。以降、PCが依頼を受けたものとして進める。



本編

 PCが隊商への同行を申し出た場合、「荷を渡す相手に関してなど、一切の質問をしない。隊商の行動方針に口を出さない。同行中に何らかの手段で他所へ連絡を取らない」との条件で許可される。
 この条件に同意できない、または最初から同行を申し出ない場合は、跡を付ける事になる。リビングランド内は霧のせいで追跡は困難なので、高い難易度の判定を要求する。失敗したならば、「つい先に行き過ぎて、隊商とバッタリ出くわす。気まずい思いの中、同行する他なくなる」となる。

 リビングランドの端まで来た段階で、荷主はコアアース側に抜ける事を宣言する。荷主はポシビリティ能力者である為に、他のレムルに抜ける事ができるのだが、それをわざわざPCに説明したりはしない。ポーターをしている原人仲間はリビングランド外縁に待機させて、まず荷主独りでコアアース側へ抜けて馬車を調達して戻る。そして馬車に荷を乗せ、荷主独りで再びコアアースへ赴く。PCが助力するならば引き続き同行を許可する。最終的にコアアースを通り抜けて、アカシャンへと入る。

 一方、上記“事前状況”にあるアカシャンの研究所の一部の有志は、所長の様子がおかしい事に気付いていたが、証拠が無かった。「迂闊な行動を起こせば、他にもコマーズ感染者がいるかもしれず、自分たちが消されて終わる」と手をあぐねていたとき、所長の実験の事を知り、この真空容器を奪えば証拠になると踏む。
 そこで研究所の心有る者たちが、リビングランドの荷を運ぶ者に待ち伏せをかける。

 そういう理由で、荷主は(同行しているならばPCも)、アカシャンの兵士たちの襲撃を受ける。アカシャン兵士は、ダメージ30の光学兵器などを持っているので強力だが、PCが全力を出せば辛勝できるレベルに調整しておく。



結末1:アカシャン兵士を全滅させた場合

 取り引き現場に所長が現れ、荷を受け取る。傷ついたPCに助力を申し出て、研究所に案内する。そこで、ウィルス形態から変化した“コマーズ毒”を治療だと偽って注射しようとする。
 適当な対抗技能判定で勝てば怪しい事に気付く。注射を拒否すると、本性を現わして襲い掛かかり、無理矢理にでも“コマーズ毒”を植え付けようとする。所長を倒した後で、冷静に事情を説明すれば、他のアカシャン人は理解してくれる。

 所長の様子がおかしいと気付かなかったり、戦闘に負ければ、“コマーズ毒”を注射されてしまう。基本的に、NPC化してしまう事になる。



結末2:アカシャン兵士から事情を聞いた場合

 反撃せずに何ラウンドも防御するだけで交渉をしたり、兵士を気絶させて後で冷静に事情を聞いたりすれば、コマーズ・ウィルスと所長の話をしてくれる。
 PCは証人として研究所に招かれる。しかし、実は兵士の1人もコマーズ患者で、隙を見て(PCの目の届かないところで)“コマーズ毒”を奪って逃走する。この患者は自分の体に毒を注射して、毒形態で人に感染させられるようになる。PCは、この患者を追って、反撃(接触)を受けないように気を使いながら倒さねばならない。



さいごに

 元々、保険というのはイギリスで「船が帰って来るか否か」の賭けから発祥したのだそうである。その話から、このシナリオの導入を思い付いた。
 ただ、導入だけでその後の展開にまで思い至らなかったのだが、たまたま『スペースゴッズ』の私家版和訳本を手に入れる機会があり、それを読んでその後の展開を考えた。

 プレイヤーの悪ノリが過ぎれば、早い段階で荷主を殺すかもしれない。そのときは“コマーズ毒”に感染した上に評判も無くすという屈辱的なオチにすると良いだろう。
 アカシャン兵士に対して「捕虜すら取らずに皆殺しにする」とか「捕虜にした後で紳士的な事情聴取をせず、いきなり苛烈な拷問を加える」というのも誉められたプレイングでは無いが、襲撃を受けて頭に血が上るプレイヤーも多いだろう事を考慮して、フォローを入れた結末も示した。これを甘いと考えるマスターは、もっと教育的な結末に変えても良いだろう。




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