No. タイトル システム 登録日 改稿日
0029 ファントム BK 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『Bea−Kid’s』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他の西部劇物として使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

ファントム 旧南部連合国軍系のテロ組織のやり手リーダーの名。しかし実在の人物では無い。
中央政府軍 テロ組織リーダーのファントム逮捕の為に派遣された特務部隊。
グレタ 「ファントムとの間にもうけた子供を彼に奪われた」と思い込んでいる女。自分に都合の良い解釈をする傾向が強い。
黒幕 テロ組織に“チッチ薬”を供給し、ファントムを作り出した男。テロ組織からは存在を認識されていない。



事前状況

 旧南部連合国支配地域のとある田舎町に、旧南部連合国軍系のテロ組織の1つの本部があった。
 この組織は“ファントム”と呼ばれる謎のリーダーに率いられており、そのリーダーの手腕には中央政府も手を焼いていた。元々は、テロ組織の本部のある町の名さえ分かっていなかったのだ。だがあるとき、新しい水場の発見からこの田舎町に新街道が通り、発展を始め、しかしそのせいで町が“ファントム”の組織の本拠地であると中央政府の知る事となった。
 ファントムを暗殺すればテロ組織は瓦解すると分析した中央政府は町に部隊を派遣するが、どうしてもファントムの所在が分からない。リーダーが町にいるのは確かだし、幹部の所在は判明したのに、リーダーだけは補足できない。

 実は、“ファントム”という人物は存在しない。組織の者は“チッチ薬”という薬の常習者で、その効能によって心の中に“実在しない無敵のリーダー”を作り上げている。お陰で、通常ならばこの手の組織にありがちな裏切り、密告、内部闘争が起こらず、全員が己の能力の全てを引き出して一致協力しているので、強力な組織になっている。
 組織の者が「矛盾した事態」に直面すると、チッチ薬の影響により適宜、記憶の修正が行われる。
 組織員の一員であるグレタという女は、色々とあった末に「自分はファントムと恋に落ちて息子を出産した。しかし、組織の事を考えるとファントムと自分は別れざるを得ない。だから生後数ヶ月の赤ん坊と一緒に町を出て行かなければならない」という記憶を持つに至った。この記憶は現在は彼女にしか無いが、PCなり誰なりを通して他の組織員に話されれば、矛盾を消す為に記憶が“感染”して、彼らの間での“事実”になる。
 中央政府軍はグレタの話を聞き付け、額面通りに受け取って信じ、駅馬車乗り場で町から出ようとする彼女から赤ん坊を誘拐した。中央政府軍としては、息子を取り戻す為にファントム自らが動き出す事を期待していたのだ。しかしグレタは見当違いにも「やっぱり自分の手で息子を育てたくなったファントムが息子を誘拐したのだ」と思い込んでしまう。その結果、グレタは組織に頼らず赤ん坊を取り戻そうと考える。

 この組織には真の黒幕がいて、そいつらがチッチ薬をばらまいている。組織の者は黒幕たちの存在を知らない。黒幕たちも、組織の行動自体にはノータッチなので、組織の陣容や計画は正確には知らない。元来、チッチ薬は獣人の禁断の薬草から抽出される薬で、この町の近くで偶然にも自生しているのが発見された事から黒幕たちはこの計画を思い付いた。
 黒幕たちは小人数(PCより少ない)なので、そのうちの1人は隊商の長(隊商の部下は黒幕たちとは無関係)になって計画に必要な資金と物資の調達をし、残りの者は秘密裏にチッチ草の栽培と薬の抽出を行っている。



導入

 PCは、上記“事前状況”の黒幕の隊商の護衛もしくは旅ずれとして、舞台となる町に到着する。
 PCには、「町には南部系テロ組織の本部があるらしい」「その討伐の為か、それとも単なる搾取の為か、中央政府軍一個小隊が町に駐屯して狼藉を働いている」という情報を知っている。

 町に着き、荷降ろしも終わった後、隊商の長(黒幕)は誰かと待ち合わせをしているらしく何処かに行く。ここでPCは、一時解散となる。
 導入パターンは以下の3つあり、PCをそれぞれに振り分ける。プレイヤーに提示して、納得できるものを選ばせて良い。

@「赤ん坊救出を手伝ってくれる、テロ組織とは無関係なゴロツキ」を探しているグレタと接触して、救出を依頼される。

A隊商の長は待ち合わせの人と会えなかったらしく、まだ解散地点付近に残っていたPCの所に戻ると、困った顔でPCに「簡単な仕事を頼みたいのだが、黙って引き受けて欲しい。この荷物を持って、町から馬で30分くらいの場所にある屋敷に行って、住人にこの小包(中味は化学実験道具)を渡し、代わりに。重さ数kgの白い袋を受け取って欲しい。その後、街に戻り袋を持ってメインストリートに立ち、とある身振りをし続けて欲しい。それを見て返答の合図をしながら近づいて来る人物がいる筈なので、この袋を渡して欲しい」と依頼される。
 実は、この日はテロ組織の者にチッチ薬を渡す日で、予め与えた暗示に従って無意識状態で取りに来る人物に手渡したい。屋敷とはチッチ薬の精製所で、ここに補給物資を届けて、代わりに薬を受け取り、さらにそれをテロ組織員に渡したい。しかし、その仕事をする筈の部下(黒幕としての部下)はトラブルで現れず、黒幕(隊商の長)自身は表の仕事で時間が取れない。1回くらい渡せなくても大丈夫なだけの量のチッチ薬を与えてはいるが、何が起こるか分からないのでできれば渡しておきたい。そこでPCに依頼したのである。

B獣人向け。薬草を探して町の周辺を探索していると、チッチ草の群生地を発見。しかも採取された跡がある。獣人は、草の名と、「自我を失わせる麻薬として獣人たちの間では忌み嫌われている草」だという事を知っている。



本編

 @の導入では、グレタから幾人かのテロ組織幹部の顔と名前を教えられる。幹部たちは、雑貨屋店主などの表の顔を持っている。彼らと話してみると、最初は「ボスに懇ろの女なんかいない」と言うのに、グレタと会話を交わすと「そう言えば」とグレタがファントムの女で子供ももうけたと認める。さらに息子誘拐に関しても「絶対に無い」から「なるほど、悩んでいたからやったかも知れない。次ぎ似合ったら問い質すよ」などと言う事が変わる。
 済し崩しにテロ組織の客分になり、やがて「誘拐したのは中央政府軍だ」と判明する。その間にも、テロ組織員の奇矯な行動を目にする。また、全員が定期的に何か薬を飲んでいて、そしてそれについて問い詰めると「何も飲んでいない」とか「風薬だ」などと言い、しかも嘘を付いている様子が全く無い。

 Aの導入では、薬を受け取った人物はテロ組織の幹部だが、渡した段階ではそうとは分からない。
 少し強引だが、@の導入のPCがテロ組織の幹部と一緒にいるところへ、Aの導入のPCがやって来るといった展開にする。
 町から30分の所にある屋敷の中に忍び込んで調べれば、何か薬の精製をしていたと分かる。また、屋敷のさらに奥には見た言も無い草(チッチ草)が栽培されているのに気付く。

 Bの導入のチッチ草の群生地とは、黒幕たちの畑であり、PCが何かしようとすると黒幕の部下が守る為に飛んで来る。戦力的に、他の導入のPCも巻き込まなければ畑を焼き払うなどの行為はできない。
 畑付近でAの導入のPCと出会うなどといった展開にする。



結末

 クライマックスとして、第一にグレタの息子の救出劇が起こるだろう。PCの過半数が加われば、中央政府軍は倒せる。
 息子を取り戻すと、テロ組織の人間は、誰もいない空間に対して「ボス」と呼び掛け、PCに紹介したりする。ここで突っ込みを入れ、テロ組織員の不安を高めてしまうと、「やはりPCは中央政府の手先で、危うく騙される所だった」などと言って襲い掛かって来る。

 チッチ草の畑に関しては、黒幕の部下を倒すと、黒幕自身が登場してカラクリを説明する。その上で、金銭を渡すと持ち掛けたり、亡国の徒として情に訴えたりして、「この最強の組織を潰さないでくれ」と懇願する。
 懇願に応じ無い場合は、黒幕は逃亡を謀る。



さいごに

 シナリオは、B.オルツィの『紅はこべ』(ないしハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』)の影響を受けているが、特に元ネタと言うほどの同一性は無いと思う。
 チッチ薬の設定は、コールドウェイナー・スミスの短編『ナンシー』のソクタ薬から発想を借りた。

 導入で別れたPCも顔見知りであるのだし、早く最集合する方向にマスタリングして欲しい。




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