No. タイトル システム 登録日 改稿日
0020 オリジナルの少女 PSY 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『GURPSサイオニクス』専用である。
 日本語版ルールブック添付シナリオの背景設定“日本救助隊ガープス”の使用を前提としている。



登場NPCおよび重要事項

オリジナル少女 “覚醒会”に所属する超能力者。強い潜在能力を持つが、実際に使用できる超能力は弱い。「唯一成功したクローン体のオリジナル」という事で組織に大事にされ、ちょっと天狗になっている。
クローン少女 “覚醒会”によって作られたクローン人間。この世界で唯一“魂”を持つクローン人間で、強い超能力を持つ。オリジナル少女を密かに憎んでいる。喜怒哀楽の少ない性格。
博士 “日本救助隊ガープス”所属の超心理学の博士。PCの助言者。性別、性格等は自由に設定する事。



事前状況

 この世界の技術レベルでは、一応は“クローン人間”を作る事はできるが、何故か作られたクローン体には“魂”が入らない。しかし“覚醒会”に所属するとある少女を元にしたクローンには“魂”が入っていて、なおかつ超能力まで使う事ができる。
 実は、このオリジナル少女は特殊な“二重人格”であり、裏の人格が超能力で“人形”に過ぎないクローンを操っている。裏人格は超能力と密接に繋がっていて、仮に能力が失われれば裏人格も消える。このことはオリジナル少女、クローン少女を含めて誰も知らない。

 クローン少女は、オリジナル少女や“覚醒会”に対して、屈折した感情を抱いている。基本的に、自分のようなクローンが作られ、利用される事が我慢できないと思い、その事を何とも思っていないオリジナル少女&“覚醒会”が許せない思いでいる。唯一のクローン成功体のオリジナルである少女をどうにかすれば、当座、そんな事態は免れ得るだろうとは知っていた。しかし、そのためにオリジナル少女を殺す事はどうしても(心理的に)できなかった。
 そんなとき、“覚醒会”が、ある新型超能力機器を密輸しようとしている事を知った。その新型超能力機器は、「念力のパワーレベルを飛躍的に上昇させるが、その代償として使用者は超能力を失う」というもので、超能力者が貴重な存在である現状を鑑みれば重大な欠陥品だが、何かの足しになればと入手したのだった。
 そんな欠陥品だから、都合の良い事に空輸という手段が取られ、護衛も付かず、オリジナル少女が1人で付き添う事になっていた(オリジナル少女はこういう安全な仕事ばかりを回されていた)。自分がちょっと工作して、「欠陥品の超能力機器を使用しなければ飛行機は墜落する。使用すれば助かる」という状況を作り出せば、オリジナル少女は自発的に超能力機器を使って超能力を失う。超能力を失ったオリジナルは恐らく2度とクローンを産み出す事はできないだろう。オリジナル少女が死ぬ事も無く、自分(クローン少女)の“覚醒会”内の地位が下がる事も無い。念の為に自分も変装して飛行機に乗れば完璧だ……とクローン少女は打ち震えた。



導入

 “日本救助隊ガープス”にも、“覚醒会”が“魂”の入ったクローン人間の製作に1回だけ成功した話は伝わっていた。
 あるとき、件のオリジナル少女とクローン少女が超能力機器を伴って飛行機に乗るという情報を掴んだ。そこでPCたちに、少女の追跡と、可能ならば亡命を勧めるという命令が下された。これには超心理学者が同行する。

 導入の段階で、プレイヤーに対してクローンに関する設定を念押しして伝える事。



本編

 PCたちが乗った飛行機が海上に出た頃、事件が発生する。クローン少女によって機長とコパイが意識不明の重傷を負わされ、コックピット内の一部の機器が選択的に壊される。この事件を防ぐ事はできないが、クローン少女(PCには区別が付かない。席も2人とも離れている)に注意したPCがいた場合、事件直前に彼女がトイレに立ったと分かる。
 操縦装置は選択的に破壊されていて、水平飛行には問題が無いが、離着陸や外部への通信はできなくされている。単純な超能力テロにしては不自然すぎる事を強調する。

 超能力機器は貨物室(ヒーターが入っているので行動に問題は無い)にあり、超心理学者に調べてもらえばその機能、欠陥、使用方法などはすぐに分かる。この存在についてプレイヤーが忘れているようなら、NPCの口を借りて教える事。

 飛行機を墜落から救うには、誰かが欠陥超能力機器を使用して念力のパワーを上げて機体を支えるしか無い。オリジナル少女は自発的には何もしないし、クローン少女もギリギリまで行動を起こさない。
 欠陥超能力機器はPCでも使用できる。



結末

 クローン少女は超能力者同士の戦闘の無意味さを熟知しているので、PCに戦闘を仕掛ける事は無い。
 オリジナル少女は、クローン少女が飛行機に同乗していた事に気付く事も無く、PCが接触するまで何のアクションも取らない。
 PCが2人の少女と接触して、事件について厳しく問い詰めるならば、クローン少女は告白を始める。「自分の様なクローンが作られ、利用される事態を止めたかった。しかし、そのためにオリジナル少女を殺す事はどうしても(心理的に)できなかった。そんなとき、今回の密輸計画を知り、“覚醒会”から逃亡して、オリジナルが超能力を失う様に仕向けた。超能力を失えば、もう“魂”の入ったクローンができる事はないと考えた」と淡々と説明する。

 クローン少女は、責任を取って自分が欠陥超能力機器を使うと申し出る。「むしろ超能力なんて無い方が幸せかもしれない。超能力が使えなくても、日本政府への亡命を受け入れてもらえますか?」と言う。
 しかし、クローン少女に欠陥超能力機器は使用できない。超心理学者が調査すると、「クローン少女はパワーを持っていない」事が分かる。逆にオリジナル少女には絶大な潜在能力がある事も告げられる。

 ここで超心理学者の口を借りて「何故なのでしょうね」と言い、プレイヤーが推理をする間を与える事。

 「何故、この少女のクローンにだけ“魂”が発生するのか?」という疑問から「実はオリジナル少女は特殊な“二重人格”であり、裏の人格が超能力で“人形”に過ぎないクローンを操っているだけ」とまで推理されたらば、超心理学者はそれを追認し、「欠陥超能力機器の使用は、クローン少女の“存在消失”に繋がる」と告げる。
 PCが全てを悟った上でオリジナル少女に欠陥超能力機器を使用させるならば、『冷たい方程式』のラストシーンの様に、諦観していたクローン少女が最後になって「死にたくない」と叫んで、消えて行く。



さいごに

 ある夜に見た夢が元ネタである。当時、『新世紀エヴァンゲリオン』が流行っていたから、綾波レイのエピソードから無意識にこんな夢を見たのかもしれない。

 『GURPSサイオニクス』は、到底、戦闘シナリオが許容できないので、このような仕掛けのあるシナリオを考えた。最終的に、PCが悩みに悩んだ末に自らの超能力を放棄するという展開が、私的にはベストだと思っている。




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