No. タイトル システム 登録日 改稿日
0013 金色夜叉 N◎VA 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VA 2nd』の使用を想定して書かれた。
 しかし、『レボリューション』や他のサイバーパンク物として使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

新井 進 ニューロ◎=マヤカシ●=タタラ。デジタル・ゴブリン(後述)は、タタラの<超テク>とマヤカシの<召喚>とニューロの<AI創造>それに適当な一般技能を組み合わせる事で生み出されている。
技能はその辺りを1通り高レベルで所持しているが、戦闘に役立つ様な技能は持っていない。
マヤカシの血統として、霊的視覚を持ち、左右の瞳の色が違うオッドアイである。
新井は典型的なマッドサイエンティストであり、その当座の目的はデジタル・ゴブリンたちの“神”になる事ただ一点である。新井とキャストが敵対する場合、新井は極力、キャストの前に姿を現さずにデジタル・ゴブリンを戦わせようとする。
デジタル・ゴブリン ニューロのトループとして扱うが、生命は召喚するタップの電算能力値に準じる。また、初期技能も通常に加えて、<運動><メレー><射撃>等を持つ。当初の技能レベルは1レベルだが、7日目以降、性能実験を始めてから経験を積み、レベルを上げる。最終的には1通りの技能が3レベルになる。
1体目の武器は爪のみ。2体目から飛び道具を使う様になる。3体目以降は低速で空も飛べる上にニューロの特殊技能を物理的現実空間でも使える。<虫使い>で電子機器を用いた機械を一時的に作動不能にさせたり(サイバーウェアならば<アイデンティティ>で抵抗できるが、それ以外の電子機器は無条件で作動不能になる)、<ツェノンの逆理>で“存在しない空間”に隠れたり、<MDセンス>で消えたり音を出さなかったりする敵を知覚したりできる。
自由にウェブ上にデータ化する事もでき、その形態から元の金融データに戻す事も不可能では無い。ただし戦闘不能状態にした上で<人心掌握:経営>と<トロン:プログラム>の組み合わせ判定で達成値として[10+トループ人数]が必要で、[トループ人数報酬点]になる。金融データ化をゲスト任せにする場合、金額的にはかなり目減りするものとみなして報酬点も考える。例えば導入a)の依頼者が正直に被害額の1千万円相当のデジタル・ゴブリンにしか手を付けないとすると、金融データ化されるのはせいぜい100万円で、キャストの手元には5万円(5報酬点)しか入らない。デジタル・ゴブリンを倒せば、そのまま塵となって消える。
何らかの手段で新井の研究成果を手に入れた場合、召喚には<トロン:タップ><トロン:プログラム><召喚>の組み合わせ判定が必要で、しかも1体当たり1報酬点払わねばならない。これはアクト終了時に生き残り1体につき1報酬点として返ってきて、次のアクトでまた召喚する事になる。通常の<召喚>と違い、1アクションで召喚する事ができる。また、達成値に関係無く払った報酬点体だけ集まる。
デジタル・ゴブリンを見た者が<心理:民族学>判定をする場合、成功しても異質だとか召喚されたものだとかくらいしか分からない。その能力を推し量るなどする為には、<心理:民族学><トロン:プログラム>の組み合わせ判定が必要である。
デジタル・ゴブリンと意思の疎通を持ちたい場合は<交渉:談判>と<トロン:プログラム>とニューロの特殊技能<01フィーリング>の組み合わせ判定が必要。21を出せば、生い立ちくらいは話してくれるかもしれない。
千早後方処理課 キャストを始末する方が自社のメリットになると思えば躊躇わない。そうなればキャストの戦力を上回る実行部隊か傭兵が送られたり、社会戦闘を仕掛けられたりする事になる。千早と関わる展開になっても、彼らに誠心誠意協力するとか、メディアを上手く利用するなどすれば何とかなるだろう。トーキー(記者、レポーター)の出番である。
判断に迷う場合は<交渉:談判>と、<人心掌握:プロデュース>または<人心掌握:名声>の組み合わせ判定などで判定する。結果、歪な関係の<コネ:千早後方処理課>を得る事になるかもしれない。



事前状況

 ウェブ(コンピュータ・ネットワーク)の中には、トロン(コンピュータ)によって創られた現実空間が存在する。ワイア&ワイア(データ・ジャック)を介してイントロン(ログイン、アクセス)している者にとって、物理的現実とデータ的現実の間には何の差異も無く、“疑似”などという修飾語は相応しく無い。ならば、物理的現実空間で起きる出来事は全て、データ的現実空間でも起こり得るはずである。

 例えば“進化”も。

 ウェブに於いてデータ変化を進化圧にして“突然変異”と“共生”が自律的に起こり、多様化と淘汰を繰り返し、最適なプログラムが自然に創られていく環境の整備……それが新星帝都大学に席を置く男、新井 進(ニューロ◎=マヤカシ●=タタラ)の研究テーマだった。
 必ずしもオリジナリティに溢れていると言う訳でも無い新井の研究に転機が訪れたのは、「物理的現実とデータ的現実の相互依存性」であった。物理的現実空間にトロンと言うハードウェアが無ければ、ウェブは存在し得ない。そしてまた同時に、データ的現実の働きが無ければ、物理的現実の社会活動は滞る。この相関関係は非常に強固であり、言霊となる……この辺りからの新井の研究は、にわかにオカルト色を強めていく。
 新井が注目したのは、金融データだった。既にこの時代、現金と言うモノは存在せず、あるのはただ「○○円」と言うトロン上の数字データだけ。1本のクレッド・クリス(クレジット・カード)が1円なのか1兆円なのかはデータを参照しなければ分からない。正に、データ的現実の物理的現実化その物だった。さらには、20世紀末に登場した“デリバティブ”は正に“物理的現実化した自律プログラム”その物である。
 流石に新井もオカルト方面の研究は大学には内密で行っていた為、気が付くと彼は世間から「ニューロキッズ出身で新進気鋭の経営コンサルタント」と言う評価を受ける様になっていた。そしてとうとう、多国籍企業でも最大手の“千早”から、金融部門の部長補佐としてヘッドハンティングを受ける。新井はその真の目的を秘したまま、千早に入社した。
 新井は、優秀な金融プログラムを開発したり、新規の金融商品を開拓したりなど、表向きには千早の利益の為に働いていた。実は、彼が「コンピュータ・プログラムを進化させて、データ的現実空間の殻から物理的現実空間に脱皮させる研究」をしているなどとは、誰も気付きもしなかった。


 その新井が、千早に莫大な損失を出して失踪した。損失額は1兆円を越すと推定されている。どうやら損失が確定したのは1週間も前だったらしく、発覚よりもずっと前に新井は逃亡していた。元々、新井の行っていた事は余人には理解できなかった為、事実上、彼1人だけしか所属していない部署だったし、出社して来ない日の方が多かった事もあって、失踪したと気付いたのは損失が発覚した後と言う体たらくだった。追跡調査では出国したらしく、千早の後方処理課が動いているが、あまりの失態の大きさに秘密裏の行動を取っている。
 新井が損失を与えたのは千早だけでは無かった。新井はある中小組織(キャストがコネを持つ組織。中小企業かヤクザなどの結社)の金融運営も“アルバイトで”請け負っており、せいぜい1千万円程度とは言え、損失を与えていた。その中小組織は偶然に得た金融情報から直観的に「新井の損失の与え方には一定の法則がある」→「新井は損失を与えたのでは無く、千早や自分たちを裏切って自分の得になる様に動いたのだ」→「利益回収の為、新井はまだトーキョーに潜伏しているはずだ」との結論を得る。
 新井は、手間を掛けて出国したフリをして、難民に紛れて夢島にいる。強運も手伝ってその事は発覚していない。彼は、千早を中心に複数の企業や組織の報復を恐れながら、手塩にかけたプログラムたちが“進化”を終えて物理的現実空間に脱皮してくる日を待っている。もはやその進化環境は彼ですら全ては理解できない程にウェブ内で複雑化・埋没化しているが、ただ1つ、最後の“脱皮”だけは新井が持つタップ(パソコン)を介して起こるように組まれている。
 しかし、正常な“脱皮”に先立って、早熟なプログラムの1つが既に異常な“脱皮”を済ませて物体化していた。新井の持つタップのウェブ上のアドレスに近い所から物体化した異常なプログラムは、無差別殺人を始める。



導入1:中小組織からの依頼

 フェイト(探偵)系かイヌ(警官)系のキャスト向けの導入。自分に関係のある会社や結社から捜査を命じられると言う形にすればエグゼグ(重役)、クグツ(企業戦士)、レッガー(ヤクザ)でも可。

 上記「事前状況」にある中小組織から新井の行方についての捜査を依頼される。与えられる情報は以下の通り。

@新井 進の経歴。新星帝都大学時代の所属研究室名。千早での部署名と役職。中央区オフィス街千早アーコロジー内の自宅の住所。斑鳩(中流住宅地)にある隠れ家の住所とその偽造鍵。写真やその他の身体データ(左右の瞳の色が違うオッドアイ)。年齢35才。
A千早を中心に複数の団体に損害を与え、1週間前に逃亡した事。発覚したのは2日前である。
B千早の後方処理課は新井は単に損害を与えただけと思っているが、自分たちは新井が利益を得ていると考えている。千早は新井が国外逃亡したと思っているが、利益を回収する為にはトーキョーにいなければならないし、代理人に任せられる事とも思えないので、何らかの手段で潜伏していると推理している。
C自分たちの損害額は1千万円である。
D新井に親類はいない。交友関係は不明。

 千早の損害額、千早と自分たち以外の被害者、新井は意図的に損失を与えたと考える元となった生データの提供に関しては、求められてかつ知る必要があると納得させられれば話す。生データを得た場合、<人心掌握:経営>で達成値10が出れば依頼者の見解の正しさを追認できる。生データの提供無しに独自に追認する場合には21が必要。この事件が公表される事は、千早にとっては恥であるだけでなく、類事犯の発生にも繋がり兼ねない。キャストの行動によっては、千早を敵に回す事になる。“プレイヤーの”背景世界知識不足の為にその辺りの認識が甘い様な場合は、一言くらいは注意を促す事。

 報酬は、生死に関わらず新井の逮捕で10報酬点。損失の回収ができた場合は回収金額の5%をボーナスとして与える。依頼者の損失額は1千万円なので、全額回収できたならば50万円を報酬点に換算した15報酬点が与えられる(P261参照)。これはキャスト1人当たりの額である。



導入2:奇妙なウェブ

 ニューロ(デッカー、ネットライナー)系のキャスト向け導入。タタラ(科学技術者)でも一応は可。自主的な興味で動き出す事になる。

 偶然、奇妙なウェブ領域を見つける。複数のネクサス(ウェブの入口。普通は1つのウェブに1箇所しかない)を持っていて、そこを越えた中にある“X(ウェブの1構成単位)”は全て“4次元空間”になっていて、ニューロの特殊技能である<MDセンス>を用いないと知覚ができない。一定の間隔で“ファイル(データ)”が“ゲートキーパー(固定型セキュリティ・プログラム)”のチェックをパスして入って行くが、出て行く物は無い。ファイルは非常に似通った“アイコン(外見)”を持つが、どれも自律的には動けないデータであり、プログラムでは無い。ウェブの方で呼び込んでいる様子も無く、発信地はニューロの特殊技能<トレース>を使っても不明で、どうやら非常に長い間、色々なウェブをたらい回しにされた末に辿り着いたらしい。ファイルには高達成値の“コピープロテクト”が掛かっていて、コピーはできない。個人が掛ける事ができるプロテクトでは無い。
 キャストは上記の情報と、そのウェブに入れる1つのネクサスのセキュリティ・キーコードを知っているものとする。

 <トロン:プログラム>と<人心掌握:経営>の組み合わせ判定で5が出れば、このファイルは金融商品の一種だと分かる。<トロン:プログラム>と<トロン:タップ>の組み合わせ判定で15がでれば、既存のハードウェアでは起動できない“イーター(移動型攻撃プログラム)”の“オプション(サブ・プログラム)”の一種であろうとも分かるが、「金融商品でありイーターである」と言う矛盾については技能判定では無くプレイヤー自身に考えさせる事。コピーは絶対にできないが、捕獲するのは<トロン:プログラム>で15が出れば可能。

 4次元ウェブの中はイーターが動き回っていて仲間のイーターとファイル以外の全てを攻撃する。また、キャストが<MDセンス>を習得していない場合、4次元ウェブ内で1行動取る度に1回、理性の制御判定をしなければならず、失敗すると理性に1ダメージを受ける。Xの数は9部屋あり、1つのXにつき30〜40体のイーターのトループがいる。攻撃を受けて数が減ると、他のXから救援が来て、各Xのイーターの数が常に同じになる様にできている。Xは4つの外郭の中に4つの内郭があり、その中央に“アビス(ウェブの最深部)”がある。ネクサスは外郭と繋がっているので、最低でも2つのXを通過しなければアビスには辿り着けない。アビスは“ガレージ(起動していないプログラムの倉庫)”と他のウェブへの通路があり、ガレージ内のプログラムは外から入ってくるデータを受け取ってマイクロ秒単位で変化(進化)している。
 このプログラムが“物理的現実空間への脱皮を待つ蛹”であり、通路は新井の持つタップに繋がっている。“蛹”は何十体もいる。
 ゲートキーパーのセキュリティは<トロン:プログラム>で13を出せば通れるが、イーターはそうはいかない。アビスに入る為には、全てのイーターを倒すか、ニューロの特殊技能<虫使い>を使うしかない。アビスまで入っても、新井のタップにもセキュリティ15のゲートキーパーがいる。“蛹”はコピーは不可能だが、破壊や捕獲ならば<トロン:プログラム>で15で可能。
 ファイルなどの捕獲で得られる報酬点に関しては“登場NPCおよび重要事項”の“デジタル・ゴブリン”の段落を参照。この際、ファイル1つをトループ0.1体、蛹1体をトループ0.9体とする。

 このウェブの正体を解く事ができたならば、知的好奇心が満足した事により5報酬点を得る。さらに事件全体の概要を知る事によって、前記に加えて5報酬点を得る。また、新井の研究内容(“事前状況”に書かれている事)を詳しく知り、新井の後継者になれる程の知識を得たならば、加えてさらに15報酬点を得る。これらの報酬条件については、調査が進むに連れて適宜、プレイヤーに伝える。これはキャスト1人当たりの額である。



導入3:木更タタラ街の“鬼”

 バサラ(PK能力者・精霊使い)系かマヤカシ系(テレパス)のキャスト向けの導入。退魔師として活動しているならばなお良い。

 キャストの師匠や仲間、利用しているオカルト用具店店長など、コネのある人間から、夕べ起こった“鬼”による殺人事件の捜査を依頼される。事件の起こった地区は、導入b)のキャストの住む所である。
 現場を<知覚>と<心理:民族学>の組み合わせ判定で調べたり、<心理:占い>で占ったりしても「サイバーサイコの仕業か、妖魔の仕業か分からない」との結論になる。21が出ても「エレクトロニクスと魔法の両者が関係している」事までしか分からない。

 “鬼”を倒す事ができたならば依頼者への義理を果たした事の満足感により10報酬点を得る。“鬼”事件の元凶である新井まで辿り着き、彼のタップを破壊して二度と妖魔事件が起こらない様にしたならば、正義感が充足された事によりさらに15報酬点を得る。これらの報酬条件については、調査が進むに連れて適宜、プレイヤーに伝える。
 これはキャスト1人当たりの額である。



まとめ:タイムテーブル

7日前  新井失踪。国外逃亡を偽装して夢島難民地区に潜む。
2日前  多額の損失が発覚。その直後に新井の失踪が発覚。
1日前の昼  “導入1:中小組織からの依頼”の依頼主、新井のトーキョー潜伏を確信。
1日前の夜  最初の鬼が物体化。殺人を犯す。
1日目の朝  “導入1:中小組織からの依頼”及び“導入3:木更タタラ街の‘鬼’”の依頼がなされる。
1日目の夜  “導入2:奇妙なウェブ”の調査が終了する。キャストがアウトロンした後、2体目の「鬼の物体化」が起こる。その騒ぎを警邏中の“導入3:木更タタラ街の‘鬼’”のキャストが気付く可能性がある。<知覚:聴覚>で10を出すと、“導入3:木更タタラ街の‘鬼’”のキャストは“導入2:奇妙なウェブ”のキャストの事件に気付く。
2日目の夜  新井のタップに“蛹”の“脱皮”が始まる。以降、1時間に1体の割合で“デジタル・ゴブリン”が増えていく。
4日目辺り  キャストの対応が遅い場合は、他の退魔師の働きにより、2体の狂った鬼が倒される。
6日目の昼  キャストの干渉が無い場合、全82体の“デジタル・ゴブリン”の補充を終える。この段階での“謎のウェブ”内に蛹は無く、金融データも入って来なくなる。
7日目以降  キャストの干渉が無い場合、デジタル・ゴブリンを使って夢島の住人の一部を脅し、国外逃亡の準備を始める。その間、デジタル・ゴブリンの性能実験(新井が意図的に起こす無差別殺人)を行う。そして近い内に、新井は今度こそ本当に国外逃亡する。



まとめ:調査結果

新星帝都大学  新井の友人と呼べる人間はここにしかおらず、それも“顔見知り”“同じ研究室にいた”と言う程度である。話を聞く為にはそれなりの理由が必要である。“導入1:中小組織からの依頼”のキャストが理由を正直に話す場合は、無条件で話は聞けるが、<交渉:談判>で10を出さないとキャストが何やらやっていると千早に嗅ぎつけられる事になる。それ以外の導入のキャストが理由を正直に話しても、話は聞けない。
 ここで新井の当初の研究が「ウェブに於いてデータ変化を進化圧にして“突然変異”と“共生”が自律的に起こり、多様化と淘汰を繰り返し、最適なプログラムが自然に創られていく様な環境の創造整備」であった事、それからいつの間にか経営方面に鞍替えした事、趣味でオカルトの本をよく読んでいた事、新井がよく通っていた木更タタラ街の店とオカルト・ショップを教えてくれる。
千早オフィス  基本的に知らぬ存ぜぬだし、それで通らなければ「円満退社した」と言われる。訪問後、千早後方処理課の尾行が付く。<知覚>と<忍び:隠密>及び<忍び:追跡>で対抗判定をする事。
依頼者以外の中小組織  <交渉:談判>で5以上を出せば、新井に金融運営を任せ、失敗・逃亡された事を認める。話を上手く持って行けば彼らから「取り返した金の数%」を礼として取る事も可能だが、“導入1:中小組織からの依頼”のキャストが絡む場合は基本的に背任行為に当たるので、後で依頼者に<交渉:演技>の対決に勝たないと依頼者を怒らせる結果になる。
 情報的には、依頼者の推理の追認以上の物は得られない。
新井の自宅  中央区オフィス街千早アーコロジーの新井の自宅。元々、千早から支給された部屋なので、既に所有権は千早に戻っている。中にあったものは全て千早に押収されている。特に目に付く物は何も無かったが、ここの情報をキャストが得る事はほとんど不可能である。
新井の隠れ家  斑鳩(中流住宅地)の新井の隠れ家。マンションの一室で、DAKが無く、奇妙なくらい生活臭も無い。目に付くのは幾つかの紙でできた書物くらいで、これは古典的な経済学や進化論の学術書と、基礎的な魔道書である。
 タップが一台あるが、これは罠でアビスに到達すると仕掛けられた爆弾が爆発する。アビスに入る段階で<トロン:タップ>に15が出せれば、事前に気付く。或いは、フェイトの<警報>の様な特殊技能に成功しても気付く事ができるが、そのときは<運動:ラン>に5で成功しないと安全圏まで逃げられない。事前に「何か仕掛けられていないか調べる」と宣言した場合は<しかけ:トラップ>と<トロン:エレクトロニクス>の組み合わせで5が出れば気付く。
 爆発は、生命ダメージで防護マトリクスのみ有効で、15ダメージである。入院する場合、1日1シーンと見なす。
 爆発後すぐに逃げないとSSSの追求で2〜3日は足止めされる。その際、解放後に千早かSSSの尾行が付く。<知覚>と<忍び:隠密>及び<忍び:追跡>で対抗判定をする事。
木更タタラ街  話を聞く為にはそれなりの理由が必要である。“導入1:中小組織からの依頼”のキャストが理由を正直に話したり、報酬点を数点支払う場合は、無条件で話は聞けるが、<交渉:談判>で10を出さないとキャストが何やらやっていると千早に嗅ぎつけられる事になる。それ以外の導入のキャストが理由を正直に話しても、話は聞けない。
 ここでは、新井は千早に就職した後も、タップの改造やイーターの購入などを行っていて、従来とは全く違ったハードウェア環境で作動する斬新なイーターの研究開発をしていたらしいと分かる。
オカルト・ショップ  話を聞く為にはそれなりの理由が必要である。店主が反体制的気骨の持ち主なので、“導入1:中小組織からの依頼”のキャストが理由を正直に話しても千早に通報される事は無いが、そんな理由では教えてくれない。“導入3:木更タタラ街の‘鬼’”の黒幕が新井だからとの理由ならば教えてくれる。
 新井がよく買ったのは、基礎的な魔道書、言霊に関する書物、それに召喚魔術書だった。また、その色違いの瞳から、マヤカシであろうと睨んでいるとの推理も聞かされる。



結末

 1日目の夜の段階で“導入2:奇妙なウェブ”と“導入3:木更タタラ街の‘鬼’”が合流する。その段階で、“導入1:中小組織からの依頼”組は「新井が犯人である」事を知っていて、他のPCは「どの様な事件が起こっているか」を知っている事になっている筈である。
 両者とも、木更タタラ街とオカルト・ショップでの聞き込みを行うだろう。その際、「科学と魔法の関連について」と言う様な質問を発したのならば「そう言えば、同じ質問をしている人がいた」と言う形でお互いの存在が分かるだろう。中盤辺りで全てのキャストが合流できる様に誘導する。

 新井の居場所に関しては、1〜2体目のデジタル・ゴブリンの召喚地のウェブ・アドレスからその近所を調べれば分かる。そこまで思い至らなかったとしても、虱潰しに調べれば、難民では無い新井が難民に紛れて暮らそうと言う点に無理があるので、いずれは夢島にいる事が判明するだろう。プレイヤーにP78〜P87の地図を見せて、具体的にどこを探すか指定させて、適当な技能判定で10〜15を要求する。1箇所で半日はかかるだろうし、場所と場合によっては喧嘩や戦闘になるだろうから、かなりの時間がかかるだろう。新井の発見は全てのデジダル・ゴブリンが揃った後になるだろう。

 ミッションをクリアーすれば最低でも10報酬点は保証されているが、それ以上について各導入によって、互いに対立する。

導入1:新井のタップを取り上げて、デジタル・ゴブリンを金融データに戻そうとする。或いは新井の旗色がかなり悪い場合、新井に協力する事で、デジタル・ゴブリンの一部を金融データ化してもらう
導入2:新井と協力するか、新井のタップを取り上げて研究する
導入3:新井とそのタップを完全に抹殺する

 場合によってはこれらは両立する部分もある。例えば、新井のタップからデジタル・ゴブリンの一部だけを金融データ化して、残りを研究用に残すとか。“導入3:木更タタラ街の‘鬼’”だけは妥協の余地は無く、他と対立するか報酬点を諦めるかしかない。
 新井は典型的なマッド・サイエンティストで、自らの目的の為には他の犠牲など顧みない。自発的にデジタル・ゴブリンを手放す事は無いし、それをろくな目的に使わない事は明らかである。夢島での潜伏やデジタル・ゴブリンの性能実験や国外逃亡の為に、何の躊躇いも無く他人を脅し踏みにじり殺す。

 いつかは、千早やその他の被害者も、“導入1:中小組織からの依頼”の依頼者と同じ様な結論には達する。もし、キャストが新井の味方をしたり、新井が奪った金融データ(報酬点の形にしろ、デジタル・ゴブリンの形にしろ)を着服したりしていて、それが発覚したならば、キャストたちはトーキョーにいられなくなる。
 新井の味方をした場合は、<交渉:演技>で5を出さなければ発覚する。金融データを着服した場合、<人心掌握:経営><交渉:演技>の組み合わせ判定で、[10+着服した報酬点]の達成値を出さなければ、着服が発覚した事になる。このときの“着服した報酬点”とはキャスト全体の合計着服金額である。新井の味方をしてかつ着服もした場合は、<人心掌握:経営><交渉:演技>の組み合わせ判定で、[15+着服した報酬点]の達成値を出さなければ、発覚した事になる。この際、協調行動(P205)を行っても構わない。
 一部のキャストだけがこの様な行為に及んだ場合、彼らと明確に敵対しない限り、他のキャストも同罪と見なされる。

 キャストの対応が余りにも悪い場合は、ラストシーンでデジタル・ゴブリンの不意打ちを食らう。「自分の事を嗅ぎ回る人間を消す為」かもしれないし「たまたま、性能実験に出くわした」だけかもしれない。その段階でのデジタル・ゴブリンは充分な経験を積んだものとして、技能も2〜3レベルで習得している。新井の手持ちの半分である41体が来るぐらいで、キャストの苦戦は必至だろう



さいごに

 元ネタは、山田正紀の『妖虫戦線』である。元ネタから引用した部分は多いが、本筋が異なるので気付かれる可能性は低いと思う。

 『2nd』のテクニカル・ルール用のシナリオなので、『レボリューション』で使用する場合は適宜、読み替えを行って欲しい。その際、PCが神業で押してくるとセッションが崩壊するので、デジタル・ゴブリンの何体かをゲスト扱いにして、“<電脳神>を現実世界にて万能神業として使える”と設定すれば良いだろう。




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