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0005 遺跡情報売ります SW 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『旧版ソードワールド』専用である。完全版や他のRPGには適合しない。『完全版』を使用する場合は、「魔法の達成値の上昇の制限」に関するルールが無いものとして扱う事。

 一発物の実験的なシナリオであるのでその事を予めプレイヤーに伝え、このセッション限りのキャラクターでプレイする事。
 このシナリオの為に「通常+6500経験点」でキャラクターを作る事。PCの数は4〜6人で、ソーサラー、<ミュート>の使えるシャーマン、<ラック>の使えるプリーストがいる方が望ましい。



登場NPCおよび重要事項

アグニ 1レベルソーサラー&1レベルファイター。運命の悪戯から無限の魔力を供給する“魔力の塔”を所有するに至り、それを用いて何か大きな事をやろうと企んでいる。



事前状況

 古代魔法王国時代、“魔力の塔”は全ての貴族たちに無限の精神力を供給していた。
 今は存在しないはずの“魔力の塔”。しかし、オランの北東、“落ちた都市”よりもさらに東の山脈の中に、研究用の小規模な“魔力の塔”が、朽ち果てながらも何とか原型をとどめていた。

 十数年前、それをとある狂ったソーサラーが発見した。残された文献を調べ、密かに“魔力の塔”を復活させた。しかしどうした神の導きか、今まさに世界に覇を唱えんとしていたソーサラーの前に、心ある冒険者の一団が立ちふさがった。
 冒険者たちは次々と倒され、女性シャーマンと見習い戦士を残すのみとなった。女性シャーマンは決死の覚悟で精神力の限り“スリープ”を使い、気絶した。そのかいあって狂ったソーサラーは覚めない眠りに付き、見習い戦士にとどめをさされた。

 そのとき、見習い戦士――名をアグニと言う――は少し考えると、気絶している女性シャーマンにも刃をつきたてた。
 そして、狂ったソーサラーの死体の額から黒水晶を抜き取り、元仲間の死体共々、処分した。

 アグニは1人、オランに戻ると、魔術師学院に入学した。努力するという事が大嫌いな彼だったが、人並早く1レベルのソーサラーになり、初歩の魔法が使えるようになると、学院を後にした。

 アグニは大量の荷駄(主に食料)と共に東に消え、暫くすると、自信に満ちた顔つきで戻ってきた。自分でも魔力の塔を使いこなす事ができると確認したのだ。
 再びたくさんの品々を仕入れるアグニの景気の良さに、冒険者ギルドの親父が「新しい遺跡でもみつけたのかい? もし良ければ、情報を売ってくれないか?」と持ち掛けた。
 アグニは少し考えると、「情報の公開を1ヵ月後にするならば、売ってもいい」と答えた。

 冒険者ギルドの親父は「1ヶ月の間に遺跡の発掘を進めるつもりなのだろう」と受け取り、「果たして独りでどこまで発掘できるだろうか?」などと考えていた。
 しかし、アグニは全く違う事を考えていた。無限の魔力を使える事を、どう実戦に生かすかの実験と訓練をしようと考え、最初の1ヶ月間は独習し、その次にはやってくる冒険者相手に試してみようと考えたのだった。



導入

 PCたちは、オランの冒険者ギルドの親父に「まだ枯れていない遺跡の情報を買わないか?」と持ち掛けられる。情報料は見つけた宝物の1割を後払いで良いと言う。
 情報について問われれば、親父は以下の事を話す。

@情報はアグニという魔法戦士から1ヵ月前に買った。
A彼との約束で、1ヵ月間は情報を売らなかった。この情報はPCたちにしか話していない。
Bアグニの羽振りのよさから見て、程度が良く新しい遺跡だと思う。アグニは仲間無しに1人で遺跡を漁っていたから、遺跡自体に危険は少ないだろう。また、1ヶ月経つとは言え、腕の良い盗賊なら、アグニが見つけ損なった宝を見つける事もできるだろう。

 もしPCがアグニに興味を持ち、オランで調査するならば、以下の事が分かる。

@昔、アグニはとあるパーティーの見習い戦士だった。そのパーティーは北東にある遺跡で壊滅し、アグニだけ帰ってきた。その後、アグニは魔術師学院に入り、ソーサラーになった。
Aアグニは2度、北東に向けて大量の食料、日用品、木材や石膏などを運んで行った。
Bアグニは、どこからか大きな水晶を持ってきて、カットさせていた。しかし、実はその水晶は魔晶石だったという噂がある。



本編

 PCが情報を買うと、親父は遺跡の場所を示した地図をくれる。レンジャー技能で判定に成功すると、数日間でその場所へ行ける。
 遺跡は起伏の激しい山の中、鬱蒼と繁る木々の奥にある。遺跡といっても実はただの長いトンネルで、ところどころに手作りの木製の扉がある。罠は無いが、“ロック”の呪文が“達成値無限大”でかけてある。“アンロック”で解く場合、6ゾロ以外は効果が無いが、壊そうと思えば、2〜3ラウンドで壊せる。

 30分も進むと、突然、後方からドーンと鈍い音が聞こえる。戻ってみると、半透明のバリアーが張られていて、戻れなくなっている。

 諦めて先に進むと、部屋が2つある。1つは古代王国の魔術師が残した上位古代語の文献を納めた書庫で、エンチャントに関する蔵書の一部が抜き取られている。もう1つの部屋は宝石か何かを納める倉庫だった様だが、今は空になっている。

 2つの部屋の先に広間があり、アグニがPC一行を待っている。ソーサラー技能を持っているPCは、広間に一歩近づく毎に、段々と強くなる魔力を感じる。

 アグニは自分が決して無敵ではない事は知っている(それでも自分の力をかなり過信しているが)。
 PCたちが入ってきた地下通路は、実はこの“魔力の塔”の脱出路である。アグニは、冒険者ギルドの親父にわざと情報をリークすることで冒険者を誘い込み、彼ら相手に“実戦訓練”をするつもりでいる。PCたちが地下通路に入ってきた事は、塔に付属する遠見の水晶球を使って分かっている。

 広間に侵入したPCは、そこに人影が6体いるのに気付く。1体はアグニ本人、残りはPCたちを惑わすために作ったダミー人形である。咄嗟の状況なので、最初のラウンドは<セージ+知力>で目標値15の判定に成功しないと、本物と人形の区別がつかない。判定に失敗したPCが、成功したPCの助言に従う場合は、自動的に行動順番は最後(アグニの後)になる。
 アグニが一度でも行動を起こした後ならば判定無しに本物の所在が分かる。

 アグニは、敏捷性が11(+1)。残りの能力は全て14(+2)の人間で、ファイターとソーサラーの技能をそれぞれ1レベル持っている。
 また、アグニは額に黒水晶を埋め込み、“魔力の塔”から無限の精神力を得ている。彼のかける呪文は全て“精神力無限大倍増消費”している。カウンター・マジックとプロテクションの呪文を効果時間無限大で自分に掛けておいている。

 戦闘時の行動指針は以下の通り。

 アグニの敏捷性は11と低いので、行動は大方のPCより後だろう。そのとき、まだ生きていれば、視界内にいる全ての敵(PC)に対して、「達成値無限大」「ダメージの拡大(振り直し)無限回」で“エネルギーボルト”を撃つ。なお、アグニに攻撃したPCは視界内に、していないPCは視界外にいるものとして、その旨をプレイヤーに伝えておく事。
 ゲームマスターが1ゾロを出すか、プレイヤーが6ゾロを振らない限り、狙われたPCは“無限大ダメージ”を負う。神聖魔法ラックを使用した場合は、レーティング0のときの最大値である“7”ダメージを被る。“無限大ダメージ”を負った場合、生死判定の成功は6ゾロのみである。



結末

 アグニとの戦闘の1ラウンド目に起こりうる展開として、考えられる4パターンを列挙する。

@アグニが行動を起こす前に倒す。
Aセージ判定に成功した者だけでは、手番前にアグニを倒し切れず、攻撃参加してアグニの視界内に入ったPCが死ぬ。
B誰もセージ判定に成功せず、適当な目標を攻撃する。
CPCが全滅する。

 @の場合、何の問題も無いだろう。
 Aの場合、生き残ったPCは「構わずにアグニに攻撃する」か「行動をキャンセルして、視界外に隠れる」かの選択肢がある。持久戦にしてもPCに利はないので、結局は攻撃を再開する事になるだろうが、その際、「1ラウンド目は行動順番を最後にして攻撃して、2ラウンド目は通常の手番に攻撃する。それによってアグニの行動の前に2連続で攻撃する」といった作戦をプレイヤーが思い付くならば認めて良い。
 Bの場合、攻撃目標がアグニ本人だったか、ダミー人形だったかをランダムに決定する。アグニ本人を攻撃したPCは、倒し切れなかった場合、反撃を受ける。ダミー人形を攻撃したPCは、<冒険者+器用度>で目標値12の判定に成功しないと、アグニの視界に身を晒してしまった事になり、やはり反撃を受ける。
 いきなりにCとなるという事は、まず無いだろう。
 何れにしろ、PC側が全滅したら、それでお終いとなる。

 アグニは日記をつけているので、生き残ったならば全ての事情を知る事ができる。その上で“魔力の塔”をどうするか、オチをプレイヤーに決めてもらいエンディングを盛り上げて欲しい。



さいごに

 直接の切っ掛けとしては、水野良の『剣の国の魔法戦士』を読んでいて思い付いたシナリオである。しかし、元ネタというのとは少し違う。
 当時、ソードワールドには「魔法の達成値の上昇の制限(ルーンマスター技能÷2までしか達成値を上げられない)」が無く、魔晶石と自分の精神力を合わせて使う事が許されていたので、数セッションを経ただけでルーンマスターの強さはかなり酷い状況になっていた。
 「何故、SNEはこんな明らかなバグを放置しておくのだろうか?」と疑問に思っていた。しかし、「古代魔法王国の貴族は、魔力が高かったのでは無く、常に“達成値無限大上昇”をしていた」という設定があり、世界設定担当の水野良氏が「そこは譲れない」とゴネているのであれば、分からないでも無い。
 そういった想像から、このシナリオは生まれた。

 実際のセッションを行ったとき、生き残ったPCが魔力の塔の扱いを巡って争ってくれたので何とか格好の付くオチを得られた。そういった展開にならないと、ちょっと辛いセッションになると思う。




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