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0001 警備隊員の失踪 RM 00/04/01



はじめに

 このシナリオは、『ロールマスター』と『指輪物語RPG(MERP)』の使用を想定して書かれた。
 しかし、汎用ファンタジーとして使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

フィルフェア 闇の森のシルヴァン・エルフの若い娘。戦士。エルフ隊商の護衛をしているのでエスガロスの警備隊員の多くとは顔見知り。
ホブスタン PCと同レベルの戦士。表の顔はエスガロスの警備隊員。裏の顔はアングマール魔王国の密偵である。醜男。
ドゥーペン PCより少し高レベルの盗賊。表の顔はエスガロスの警備隊員。裏の顔はアングマール魔王国の密偵である。



事前状況

 時代は第3紀1650年頃、場所は“たての湖”の水上都市エスガロス。すぐ近くにはシルヴァン・エルフが住む闇の森があり、エスガロスの人間は彼らと貿易を行っている。
 エスガロスは、湖が天然の城郭になっていて簡単には街の出入りができない。

 ホブスタンとドゥーペンは、エスガロスに潜入した“アングマール魔王国”の密偵である。
 ある重要な報告書を提出する為に、ホブスタンは本国に戻ることになったが、名誉ある警備隊々員が失踪するのは不自然であり、ホブスタン以外の密偵(ドゥーペンやその他の密偵)の存在が露顕する切っ掛けにもなりかねない。
 故に、ドゥーペンの発案で、「醜男のホブスタンが高慢なエルフの娘フィルフェアに艶書を出し、当然ながら振られ、その結果、面目を失ったホブスタンは夜逃げする」というお芝居を企んだ。
 予定通り、ある夜、ホブスタンはフィルフェアを呼び出し、愛を告白する。しかし、それに対してフィルフェアはOKしてしまう。当初の予定では、「振られた直後に、堂々と関所を通って国外に出る」手筈だったのだが、予想外の事態にホブスタンは動揺し、警備隊宿舎は抜け出したものの本国に戻る気になれず、気持ちの整理が付くまで街の貧民街に潜む事にした。
 ホブスタン失踪の翌日からドゥーペンや他の密偵たちは「振られて逃げた」との嘘の噂を流したが、ホブスタンが関所を通っていないと知ってドゥーペンは「彼は街を出ていない」と確信する。まさかフィルフェアが色好い返事をしたとは思わず、「事故か、裏切りかどちらかだろう」と思い、しかし表立って探し回るのも危険で、手詰まりになって悩んでいる。
 その後、フィルフェアは警備隊々員たちからホブスタンの失踪と「自分が彼を振った」事になっている話を聞き、混乱する。正直に全てを話すとホブスタンの迷惑になるだろうし、自分は面が割れているので極秘に捜査を進めるという訳にも行かない。ただ、まだ街にいるらしいので、余所者(=PC)に捜索を依頼しようと考えた。



導入

 現在の世情は、1636年に猛威を奮った疫病の為に人手不足であり、また北方のアングマール魔王国の暗躍により治安か不安定になっている。これらの事情はPCも良く知っている。PCたちは初めてこの街に来た余所者である。PC同士は知り合いである事が望ましい。
 PCたちが、そんな状況下のエスガロスの酒場で寛いでいると、PCたちの様子を窺っている人物(=フィルフェア)に気付く。フード付きのマントを目深にかぶり、顔を隠した細い人で、PCたちが反応を示さなければ、そのマントの人物は、自分からPCたちに近づいて来る。ハッキリとは顔が見えないが、声やフードから垣間見える造作からして若く見目麗しい女性だと分かる。さらに、<知覚>に「とても難しい」難易度で成功すればシルヴァン・エルフである事が分かる。
 その女性は、「ぜひPCたちにお願いしたい事がある。その依頼はエスガロスの町の地元民には頼めないものだ。報酬は出来る限りの事をする」と言う。
 PCたちが詳しく話を聞く事に承諾すると、他人に話を聞かれたくないので、マントの女性は酒場の上に部屋を取り、そこに移りたいと言う。
 マントの女性は、部屋の中でも顔を見せない。無礼を咎められると、自分の正体を明かさない事を報酬に上積みするので容赦してくれるよう頼む。また、依頼を受けるかどうかは、内容を聞いた後で決めて構わないと言う。

 PCは、ホブスタンという名の男の捜索を依頼される。ホブスタンについて、以下の説明を行う。

1.エスガロスの警備隊々員だったが、2日前に夜逃げをしてしまった。
2.町の関所は通っていないらしいし、泳げないので(関所を避けて水上都市から逃げれるとは思えないので)まだ町にいると噂されている。
3.警備隊々員であることは名誉あることだし、夜逃げするのは合点がいかない。また、宿舎の荷物を整理して、夜中にいなくなっている事からして、事件に巻き込まれたのでは無く、自分から出ていったらしい。
4.詳しい事は、警備隊の詰め所や宿舎や警備隊のたまり場になっている酒場に行けば聞けるだろう。

 ホブスタンの容姿に関して尋ねると、「あばたの目立つ顔で、世間の人は醜男などと申していますが、潔い真面目な方で、気高い魂の輝きが滲み出ているような感じで・・・」云々と、熱に浮かされたように言い募る。
 マントの女性=フィルフェアは、けっして名前を明かさない。隠した顔に関しては、PCが強く求めればフードを取る。報酬は相場以上を提示し、交渉次第で増額にも応じる。前金割合など、マスターが決定する事。
 報告は、1日1回決まった時間に会って受けたいと言う。時間はPCに決めさせる。

 PCが依頼を受ける事に気乗りしない場合、この捜索が何の違法性も無い事を指摘したり、PCの手におえない事態になった場合は違約金無しで依頼をキャンセルして良いなどの好条件を出す。
 以降、PCが依頼を受けたものとして進める。



本編

●情報収集について

下記の情報が、警備隊詰め所、宿舎、たまり場などで聞き込みできる。必ずプレイヤーに伝わるようにする。

1.ホブスタンは、重要物運搬の護衛隊の副官の任についていた。
2.違う分隊に属するドゥーペンととても仲が良かった。
3.噂だが、闇の森のシルヴァン・エルフの警備兵であるフィルフェアという娘に付け文を出し、肘鉄を食らわされたらしい。それで面目を失って夜逃げしたらしい。他に理由も無いし、本当の話だろう。
4.記録の上では町を出ていない。不器用なホブスタンに関所破りが出来たとは思えないので、町のどこかにいるだろうと噂されている。警備隊員仲間は、彼への友情から探さないでやろうという暗黙の了解ができている。

 ホブスタンと仲の良かったというドゥーペンに会うと、上記の 「3」の情報を繰り返し聞かされ、念まで押される。
 それに加えて、「ホブスタンはまだエスガロスの町にいるに違いない。恐らく貧民街の宿屋に潜むか、野宿でもしているのだろう」との推理を語る。
 ドゥーペン自身は忙しいとの理由で捜索には加わらないが、「ホブスタンの行方に興味がある。幾許かの礼をするので、分かったら知らせてくれ」と言う。

●フィルフェアを調べる場合

 フィルフェアは、PCと会う宿屋に入る直前に物陰でフードを被り、会見後に同じようにしてフードを取る。PCが跡を付けるなどすれば、シルヴァン・エルフの隊商の警備兵である事は簡単に分かる。
 シルヴァン・エルフには、ホブスタンとの一件の話は伝わっていない。PCなどから教えられれば、人間と同じ感想を話すだけである。フィルフェアの血縁や交友関係の詳細はマスターが設定する事。もしプレイヤーが「人間との恋を許せない父親とか、諦めきれない元恋人がいたりするのではないか?」と疑うようなら、完全に否定する情報を出しておく方が望ましい。
 人間は、彼女の事を「任務に誠実で、とても奇麗な女性」という以上の事を知らない。
 基本的に本人は最初の情報以上の事を話さない。しかしPCが「ホブスタンの告白をOKしたのに失踪してしまった」という真実を言い当てられるか、或いは「断った後で、やはりOKしようと考え直したのか?」など「フィルフェアはホブスタンの求婚を受け入れる気になっている」という事実を指摘された場合には、告白された夜の話を打ち明ける。


●ドゥーペンの行動

 他のアングマール魔王国の密偵と打ち合わせる為に、適当な頻度で警備隊宿舎を抜け出している。PCが彼を尾行して、適当な対抗技能判定で勝ったならば、現場を目撃する事ができる。判定に失敗しても、挙動不審な事だけは分かる。
 PCの干渉が無い場合、2〜3日後にドゥーペン一党はホブスタンを発見する事になる。さらに丸1日の監視の後、事情を直接聞いてから強盗を装って殺す事になる。
 PCが絡む場合、状況次第で「PCと全面戦闘を行う」或いは「ホブスタンのみ暗殺してドゥーペンら名の知られた者は町から逃亡する」事になる。


●ホブスタンの探索

 ホブスタンは貧民街の空家に住み、場末の酒場で食事をしている。外出時はフードで顔を隠してはいるが、PCがそれなりに聞き込みを行えば居場所を掴む事ができる。PCの行動の手際や技能成功度によって見付けるまでの時間を決める。上手く行けばドゥーペン一党より早く、最悪でも殺される直前に分かる事になる。
 PCがホブスタンに接触して事情を聞いても、「女に振られて面目を失って逃げ出した」「暫く頭を冷やしたいので、そっとしておいて欲しい」の一点張りである。しかしPCが「ホブスタンの告白をOKしたのに失踪してしまった」という真実を正確に言い当てられるならば、詳しい事情を白状する。



結末

 プレイヤーの手際によって、ドゥーペン一党との戦闘がどのようなものになるかが変化するが、結末は基本的にハッピーエンドとバットエンドの2つしか無い。ミッションクリア経験点を用いる場合、ホブスタンとフィルフェアが添い遂げたかどうかを第一義に考えて採点してもらいたい。



さいごに

 このシナリオは、志賀直哉の短編『赤西蠣太』が元ネタである。かなり元ネタそのままである為、知っている人には真の事情が導入直後に判明してしまいプレイングが変わる可能性も大きい。それをプラスに変える方向に誘導して、毅然とマスタリングして欲しい。




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