[上海ジャック・ザ・リッパー2]

秘封倶楽部定例活動報告書

[Shang-hai JACK the Ripper file:2-b]

「ねぇメリー。そろそろサークル活動をしようと思うのだけど」
「うーん、そうねぇ……。丁度次の連休は私も特に予定ないし、いいけど?」
 大学の午前の講義が終わり、いつもの様に学生達でごった返している学食のテーブル
の一つに陣取りながら、蓮子とメリーの二人は次のサークル活動について話し合っていた。
「でも、蓮子。次にどこに行くかもう決めてあるの?」
「それがねぇ……実は」
 小さくため息をついて蓮子は傍らに置いてあった新聞紙を手に取った。そこの国際面を
メリーに見せた。
「本当ならここに行きたいんだけどね」
「なになに、『上海を揺るがす連続猟奇殺人事件! 既に被害者は5名を超え……』って
ちょっと蓮子?」
「あぁ、違うのよメリー。別に探偵小説よろしくなんて考えてないってば」
 トレードマークの黒い帽子を被りなおしつつ、蓮子は説明した。
「ほら、私たちってこの日本の中であれやこれややってきたじゃない? で、実際色んな
スキマを見たりしてきたわけだけど、これって日本にあるなら外国にも同じようなのがあ
るかもしれないでしょ。小旅行を兼ねてそういうのを探しに行くのもいいかなぁ、とか
思ってたのよ」
 この新聞読むまではね、と再度ため息をつく蓮子。
「さすがにこんな状況で女の子の二人旅なんて無謀もいいところよ」
「いつものサークル活動も結構無謀な気もするけど」
「『未知』に対する無謀と『現実』に対する無謀って近くて遠い存在だと私は思うのだけど」
「どっちもどっちよ、蓮子」
 メリーの切り返しにむぅ、と蓮子は口を尖らせた。確かにメリーの言う事も最もなのだ
が、それをメリーに言われるのは何か釈然としなかった。
「ま、とにかく。上海小旅行と洒落込みたかったんだけど、これはまたの機会ね。さし当
たっては、以前までに目星をつけたポイントのどこか、ということで」
 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。その音を聞いて学食にいる生徒たちの
大半がわらわらと次の授業を受けるために外へと出て行く中、蓮子とメリーの二人はその
場に残ったまま、それぞれ珈琲と紅茶を啜っていた。
「メリー、あなた次のコマは?」
「あなたと同じよ蓮子。教授の急病で休講」
「なら、都合がいいわね」
 そう言いながら蓮子は隣の椅子に置いてある鞄に手を伸ばし、その口を開けて何かを探し
始めた。彼女たちの周りには誰もおらず、少し離れた所で彼女たちと同じような理由
(かどうかは定かではないが)でのんびりと午後のひと時をここで過ごす事に決めた学生
たちが何人かいるだけだった。
「よいしょっと」
 鞄の中から目的のものを探し当てた蓮子は、それをテーブルの上に広げた。
「最近の雑誌で見つけたんだけどね。この湖でたまに赤い霧が発生する事があるんですって」
 蓮子が広げたのは一枚の地図。そこには蓮子とメリーが暮らす街から車で5時間ほどの所
にあるフィッシングのポイントとしてそこそこ名の知れた湖が広がっていた。
「しかも、赤い霧が出ている時にはうっすらと家の影も見えるそうよ。これは正に私たち向
けの場所だと思わない?」
 目を輝かせながら語る蓮子に思わず苦笑するメリー。結局次の休日にハイキングがてら件
の湖を「調査」に行くということで決定となった。
 そこで、蓮子とメリーは銀と紅の入り混じった世界を垣間見る事になる。


             
             
             
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