[花咲く庭・第2話]
秘封倶楽部定例活動報告書
file:1-b[花咲く庭]
辺り一面、黄色に輝いていた。
「うわぁ……」
「いやはや、まさかこれ程とはねぇ」
メリーの見つけたスキマに入り込んだ秘封倶楽部の二人が見たものは見渡す限り一面に
咲き誇った向日葵だった。見上げればそこには、夏のぎらついた太陽の光が。
「……ん?」
額に手をかざして太陽を眺めていた蓮子が眩しさとは別の理由で目を細めた。そんな蓮
子に気づかないまま、メリーは物珍しそうに向日葵畑を眺めている。
「ねぇ、蓮子。すごいわねぇ、これ。まるで向日葵の海にいるみたい」
「……」
「……? 蓮子?」
こちらの呼びかけに答えない蓮子を訝しげにメリーは見つめた。時間にして数秒、メリー
の視線にようやく気づいた蓮子は太陽を眺めるのを止め、メリーの方へ顔を向けた。
「こいつはおかしいわ、メリー」
断言するような口調で蓮子が言う。
「何が? そりゃあこれだけの向日葵だもの。普通では考えられない位たくさん咲いてる
けど、おかしくはないんじゃない?」
「おかしいのはそこじゃないの」
視線はメリーに合わせたまま、蓮子は太陽を指差す。
「あの太陽、夏の太陽じゃない。少なくとも春の太陽よ」
「え? そうなの?」
「ええ、そうよ。軌道が夏の軌道じゃない。今この場所は春真っ盛り。なのに、向日葵が
所狭しと咲いている。これがおかしくなくて何なのかしら?」
「早咲きの向日葵、とか?」
「寡聞にして私は聞いたことがないわ」
「じゃあ、それもないかぁ」
首をかしげながら考え込むメリー。その様子を眺めながら蓮子は逆にメリーの言っていた
早咲きの可能性について頭の中で思考展開を始めていた。そしてその結論は早々と出た。
蓮子の結論は「無きにしも非ず」。条件さえ整えば春に向日葵が咲いても不思議はない。
だがしかし。こんなにも大量の向日葵が時期を外して咲き誇ることなど、確率としていく
らあるというのか。それはもう、「奇跡」と呼べる領域の話ではないだろうか。
「まぁ、気にしてもしょうがないわ。折角結界を越えたんだし、少し辺りを散策しましょ
うよ、メリー」
「ええ、そうね。こんなに綺麗な景色なんだもの。勿体無いわ」
所一面向日葵があるせいで、道などあって無きが如しではあったが、誰か先客でもいたの
だろうか人一人くらいなら何とか歩けそうな間隔がある。それをなぞるように二人は向日
葵畑を進んでいく。
30分ほどは歩いただろうか。最初はあれこれ話しながら歩いてきた二人だったが、話す
ネタもほとんど無くなり、その上同じような景色が延々と続くので自然と二人の口数は少
なくなっていった。
「……そろそろ飽きてきたかも」
「……そろそろ足が痛いわ」
言葉は違えど、二人が思うことは同じであった。
「何処を見渡しても向日葵向日葵。さすがにちょっと、ね」
「ええ、そうね蓮子。でも、不思議よね。ここには私達しかいないはずなのに」
「え?」
幻視の眼を持つ少女の何気ない一言。
「ここ、私達以外にもたくさんの人がいるみたい」
その言葉で、蓮子の脳裏にある事実が浮かび上がる。
「ねぇ、メリー。それって『誰かに見られているような気がする』、ということかしら?」
「え? ええ、そうよ蓮子」
「そう……」
そして蓮子は今まで自分達が歩いてきた道を振り返った。今の今まで覚えることの無かっ
た違和感。それを、メリーの言葉ではっきりと蓮子は認知した。
「ふぅ、どうやらただの向日葵畑ではない、ということね」
向日葵は太陽に向かって咲く。正確にはある一定の時期を越えると向く方角は固定される
わけだが。しかし、ここの向日葵たちは違った。
「いくらなんでも、人間に向かって咲く向日葵なんて聞いたことが無いわ」
そう。ここの向日葵全てが、蓮子とメリーの二人に向かってその大きな花を向けているの
だ。今まで話に夢中でその事に気づかなかったのは迂闊だった、と蓮子は思った。
「どうやら、サークル活動としてはこれからが本番、ということかしらね」
帽子を被りなおした蓮子は、その視線の先にある「もの」を捉えた。それを認識した瞬間、
蓮子の眼は驚愕に見開かれることになる。
「あら、こんなところに人間が。珍しいこともあるものだわ」
それは、見かけは人の形をしていた。だが、その雰囲気は人が持つそれではない。
「え、え?」
蓮子にやや遅れてメリーも「それ」を認識した。
「それ」は、朝顔のような日傘を差して。
「こんにちは、場違いな人間さん」
にこり、と二人に向かって笑いかけた。
to be continued...
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