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翔 ・五号 「いま語る我が心の喜熨斗政彦そして猿之助」より 懐かしき政彦ﾁｬﾏとの日々 乳母さんにお聞きしました |
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翔 ・五号 「いま語る我が心の喜熨斗政彦そして猿之助」より 懐かしき政彦ﾁｬﾏとの日々 乳母さんにお聞きしました |
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所縁の方々１１名にお聞きした、「いま語る我が心の喜熨斗政彦そして猿之助」
より乳母さんの件りのホンの一部を抜粋でご紹介します。
| ―――前略――― ≪乳母さん≫それはもう緊張の連続で必死でございましたよ。戦争が激しくなった２０年の初め頃、お祖父ちゃまが慰問公演で九州に発たれる前に、直々に（茅ヶ崎）お立寄りになられたんです。 「段四郎達は東京の家を守らないといけないから、あなたが孫たちを守って下さい。茅ヶ崎も危なくなれば、あなたの田舎（岩手）に連れて帰ってほしい。もしその途中で爆撃に遭い死んでしまうようなことになっても文句は言いません。あなたに全て任せますから、どうかどうか孫たちのことを頼みます」と両手をついて頼まれましてね。 私も泣きながら「どうぞお任せ下さい」とは申し上げましたけど「一体どうしょう！」って恐ろしさに震え上がってしまいました。 その時にね、政彦ちゃま（猿之助さん／５才）と相撲をおとりになって、ひっくり返って「負けた負けた」とおっしゃってはまた何度もおとりになって… 後年お聞きしたら「あの時は本当の別れかと思ったんだよ。それで孫を抱きしめて、泣き顔見せるのが辛かったから、わざと相撲をとって何度も取っ組み合って、温もりをしっかりと肌に感じたまま行きたかったんだ」っておっしゃっていました。 ━━ ところで猿之助さんのところには何年いらしたんですか？ ≪乳母さん≫２３才から八年間でした。ですから私、恋とか愛とか、とうとう知らずに過ごしたみたいですね。（笑）お小さい頃よく「僕が結婚したら僕の家の隣に小田ちゃんの家を建てて、ズーッとお嫁に行かないで僕の家にいるんだよね」っておっしゃるんです。そんなことが可愛くって、全くあの方たち無しでは暮らしていけない感じでした。 |
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| ━━ みーんなささげ尽くしてしまわはったんですね。もったいない…（笑） ≪乳母さん≫たまに親元へ帰ってもお二人のことが心配だからって、すぐにソワソワ戻っちゃうでしょう。皆が不思議がって「ご主人宅のお子さんなんて言ってるけど、もしや自分が生んだ子じゃないか」なんてウワサになったりね（笑笑）。そのうち縁談の話があってお見合いをさせられて、「いつまでも嫁に行かない女は田舎にはいない。お前本当はどこか悪いんじゃないか」と母に泣かれましてね。本当に私は泣きの涙で嫁ぎましたの（笑） |
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| ━━ みーんなささげ尽くしてしまわはったんですね。もったいない…（笑） ≪乳母さん≫たまに親元へ帰ってもお二人のことが心配だからって、すぐにソワソワ戻っちゃうでしょう。皆が不思議がって「ご主人宅のお子さんなんて言ってるけど、もしや自分が生んだ子じゃないか」なんてウワサになったりね（笑笑）。そのうち縁談の話があってお見合いをさせられて、「いつまでも嫁に行かない女は田舎にはいない。お前本当はどこか悪いんじゃないか」と母に泣かれましてね。本当に私は泣きの涙で嫁ぎましたの（笑） 今日一日という日、猿之助さんは演舞場で水谷八重子さんとお出になってたんですけど、涙涙で全然お芝居が見えなかっですね。いよいよこれでもうお別れという朝、おやすみになっているお布団の裾の所でぐっしょりとなるほどさんざんに泣きました。 ━━ じゃあ猿之助さんたちには何もおっしゃらずに別れられたんですか。 ≪乳母さん≫いつも田舎に帰る時はお目覚めになる前にそっと抜け出すんです。お目覚めになった後ではどうしても帰れなくて。ましてこれが最後かと思うと、私がもう泣き出しそうで、話さなくてはと思っても、とても言えませんでした…。田舎が東北ですので上野から乗るんですが、上野から一駅一駅遠くなるにつれて涙が出てね、とうとういくつの駅まで泣き通しで行ったんでしょうね。 ━━ それでお目覚めになった猿之助さんはどうなさったんでしょう。 ≪乳母さん≫それはそれは大泣きに泣かれて大変だったそうですよ。そんな結婚だったものですから、最初の頃はね、「もし上手くいかなくて縁がなくなったら私は幸せだわ。そしたら猿之助さんが旅にいらっしゃる時、ボテでも担いで一緒に行ける…」なんて考えていたり。 ━━ ご主人の立場あれへんですね。（笑） ≪乳母さん≫本当に申し訳なかったと思いますね。ところが、結婚を致しますと、何故かしら子供が出来ちゃうんですね。（笑） ━━ 不思議なことに。（笑笑） ≪乳母さん≫やっぱり子供が出来ると「この子を不幸にしちゃあいけないなァ…」と思って、やっとやっと諦めました。でも本当に終始思い出しましたねェ。とてもとても私どもの子供とは似ても似つかないですけれど、毎日同じ所作を致しますでしょう。 ━━ おしめを替えたり、お風呂に入れたり…。 ≪乳母さん≫その度に「どうしていらっしゃるかしら」ってね。自分の子を抱いて、可愛い ! と思う心のどこかであの方たちが恋しいんですから…。罪なことですね。 よくお腹を痛めた子だから…なんて申しますけど、私、あれは違うと思います。女は、初めて自分の手に抱きしめた子のことを生涯忘れないものなんですね。 ━━ そりゃあ八年間ですもの。 ≪乳母さん≫本当に大変なことをしてしまったと思いました。こんなに毎日毎日苦しむんなら、( お守り役なと引き受けずに ) 最初から嫁いでしまえば ! って。 主人は福島県の学校に奉職しておりましたので、ズーッとそちらに住んでいたんですけど、そんなある日、主人が先生方の旅行で伊豆大島に行くことになりましてね。 ━━ もう、渡りに舟ですね。（笑） ≪乳母さん≫そうなんです。でも「行く ! 」っていう一言が言えないんです。さんざん迷ってそれでも言い出せなくて、懐にお財布だけを持って「もしも主人の乗る汽車に間に合えば乗ろう ! ! 」って、子供二人を連れて駅に駆け付けそのまま飛び乗っちゃったんですよ。（笑） ━━ それこそ着の身着のままで。 ≪乳母さん≫朝一番で東京に着いて、四谷のお宅まで行きましたけど、五時過ぎといいますと猿之助さんのところでは夜中みたいなものですからね、御門のところで待ちましたの。 ━━ うわァ〜、これ、“母もの”の世界ですねェ〜、三益愛子の〜。 ( ←ふるゥ…) ≪乳母さん≫十時近くまで待ちましたかしら。 ところが奥様は最初、私が家を出されてきたと思われたみたいで、びっくりしちゃったんですって。（笑） ━━ 子供二人の手を引いて突然立ってれば、そう思いますよ。（笑笑） ≪乳母さん≫「みなさんにどうしても会いたくて主人にメチャクチャについて来ちゃいました」って言ったら、奥様が「あっらァ…」 ━━ じゃあ涙の別れ以来のご対面ですね。久しぶりの猿之助さんたちはいかがでしたか。 ≪乳母さん≫皆さん大きくおなりになってね、猿之助さんは凛々しい中学生でいらっしゃいました。二、三日遊ばせて戴いて帰る日、上野駅まで送ってくださったんですけれど、ホームで猿之助さんも靖子ちゃんも大層泣かれましてねェ…。私も泣き出してしまいましたら、子供たちは「お母ちゃま、どうしちゃったの ? どうしちゃったの ? 」って不思議がりまして…。 その時主人が特等 ( いまならグリーン車 ) で帰んなさい」って言うんです。私が「もったいないから」って言うと、「せっかく皆さんが送って下さるんじゃないか。こんな時に使うためにお金は貯めるんだよ」って言ってくれました。 ━━ いやァ〜、素敵ー ! 何ていい旦那さんなんでしょう ! ! ≪まだまだ続くロングインタビューのため、HP上の公開はこの辺でお開きといたします≫ |
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