太陽の王と月の妖獣 上・下
訳:幹 遙子
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- 本書は、独立心の強い女性を主人公とした作品の多い著者の歴史改変小説。ストーリーは「権力」に固執することの侘しさや虚しさ、「人間」であることの意味、女性の社会的立場とはなど、深いテーマもはらんでいます。歴史改変小説とはいえ建物の配置や実在の人物像など、細部に亘りきちんと書き込まれている「良くできた」作品です。「人魚」という異なる種族の倫理観や愛情、友情を描き出す筆力には脱帽するばかりです。人間にとっての真の幸福とは何かをさりげなく問う作品でもあります
- 「フェミニズム小説」と呼ばれるジャンルを私は決して嫌いでありません。ですがこの作品は設定や筋立てが明快であるのに、どうしても感情移入しにくかったという、蔵書の中では珍しい部類に入る話です。それがなぜかというと、主人公であるマリー=ジョゼフの性格のためという結論に達します。もちろん音楽や絵画の才能を持ちながら、「男性社会」の枠組の中で押さえつけられるフラストレーションというものは良く分かります。ところが彼女が選ぶ解決法、これがどうもいただけないのです
- 彼女が自身の振りかざす「人魚救出」という大儀を貫くためにすることは、あまり現実的とはいえません。「封建社会の中で人間として行動しようとする女性」を描くのに、その問題解決方法が「男性の義侠心に訴えること」や「権力者への(脅迫的な)哀訴」という手段では、あまりにヒロインの存在理由とかけ離れているのではないかと思います。歴史改変小説で、その当時の社会的枠組の中で行動するという前提があるのは致し方ないのですが。。。
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