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アーシュラ・K・ル=グイン
Ursula K. Le Guin
こと      は       
言の葉の樹

訳:小尾芙佐


bk1で購入

  • 惑星連合エクーメンの観察官サティは、「科学的」に生産性を上げ惑星外進出を標榜する「独裁企業体国家」が圧政を敷く惑星アカに赴任する。惑星アカでは「反動的」だとして古い象形文字で書かれた書物や壁画などが徹底的に焚書・破壊されていた。彼女は失われつつある伝統文化を求め、僻地へと赴くことになる。そこで出会った<語り>とは・・・
  • 本書はここ近年の世界情勢を考えると実に興味深い暗喩に満ちており、当てはまる事例には事欠かない。「国家による宗教弾圧」と「宗教団体による言論弾圧」は表裏一体であり、その志向する先が「外」か「内」かの差はあっても、どちらも「狂信的」であることに変わりはない。「神」や「国家」が定めた「絶対的な善悪のルール」に全てを委ねた時にどれほど人間が残酷になれるかは今までの歴史が実証している
  • 話の中心となる惑星アカの<語り>は人々の生き方の積み重ねであり手本であり、繰り返し語られることで人々に「生きること」を示していく。<語り>は善悪を定めない。人々はそれを聞くことで自らの行動のバランスを律するのである。神のない安寧をル=グインは描きたかったのだろうか。ちなみに原題は“The Telling”でそのものズバリ<語り>であり、話の筆致もそれに相応しく透徹としたものである。話の骨子は文化人類学者による「失われた文化の再発見・再評価」であるが、善悪という二元論を「客観的に評価」しようとする試みは面白い
闇の左手

訳:小尾芙佐

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  • 複数の惑星連合であるエクーメンの使節ゲンリー・アイは惑星ゲセンをエクーメンに加盟させるべく、単身カルハイド王国に着陸した。そこに暮らす人々は古代ハイン人の実験によるものと思われる雌雄同体の「完全体」を持つ人々であった。異星人の存在を頑として信じようとしない人々の間で、アイの存在は権力を取り巻く権謀術数のうちに取りこまれてゆく
  • ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞した作品である本書は、ル=グインの非常に実験的な小説といえよう。というのも性差が繁殖期以外に意味を持たない世界という設定では、「人間対人間」の関係しか存在しないからである。ゲセン人は26日周期で「ケメル」と呼ばれる繁殖期に入るが、そのとき雌体になるか雄体になるかはまったく決定されない。誰もが父となると同時に母となる可能性をもっているのである。もちろん社会構造(王政、官僚制)による個人への統制はあるが、個人が社会に果たす役割は基本的に平等なのである
  • SF小説は「科学的」に論理の破綻がなければ、基本的にどんなジャンルの話でも内包することができる。「男女の差」がないという反語的な内容も、女性を全面に押し出すのではなく、人間としての存在を問う、本来の意味での「フェミニズム(男女同権主義)」に最も適したものなのではないだろうか
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