アイザック・アシモフ
Isaac Asimov
小悪魔アザゼル18の物語
訳:小梨 直
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- アシモフの短編集である本書は、「悪魔のような形をした奇妙な生き物」を呼び出すことができるというジョージなる人物が語る話を、聞き手の作家(アシモフを暗示)が発表する形式を取っています。ジョージが作家をこき下ろす場面からは、批評家による辛口の論評をアシモフがどう感じ、どう受け止めていたかを読みとれるのではないでしょうか。またこの話が本にまとめられるまで、かなりの紆余曲折を経たエピソードも掲載されていて、アメリカ出版業界事情を垣間見る気もします
- 先祖伝来の悪魔書によってジョージが呼び出したのはなんと体長2センチの「アザゼル」と名乗る悪魔にそっくりの生き物だった。「人助けにしか力を使わない」と公言するアザゼルの裏をかき、何とかして自分の利益を実現しようとするジョージ。そのことが引き起こすナンセンスな結末は「人を呪わば穴二つ」を地で行っている
- ちなみにこの「アザゼルシリーズ」の作品はダン&ドゾワによる猫に関するアンソロジー『不思議な猫』にも掲載されているので、興味のある方は是非一読をお奨めします
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鋼鉄都市
訳:福島 正実
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- 人口増加による食糧危機を回避するため、緻密に設計された鋼鉄のドームの中で厳密な階級制に基づいて運営される未来の地球。初期の宇宙移民の子孫であり、現在の地球の支配者である「宇宙人」が住む「宇宙市」の存在と、作業ロボットの開発による労働者の人員整理が閉鎖的な社会にさらなる心理的圧迫をかけている
- 出入りを厳重に制限された宇宙市の中で宇宙人が殺された。容疑者は地球人と主張する宇宙国家に対し、その疑念を果たすべく地球人の刑事イライジャ・ベイリはやむなく宇宙人の作ったロボット、R・ダニール・オリバーと行動を共にし、事件の解決を図ることになる
- 閉鎖的な社会の自己防衛本能ともいうべき「排他性」や、共同体それ自体が構成人員に強要する心理的操作、また人間がロボットに感じる奇妙な劣等感と優越感が実にうまく描かれており、とても半世紀近く前に書かれたとは思えない迫力です。さすがSFの傑作といわれる所以でしょう
- SF推理小説というのが一番ピッタリくる言葉でしょうし、事実SFという概念の可能性の広さを裏付ける形態の小説だと思うのです
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はだかの太陽
訳:冬川 亘
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- 人間に対するロボットの比率が極端に高い星で起きた殺人事件。現場には被害者とロボットしかおらず、その「ロボット三原則」ゆえに疑われたのは被害者の妻だった。宇宙国家側の要請を受け、イライジャ・ベイリは再びR・ダニール・オリヴォーと事件の捜査に着手する
- 人口増加ゆえに殻を作り閉鎖的な階級社会を構成する『鋼鉄都市』を描いた前作のプロットを受け継いで書かれたのがこの本。今回もSF的世界を基本とした推理小説が展開されています。多少の深読み・うがちすぎを覚悟で考えれば、前作でも本書でもSFや推理小説というそれだけでも独立したジャンルとなりうる要素に加え、社会科学や心理学などの要素が加えられ、人間社会の将来に対する問題提起がさりげなくなされているように思われます
- 社会としても人間個人としても、閉鎖された空間に長い間置かれることの不自然さ、社会的生活を放棄するともいえるロボットの多用、そして不自然な社会生活に子供を適応させるための教育方法など、作品が書かれてから40年以上経つ現在にも潜みうる危険性を鋭く見つめる視点はさすがアシモフとうならざるを得ません
- 題名の『はだかの太陽』ですが、閉鎖社会に暮らす地球人としては、強制的とはいえ驚くほど「開かれた世界」への接触度が高いベイリがたどり着いた「地球人を破滅から救う」結論のキーワードだといえましょう
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