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塩野 七生
Nanami Shiono
緋色のヴェネツィア
―聖マルコ殺人事件―

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  • 史実に沿った歴史物を手掛ける著者が、珍しく架空の人物を主人公に据えたミステリー仕立ての歴史小説。ヴェネツィア共和国元老院議員マルコ・ダンドロと謎の遊女オリンピアを主人公に、16世紀前半における権謀術数が渦巻く地中海世界を描いている
  • 著者自身が「この三部作の真の主人公は、人間ではなくて都市です」と解説するように、16世紀前半のヴェネツィアの様子が余すところなく描かれている。そしてヴェネツィアが、独立国家としての地位を守るために取り続けた、巧妙かつ微妙な外交戦略の描写は、マルコの心理的葛藤とあいまって、読み手に「貿易国家」の脆さと非情さを強く印象付けている
  • 文体は写実的な描写で、まさに「活写」と言うに相応しい。とかく歴史小説というと、人物や風景の描写が冗長になりがちなのだが、それをまったく感じさせないのが塩野七生の特長。テンポの良い文体は最後まで読み手をあきさせない
  • 題名の『緋色』は都市国家ヴェネツィアの国旗、聖マルコの獅子を金糸で縫取った旗の地色。帆柱にこの緋色をはためかせた貿易船が、地中海で威風を払っていた時代の物語
銀色のフィレンツェ
―メディチ家殺人事件―

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  • 今回の舞台は『花の都』がその名の由来のフィレンツェ。前作で公職追放を言い渡されたダンドロが、旅先に選んだフィレンツェで再び陰謀の渦に巻き込まれる
  • フィレンツェが絶対君主制国家へと変貌するきっかけとなる「アレッサンドロ公爵暗殺」をからめ、当時のフィレンツェのヨーロッパにおける位置付けを浮き彫りにしている。また、文中でダンドロがフランチェスコ・ヴェットーリ(フィレンツェの名門貴族政治家)と、マキアヴェッリ流に陰謀について論じるのも、当時の政治観を著者がどう捉えているかが端的に分かるので興味深い
  • これに色を添えるのが、ダンドロとオリンピアのロマンス。また、彼らの目を通して描かれるフィレンツェの日常生活が、話全体に厚み(=リアリティ)を持たせている。題名の『銀色』はフィレンツェを流れるアルノ河を、「銀色のアルノ、黄金のテヴェレ」と詩人が歌ったことによるもの。「都市が主人公」というだけに、アルノ河を中心に都市の風情を描いたくだりは、さながら紀行文のよう。是非じっくりと読んでいただきたい
黄金のローマ
―法王庁殺人事件―

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  • 三部作最後の舞台は「永遠の都」ローマ。設定自体がダンドロの公職追放中の旅なので、前半部分のほとんどがローマ(16世紀前半)とその周辺の描写に費やされている。イタリア在住の著者が、肌で感じて書いたに違いない細やかな言葉遣いは、まるで自分がその場に立っているような臨場感がある
  • 後半部では、ヴェネツィア出身の枢機卿ガスパル・コンタリーニを登場させ、プレヴェザの海戦(ヴェネツィアが初めてトルコに敗北した海戦)のエピソードを入れることで、当時のヴェネツィアを取り巻く情勢とその威風の翳りをも書き込んでいる。(この海戦に敗北したことで、ヴェネツィアは徐々に国力を衰退させて行く)
  • 「水の都」、「花の都」、「永遠の都」とイタリアを代表する三都市に、著者は相応しい色付けを施している。題名の『黄金』は「銀色のアルノ、黄金のテヴェレ」と詩人が歌ったことによるのだが、冒頭部分にあるモンテーニュの旅行記を写したという、ローマが永遠の都である理由を読めば、その訳もわかると言うもの
  • 『すべての国の歴史は、もっとも華やかに見える時期こそが「終わりのはじめ」であったことを実証している』と著者も言うように、この三部作はヴェネツィア共和国の繁栄と豪奢なイタリアルネサンスが、終焉へと向かう様を描いている
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