[HOME]
[本棚(FRAME/NO FRAME)]
[一覧に戻る]
斎藤 美奈子
Minako Saitou
妊娠小説
  • とにかく「お腹を抱えて笑える」文芸評論。この本の切り口は、その題名の通りずばり「妊娠」で、日本において隠然と扱われてきた「妊娠小説」なるジャンルを追求するもの
  • その資料分析の仕方が徹底しているのが、妙に笑いを誘うところ。冒頭にもあるが、この本で言うところの妊娠は「望まない妊娠」だとのことで、戦前から1990年代までこのテーマを扱う作品を50作近く取り上げている
  • まず、明治時代の「堕胎罪」制定の解説からこの評論は始まる。私も知らなかったのだが、現在に至っても刑法二一二条としてこの「堕胎罪」は制定されつづけているという
  • 次に時系列順に「妊娠小説」の変遷が語られてゆき、最後に「スコアボード化」、「妊娠濃度」による小説分類が行われている。この「スコアボード化」の作業が、読んでいて失笑と言うか思わず笑ってしまうところ。なんとサンプル小説の全行数のうち、何行目で「妊娠」が取り上げられたかを数値化するのだ。「濃度」の方は著者が定めた「妊娠濃度チェック」の結果の分類なので、やや客観性に欠けるところが難点
  • なんと森鴎外の『舞姫』が、著者によれば「妊娠小説の草分け」とされてしまうので、日本の近代文学を新たな目で見るきっかけになるかも知れない(ヲイヲイ)
  • 「おわりに」でも述べられているのだが、この「妊娠」というテーマは、鏡のような作用で日本社会における「避妊」、「中絶」の捉え方をも描き出している。著者の書き方はやや切り口上なので、合う合わないはあるだろうが、時代の空気によって巧みに作り上げられる「妊娠」というテーマについて、考えてみるには良いのではないだろうか
go top

HOME   [本棚(FRAME/NO FRAME)]   一覧に戻る

ご意見・ご感想はこちらまでお願いします
mitosan1999@yahoo.co.jp