ヨーロッパの不思議な町
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- シュルレアリスム研究家として名高い岩谷氏のヨーロッパ紀行エッセイ。東欧から南欧、北欧、イギリスとその遍歴は幅広い。多くは夫人を伴っての紀行であるらしいが、その視点は飽くまで岩谷氏個人の目であり、そこから切り取られる風景は氏の記憶の中の風景と相俟って、現実と夢の狭間を彷徨うようでもある
- 解説の四方田氏の言葉を借りれば、それは「既視感(デジャ・ヴュ)と未視感(ジャメ・ヴュ)とが一瞬にして混じりあう」所に生まれる感覚(未視感とは知っているはずの風景があたかも初めて見る風景であるように見える感覚)である。ガイドブックや書物の知識を離れ、「体験」を通して町を眺める時、町は既にある姿を変え『不思議な町』へと変貌を遂げるのだ
- しかしこの「変貌」を楽しむのも「離れる拠り所」である知識があってこそ。著者のヨーロッパへの深い造詣が、エッセイのそこかしこであたかも万華鏡の色彩の一片のような煌めきを風景に添えている。「知識」を離れた「体験」から得たものを、また「知識」へとフィードバックさせてゆくことこそ「日常」から「不思議」を切り離し、それを味わう作業なのではないだろうか
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