ジェイン・ヨーレン
Jane Yolen
水晶の涙
訳:村上 博基
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- 抒情派ファンタジー作家ヨーレンのジュブナイル・ファンタジー。偶然、人間に姿を見られた人魚の娘メルーシナは、「人間に見られた」という最大のタブーを犯した罰として人間に姿を変えられ海から追放される。一方彼女の姿を見たジェスは溺れていたメルーシナを見つけ、介抱する。互いの言葉が解らない二人は「手話」で気持を通じさせてゆく
- ファンタジーと言う形を借りてはいますが、二人の娘が出会って互いの欠けている部分を見つけ、成長してゆく物語は正に「ジュブナイル」だと思います。「人魚は水晶の涙を流す」や「人魚には舌が無い」などの伝説を巧みに取り入れているところがヨーレンの読ませ所です
- 原題の“THE MERMAID'S THREE WISDOMS”は文中で重要な意味を持つ「三つの知恵」そのものを指すので、訳題はかなりファンタジー色を意識したものになっていると言えます
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三つの魔法
訳:宇佐川 晶子
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- ヨーレンの民話風ファンタジー。モチーフとしてはアンデルセン童話が感じられますが、独特の教訓である『魔法には結果がつきものである』は「すべての自然は微妙なバランスを保っている」とも説明され、私には生態系のバランスをも表わしている様に取れました
- 原題は“The Magic Three of Solatia”=「ソラティアの三つの魔法」、ソラティアは舞台となる国の名前です。物語は愛した王子のために人魚が作った3個の魔法の銀のボタンがもたらした結果についての4つの物語。書き口は子供向けのようでも所々に「大人の恋愛」のエピソードが挿まれ、大人でも楽しめる作品に仕上がっています
- 解説にヨーレンのインタビューが掲載されており、彼女自身のファンタジー論が端的に紹介されています。「ファンタジーとは何か」と考える上で、作家側の貴重な意見だと思います
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夢織り女
訳:村上 博基
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- 「現代のアンデルセン」とも言われるヨーレンは、エピックファンタジー作家の多いアメリカにおいては珍しい、純粋な妖精物語の作り手です。この本はそのヨーレンの妖精物語3冊をまとめた日本版短編集
- ヨーレンの物語がどこか物悲しいのは、人間が捨てようとしても捨て切れない叶わぬ夢や希望が詰まっているからではないでしょうか。特に「白アザラシの娘」や「人魚に恋した乙女」にその傾向が強いと思います。少々難を言うとすれば、後半の作品に見られる強いフェミニズム論が僅かながら見え隠れする事です
- 個人的にお薦めする話は「いつか(Somewhen)」という作品。もちろん英単語にsomewhenはありませんが、これは文中の台詞“I traveled some when I was young.(若い頃、いくらか旅をしたことがある)”から来たもの。若さゆえの奔放と老いゆえの安定を、やんわりと対比させた話もさることながら、題名のセンスの良さに脱帽しました
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