心地よく秘密めいたところ
訳:山崎 淳
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- 都会派ファンタジーの名作と言われるこの作品は、登場人物の数が極端に少なく、しかもその半数近くが鬼籍の人という、他には類のない小説
- 今から50年以上も前に書かれた作品ですが、その切なさやほろ苦い読後感に古めかしさは感じられません。舞台はニューヨークの墓地なのですが、きっと今でもこのような所がどこかにあるのだろうと、思わずにはいられません
- 舞台が墓地で、登場人物の半数が幽霊と聞いて「ホラーでは?」と思う方もいるでしょうが、この話は違います。人は何をもって「人としての生」を享受しうるのか、何をもって「愛」するのかを丁寧に描いた作品なのです
- この話を読んで一番に連想したのは芥川竜之介の『六の宮の姫君』を扱った話で、山岸涼子(漫画家)の短編「朱雀門」に出てくる2つの言葉 (興味のある方は、秋田書店プリンセスコミックス「笛吹き童子」ISBN4-253-07670-X C0279 本体価格379円をどうぞ)
- 「『生』を生きない者は、『死』をも死ねない」と「『生』とは生きて生き抜いてはじめて『死』という形で完成する」というその言葉は、現実社会に適応できずに墓地で暮らす生者と、『死』という現実に適応できずに墓地をさ迷う死者とが感じている「現実に対する居心地の悪さ」とイコールであるように思えるのです。そうして現実から逃避した時、生者と死者との間に幾許の差があるというのでしょうか。『心地よく秘密めいたところ』とは、生死に関係なくまるで母の体内のように「現実」から身も心も守ってくれる、そんな場所なのだと思います
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