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[アンソニイファンタジー作品]
ピアズ・アンソニイ
Piers Anthony
カメレオンの呪文

訳:山田 順子
  • 1978年英国幻想文学賞受賞作。しっかりした世界設定は読む人を飽きさせません。といってどっぷりとファンタジーに浸っているかといえばそんなことはなくて、随所に現実世界が反映されていて全体としてかなり「人間くさい」仕上がりです
  • 誰もが独自の魔法の力を1つ持つ国ザンス。シチュエーションとしてはファンタジーの王道といえるでしょう。ところが1つの魔力しかないので、どんなに強力な魔力の持ち主(=魔法使い)でも何かしら弱点があるというのが話のポイント
  • でもこの話って主人公ビンクの成長小説だと思うんですよ。自分の魔法の力を証明できないコンプレックス人間ビンクが様々な困難に遭遇することで、最終的には驚くべき自分の力に気付かされ、一人前の男としての充足感を得るわけですから。(=成長させられる小説?)
魔王の聖域

訳:山田 順子
  • これを読んで一番に思ったこと。「ピアズ・アンソニイの奥さんのマタニティーブルーってそんなにひどかったのかなぁ」
  • 今回の話の発端はビンクの奥さんがひどいマタニティーブルーになったこと。それを避けるためにビンクは「ザンスの魔法の源を探す」というとんでもない旅に出るわけです。様々な冒険をかいくぐり、戻ってきた頃には無事に子供も生まれ、奥さんの機嫌も直っているという世の男性には羨ましい(?)話なのではないでしょうか
  • テーマは「人間らしさの条件」と「愛のかたち」というところでしょうか。この巻あたりから徐々に「フィルクストーリー」=駄洒落やもじりなどをおりまぜたユーモア小説への方向転換が始まります
ルーグナ城の秘密

訳:山田 順子
  • 子供の頃に誰もが思う「大人になりたい」という夢が実現するのが今回の話。主人公もビンクの子供ドオアへと代替わりします。ビンクは問題を起こしすぎたためか魔法の全く通用しない国マンダニア(=現実の世界ということらしい)へ派遣されている設定です
  • 子供の心のまま大人になる(有名なのはトム・ハンクス主演BIG)と、子供の純粋さが大人の堅い頭や疲れた心を変えてゆくんですが、ここでは大人ゆえに直面せざるを得ない「自分の行動の結果」への責任感をドオアがどう感じるかに焦点が当てられています
  • つまるところ、「人間は成長するために何を失い、何を得るのか」がテーマと言えましょう。ドオアの淡い初恋の行方も気になるところです
魔法の通廊

訳:山田 順子
  • ドオアも十六歳になったのですが、男の子のご多分にもれず書き取りが大嫌い。というわけで、ドオアの爆笑フィルク作文からこの話は始まります。実はこのドオアの書き取り嫌いが今回の重要なキーワードになるのですが、詳しくは本の裏表紙のあらすじで
  • 原題を“CENTAUR AISLE”といい、字義でゆくと「セントールの島」「セントールの通廊」の両方に取れるわけです。ここが前半のキーワード。後半には同音異スペル(日本語で言う箸と橋ですね)がキーワードになります。そうです、この本は真面目なフィルクストーリーです
  • 今回のテーマはずばり「帝王学」。ドオアが「権力」の使い方とそれに対する責任、外交術についてつまづきながら学ぶ、冒険ファンタジーです。なんとドオア君は両親に距離を置かれて大変さびしい思いをしているらしいのです。「権力を持つ者の孤独」にもふれているので、途中センチメンタルに過ぎるかもしれませんね
人喰い鬼の探索

訳:山田 順子
  • ザンスシリーズもここまで来ると「ザンスは駄洒落で出来ている国」と説明文が入るようになり、本格的にフィルクストーリー化しています
  • この巻も第2世代のキャラクターが主人公ですが、お馴染みのドオアやイレーヌはほとんど出てきません。題名の通り「人喰い鬼(=OGRE)」が主人公。原題も“OGRE, OGRE”とまんまですが、これはW・ブレイクの詩“TIGER, TIGER”のもじり。また人喰い鬼と一緒に女性7人が旅をする話なので、『白雪姫と七人の小人』を逆手にもじっているといえるかも
  • 余談ですが、このブレイクの詩はかなり作家の想像力を刺激するようです。早川文庫FTの中でもタニス・リーが『タマスターラー』の中でこの詩を下敷に短編を物しています
  • 今回のテーマは「アイデンティティの確立」と「異種族間恋愛は成り立つのか」。ところが、ザンスの成り立ちや魔法のあり方など、小説の世界設定を中心にかなり書き込んでいるので、テーマの方がオマケみたいな読後感。もちろん面白いのですが、「外伝」のような意味合いで読んだ方がより楽しめそうです
夢馬の使命

訳:山田 順子
  • この巻は原題を“Night Mare”といいます。スペース無しの“Nightmare”であれば「夢魔」の意味ですが、ここでは別々の単語なので「夜の牝馬」と訳せます。そう考えるとmare=牝馬の字義をおりまぜた「夢馬(むま)」という言葉は日本語のもじりということで、原作の意図を汲んだ大変センスの良い訳語だと言えます
  • ところで西洋で「夢魔」というと、寝ている人を窒息させる魔女のこと(インキュバス・サキュバスも夢魔と訳されますが、こちらは淫らな夢の運び手)だそう。夢馬がイメージ投影で黒衣の美女の姿を使うのも、これに拠るのでしょうね
  • またこの巻は、4作目同様まじめなフィルクストーリーでもあります。キーワードは「馬の乗り手(horse man)にご注意あれ」の一言。あまり説明するとネタバレになるので、わざわざ(horse man)とあるのに注目して読んでください(山田さんの訳は本当に凄い)
  • 今までザンスのシリーズは男性中心で進んできましたが、この巻では女性の立場がやや向上された(といってもザンス社会における地位なのですけれど・・)ように思います。女性キャラクターの性格は、相変わらず「見通しや詰めが甘く、いざとなったらビビる」タイプが多いといえます
王女とドラゴン

訳:山田 順子
  • 7作目のこの巻で物語もいよいよ第3世代に突入しました。ですが物語はザンスシリーズ初のオムニバス形式で語られて行きます
  • オムニバス形式と言うことは、登場人物や場所の数がより多くなるということです。構成要素は多いほうが、話に厚みが出て良いのですが、この巻ではなぜか「魔法の国ザンス」の構成要素に神話的要素までが加わりました。いかに話に厚みを持たせるためとはいえ、これには少々興ざめの感が否めません
  • この巻でも「異種族間恋愛」という問題が、形を変えて取り上げられています。ザンスが成立する上でも「種の混合」は重要なポイントですが、それを少々ひねった形で新たな可能性が提示されます
  • 始めの方は単発のエピソードが多かったシリーズですが、徐々に次回作への複線が張られ出し、この巻あたりから前作のエピソードをどこかで引き継ぐ形が出来あがって行きます
幽霊の勇士

訳:山田 順子
  • この巻の主役は、6作目で夢馬を助けた幽霊です。幽霊とは記憶があやふやになるものらしく、王女アイビィがいわば「進行役」として魔法の力で幽霊の記憶を補い、400年前のザンスの歴史を語ってゆきます
  • 3作目で、ルーグナ城がどのように築城されたかはすでに語られていましたが、なぜトレント王を迎えるまで荒廃するにまかされていたかは謎のままでした。その謎が明らかになるのもこの巻です
  • 幽霊は400年前に生きていた時、野蛮人でした。冒険を求めて故郷を旅立った彼に、ザンスの荒野の危険や文明化された社会に住む人々の罠が、次々と振りかかってきます。原題の“CREWEL LYE”は「残酷な嘘」の意味で、第15章の題でもありますが、単純な野蛮人を翻弄する、性根のねじくれた文化人を、チクッと皮肉った題とも言えるでしょう
  • 今回のテーマは「人を愛するということ」ではないでしょうか。冒険を求め故郷の恋人を捨てた野蛮人、本当に愛するものを守るために「嘘」をつき通さねばならなかった女、恋人が去ったらすぐに次の恋を手に入れた女・・・。幼い王女アイビィを狂言回しとして話が展開するので、あからさまではありませんが、「素直でない」大人の恋愛論とも言えます
ゴーレムの挑戦

訳:山田 順子
  • 今回の主役は、ついにというかやっとというか、ゴーレムのグランディです。グランディは2作目で自分の一番の望みを叶えたものの、その後の自分に対する評価が相変わらず「自分の背丈並」にしか過ぎないことを気に病んでいます
  • そこでグランディは自分の評価を見直してもらうべく探求の旅に出ます。その中でグランディは「人から尊敬されるには何が必要なのか」を体験して行くのです。原題は“GOLEM IN THE GEARS”です。GEARは工具の意味ですが、Sが付いているのにご注意下さい
  • 今回のテーマは「真のパートナーとは」もしくは「パートナーシップ」でしょう。グランディが真のパートナーを救うために立てた作戦が、そのことをよく表わしていると思います
  • 久しぶりにビンクやチェスター、アーノルドが登場します。そしてザンスシリーズの新たな敵役が登場するのもこの巻です。それが誰なのかは読んでからのお楽しみです
悪魔の挑発

訳:山田 順子
  • 良き魔法使いハンフリーが一家ごと失踪し、その問題にかかり切りになったルーグナ城では、悪魔に一族の住む谷を乗っ取られた掘り屋一族を手助け出来ない。困っている掘り屋一族のヴォルニーを助けようと、人食い鬼とエルフの血を1/4づつ引く人間のエスクと翼を持つセントールのチェクスは、血縁の種族の助けを借りる旅に出る
  • これまで繰り返し「異種族間結婚」が取り上げられてきたザンスですが、ここに来てその弊害にも触れるようになります。一族の「純血」を重んじるあまり排他的になった種族の壁が、エスクとチェクスの前に立ちはだかるのです
  • その壁を叩き壊すでもなく、壁を見上げて足踏みするでもなく、エスクもチェクスも自らの内面を変えることで事態を乗り切ってゆきます。その小道具が催眠ひょうたんなのですが、精神分析の要素がかなり取り入れられている点に注目
  • 原題“VALE OF THE VOLE”は字義でゆくと「茅ねずみの谷間」なのですが、掘り屋一族のヴォルニーの外観からして茅ねずみに似ているので、おそらく「掘り屋一族の谷」の意味でしょう。訳題が『悪魔の挑発』であるワケは多少のネタバレを含むので省略です
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