−第四編 回想〜星空の下で〜−



 リリリィ・・・・、リリリィ・・・・。

 夜の闇に包まれた森の中に、虫たちの羽音が響く。

 無限の生命を育(はぐく)む森は、時間と共に違った音色を奏でる。昼の森は鳥や小動物、そして夜は夜行性の動物や虫たち。それが、悠久の過去から続く森の営みなのだ。

(そういえば、森が美しいと思えたのはこの世界に来てからだな)

 ふと、ガルアはそう思った。

 絶えず薄暗い魔界の森。確かに森は恵みをもたらすものであったが、ただそれだけでしかなかった。ダークエルフのように森と共に暮らしているわけでもないので、神聖視したこともない。

 それはなぜか。

(人間界の森は、様々な顔を見せる)

 だからこそ美しいのだ。魔界のように、たった一つの顔を持つことがない。

 なぜかくも別々の世界が生まれたのだろうか。両方の世界を見てきたガルアには、そんな疑問が浮かんでくる。

(”混沌”(カオス)から生まれた、”天”と”大地”。”大地”には二つの世界があり、すなわち”魔界”と”人間界”・・・・)

 ガルアは創世神話を呪文のようにつむいだ。もし二つの世界が生まれたことが神の営みであるのなら、ガルアは神に文句の一つでも言ってやりたかった。なぜに不平等に世界を創造したのかと・・・・






 グレイア山におけるアシュラとの戦いのあと、アレウス達は”ジャスティス”の隠れ家に向かっていた。今はその中間点に当たる森の中。皆は思い思いの場所に横になり、睡眠をとっている。

 ガルアの横では、アレウスが安らかな寝息を立てていた。

(こいつが魔界の王なのだからな・・・・)

 ガルアはわずかに笑みをこぼす。野宿している姿がこれほど合っている王が、はたして今までいただろうか。

 人間界で旅をするようになって、一つ気が付いたことがある。それは、城にいたときよりもアレウスが生き生きとしていることだ。笑みを見せる場面も増えたし、ずっと親しみやすい。

(これもお前の姿なのだな)

 王としてのアレウスの姿。そして、一人の旅人としてのアレウスの姿。そのどちらもアレウスであり、どちらもガルアは好きだった。

(のちの魔族は、お前のことをどう呼ぶのだろうかな)

 良い意味でも悪い意味でも、アレウスはその名を残るだろう。

(優れた才能を持った名君か、城を放っぽり出して旅に明け暮れた無責任な王か。それとも、世界を救った救世主か。なあ、アレウスよ・・・・)

 そう思ってアレウスの方にチラリと視線を向けていると、闇の中で一つの影が起き上がった。

(誰だ?)

 ガルアはすぐにその方向に目を向ける。シルバーウルフは夜目が効くので、その影が誰だかすぐ分かった。

 影は頭をかきながら、二、三度辺りを見回す。そしてガルアが起きていることに気付いたのか、眠い目を擦りながらフラフラと歩み寄っていく。

「眠れないのか?」

 ガルアはその男、フォルスに声をかけた。

「まあな」

 フォルスはガルアの隣に来ると、静かに腰を下ろす。

「お前こそ寝ないのか?」

 反対にフォルスがガルアに訊ねた。

「見張りだよ。腹を空かした猛獣が襲いかかってくるかもしれんし、この世界にはもっとタチの悪い輩(やから)がいるからな」

「見張りだったら、俺達に任せてくれよ」

 フォルスの言うとおり、”ジャスティス”の戦士達が交替で見張りについていた。ガルアは自分から見張りを続けていたのだ。

「今までこうやって見張をやっていた。急にやらなくていいと言われてもできんよ」

 アレウス達と旅を続けていたときも、アレウスを除く全員で交代しながら見張りを続けていた。だが慣れない見張りにいい加減疲れてしまったのか、他のみんなはもう見張りをやめてしまった。

「まじめなやつなんだな」

「好きでやっているんだ。気にしないでくれ」

 実際に見張りは嫌いではなかった。綺麗な星空がいつまでも見られるのだから。

 それからお互い無言のまま、しばらく時が過ぎた。そして、フォルスが再び口を開く。

「なあ、アレウスのことを教えてくれよ」

 真っ直ぐ正面を向いたまま、フォルスは呟くように言った。

「アレウスのことだと?そいつはまた唐突だな」

 予期もしない言葉に、ガルアは一瞬戸惑った。

「レーテから聞いた話じゃ、俺もアレウスもテティスという女神から生まれたらしいじゃないか。ってことは、俺達は兄弟ってことだろ。遠い遠い兄弟だけど」

 神を滅ぼす予言の勇者を産むとされる女神テティス。彼女はある事件をきっかけに、魂と肉体が分離してしまった。そして、テティスの魂を宿した魔界の王女ヘレネから生まれたのがアレウスであり、肉体から生まれたのがフォルスなのである。つまり、二人ともテティスの血を引いているんだ。

 もっとも父親は違っている。アレウスの父親は先代の魔王レアノスであり、フォルスの父親は神ゼノアだ。

「だからさ、少しアレウスのことを知りたいんだよ。ガルアはいつもアレウスの側にいるだろ。だから、アレウスのことをよく知っているのかと思って聞いたんだ」

(”兄弟”か・・・・)

 その言葉がガルアの心に重く響いた。

「アレウスと俺は、ちょうど同じ日の同じ時に生まれた」

 それから何かを決したように、ガルアは話し始めた。

(構わないよな、アレウス。お前の本当の兄弟なら)

 相変わらずアレウスは眠っている。そのアレウスに、ガルアは心の中で呟いた。

「アレウスが生まれたときのことは知っていると思うが、死んだと思っていたヘレネ様が生き返り、アレウスを産むのと同時にまた死んでしまった」

 そう、あれは十八年前の魔界での出来事・・・・




「疲れたでしょう。少し休んだら」

 ベットの横の椅子に腰掛けている若者に、ヘレネはそっと声をかけた。

「す、すいませんヘレネ様。看病中に寝そうになってしまって」 

 若者はハッと目を覚まし、椅子に腰掛け直す。ずっとヘレンの側についていたせいか、若者はついウトウトと眠くなってしまったのだ。

「ヘレネ様、ご気分はどうですか?」

「大丈夫よ、ゼノン」

 若者の名はゼノン。将来、アレウスの補佐役となる魔導師だ。まだこの時は見習いの魔導師で、病に伏せていたヘレネの世話をしていた。

「なんだか顔色が優れないわよ」

 付きっきりで看病しているせいか、ゼノンの表情には疲労がたまっている。

「大丈夫ですよ。僕はまだまだ若いんですから」

 例えどんなに疲れた顔つきをしていようとも、ヘレネの顔色と比べればまだましだろう。ヘレネの顔色には、もはや生気すら感じられないのだから。

 ヘレネが病気で倒れたのは、今からおよそ半年ほど前。始めは微熱が続く程度であったが、いつまでも治ることはなく、かえってその症状は悪化していった。

 それからしばらくして、ヘレネが冒されている病気は不治の病であり、さらにヘレネが赤ん坊を身籠もっていることが分かった。その間にも確実にヘレネの身体は病気にむしばまれ、今ではベットから起き上がることすらできない。

 一番心配されたのは、ヘレネの身籠もった赤ん坊であった。病気が悪い影響を与えないだろうか。出産までに、ヘレネの命は持つのだろうか。すべては時間との戦いであった。

 ヘレネの看病には、ダルダースという魔導師とその息子のゼノン、そしてゼルフという闇司祭がついた。彼らの使命は、ヘレネの命を延ばし、何としても赤ん坊を産ませることであった。

「ゼノン、今まで本当にありがとうね」

 力のない声でヘレネが語りかける。

「ヘレネ様、いったい何を言い出すのです?」

 突然の言葉に、ゼノンは思わず腰を浮かせた。

「あなたのおかげで、どれほど元気づけられたか」

「そんなこと言わないでください。ヘレネ様はまだ大丈夫ですよ」

 初めて聞くヘレネの弱気は言葉であった。つい昨日までは、赤ん坊を産むまで頑張ろうと誓い合っていたはずなのに。

「自分の身体のことは自分が一番分かっています。私はもう、長くはありません」

「しっかりしてくださいよ、ヘレネ様!」

 何とか元気づけようと、ゼノンはヘレネの手を強く握った。だがその手は氷のように冷たく、浮かべている笑みは、太陽のような輝きを失っていた。

 元気であった頃のヘレネの姿が、今のヘレネの姿と交わる。その瞬間、ゼノンの身体を何かが突き抜け、そして涙がこぼれた。

「約束したじゃないですか、赤ちゃんを見るまで頑張ろうって。僕はそのために・・・・」

 すすり泣きながら、ゼノンは崩れるように椅子の上に座る。

「ゴメンね、ゼノン。でも、最後にあなたに伝えておきたいことがあるの。私がつけようと思っていた赤ん坊の名前。それは・・・・」

「それは?」

 ゼノンはそっと耳をヘレネに近づける。

「赤ん坊の名前は・・・・」

 最後に、ヘレネの唇が四つの言葉をゼノンに託した。そしてその直後、まるで糸の切れた人形のように、ヘレネはベットの上に倒れ込んだ。

「ヘレネ様?」

 ゼノンが茫然とヘレネを見つめる。

「ヘレネ様ー!」

 ゼノンは何度もヘレネの身体を揺すった。しかし、決してヘレネが目を覚ますことはなかった。

「大変だ!ヘレネ様が、ヘレネ様がー!」

 ゼノンは叫んだ。誰でもいい。ヘレネを助けてくれと思いながら。






 ヘレネの部屋が慌ただしさを増した。

「ゼルフさん、早く!」

 息を切らせながらやって来たゼルフを、ゼノンはもどかしく迎える。

「・・・・、分かった」

 だが、ゼルフの顔色は優れなかった。疲れているからではない。一目見ただけで、ヘレネの状態が分かったからだ。

 ゼルフはヘレネの額に手を当てたり、脈を計ったりする。しかしすぐに、ゼルフはその手を止めた。

 その時、部屋にレアノスが入ってきた。その場にいる全員の注目が、次に発せられるゼルフの言葉に集まる。

「ヘレネ様は、天に召されました・・・・」

 一言ずつ噛みしめるように、ゼルフはレアノスの伝える。

 部屋の空気が凍り付いたように止まった。全員が目を閉じそしてうつむいているなか、レアノスはゆっくりとヘレネのベットに近づいていく。

「よく頑張ったな」

 レアノスはそっとヘレネの髪を撫で、優しく声をかける。

「ゼルフさん、何とかならないの?」

「・・・・・・」

 ゼノンの問いかけに、ゼルフは目を背けることしかできなかった。

「ねえってば」

 すがるような目つきで、ゼノンは何度も繰り返した。次第にその力も強くなっていく。

「僕は・・・・、僕はなんて無力なんだ・・・・」

 周囲にいる魔族の眼をはばかることなく、ゼルフの胸に顔を埋めて号泣するゼノン。その気持ちは、ゼノンの心にも痛いほど突き刺さっていた。

(それは、私とて同じだ・・・・)

 ヘレネの命を救ってやることも、その赤子の命さえも救ってやることはできなかった。一番大切な魔族の命を救えなくて、今まで何十という魔族の命を救ってきたことが何になろうか。

(ヘレネ・・・・。何と不幸な女性だろうか)

 悲しみに包まれる中、レアノスのこぼした一滴の涙がヘレネの唇の上に落ちた。

 その瞬間、ヘレネの身体からまばゆい光りが発せられる。

「な、なんだ?」

 目も開けられないほど強烈な光りが部屋全体を覆う。その光りの中で、ゼノンはかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえたような気がした。

 光りはやがて、一瞬で何事もなかったかのようにおさまった。部屋の集まっていた魔族達は、恐る恐る目を開けて周囲を見渡す。

「ヘレネ!」

 最初にそれに気付いたのは、側にいたレアノスであった。

 なんと、ヘレネが胸に男の赤ん坊を抱えていたのである。しかもあれほど蒼白であったヘレネの顔が、うっすらと赤みがかっている。

「おお、ヘレネ様が赤ん坊をお産みになられた」

 赤ん坊の泣き声に包まれる中、部屋は騒然となった。

「まさか!」

 ゼルフが慌てて駆け寄る。ヘレネは確かに死んだはずだったのだ。

 ゼノンはヘレネの呼吸を調べ、そして脈を計る。だが、ヘレネの脈は完全に止まっていた。ゼルフは念のため、生命力を感知する呪文をヘレネにかける。

「どうだ?」

 レアノスが問いかけた。

「生命力は感じられません。間違いなく、ヘレネ様は死んでいらっしゃいます・・・・」

 そう答える自分にも自身はなかった。今のヘレネの姿は、ただ眠っているようにした見えないのだ。

「まさに奇跡としか言えません。赤ん坊を産むためだけに、ヘレネ様は一瞬だけ蘇ったのでしょう」

 自分の言葉がどれだけ陳腐なものかは分かっている。だが、それ以外しか考えられなかった。

「この子が、ヘレネの残した赤ん坊か・・・・」

 レアノスは相変わらず泣き続ける赤ん坊を見つめる。

「レアノス様。ヘレネ様が僕に託した遺言があります。もし生まれてくる赤ん坊が男子であるならば、こう名付けてくれと」

 ヘレネが最後に託した言葉を、ゼノンはゆっくりとつむぎ出す。

「赤ん坊の名は、”アレウス”・・・・」

 ここに、王子アレウスが誕生した。






 時を同じくして、ヘレネの部屋から三つほど隔たった部屋で、別の新しい命が生まれようとしていた。

「がんばれ」

 部屋の中には、シルバーウルフのカップルがいた。メスの方は激しい陣痛に耐え、オスは傍らで彼女を必死に励ましている。

「ううっ・・・・」

 ようやく子供の頭が出てきた。

「もう少しだぞ、しっかり」

 少しでも苦痛を和らげようと、オスのシルバーウフルは何度も彼女の頬を舐める。

「ああっ・・・・」

 最後の一踏ん張りで、ついに子供はこの世界に飛び出した。立派な銀色の毛皮に身を包んだ、オスのシルバーウルフだ。

「見ろ、俺達の子供だぞ」

 オスのシルバーウルフは子供を口にくわえると、メスの前に持ってきた。

「あなたみたいに強くて優しい子になって欲しいわね」

 子供に注がれる母の眼差しには、子供を愛おしく思う気持ちで一杯であった。

「名前はどうしようか?」

「名前?そうね・・・・」

 メスのシルバーウルフは少し考え込む。

「”ガルア”っていう名前はどうかしら?」

「”ガルア”か・・・・。良い名前だな」

 ”ガルア”と名付けられたシルバーウルフの子供は、まだよく見えぬ視界をさまよわせて、母親の乳を捜す。

「さっそくヘレネ様に見せに行こう」

「お願いするわ。この子を見れば、少しは元気を取り戻してくれるでしょう」

 この二匹のシルバーウルフは、もともと小さい頃にヘレネに拾われたのであった。それ以来、ヘレネのことを母のように慕っているし、ヘレネも彼らのことをかわいがっていた。

「そうだと良いがな」

 父はガルアを口にくわえると、それこそ風のような早さで部屋を飛び出していった。

(こいつを見たら、どんな顔するかな)

 きっと喜んでくれるだろう。ヘレネの笑顔が浮かぶ。

 だが彼がヘレネの部屋に駆け込んだとき、ヘレネはすでに息を引き取っていた。ベットの上には、安らかな顔をしたヘレネがいる。まるで、アレウスを産むことができたことを喜んでいるように。

「そんな・・・・」

 ガルアをくわえたまま、彼は立ち尽くした。静まり返った部屋の中で、ヘレネの胸に抱かれたアレウスの泣き声だけが響く。

「ヘレネ様、見てくださいよ。俺達に子供が産まれたんです。名前はガルア」 

 彼は両目から輝く滴を落としながら、ガルアをヘレネの胸の上に乗せた。だがヘレネは、その子を撫でてやることも、抱いてやることもしない。

「可愛いやつでしょ。大きくなったら俺みたいに格好よくなってくれますかね、はは・・・・」

 彼は顔を伏せたまま、ヘレネに語りかける。

 その時、ガルアが隣で泣いていたアレウスの頬を軽く舐めた。すると、それまで火のついたように泣き続けていたアレウスが、嘘のように泣きやんでしまった。

「おお、アレウス様が」

 再び部屋が騒然となった。

 ガルアに舐められ、うってかわって安らかに眠るアレウス。母親にあやされているかのように、アレウスはとても落ち着いている。

(まるで、ヘレネ様の最後の贈り物のようだな)

 彼はふと思った。アレウスへの最初で最後の贈り物。それがガルアなのかも知れないと。 



           


「こうやって、俺とアレウスは同じ日の同じ時に生まれたんだ」

 長い回想を一区切りさせ、ガルアは一息つく。

「なるほどね・・・・」

 フォルスは短く答える。

 まるで叙情詩を聞いているかのように神秘的な話であった。普通の人間が聞けばよくできた伝説だと思うだろうが、紛れもない事実であることはフォルスも知っている。

「それから俺達はいつも一緒にいたそうだ。それこそ目覚めてから寝るまで、ずっと」

 もちろんその頃の記憶はもはや断片的でしかないが、宮廷にいる魔族の話ではそうらしい。

「あの頃は、アレウスと一緒にいることが当たり前ように思っていた。そして、あいつが魔界の王子であることを忘れるほどな。その王子にまるで親友に様に俺は話しかけていたから、周りの魔族はいい顔をしなかったがな」

 昔を懐かしむように、ガルアはふと笑みをこぼした。

 何度も注意されたことはある。だがその時は、決まってアレウスが怒ったのだ。僕とガルアは友達なんだと言って。

「だがそれも束の間。アレウスが五歳の時、再び悲しい出来事が起こる」

「悲しい出来事?」

「魔王レアノス様が亡くなられたのだ」

 ガルアの表情が再び引き締まる。

「古代に封印された”合成獣”と呼ばれる魔獣の軍団が復活したのだ。その合成獣を倒すために、レアノス様は魔族を率いて戦いに赴いた」

 合成獣とは、古代魔法という禁断の魔法で生み出された最強の魔法生物だ。複数の魔族を呪文によって掛け合わせることによって、様々な魔族の特徴を持つ恐るべき魔獣だ。

「幸いにも合成獣はすべて倒された。だが残った一匹が強敵でな。その戦いでレアノス様は命を落とされたのだ」

 ”合成獣”とレアノスとの戦いは今では伝説ともなっている。最後はレアノスの剣が”合成獣”の生命源たる魔石を砕き、合成獣の牙がレアノスを貫いた。壮絶な相打ちである。

「もっとも、最後の一匹が残っていてな。代わって王に即位したアレウスが多大な犠牲を払って封印させたのだ」

 数十人の魔導師の犠牲を払って、最後の合成獣を一度は封印することに成功した。しかし今から二年前に再び封印が解け、その時はアレウスが自ら合成獣にとどめを刺している。

 この時のアレウスの活躍も凄まじく、レアノスと並ぶ伝説となっている。

「レアノス様の戦いの時に俺の親も参加していたんだが、父は戦いで死に、母もやっかいな病気を抱え込んだ。母の病気は魔法では治せなくてな、どんな病にも効くという泉で静養する事になった。そして俺も母の看病をするため、城を離れることになった。そしてちょうど俺が城を離れているとき、アレウスが魔王に即位したという話を聞いたのだ」

 だが魔王に即位したということが、アレウスの心に大きな影響を与えることになる。




 深い森の中に、その泉はあった。高い木々に囲まれてポツンと寂しげに存在している。

 この泉は病に効く万能薬として知られ、泉の水を飲み続けると次第に元気を取り戻せるという。聖泉と呼ばれるとおり、泉の水は深い底がはっきり見えるほど澄んでいる。

 いま泉のほとりには、一匹のメスのシルバーウルフがいた。彼女は、「ザザッ」という足音に頭を持ち上がる。

「遅くなってゴメン。なかなか獲物が捕まえられなくて」

 彼女の前に姿を現したのは、同じくシルバーウルフ。彼女の子供であるガルアだ。

「この森の動物たちはいつもダークエルフ達に狙われているから、警戒心が強いかもね」

 たいていの森には、ダークエルフの集落がある。この森にも、ここから少し歩くと小さい集落があるのだ。

「すまないわね、いつも」

 彼女は病気にかかっているので、自分で獲物を捕まえることができない。だから、ガルアに獲物を捕ってきてもらっているのだ。

「いいよそんなこと。かあさんはゆっくり休んで、早く良くなって」

 彼女を冒している病気は、非常にやっかいな毒だ。魔法では治すことができず、この泉でゆっくり治すしかない。

「はい、今日の獲物。捕まえるのに苦労したけど、その分活きがいいよ」

 ガルアが捕まえてきたのは、大型のウサギを二匹。

「ありがとう」

 嬉しそうな顔をしながら、母親はガルアの捕まえてきた獲物を見つめる。

「ねえ、ガルア。話があるのだけど・・・・」

「なに、かあさん?」

 ガルアは、すでにウサギのお腹の辺りから食べ始めている。

「もう私はだいぶ良くなってきたわ。だからもう一人でも大丈夫。それで、あなたにアレウス様のところに戻って欲しいの」

「アレウスのところに?」

 ガルアは食べる手を止めて訊ねる。

「レアノス様が亡くなられて、アレウス様が王位に就いたことは知っているでしょ。でもまだアレウス様は五歳。だから、あなたにアレウス様の側にいて欲しいの」

「大丈夫だよ、かあさん。あいつなら立派に王様を勤められるさ。周りにも頭のいいやつがいっぱいいるんだから」

 若くして魔王になったアレウスのことは確かに心配だった。でもアレウスにはかなりの素質があると思うし、助言を与えられる魔族は周りにいくらでもいる。

「魔王としてのアレウス様を支えてくれる者はたくさんいるでしょう。ただ一人の子供として、アレウス様を支えられるのはあなたしかいないわ」

「かあさんは僕にどうしろと言うの?」

「いま言った通りよ。昔のように、いつもアレウス様の側にいて欲しいの。そして若くして両親を亡くし、王位に就いたアレウス様を支えて欲しい」

「かあさん・・・・」

 母親が何を言いたいのか、ガルアには分からなかった。だが、久しぶりにアレウスに会いたいという気持ちは確かにある。

「アレウス様を支えられるのはあなたしかいない。お願いね」

「分かったよ」

 ガルアは頷いて答えた。

 そして次の日、ガルアはアレウスのいるアデルの城を訪れることになる。






 ガルアはアレウスの部屋の扉をそっと開けた。昔よくやっていた遊びで、分からないようにアレウスに近づいて驚かせるのだ。

 アレウスは、窓越しに外の風景を見ていた。幸いまだアレウスに気付かれていない。ガルアは一歩、二歩と近づく。

(ん?)

 だがガルアは、アレウスの後ろ姿にふと違和感を感じた。なんだかアレウスの後ろ姿が、とても寂しそうなのだ。

(気のせいかな?)

 そのまま構わず、ガルアは後ろからアレウスに抱きついた。

「わっ!」

「だ、誰だ!」

 ガルアの声に驚いて、アレウスは後ろを振り返る。

「ガルア!」

 ガルアの姿を見るなり、アレウスはこれ以上ない笑顔を浮かべて彼を迎えた。

「アレウス、元気にしていたか?」

 久しぶりに見るアレウスは、なんだか急に大きくなっているような感じがした。それほど、長い時間離れていたように感じたのであろう。

「ガルア・・・・」

 いきなりアレウスが抱きついてきた。

「どうした、アレウス?」

 突然のアレウスの行動に戸惑うガルア。せっかくアレウスとの再開を楽しみにしていたのに、アレウスの様子が少しおかしい。

「なあ、ガルア。久しぶりに僕を乗せて走ってくれないか」

「別に構わないが、それだったら誰かに話しておかないと」

「昔みたいにさ、こっそり抜け出そうよ」

「それはマズイだろう・・・・」

「いいって、早く行こうよ」

「あ、ああ・・・・」

 仕方なく、ガルアはアレウスの言葉に従った。

 その昔城をこっそり抜け出して、アレウスを背中に乗せて遠くまで走ったことがある。その時使った抜け道を使い、二人は城を抜け出した。    



 


 見渡す限りの荒野を、アレウスを背中に乗せたガルアは、”ある場所”を目指して疾駆していた。地平線の彼方まで何もない。

 あの頃は、よくこうやって走り回ったものだ。何かと息の詰まる城の暮らしに飽きて、まるで風になったようだとアレウスははしゃいでいた。

 アレウスと離れてから数ヶ月しか経っていない。だがその時間が十年にも二十年にも感じられる。正直ガルアもアレウスの姿を見たとき、安堵にも似た気持ちになった。

(アレウスと一緒にいること。それが俺の日常だったものな・・・・)

 朝に目覚めたときに、側にはアレウスがいなかった。それは紛れもなく、ガルアにとって非日常であった。だからこそ不安になる。赤ん坊が目覚めたとき、母親が隣にないと不安になるように。

 だがこうやって走ることで、その失った日常を取り戻しつつある。だからガルアは走り続けた。今度はアレウスが日常を取り戻すまで。

(アレウス、早くあの頃のように一緒にはしゃごう)

 ガルアはアレウスの言葉を待っていた。あの頃のように、つまらない話で盛り上がったり、冗談を言い合ったり、こっそり悪口を言ってみたり。

 だがアレウスは、一向に口を開かない。再開したときのように、曇った表情をしたままだった。

「なあ、アレウス・・・・」

 堪りかねたガルアは、自分の方から口を開く。

「おっと、もうお前は魔王になったんだよな」

「・・・・・・」

 アレウスがピクッと肩を動かす。

「もう呼び捨てにはできないな。これからは、アレウス様と呼ばなくては・・・・」

 何気ない”アレウス様”というガルアの言葉。だがそれは、鋭いナイフとなってアレウスの心に突き刺さった。

「やめてよ・・・・」

 アレウスがか細い声で口を開く。

「やめてくれよ。アレウス様なんて・・・・、そんな冷たいこと言うなよ!」

 アレウスの口調が一変して強いものになる。そして、背中に何か生暖かい滴が落ちた。

「アレウス・・・・?」

 ガルアは驚いて、足を止めて振り返った。

「なんでガルアまでそんなこと言うんだよ。ぼくたち友達だろ。いままでずっと・・・・」

 うつむいたまま、アレウスは涙をこぼしていた。

「・・・・・・」

 初めて見るアレウスの涙に、ガルアは金縛りに捕らわれたように言葉を失った。

「走り続けてくれないか、ガルア」

 鼻声になりながら、アレウスは口を開いた。

「あ、ああ・・・・」

 アレウスの言葉に呪縛を解かれ、ガルアは戸惑いながら走り始める。

「僕はまるで、籠の中の鳥みたいだ」

 アレウスが、それまで胸の内に秘めていた思いを吐露する。

「何でみんな、僕が王になった途端によそよそしくなるんだ。僕をまるで崇拝するかのように。僕はただ、聖像みたいに座って崇められるだけ」

 アレウスの言葉を、ガルアは黙ったまま聞いた。

「僕にはまだ何も分からないから、何も口出しできない。でも魔王である以上、いつも毅然としないといけない。華やかな衣装に身を包んで遠巻きに見られるだけで、僕はその思いを伝えられない」

(かあさんが言っていたことは、このことか)

 ガルアはふと母の言葉を思い出した。王に即位したことでアレウスはきっと苦しんでいるだろう、という母の言葉は本当に当たっていた。

「命の価値って何だろうな。数十人の魔導師に犠牲になることを強いて封印するか、それともどれだけ被害がでるか分からないけど戦うのか。一体どっちが正しいかなんて、分かるはずない」

 最後の合成獣を封印したときのことを言っているのであろう。魔導師達に犠牲になることを強いるのか、それより被害が少ないかも、もっと多くなるかも分からないが戦うことにするのか。おそらくアレウスは決断を強いられたのだろう。

「魔王って、なんて孤独なんだ・・・・」

 最後の言葉が、今のアレウスの気持ちのすべてであるようにガルアは思えた。アレウスはずっと、王になったことで孤独感を持ち続けていたのだろう。

「アレウス。少し俺の話を聞いてくれないか」

 ガルアは決心した。今のアレウスには、素直に気持ちを打ち明けられるのは自分しかいない。だったら、母の言うように自分にできることはアレウスを支えてやることだ。

「まだ幼いお前には辛いかも知れないが、それが王という立場なんだ。お前が王になったことで、確かに周りの魔族の態度も変わったかも知れない。だがな、それはほんの少しだと思う。周りの魔族にとって、お前は子供であるという以上に紛れもなく魔王なのだ。先頭に立ってすべての魔族を導く、覇者たる存在。だからこそ、今までと同じようには扱えない。お前はその少しの変化に、戸惑っているだけさ」

 アレウスは黙ったままだった。

「アレウス、もう少し心を開いたらどうだ。周りの魔族は、お前を頼りにしていないわけではない。若いお前にできるだけ負担をかけないように、自分たちで何とかしようとしているのだ。そしてお前も、皆に迷惑をかけたくないと口を噤(つぐ)むってしまう。それではお互いの溝が深まるばかりだ。お前は魔王でもまだ若いんだ。自分の弱い面を見せたくないばかりに殻の中に閉じこもっていたら、お互いのためにもよくならないぞ」

 ガルアはそのまま続ける

「王には、時には非情とも言える決断に迫られるときもある。だがそこで決断を下すのが、王という者の使命なのだ。例え命を天秤に掛けるようになってもな。どちらが正しいかなんて誰にも分からない。だからこそ、頂点に位置する王が決断するんだ。迷いを捨て、自分に自信を持てば、きっとみんなも従ってくれる」

「ガルア・・・・」

「お前が思っているほど、王は孤独じゃない。周りには力になってくれる者はたくさんいるはずだ、今のお前には感じられなくてもな。そして何よりも、俺達は友達のはずだろ。だったら、いつでも俺に愚痴をこぼしてくれよ。今まで通りにな」

 ガルアの言葉が、アレウスの心を激しく揺さぶる。いままで、ともすれば張り裂けてしまいそうな心を、ガルアは優しく包み込んでくれた。
   

「お前が皆のことを信じなければ、誰もついては来ない。逆にお前が皆を信じれば、皆もお前を信じてついてきてくれる」

「ありがとう、ガルア。すまないな、久しぶりの再開だっていうのに、格好悪いとこ見せて」

 アレウスは涙を拭き、少し照れ笑いを浮かべる。

「なに、お前が元気を取り戻してくれればいいさ」

 アレウスの笑顔は、あの時のままだった。引き裂かれた時間は再び交わり、あの頃に様に爽快な気分になる。

「ガルアとこうやって走っていると、本当に気持ちがいいよね」

「ああ、そうだな」

「でも本当にガルアは疲れないよね、ずっと走り続けても」

「それはな、ちょっとした秘密があるんだ」

「どんな?」

「俺達ウルフ属の魔族には、心臓が二つあるんだ」

「そいつは便利だな。だったら、片方の心臓が潰れても平気ってこと?」

「不吉なことを言うな。まあ急所を外せば、死ぬことはないかもしれんな」

 二人はたわいもない話を続けた。あの頃のように。

「アレウス、見えてきたぞ」

「そうみたいだね」

 どうやら目的の場所に着いたようだ。荒野のまっただ中に、赤い神殿がポツンと見えてくる。

「これがあの神殿か?」

「そう、最後の合成獣を封印した神殿だよ」

 こんな辺鄙(へんぴ)なところに神殿があるのもおかしなものだが、以前はこのあたりには森があった。合成獣との戦いで、森が焼け落ちてしまったのだ。

 入り口でガルアの背中から降りて、アレウスは神殿の奥に入っていく。特殊な神殿なので、ほとんど飾り気はない。それもそうだろう。この神殿は、合成獣を封印するためだけに建てられているのだから。

 アレウス達の足音に気付いて、奥から一人の男が出てきた。ザルエラという闇司祭で、この神殿を預かっている。

「おお、アレウス様ではありませんか。今日はどういった御用で?」

 何の連絡もせずにいきなり訪れたのだから、ザルエラは少し驚いていた。

「なに、ちょっと用事があってな」

 そう言うと、アレウスは中央に立てられた大きな石版の方に歩いていった。

「何だ、この石版は?」

 ガルアが訊ねた。

「合成獣を封印するために犠牲になった魔導師を祭った石版だよ」

 石版の一番上には、次のような一文が刻まれていた。

 ”猛々しき魔獣 ここに眠らん

  かの者達 大いなる意志を勇気を持って

  その命を捧げたる”

 そしてその下に、犠牲になったすべての魔導師の名前が刻まれていた。

「この魔導師達を見舞いに来たのか?」

「まあ、そんなところだよ」

 アレウスは石版に近づくと、何も言わずじっと見つめていた。そして何を思ったのか、腰に差していた短剣を抜くと、突然短剣を手の平に突き刺した。

「ア、アレウス様っ!」

 ザルエラは慌ててアレウスに近づこうとする。だがアレウスは、それを片手を突き出して制した。アレウスの手の平からしたたり落ちる真っ赤な血は、ポタリポタリと石版の台座を染めていく。

「最後の決断を下したのはこの僕・・・・、いや、この私だ。彼らは何も言わず、むしろ喜んで私の決断を受け入れてくれた。もっと他によい方法があったかも知れない。だが彼らは、私に従ってくれた。その彼らに対する、これが私の気持ちだ。私たちのためにその命を犠牲にした彼らの思いを、私は忘れない」

 真っ赤な血液の一つ一つが、どんな言葉よりも深く石版に染み込んでいく。アレウスの思いを乗せて、それはこの下に眠る魔導師達にきっと届くことだろう。

「さて、そろそろ帰るとするか。城のみんなも心配しているかも知れないしな」

 アレウスは振り返り、ガルアに声をかける。

「アレウス様、傷を治しましょう」

「すまないな、いきなり来てしまって」

「いえいえ。アレウス様の気持ちはきっと届いたはずです。ご安心ください」

 ザルエラの呪文によって、たちどころに傷は塞がった。
     
「ガルア、戻るぞ」

「あ、ああ・・・・」

 不思議と、アレウスの後ろ姿が大きくなったように感じられた。王という厳しい階段を、一歩上り進んだということだろうか。ただ、これからももっと厳しい試練は待っている。そして自分ができることはは、いつも側にいて支えてやることだ。

 ガルアの胸に、一つの決意が生まれた。




「男なら誰しもが憧れる”王”という存在。だが決して、皆が思うほど光りに包まれた存在ではないってことか」

 フォルスは、腕を組んで寝そべったまま空を見上げている。

 気が付けば、東の空が白み始めていた。あれほどうるさかった虫の声も小さくなり、もうすぐ朝がやってきそうだ。夜の住人は眠りに就き、朝の住人が目を覚ます。

「アレウスはその光りと闇の狭間で苦しんでいたのだろう。幼いアレウスにとっては苦痛であっただろうし、あいつには両親すらいない。きっとその苦しみを、一人で抱え込んでしまったんだ」

「なるほどね。俺には両親や友達が周りにいることが当たり前だったから、アレウスの気持ちは分かってやれない。だけど、それがどんな苦しみだったか、何となく想像はつくよ」

 一番親からの愛情が必要な頃に、アレウスはたった一人だったのだ。唯一の存在だからこそ、王は孤独なのだろう。

「俺はアレウスの親代わりになって、温かく見守ってやることはできない。それは、ゼノンやゼルフがやってくれる。だが友として、あいつを支えてやることはできる」

「それが、アレウスと一緒にいる理由なのか?」

「それもある。だがな・・・・」

 ガルアはアレウスの方に視線を向けた。アレウスは相変わらずスヤスヤと眠っている。

「一番の理由は、アレウスが好きだからさ。こいつは王としても素晴らしい素質を持っている。そして、何かに向かって常に進み続ける冒険者のような心も持っている。その両方がアレウスなんだ。それらを含めたすべてが俺は好きだから、俺はアレウスの側にいる。きっと、ゼノンやゼルフも同じだと思う。ヘレネ様の遺したアレウスのためなんて言っているが、本心は俺と同じなんじゃないかな」

「じゃあ、俺にできることは何かな?」

 フォルスはガルアに訊ねた。

「アレウスがいつも言っていた。フォルスという名前には、何か特別なものを感じるとな」

「特別なもの?」

「アレウスがお前を追ってきたのは、有翼族を相手に戦っている人間がいたからだ。そしてもう一つ、お前の名前に引かれるものがあったらなのだ。こんなことがあるだろう。生まれてからすぐに引き離された双子が偶然にも出会ったとき、すぐに自分たちが兄弟であることを直感したと。それと同じだ。フォルスという名前に、何か血縁的なものを直感で感じ取ったのかもしれんな」

 おそらくアレウス自身も、なぜフォルスという名前が気になるのかは分かっていないだろう。 

「いつも側にいてくれとは言わん。だが、血のつながった兄弟がいたことで、アレウスは安心しているだろう。だから、フォルスには死なないで欲しい。唯一生き残っている肉親として。そして、ただ一人の兄弟としてな」

 それは血の繋がっていない自分たちにはできないことだ。

「ああ、死にはしないさ。俺も、両親や友達をすべて有翼族に殺されてな。もっとも、俺の周りには仲間がいたけど。この戦いを終わらせるまでは、死ぬことはできない。アレウス達魔族がいてくれたおかげで、この世界は救われたようなものだ。これからも、アレウス達には力を貸して欲しいと思っている」

「ああ」

 ガルアは嬉しかった。アレウスに、こんな素晴らしい兄弟が存在したことが。

「いろいろ教えてくれてありがとう。俺、もう一眠りしてくるよ」

 フォルスは背中についた埃を払い、自分が眠っていた場所に戻ろうとする」

「こっちこそ、ありがとうな」

 ガルアの礼に、フォルスは手だけ振って答えた。

 再び、静かな時が流れる。

(アレウス、俺達はいつまでも友のままだ。それが森の営みのように、変わること無い永遠の事実・・・・)

 不意に、眠気がガルアを襲った。大きな欠伸(あくび)がでる。

(そろそろ俺も眠らせてもらうか)

 ガルアはアレウスに寄り添いながら、ガルアは夢の世界へと落ちていった。



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