−第一編 ”こころ”と”こころ”−



 アレウスは弓をめいっぱいにしぼり、慎重にねらいを定めた。獲物の大ウサギはこちらに気づいた様子もなく、のんびりと草をほおばっている。アレウスは、まばたきはおろか呼吸さえせず、じっと精神を集中させた。もはや、獲物を見つめる目と、弓を持った両手の感覚しかない。

(今だ、くらえ!)

 アレウスの弓から放たれた矢が、風を切り裂いて獲物に向かっていった。

(よしっ!)

 アレウスは拳を握り、狩りの成功を確信した。しかし、獲物はビクッと顔を上げ、間一髪で矢を避けると草むらのなかへと一目散に逃げてしまった。

「ちっきしょう!」

 アレウスは思わず立ち上がると、地団駄を踏んで悔しがった。

 ここは、アデルの城の北に位置するグレア山。王族のモンスター達が狩りを行う場所としてよく知られている。

「まだまだですな」

 その時、背後から一匹のモンスターが姿を現した。彼の名はテラ。デーモン属のモンスターで、アレウスに剣術を教えている師匠である。

「動物は、危険を目でなく気配で感じます。あれだけ殺気を放っていたら、狙っていることを気づかれてしまいますぞ。敵を狙うときには・・・・」

「気を静め、”無”になれと言うのでしょ。耳にタコができるほど聞きましたよ」

 やれやれといった表情で、アレウスは地面に腰を下ろした。

「いけませんな。父上が亡くなられてから五年。アレウス様には、一日でも早く立派な王になってもらわなくては困ります」

 先王であるレアノスが突然の病に倒れたとき、アレウスはまだ五歳であった。当然、アレウスに政務を行う能力などあるはずがない。名目的にアレウスが王座についているものの、実質的には側近達が政務を行っている。現在、アレウスは王になるための修行中というわけだ。

「息も詰まりそうな部屋で勉強させられるより、こっちの方がずっと面白いよ。な、ガルア」

 そう言って、アレウスは木製の剣を手にし、教わったばかりの突きを見せた。ガルアとは、アレウスと同じ日に生まれたシルバーウルフである。そのせいで、この二人は仲がいい。

 アレウスの答えに、テラはため息をついた。

「王たるもの、民を治めるための知識も必要です」

 どうも、アレウスは勉強より体を動かすことの方が好きのようだ。教育係の目を盗んでは、城の裏山へ”探検”に出てしまう。

「アレウス、テラ殿を困らせるな」

 あまりのわがままに、ガルアもアレウスを注意した。

「ちぇっ!ガルアまで説教か・・・・。分かりました、これからはちゃんと勉強もします」

 テラも、そのセリフを何度も聞いてきた。今度も、どこまで本気なのやら・・・・。

「そろそろ日も暮れます。近くで野営の準備をしましょう」

 テラ達は比較的開けた場所を見つけ、野営の準備に取りかかった。

「師匠、近くに河原があるみたいですから、ちょっと行って来ます」

 そうテラに声をかけ、アレウスは河原に降りていった。朝から歩き詰めなので、川の水でも浴びればさぞ気持ちいいだろう。

 近くに行ってみると、川の深さはそれほどでもなかった。流れは穏やかだが、大きな岩が突き出ており、川の水面(みなも)にアクセントをつけている。水は澄んでいるので、川底を泳ぐ小魚の姿も見える。

 アレウスは川の水を手ですくい、思いっきり顔に押しつけた。

「ぷっはぁー」

 目も覚めるような冷たさが、全身を駆けめぐる。アレウスは、もう二、三度顔を洗った。あまりの気持ちよさに、疲れまで吹き飛んでしまう。

 とその時、アレウスの目に不思議な生き物が映った。

「ん?」

 反対の岸の藪のなかから出てきた生き物は、アレウスの半分も背がない。

「あれは・・・・」

 その姿を、アレウスはどこかで聞いたような気がした。

「そうだ、ピクシー!」

 もはや絶滅したといわれている幻のモンスターであると、教育係のゼノンという魔導師から聞いたことがある。

 アレウスの声に驚いたピクシーは、慌てて藪のなかに逃げ込んでしまった。

「あっ、待ってよ!」

 アレウスは何とか追いかけようと、辺りを見渡した。幸い、大岩の上をジャンプしていけば、向こう岸に行けそうだ。

 アレウスは、テラ達が野営の準備をしている方を見た。もし帰りが遅くなったら、テラ達が心配するかもしれない。しかし、ピクシーを追いかけたい気持ちも強い。

 迷ったあげく、アレウスは川を越えて深い藪の方へ向かっていった。そして、目印になるようにと手ぬぐいを藪に縛り付ける。アレウスは剣を使って藪をかき分け、奥へと進んでいった。 




「ガルア、アレウス様はもう戻られたか?」

 野営の準備が一段落し、テラは辺りを見渡した。そして、河原へ行ったはずのアレウスの姿が見えないことに気づいたのである。

「さぁ、私は見てませんが」

 ガルアも、アレウスが戻っていないこと気づかなかった。アレウスが野営の手伝いをしないのはいつものことなので、姿が見えなくてもさして気にはならなかったのである。

「すまないが、ちょっと見てきてくれないか」

「分かりました」

 まったく手の焼ける王だとあきれながら、ガルアは河原に向かった。

 しかし、河原にはどこにもアレウスの姿はない。ガルアはアレウスの名を何度か呼んでみたが、返事は帰ってこなかった。 

 ガルアは、辺りを注意深く見渡した。いくらアレウスとはいえ、何も言わずにどこかへ行くはずがない。もしかしたら、アレウスの身に何かあったのかもしれない。

「ん、あれは・・・・」 

 その時、ガルアは向こう岸の藪のなかにアレウスの手ぬぐいを見つけた。おそらく、藪の中へ入っていくという印であろう。

「とにかく、テラ殿に知らせた方がいいな」

 ガルアの胸には、異様な不安感がこみ上げていた。






 アレウスが行方不明になったという事件に、辺りは急にあわただしくなった。

「とにかく全員で手分けをしてアレウス様を捜すんだ。アレウス様はこの先の藪の中に入っていったと思われる。お互いに距離を取りつつ、この辺りをくまなく探す。何か見つけたら、大声を上げて儂を呼んでくれ」

 捜索をするモンスターの数は6匹。それに、グリフィンとハーピーが空から捜索する。そして、2匹が野営地で待機。

「よし、捜索を始めるぞ」

 テラの号令と共に、モンスター達は捜索を開始した。背の高い藪の林に、モンスター達がいくつもの筋を作っていく。

 ガルアは藪をかき分けながら、奥へ奥へと進んでいった。手がかりになるようなものは、今だ見つかっていない。

(アレウス、一体どこに行ったんだ)

 心の中で、ガルアは何度も繰り返した。姿の見えぬ、アレウスに向けて。

 一方テラは、短く口笛を吹きグリフィンを呼び寄せた。すぐさま、翼をはためかせてグリフィンがやってくる。

「何でございましょうか」

「この藪の先はどうなっているのだ?」 

「すぐ先は森になっています。その先は急な斜面です」

「そうか・・・・。分かった、捜索を続けてくれ」

 グリフィンは再び翼をはためかせ、上空へと飛び上がっていった。

「ガルア、ゼルフ司祭。儂たちはこの先の森のなかを探すから藪を抜けてくれ。残りのものは藪のなかの捜索を続けるんだ」

 テラは大声を上げ、ガルアと、ゼルフという宮廷付きの司祭を呼んだ。

 三匹は森の入り口で合流し、薄暗い森のなかに足を踏み入れていった。とその時、ゼルフが大きな古木の幹にダガーが突き刺さっているのを見つけた。

「テラ殿、あのダガーは・・・・」

「間違えない、アレウス様のものだ」

 どうやら、アレウスが森の中へ入っていったことは間違えないようだ。

「テラ殿、これを見てくれ」

 今度は、ガルアが地面に何かを発見した。

「足跡だな」

 テラがしゃがんでのぞき込んだ。紛れもなく、何者かの足跡である。おそらくアレウスのものであろう。

「歩幅から見て、おそらく走っていたのであろう。何かを追いかけていたのか。それとも、逃げていたのか・・・・」

「ガルア、この足跡を追ってくれ」

「はい」

 ガルアを先頭に、三匹は森の奥へ進んでいった。  

 アレウスの足跡は、森のなかを一直線に進んでいた。一体この足跡はどこに続いているのであろうか。

「ん?」

 突然、ガルア歩くのをやめた。

「どうした、ガルア?」

「血・・・・。血の臭いがします」

 シルバーウルフは、普通のモンスターより優れた嗅覚を持っている。

「どこだ!」

 ガルアの言葉に、テラも焦っていた。 

「この足跡の先です」

 ガルアは、全力で走り始めた。テラとゼルフも、急いでその後を追う。ガルアは祈った、この血の臭いが、アレウスのものではないことを。

「むっ、あれは・・・・」

 ゼルフが、前方に何かを発見した。紛れもなく血の跡である。そしてそのそばには、得体の知れない植物が横たわっていた。花弁には、口のようなものがついている。

「これは!」

 その植物には、アレウスの短剣が突き刺さっていた。テラは、その短剣を引き抜こうと手を伸ばす。

「いけません。それは肉食性の捕食植物です。」

「捕食植物だと?」

「甘い蜜で小動物を誘い、それを捕食するのです。また、この植物のトゲには毒があるそうです」

 魔界には、このような植物が何種類かいる。グレア山で発見されたのは、これが初めてだ。

「アレウス様が傷を負っている以上、その毒に冒されている危険があります」

 険しい表情で、ゼルフが言った。

「アレウス様は大丈夫なのか!」

「この植物の毒は、徐々に肉体をむしばんでいきます。長時間毒に冒されれば、死ぬ危険もあります」

「何と言うことだ」

 テラは頭を抱えた。アレウスの足跡は、ここで消えてしまっている。手がかりは完全になくなってしまった。

(アレウス!)

 ガルアは、心の中で必死に呼びかけた。しかし、”心話”を使うことができるわけがないアレウスには、届くはずはなかった。  




「み、水・・・・」

 身体が燃えるように熱い。喉はからからで、舌が痺れたようにチクチクする。

「水をくれ・・・・」

 アレウスは、口を大きく開けた。そしてそこに、冷たい水がそそぎ込まれる。アレウスは一気に飲み込むと、全身に染み渡っていく。

「ここは・・・・、何処だ・・・・」

 アレウスは、ゆっくりと目を開いた。どうやら、どこかの洞窟の入り口のようだ。

「僕は・・・・」

 アレウスは、ゆっくりと記憶をたどった。

 まず初めに、河原でピクシーを見つけた。しかし、ピクシーは慌てて逃げてしまったので、追いかけようと藪の中へ入っていったのだ。藪を抜け、森に出たところでピクシーを見失ってしまった。あきらめて帰ろうとしたとき、ピクシーの叫び声が聞こえてきた。声がした方に行ってみると、ピクシーが捕食性の植物に襲われていたのだ。何とかピクシーは救えたものの、植物にかみつかれ毒に冒された。体が急に熱くなり、そのまま地面に倒れたところまでは覚えている。それから、一体どうやってここまで来たのだろうか。

 アレウスは、首を動かして辺りを見渡した。すると、洞窟の壁に何か落書きのような文字が書かれている。その字は、まるでアレウスみたいな子供が書いたような時であった。

「ふっ、僕の他にもここに迷い込んだモンスターがいたのか」

 何とかいてあるのだろうかと、アレウスは落書きを読んでみた。



 王たる者 常に皆のことを考えなくてはならない

 自分勝手な行動は周りの者に迷惑をかけ

 ついには自分を滅ぼす



 まるで、今の自分に向けられてかかれたような落書きである。

「ん?」

 すると、一匹のピクシーがアレウスの顔をのぞき込んだ。手には、水の入った木のコップを持っている。ピクシーはアレウスの口に水を流し込むと、目をパチパチさせて様子を眺めた。

「お前が持ってきてくれたのか。ありがとう」

 アレウスは笑顔で礼を言った。

 ピクシーは再び目をパチパチさせると、目を針のように細めてにっこりを笑った。

「幻と言われたピクシーはホントにいたんだな」

 すると、何匹のもピクシーが一斉の顔を出した。

(僕たちは心の中に存在する。君のように特別な力を持ったモンスターにだけ、僕たちを見ることができる。君で二人目だよ)

 ピクシーの声は、直接脳に届いてくるような感じだった。

(聖なる力を秘めし運命の御子よ、君を呼ぶ者がいる。聞こえるかい)

 そう言うと、ピクシーの姿はすっと消えてしまった。

「僕を呼ぶ声?一体誰だ・・・・」

 耳を澄ませてみたが、何も聞こえない。

(違う、”心”で感じるんだよ)

 再びピクシーの声が響いた。

「”心”?」

 アレウスは気を落ち着かせ、心を開いた。

(アレウス!)

(・・・・、ガルアか?)

 その時、”心”は一つになった。




「アレウス!」

 突然ガルアが上げた叫び声に、テラとゼルフは驚いた。

「どうしたガルア。アレウス様を見つけたのか!」

「い、いえ。私の”心”に、アレウスの声が響いたのです。」

 ガルア自身、一体何が起こったのか分からない。

「どういうことだ」

「アレウスが、”心話”を送ってきたとしか考えられません」

「”心話”だと。それはウルフ属のモンスターにしか使えないのではないのか?」

 そう。”心話”はウルフ属のモンスターにしか使えないはずなのだ。では、今聞こえた声は何だったのであろうか。

(ガルアなのか?)

「また。またアレウスの声が聞こえました」

 今度は間違えない。確かに”心話”でアレウスの声が聞こえた。

「ガルア、とにかく答えて見るんだ」

「は、はい」

 ガルアは、アレウスに向けて”心話”を送り始めた。

(アレウスか?)

(ガルア、僕だ。信じられないよ。まさか僕にも”心話”が使えるなんて)

(アレウス、今どこにいるんだ?)

(わからない。どこかの洞窟の入り口みたいだ)

(何か他には見えないのか?)

(そうだな・・・・。遠くに何か見えるよ。何だろう。白い、白い建物が見える)

 その言葉を最後に、”心話”は途切れてしまった。

「アレウスは、白い建物の見える洞窟にいるようです。急がないと、かなり消耗しているみたいです」

「白い建物・・・・?」

 テラは腕を組んで考え込んだ。

「”山神の社(やしろ)”ではないですかな」

 ゼルフがはっとして言った。

 ”山神の社”とは、この山にある古い神殿だ。なかには巨大な部屋が一つあり、その床には謎の魔法陣が描かれている。誰が建てたのかは知られておらず、この山の守り神を祭るものだという噂がある。

「”山神の社”の近くの洞窟ということですか」

 しかし、ガルアは疑問に思った。社は反対の峰にある。どう考えても、アレウスがそこまで行ったとは考えられない。      

「いや、アレウス様がいるのはこの先の崖だ」

 そう言うと、テラは急に駆けだした。

「えっ、どうしてです」

 いったい何のことか分からず、ガルアはテラに訊ねた。

「来れば分かる」

 とにかく、今はテラについて行くしかないようだ。ガルアとゼルフは、急いでテラの後を追った。






 森を抜けると、すぐそこは崖になっていた。

「テラ殿、アレウスは一体何処に?」

 ガルアはテラに訊ねた。辺りを見渡しても、洞窟など何処にもない。

「ガルア、あれを見てみろ」

 そう言って、テラは崖の反対にある峰の方を指さした。幾分不安げに、ガルアはテラの指さす方を見た。

「あ、あれは・・・・」

そこには、半分朽ち果てたような白い建物があった。

「そう、”山神の社”だ」

「それで、洞窟は何処に」

「こっちに来てみろ」

 テラは、ゆっくりと崖の方に歩いていった。     

「アレウス様がいる洞窟は、ここにある」

 そう言って、テラは崖の下を指さした。ガルアとゼルフは、ゆっくりと崖の下をのぞき込んだ。

「洞窟だ」

 二人は、声を上げて驚いた。何と、一段下がったところに洞窟が口を開けていたのである。そして

「アレウス!」

 洞窟の入り口には、アレウスが倒れ込んでいた。その顔は、苦しみに歪(ゆが)んでいる。

 テラが口笛を吹き、グリフィンを呼び寄せた。ほどなく、森の上空からグリフィンが姿を現す。

「アレウス様を見つけた。この下の洞窟の中にいるから、ここに引き上げるんだ。アレウス様は毒に冒されている、慎重に運ぶんだぞ」

「分かりました」

 グリフィンは空中で身を翻(ひるがえ)すと、崖の下に向かって降りていった。アレウスを確認すると、ゆっくりと側に降り立つ。両脇を抱えるように、グリフィンはゆっくりと慎重にアレウスを起こすと、翼をはためかせて崖の上にアレウスを運び上げた。

「テラ様、ひどい熱です」

 そう言って、グリフィンは静かにアレウスを寝かせた。

「ゼルフ、頼む」

「はい」

 ゼルフは精神を集中させ、解毒の魔法を唱えた。青白い光がアレウスを包み込み、すっと吸い込まれる。

「うっ」

 短いうめき声を上げ、アレウスは目を覚ました。

「おお、無事でしたか」

 テラが安堵のため息をつく。

「ガルア、助けに来てくれたんだね」

 長い間毒に冒されていたせいか、アレウスの言葉にはまだ力がない。

「お前からの”心話”、しっかり届いたからな」

 ガルアも、アレウスが目を覚ましてほっとしているようだ。

「それにしても師匠、よくあそこが分かりましたね」

 ”山神の社”が見えそうな洞窟など、他にいくらでもありそうなものだ。あの洞窟をすぐに見つけられるなど、奇跡に近い。

「父上のレアノス様がちょうどアレウス様と同じ頃、ここで今回と同じような事件が起こりましてね。レアノス様が、狩りの途中で急に行方不明になったのです。みんなで探してようやく見つけたのが、あの洞窟だったのですよ。レアノス様は言っておられました。幻のモンスターピクシーを見つけたので、追いかけていたらあの洞窟に落ちたのだと」

「僕も・・・・、僕もそうなんだ。河原でピクシーを見つけて、追いかけようとしたらあいつが逃げちゃったんだ。そうしたらあいつが植物に襲われてて。何とか助けたんだけど、僕も気を失って、気づいたらあそこにいたんだ」

「初めは、叱ろうかとも思いました。けどやめました。アレウス様も、レアノス様と同じだって思いましてね」

「僕と、父上は似ている・・・・」

 アレウスの記憶の中には、いつも厳格な父の姿しかない。しかし、父に自分と同じような幼少時代があったとは意外だった。

「さあアレウス様、皆の所に戻りましょう」

「ああ、そうしたいんですが・・・・。身体が動かなくて」

 アレウスは何とか起きあがろうとしたが、全身に全く力が入らなかった。

「あの毒は少々強力です。すぐに動くことはできないでしょう」

 ゼルフが歩み寄って、アレウスを抱え起こした。

「仕方がない、俺の背中に乗せてくれ」

 そう言って、ガルアがアレウスの側にやってきた。ゼルフは、ガルアの背中を抱きかかえらせるようにアレウスを乗せる。

「よし、それでは帰るとするか」

 テラ達は、野営地を目指し歩き始めた。

「アレウス、初めてお前と狩りに来たときのことを思い出すな。お前は帰るときに疲れたと言いだし、俺の背中に乗っていったっけ」

「・・・・、昔の話だぜ」

「俺には昨日のことのように思えるがな」

「ガルア・・・・。僕・・・・、変わったかな?」

「・・・・、大きくなった」

「背が?」

「すべてがさ」

「僕には、自分が変わったかどうかは分からない」

「自分では分からないものさ。お前は今まで大きく成長してきた。そして、これからも。お前は立派な王になれる」

「本当に?」

「俺の言うことが信じられないのか?」

「信じてるよ」

 そう言うと、アレウスはゆっくりと目を閉じた。

(だって、お前は僕の”友”なのだから)



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