ワートリ 246話感想



ジャンプスクエア11月号、ワールドトリガー247話の感想です。2話同時掲載ですが、あまりにも長くなってしまうので1話ずつまとめています。

ヒュースのお悩み相談室、いよいよ核心に迫ります。麓郎くんはどうすれば強くなれるのか?
まず、ヒュースがマグネットらしきものに麓郎くんの似顔絵を描き、ホワイトボードに貼り付けるところから始まりました。
ホワイトボードには階段状の図が描かれていて、一番上の段には太刀川さんの似顔絵つきマグネットが貼ってあり、次の段に「A級」と書いてあって葉子ちゃんの似顔絵つきマグネットが貼ってあります。次の段には「B(上)」と書いてあってマグネットはなく、その次の段には「B(中)」と書いてあって麓郎くんの似顔絵つきマグネットが貼ってあります。その次の段が「B(下)」で、修くんの似顔絵がついたマグネットが貼ってあります。その次が一番下の段で、「C級」と書いてあります。似顔絵はかなり単純化されていますが特徴をとらえていてすぐ誰かわかります。ヒュースの絵が好きという設定がこんなところで活かされるとは!
それから、初読の時には気付かず、旧Twitterで指摘を見て確認したんですが、「※日本語協力:笹森」って書いてあるんですね! 笹森くんがマジック持ってるっぽいから何していたんだろうとは思っていたのですが……ここもちょっとくすっと笑えるポイントですね。こういうところに今回は助けられてるなぁ。
そして、ヒュースは「これは個人戦での戦闘能力の段階(レベル)を表した図だ 修は麓郎の下になる」と説明。「個人戦」に強調の黒丸がついてます。
「これをチーム戦での能力に変えると…… 修は麓郎より上になる」と説明し、修くんのマグネットを葉子ちゃんの隣のA級の段へ移動。それから、「太刀川はよく知らんから除外した」と、太刀川さんのマグネットが段の外の余白に。ここもくすっと笑えるポイントその2ですね。
「ここまでで何か 意見はあるか?」と問われ、ろっくんは自分のことは何も口に出せないのですが、「個人戦はともかくチーム戦だと 葉子がちょっと高すぎるんじゃねえか……? オペの華さんの指示でピンチを凌ぐ場合もけっこうあるし……」と、葉子ちゃんのことは言えるんですね。
ヒュースはその意見を受けて、「なるほど ではオペの支援力を差し引いて1段下にしておこう」と、葉子ちゃんのマグネットを「B(上)」へ移動。
「この位置で全体的に問題ないか?」と問われ、ろっくんは内心「正直葉子が高けえ気はするけど……」と思いつつ、口に出しては「問題ない……と思う」と答えます。
ヒュースはさらに、「麓郎の認識と一致した ということでいいな?」と確認。ろっくんは何でそんなに確認するんだろう?という顔をしつつ、「あ ああ……」と答えます。
ここでページをめくるのですが、次のページには衝撃の図が現れます。
ヒュース「この図には1つ間違いがある」と言い、「麓郎の位置はここだ」と、ろっくんのマグネットを「C級」の段に移動します。
驚愕の表情をするろっくんと、「おいおいおい」と動揺する半崎くん。いい子だ……
こうやって視覚的に示されると、単に言葉で指摘されるよりインパクトが増しますね。
ヒュースは「この選抜試験に臨むにあたって 臨時部隊(チームメイト)の今期(こんシーズン)の試合は全て見てきた」と述べます。さらっと言っていますが、みんな所属チームがバラバラですからかなりの量になりますので、びっくりですね。ログの見方を説明してくれているのが陽太郎なのがかわいい……
さらに、ヒュースは「おそらく麓郎はチーム戦で 自分や味方がどう動くべきかを考えられる段階(レベル)にいない」と指摘。
半崎くんはろっくんを気遣って、「いやいやヒュースくんさぁ〜……」と割って入ろうとしますが、日佐人くんがスッと手で制します。
日佐人くんは風間さんからのきつい言葉をきっかけに成長できたという経験があるので、ヒュースがろっくんにきつい指摘をするのを止めるべきではないと思ったんでしょうね。
この2人が若村11番隊にいるの、絶妙のバランスでよかったですよね。誘導された部分もあったと思いますが、こういうメンバーを組んだことはろっくんにとって絶対いいことだったと思います。ヒュースを選んだことも含めて。
さて、ヒュースのきつい指摘が続きます。「先に結論を言おう 麓郎の問題の根幹は 香取が強すぎたことだ」と、まずは結論を言うことで、きつい指摘を受け取りやすくする話の運び方。ヒュースの配慮がうかがわれます。
そして、「香取隊は部隊結成からB級上位に上がるまでは壁らしい壁にぶつかっていない 得点のほとんどは香取の点(ポイント) エースとしては最高の働きだが 麓郎にしてみれば ぶつかるはずの壁にぶつからないまま B級上位まで来てしまったとも言える」と指摘され、ギクッとするろっくん。
「他の部隊が全員の力で一段ずつ登るところを エースの力で一息で登ったとしたら 麓郎にはチーム戦の基礎を学ぶ機会がなかったんじゃないのか?」とのヒュースの問いかけに、グラッと物理的に揺らいでしまうろっくん。動揺の強さがうかがわれます。
心配そうに見守る半崎くんと日佐人くんですが……日佐人くんの方は、心配しつつもろっくんの転機になることを期待して信じている表情に見えますね。こういうところも細やか。
ろっくんは「たしかにオレは最終戦 どうすればいいのかわかんなかった 犬飼先輩に並列思考を鍛えてもらってたはずなのに 試合の勝ち筋とは関係無え泣き言しか浮かんでこなかった」と、最終戦を回想します。……確かに、この時のろっくんは指揮を任されたのに全然チームに貢献できてなかったもんな…… 華さんに何度もマップ出してもらったりね。準備が全くできていないのが丸わかりでした。修くんが初戦から滅茶苦茶準備して策を練っていたのと対照的だなと思ったものですが……まさか、ここに来てろっくんの問題点としてクローズアップされるとは……
ろっくんは「つまり…… つまりオレは…… オレが思ってたよりも もっとずっと弱かったってことか……」と思い至り、足元が崩れ落ちるどころか、足そのものがガラガラと崩れていく心地に。
こういう、心理描写がストレートに画面に現れる描写はワートリには珍しく、印象的ですね。
ヒュースは「オレの勝手な印象だが 『足踏み』に陥る人間は本人の認識よりも高すぎる壁に挑んでいる場合が多い」と語ります。こういう、自分個人の考えだという留保をつけて、慎重に語っている部分が多いですね、今回のヒュースは。
「麓郎はこの高さの壁に挑んでいるつもりだが オレから見た実際の壁はこの高さだ」という説明の図は、ろっくんのマグネットがC級の段からB(上)の段へぴょんぴょん飛び上がろうとしている絵で、わかりやすいし、そんな場合ではないのですがかわいいですね。きつい内容の中で癒しです。
そして、またろっくんに配慮した話運びだと思うのですが、ヒュースは「これは足し算や掛け算を知らない人間が高度な算術に挑んでいるようなもの…… この条件でまともな解答を出せる人間はいないだろう 麓郎が外に『答え』を求めがちなのは このあたりに原因があるように思える」と述べ、ろっくんが特別劣っているから壁を越えられない訳ではないと伝えようとしていますね。
「この問題は 己を知り 適性な段階に挑戦することで解決する」と、解決策もすぐに提示します。「香取隊を抜けて 自分で仲間を集めて 一番下から順にステップを踏んでいけば 麓郎は確実に今より強くなるはずだ」と、前話の指摘の意味が回収されました。
半崎くんは「……言ってることはわかるけど そのために部隊を抜けんのはきつくね?」と、ろっくんが余裕がなくてきけないことを代弁してくれていますね。
それに対してヒュースは、「期限を切るのも部隊を抜けるのも『手段』の1つだ 同じような効果が得られるなら別の『手段』でも構わない いずれにせよ 決めるのは麓郎だ」と指摘します。
一番衝撃を受けた場面からずっと無言でヒュースの指摘を聞いていたろっくんは、「も…… もし…… ……一から出直すことにしたとして…… 万が一それで 一番下の段され登れなかったら…… そもそもオレには最初から 1段登る力すら無かったとしたら どうすりゃいいんだ……!?」と、絞り出すように問いました。
これを、臨時部隊で一緒になっただけのヒュースに尋ねてしまうのは甘えがすぎるという気もしますが……そんなことを考える余裕はないんだろうな。
そんなろっくんを見守っている半崎くんと日佐人くん。やっぱり半崎くんは「ほらも〜…… 完全に自信失くしちゃってるじゃん……」と心配モードですが、日佐人くんはろっくんが立ち上がるのを待っている感じがします。
ヒュースは、「刻むんだ」と答えます。この答え、既に用意していたと思われる確信の表情ですね。
「目の前の1段を登るために必要な要素を 1段の中でさらに刻んで 自分が登れる小さなステップを作るんだ その行動を努力と呼ぶ」は、美しい言葉ですね。胸に刻みたい。
しかし、ろっくんはその言葉に希望を見出せた様子ではなく、真っ暗な中に沈み込む描写に……
それはなぜかと言うと、「……そうか……… ……今やっと気付いた オレは…… 怖えぇんだ…… 自分が本物の無能だってわかるのが…… 怖えぇからもっと手前で負けようとしてたんだ」とモノローグで語られます。「もっと手前」が何かと言うと、才能、環境、センス、個性、人間性、遺伝、器用、頭の良さなどがあがっていますが……総じて、努力では変えようがないものってことでしょうかね。
さらに、「怖えぇから他人の『答え』を追い続けてたんだ これ以上無え小ささまで一段一段刻んで…… バカでも努力できるようにお膳立てされて…… それでも壁を一つも越えらんなかったら 救いようがねえ無能ってことの証明じゃねえか それを自分で確認するのが オレは一番怖えぇんだ……!」と、自分の一番深いところの、見ない振りをしていたことに向き合うことになってしまったろっくん…… この、壁を越えられない描写のところはデフォルメ絵なのですが、その背中がデフォルメ絵だからこそ、悲しみと痛々しさが感じられますね……
それを察したのか、半崎くんも日佐人くんも何も言えなくなってしまいます。
その時、唐突にヒュースが口にしたのが、「……麓郎は 自転車に乗れるか?」という問いでした。
反射的に顔を上げ、「そりゃ…… 乗れるけど……」と答えるろっくん。ヒュースはすかさず、「なら大丈夫だ おまえにはできる」と言いました。そして、「オレは乗れない」という情報まで開示。
半崎くんに「マジかよ カナダにも自転車くらいあんだろ」と指摘され、咄嗟に遊真さんに「こっちの世界は地面がかなり平らだから 自転車乗れると便利なんだよ」と言われたことを思い出し、「……オレはカナダの山岳地帯の出身だからな 山道では自転車は不便なんだ」と誤魔化すヒュース。ここもくすっと笑えるポイントですね。そんな場合ではないのですが……
ろっくんは「日本は乗れて当たり前なんだよ それに同じ自転車でも オレみたいな一般人とガチの競技者(レーサー)とじゃ 全然……」と言いますが、ヒュースは「この話に他人は関係ない 『自転車に乗れる』という事実が示すのは おまえは元々できなかったことが訓練次第でできるようになる ということだ」としてきます。この言葉……ろっくんにきつい指摘をすることになった時から、ろっくんを絶望させないために準備していたんでしょうね。
さらに、ヒュースの言葉は続きます。「別に自転車じゃなくても 『箸を上手く使える』でもなんでもいい 『できるようになった』という無数の事実を忘れるな そして自分に『できる』高さになるまで1段1段刻んでいけば 必ず今より強くなれる そしてそれが おまえの自信に変わるんだ」 これも、胸に刻みたい言葉ですね。今回は本当に名言が多いです。

就寝時間になり、ろっくんは半崎くんとの二人部屋。二人ともベッドに座ってまだ寝ていない状態ですが……半崎くんが「麓郎さん 精神(メンタル)大丈夫かな……」と気にしていますので、あの後ろっくんは何も決定的なことは発言していないのでしょうね。
でも、考え込んでいるらしきろっくんの顔はもう絶望の表情ではなく、決意を固めようとしている表情に見えます。
というところで、以下次号です。次号のろっくんの変化に期待ですね!

さて、この臨時部隊の結成が、ヒュースが提案した「香取隊を抜けて 自分で仲間を集めて」に当たるんじゃないかという意見がネットで見られましたが、今回は運営側のお膳立てが多いので、そこまでは言えないという気がしますね。実際に隊をつくるための疑似体験にはなっていると思いますが。
上層部がろっくんを臨時部隊の隊長にした意図も、実際にやってみる前に経験を積ませるという意図があったのかもしれませんね。葉子ちゃんが遠征に選ばれたとしたら、隊を作り直すことになる訳ですから。ろっくんの問題点や『足踏み』まで上層部が正確に把握していた訳ではないかもしれませんが。
ところで、それだとなぜ臨時部隊の隊長を三浦くんではなくろっくんにしたのかという疑問が出てきますね。もしかすると、三浦くんのこれまでの立ち回りや葉子ちゃんへの対応から、彼は隊長として前に出るよりも、サポート役の方が向いていると判断されたのかも。それだけじゃなくて、三浦くんではなくろっくんを選んだ積極的な理由が、忍田さんにはありそうですが……
ともあれ、これでろっくんは自分の根本的な問題に向き合うことができたので、これからどう変わるかに注目ですね。これだけヒュースに言われたんですから、奮起してほしいと思います。
でも、ろっくんは香取隊を抜けるという選択は採らない気がします。ろっくんは単に強くなりたいのではなくて、香取隊の勝ちに貢献するために強くなりたい訳ですから。華さんのため、とも言えるかも。
だから、香取隊を抜けずに、同じような効果を得られるやり方を模索しなければならないのだろうと思います。大変だろうけど、ろっくんには頑張ってほしいですね。