ワートリ 246話感想
ジャンプスクエア11月号、ワールドトリガー246話の感想です。2話同時掲載ですが、あまりにも長くなってしまうので1話ずつまとめます。
前々回、「いよいよカナダ人のお悩み相談室が始まる!」と思っていたのに、前回はヒュースの義理がたさによって麓郎くんの師匠の犬飼先輩に断りを入れるという手順を踏むことになってお預け状態になりましたが、そのおかげで犬飼先輩の内面が垣間見えるというボーナスタイムが生じた訳ですが……
今度こそ、本当にお悩み相談室の本番です。それだけでもすごく楽しみな回だったのですが……まさかの、これまでの展開を全部振り返って再度読み込みたくなるような、ワールドトリガーの遅効性と再読性を凝縮したような神回となりました!
それだけでもめちゃくちゃすごいのに……少年たちに大事なことを伝えるという少年漫画の真骨頂も、思わずくすっと笑ってしまう漫画としての面白さも、腐的な深読みをする腐女子へのごちそうも、全てを凝縮しているとんでもない傑作回ですよこれは……
到底私の頭では全てを把握しきることはできないのだけど、とりあえず書けるだけ書きます。頑張ります!
さて、ヒュースが「今回の話はオレの師に倣って 麓郎の質問に答える形にようろ思う」と言い出したので、ちょっとまどろっこしい展開になるのかなぁ〜と思ってしまいましたが、全然そんなことにはなりませんでした!
それは、麓郎くんが最初の質問を「『実力』って何だ?」にしたことの影響が大きいですね。単に『麓郎と修のちがいは何か』を説明するのではない深みが出ました。
その前に、半崎くんが「ヒュースの師匠? 玉狛の人か?」って質問して、ヒュースが「いや カナダでの師だ」と答え、「※アフトクラトルでの話です」という注釈が入るという笑えるポイントがありましたが…… 今回、こういうちょっと笑えるポイントがいくつも用意されているおかげで胸の痛い話が緩和されていますし、逆にクライマックスの刺さり方を際立たせる効果も生じている気がします。……つまりは漫画としてすごいってことです!
「『実力』って何だ?」へのヒュースの答えは、「そこを深く考える必要はない 実力とはただの『結果』だ」というものでした。
ここでヒュースが出してきたたとえ話が、「2人のタイヤキ職人」! これも笑えるポイントですよ。ヒュース、あんた、よほどタイヤキが気にいったんだね!というほのぼのポイントでもある。
それでいて、このたとえ話がものすごくわかりやすく、的を射てるんですよね。
「どちらの実力が上か」を決めるのは、よい材料を用意したかでも、手順が正確かでも、練習をどれだけしたかでも、知識があるかでも、さらには才能があるかでもなくて、「『作ったタイヤキが美味いかどうか』だ」である、と。つまり、タイヤキが美味いという「結果」が出せるのが「実力」ということですね。逆に言うと、「実力」とは「結果」でしか測れないものであるとも言えるかも……。
「かとりのほうがうまい」と判断しているのが、ヒュースが絶対なる信用をおいている陽太郎であるというところもポイントですぞ。
半崎くんが「その話でいくと 三雲もたいやき名人ってことになんの?」と尋ねると、ヒュースの答えは「それはちがうな 玉狛第二でタイヤキを焼くのは遊真と千佳だ 修にはタイヤキを売る能力がある」というものでした。この時点で、個人戦での能力と、チーム戦での能力は違うということに少し踏み込んでいますね。
ここの説明イラストもすごくおもしろいんですが、圧倒的トリオン量の千佳ちゃんがつくるタイヤキは「超特大」で、機動力ピカイチの遊真さんのつくるタイヤキは「ハイスピード」が売りなんですよね。そして、修くんの役割は呼び込みや宣伝と、客を効率よく導くスパイダーなんですね。つまりは、チーム戦に置き換えると敵がうまく策にはまるように誘導する能力ってことになるでしょうか?
絵面のおもしろさと説明のわかりやすさが見事に両立されていますね。……つまりは漫画としてすごいってことですよ!
ヒュースの説明は、「言い換えれば実力とは 『結果に+の影響を及ぼす能力』の事だ ランク戦で言えば 『自分の部隊(チーム)を勝ちに近付ける能力』とも言える」と続きます。そして、「故に実力はいずれ結果に現れる 実力が欲しければ結果を出すしかない」と。ここでろっくんは葉子ちゃんが「前から言ってるけど これが今の香取隊(うち)の実力ってこと それだけの話よ」と言っていたのを思い出すんですよね。ろっくんはこの葉子ちゃんの言葉を深い意味のあるものとはとらえていなかったかもしれないけれど、葉子ちゃんは「実力は結果に現れる」ってことをちゃんとわかって言ってたってことなのかもしれないと思い当たったんですよね。
この辺から、ろっくんから見えていた葉子ちゃん像、これは、読者から見えていた葉子ちゃん像とも重なるものだと思いますが、それが本当の葉子ちゃんとは違っていたのかもしれないということが見えてくるんですよね。
ここで半崎くんが、「実際はすげー強いのに転送位置が悪かったりしてボロっと負けることもあるじゃん そういう負けも実力ってこと?」と尋ねますが、ここの背景絵が最終戦で囲まれて、最終的に海くんに落とされたヒュースなんですよね。ヒュースも身に覚えがあること。で、その答えは「実戦に照らせばそうなるな」とのことでした。
そして、「実際の戦闘では 見たこともない特殊なトリガーや 勝ち目のないような敵が現れることもある」と続けて説明していて、そこの背景絵はアフトクラトルの方々なんですよね。お懐かしい!
さらに、「そこで不運や理不尽を嘆いても無意味だ 直面した状況下に於いて 『結果』をどれだけ最善に近付けられるかで実力が試される」と続きますが、その背景絵は大規模侵攻の時に、自分より格上のヴィザ翁に勝利した遊真さん、ヒュースを追い詰めた迅さん、トリガーオフでハイレインの攻撃を無効化した修くんなんですよね。
ここにきて大規模侵攻編のおさらいまで入ってくるとは……今回って総集編でしたっけ?という勢いですね。
ヒュースは「ランク戦が実戦に向けての訓練である以上 不運や理不尽による敗北も実力と捉えて改善策を講じるべきだろう」と結論づけました。
で、ろっくんの次の質問は、「実力=結果ってのはいいとして じゃあ 三雲とオレの結果に差が付いたのはなんでだ……?」というもの。
ろっくんとしては、個人戦での能力としては自分より劣っている修くんがなぜ自分より結果が出せるのか、つまり、チームを勝ちに近付けることができるのかってことを知りたいんですよね。それがわかれば、自分にもチームが勝つことに貢献できるようになると思ってる。
でも、それに対するヒュースの答えは、「それはおそらく 『余裕』の差だろうな」というものでした。そして、「オレに余裕が無えのが理由……!?」と勢い込むろっくんに対し、「いや逆だ 余裕が無いのは修のほうだ」とヒュースは答えました。
修くんの余裕の無さを説明するために、ヒュースは麓郎くんと香取隊の目標を尋ねます。ろっくんはつっかえながらも、「オレは銃手(ガンナー)でマスター級 部隊(チーム)はA級昇格だな」と答えます。しかし、ヒュースにさらに「その期限はいつまでだ?」と問われると、「期限は…… 特に決めてねえけど……」としか答えられませんでした。
ヒュースは「玉狛第二には明確な目標とその期限がある」と指摘します。ここの背景絵は、大規模侵攻の後に修くんがボーダーの記者会見でさらわれた隊員を取り戻すと宣言したところですね。ホント、総集編だわ……
さらにヒュースは、「オレは詳しくは知らんが修には最短で遠征に行かなければならない理由があるそうだ」と話します。「行かなければならない」に黒丸がついて強調されています。
そして、「『必要に迫られる』という要素が人を育てる場合は多い 麓郎と修のわかりやすい差はそこだろう」と指摘。……ヒュースが何を麓郎くんと修くんの違いとするのか、いろいろ考えていましたが、ここに集約されるとは読み切れませんでしたね。必死さの違いというのはあるかなとは思っていましたが……
ろっくんは「期限があるかどうかがそんなに重要なのか……!?」と訊きますが、そりゃ重要でしょう……と思ってしまうのは、読者は修くんの事情を知っているからで、単にボーダーでチームを組んでいる中高生の立場なら、期限を意識する場合の方が少ないかもしれません。卒業を機にボーダーを離れるとかはあるでしょうが。
期限の重要さについてのヒュースの説明は、「これは師の受け売りだが 目標に期限が無い場合 失敗を正しく認識できないことがあるという」、「人は『失った物』を確認することで失敗を認識できる」、「目標に向けて費やしてきた時間 労力 資金…… 信用や評価を失った と自覚することで 目標の達成が失敗したことを認識できるんだ」、「だが目標達成の期限を決めなければ 成功か失敗かの判定を無限に先送りすることができる」……この辺、目標達成や結果を出すことを求められる社会人にはグサグサ刺さってくる言葉ですよね。
そして、次のページをめくると……幼いヒュースに教えをたれるヴィザ翁の姿が! 大サービスじゃないですか、これ!? まだ角をつける前のショタヒュース、かわいい……
で、肝腎のヴィザ翁の教えですが、「……つまり 注ぎ込んだ物は成功すれば返ってくるのだから まだ何も失っていないと思い込むことも可能なわけです」、「そして期限を決めないということはすなわち 失われた時間の重みに目をつぶるということ」、「物も時間も失ったことを認識できない場合 現実的な反省や改善は望むべくもありません これを『足踏み』と言います」って……さらに社会人にはグサグサくる言葉ですね。期限は決めないと駄目だし、目標は達成しないといけないんだよ……
ここで、「厳しいな ヒュースの師匠……」とつぶやく日佐人くんの横で、「正論でぶん殴ってくるタイプだな……」とモノローグしている半崎くんのうげ〜と言いたげな顔がかわいいですね。
ヒュースは麓郎くんに対しては慎重に言葉を選んで対応していて、「これは弟子(オレ)を戒めるための極端な例だが」と断ってから、「要するに期限を切るのは結果を向き合う手段の1つになるという話だ」と説明。ろっくんはそれを聞いて、ヒュースに「麓郎はこの半年で何を得た?」ということを思い返し、まともな答えが返せなかった自分の至らなさを痛感する訳ですね。痛い……
続けてヒュースによる修の成長に関する分析が語られます。「修には『足踏み』をする暇が無かった 目の前の問題や自分の能力の足りなさを先送りする『余裕』が無かったんだ それが結果的に アイデアの質と量で勝負するという修の強みを伸ばすことにつながった」と、滅茶苦茶的を射た分析ですね。
「もし修にもっと余裕があったなら 戦闘能力で結果を出すことにこだわって 今より『足踏み』をしていた可能性はある」というヒュースの説明の背景絵に、「証明してやる トリオンが低くてもやれるってことを」と燃えている修くんと、「ごうまんだね」と言っている菊地原先輩、「2年はかかるわ」と言っている木虎ちゃんがいるんですよね〜 きっくちーには実際に言われた言葉ですよね。木虎ちゃんの言葉は実際に言ったかどうか思い出せないんですが、この2人の指摘によって修くんの迷走が早く終わったということは事実ですね。それに、風間さんから「隊長としての勤めを果たせ」って言われたことも重要なきっかけでしたよね。修くんだって、そうやって苦言を呈してくれる人たちがいなければ、間違った方向に努力して『足踏み』してた可能性もあるんだよな。余裕がないことがかえって目指すべき方向を見誤らせることもあると思うし……
ここまでの話を振り返って半崎くんが、「……なんか話聞いてると三雲がすげーっていうより オレらがのんびりしすぎって言われている気がしてくるなー」とつぶやきます。
半崎くん、一貫してろっくん側よりも立場に立って、ぼやきのようなことを言ってガス抜きする役割を果たしてくれていますね。
ヒュースは、「他の人間を貶めるつもりはない 追い込むより自由にさせるのがボーダーの方針なのだろう その中でこそ生まれる強さやアイデアも当然あるはずだ」と述べ、その背景絵にいるのが諏訪さん、東さん、荒船くん、きっくちー、王子先輩、イコさん、太一くんなんだよな。自由にさせている中で生まれる強さが諏訪さん、東さん、荒船くん、きっくちー、イコさんで、アイデアが王子先輩と太一くんかな? この分け方は違う可能性もあるけど、ヒュースが評価している人たちと考えると諏訪さんやきくっちーが入ってるのがうれしいですね。
「ただ玉狛第二は 他の部隊(チーム)とはちがう条件でランク戦を戦っていた そのことが修に他の隊員とはちがう道を選ばせたのはまちがいない」と評するヒュース。玉狛第二の4人が走っている構図はアニメのオープニングを思いださせますね。あんなさわやかなものではなく、「最速!!!」ですけどね。
ろっくんは、「だとしたら…… オレも何か期限を決めて自分を追い込めば 三雲と同じ強みが手に入るのか……!?」と意気込みますが、ヒュースはここでも長考。見守る日佐人くんと半崎くんがかわいいっすね。この2人の存在も癒しだ……
ヒュースは「……なぜ 修と同じ強みを求める?」と問います。ろっくんの答えは、「そりゃ……もちろん 今より強くなりてえからだろ オレに無え物を『持ってる』人間と渡り合えるだけの武器が…… 自分を変えてくれる『何か』が欲しいんだ……!」と、血のにじむような、絞り出すような言葉。ここで『持ってる』人間としてろっくんの脳裏に浮かんでいるのは、葉子ちゃん、犬飼先輩、里見先輩、佐伯先輩、片桐先輩、蔵内先輩、出水先輩、那須さん、照屋ちゃん、そして修くん。修くん以外は、みんな戦闘員としての評価が高い人たちですね。ろっくんは今までは戦闘員として強い人たちを『持ってる』人間として意識していたけど、修くんのことを知ってからは戦闘員として強くなくても『持ってる』人間になれるということを感じ取って、修くんを意識するようになった訳ですね。
でも、その言葉に対するヒュースの返しは、「その『何か』は本当に存在するのか?」という重いものでした。
「他人の『答え』を集めたところで己の経験にはならない 犬飼が言っていたのはそういうことじゃないのか?」、「麓郎がその『何か』を探しているあいだにも 競争相手は『ごく普通の鍛錬』を積んでいる」、「その現実から目を逸らしてあやふやな飛躍の可能性に期待し続ける これは典型的な『足踏み』だ」という言葉が続きますが、これはきっくちーが修くんに言った「追いつけるつもりでいるんだ 傲慢だね」を、すごく優しく丁寧に言い換えた言葉ですね。
ろっくんが「……周りが特別なんじゃなくて ……オレが止まってるだけってことか……!?」と、つらい事実に気付きますが……これはまだ序章に過ぎなかったんだよな。
半崎くんが「……結局三雲のやり方は他人には真似できねーってこと?」と、話を元に戻してくれます。ヒュースは、「ROUND4で玉狛第二が敗北したとき…… 修が採った改善策は 迅を部隊(チーム)に勧誘することだった」と語ります。それに対する反応が、ろっくんは「な」、半崎くんは「はぁ!?」、日佐人くんは「迅さんを……!?」。それぞれすごく驚いていますね。
ヒュースは、ここでこのエピソードを出してくるってことは、ボーダーにおける迅さんの評価が高いことはちゃんと認識して認めてるんですね。それと好きか嫌いかは違うってことか。
「結果的にそれは実現しなかったが 同じことを実行できる人間は少ないだろう 期限の重さや強制力も 修と他の人間ではちがってくるはずだ」というヒュースの言葉の背景絵が、屋上での「空閑には時間がない」と言った時の修くんの横顔なんですよね…… この横顔は、作中屈指の美しさですよね。しかし、一般の15歳の表情ではないよな…… 遊真さんの命の期限があるんだから、必死にもなるよな……
「人はそれぞれ条件が異なる 表面を真似ることはできても 中身まで真似ることはできない」、「修とのちがいを説明しても 麓郎には得るものがない と言ったのはこれが理由だ」とヒュースが説明。そうですよね。同じように期限を区切ったとしても、それで同じような切実さが生じる訳ではないですもんね。
ここに活路があるように感じていた道が塞がれてしまった麓郎くんは、「じゃあ…… じゃあオレは…… どうやって強くなればいいんだ……?」とつぶやきます。
そのつぶやきに対して、ヒュースは「麓郎が強くなる方法なら 1つ思いつく」と発言します。
一瞬、光が見えたかに思えましたが、ヒュースの提案は「香取隊を抜けることだ」でした。
さらに衝撃を受けるろっくんに対し、「問題の根幹は香取隊にある 今からそれを説明しよう」と告げるヒュース。いよいよ問題の核心に迫る……というところで、246話は終わります。
通常なら、ここから1ヵ月待たなければならない訳ですが、2ページめくれば続きが読める幸せ……
とは言え、長くなるのでここで一旦区切ります。