映画「風が強く吹いている」感想



これは、2009年10月に試写会で初見したときの感想です。
別のところに書いたものをコピペしました。




2009.10.22 『風が強く吹いている』試写会の感想

この映画は直木賞作家三浦しをんさんの原作で、箱根駅伝に挑戦する部員10名の陸上部の物語です。私は小学生の頃からの箱根駅伝ファンで、三浦しをんさんもデビュー後2作目くらいからリアルタイムで読んでいる好きな作家の一人なのです。なので、特に『風が強く吹いている』の原作はお気に入りの一冊で、家族にも勧めて読ませていたところ、父が新聞に載っていた試写会のお知らせを教えてくれたのでした。
ブログをやっている人は試写会の感想を是非書いてくださいという主催者側のお言葉があったのですが、やはり公開前ということなのでネタバレ的なこと(原作とどこが違うかなど)を書くのは避けたいと思います。
なので、キャストについての感想などを。

まず、清瀬灰二役の小出恵介さん。見事なハイジっぷりでした! ルーキーズの御子柴くんのイメージがあったので「どうかな?」と思っていたのですが、ハイジさんの策士で、態度はやさしいのに言っていることは容赦なく、不思議と誰も逆らえない雰囲気をかもし出すところが見事に演じられていたと思います。原作ファン、ハイジファンは必見です。

蔵原走役の林遣都さんは、走る姿がとてもきれいでした。(フォームがどうのという専門的なことがわかる訳ではありませんが……) 目に力がある役者さんなので、そういうところもカケル役に合っていたと思います。
カケルとハイジさんのやり取りは原作の近い雰囲気で、原作ファンとしてもうれしかったですね。セリフは省略されてしまった部分もありますが、その分、表情や目線で補われていたと思います。

王子役の中村優一さん、意外にピッタリでしたね。王子のオタクっぷりを見事に演じられていたし、王子の走りが変わっていくのもリアルでした。ユキ役の森廉さんも原作のイメージ通りでしたね。カケルとの会話がよかったです。他のアオタケメンバーもなかなかハマっていたと思います。

それから、意外な役者さんが特別出演されているのも必見です。私が一番「おおっ!」と思ったのは寺脇康文さん。どんな役なのかは見てのお楽しみです。

全般的な感想としては、原作のイメージを大事にし、それでいて映画として伝わりやすくまとめあげた作品、という印象です。原作好きが細かい部分で楽しめる要素もあるので、大画面でも見るのもいいですが、DVDが出たら買ってじっくり細部を見たいという気持ちにもなりました。

短くてすみませんがこんなところです。公開日を過ぎたら細かいことも書きたいですね。



2009.11.7 『風が強く吹いている』試写会の感想 公開後編

10月22日に試写会に行った映画『風が強く吹いている』ですが、10月31日の公開から一週間経ちましたので、そろそろ内容にも踏み込んだ感想を書きたいと思います。
と言いますか、私はそもそも原作の小説のファンで、更に現在連載中の漫画版の方も読んでいますので(コミックス派なのでコミックス未収録分は未読ですが)、原作を軸にしたそれぞれの比較という形になると思います。かなりのネタバレになりますので、それぞれ未読、未見の方はご了承のうえでこの先をお読みください。未読、未見でまだ内容を知らないで楽しみを取っておきたいという方はブラウザバックをお願いします。


よろしいでしょうか? よろしいですね?


それでは、具体的な感想に入っていきたいと思います。

まず、映画と漫画というメディアの違いから。
当然それぞれのメディアに利点も限界もありますので、原作のどの部分を膨らませ、どの部分を削ぎ取るのかというところがそれぞれ違います。
映画は基本的に時間の制限が強いので、エピソードを取捨選択することになり、それによって設定も微妙に異なります。ですが、映像による説得力によって膨らみを持たせることも可能で、ちょっとした小道具の使い方でより人物像をはっきりと描き出したりもします。『風が強く吹いている』の場合、キングのクイズ好き設定、ニコチャン先輩の禁煙エピソードに関する小道具の使い方が秀逸だったと思います。
漫画の場合も時間的制約がない訳ではありませんが、一つの画面につぎ込める情報量の制限が映画ほど強くありませんので、比較的自由にエピソードを盛り込めます。『風が強く吹いている』の場合、ライバル校のキャラクターなどの登場人物を増やすことによって、原作に登場している人物の人物像を更に明らかにして魅力を増させるということに成功していると思います。特に東体大! 漫画版を読むと榊の見方が全然変わってきます。

それから、基本設定についてです。
漫画版は、竹青荘の住人みんなが陸上部の寮であることを知らなかったという原作設定を踏襲しているのですが、映画ではカケル以外は知っていて、毎日10キロ走るという規則を守っていることになっています。やはり、映画はよりリアリティが求められるメディアだということで、”全くの素人が箱根駅伝を目指す”という設定からは微妙に変えたのだと思います。
それはまあ、仕方がないことだとは思いますが……ハイジさんが寮の看板を突然がっとつかんで持ってくるエピソードが好きだったので、そのインパクトが薄まってしまったのは残念ですね。

もう一つの大きな設定の違いは、ハイジさんの怪我のことです。
原作では、ハイジさんの怪我の正確な状態を寛政大のメンバーは誰も知りません。怪我をしていることは何人かはある程度知っていて、カケルも再起不能になるんじゃないかという不安は持っていて、でもハイジさんの「大丈夫だ」という言葉を信じることにします。そして、ハイジさんの負担をできるだけ軽くするために、自分が最高の走りをしようと決意する……
ですが、映画ではカケルにだけは、医者との会話を聞いてバレてしまうのですよね。カケルはそれでも走ることを選んだハイジさんの選択を尊重し、自分も最高の走りをしようと決意する……

似ているようですが、大きく違う! 原作では重要なファクターだったハイジさんの「嘘」が、映画では全然なくなってしまっているんですよね。ハイジさんがついた「嘘」は、自分が箱根駅伝を走りたいという「我がまま」でもあり、仲間達に負担をかけさせないという「やさしさ」でもあり、カケルに最高の走りをさせるための「策略」でもある。ハイジさんの、ただやさしいだけではない懐の深さ、計算高さの背後に見える真摯さ、強さ、そういったものが「潔く残酷でうつくしい嘘」(原作p505)の中に詰まっているのです。それを映画で出すのは難しかったかもしれませんが、全くなくなってしまったのは残念でしたね……

だから、映画のクライマックスの、足を引きずりながらゴールを目指すハイジさんの姿に素直に感動できなかったのですよね、原作ファンとしては……

映画だけを観る人にとってはあの展開でいいのでしょうけど……

(漫画版はこの部分はまだなので、どのように描かれるのか気になるところです)

それから、映画の小出恵介さんが演じるハイジさんがイメージ通りだっただけに、彼にあの「潔く残酷でうつくしい嘘」をついてもらえなかったのが残念なのかもしれません。

とは言え、これは原作と映画を比較しての話ですので、映画としてはすごく良かったと思ってますよ! 映像がとても美しかったですし、キャスティングもよかったし、細かいところへの拘りも感じましたし。映画化してよかったと思ってます。

これでますます三浦しをんさんのファンが増えることも期待できますしね!


DVDを観ての感想はまたいずれ書きたいと思います。




2010.6.5.