LAND BATTLE TYPE MOBILE SUIT-07 TYPE SERIES 'GOUF'
PRINCIPALITY OF ZEON MASS PRODUCTIVE
UNIVARSAL CENTURY 0079
〔 S型ザクにみる   
   MSの優性遺伝 〕

 MS−05を経て実用兵器として完成の域に あるザクは、別の見方をすれば発展の限界に 達しつつある、とも言えた。量産兵器として の汎用性を維持しつつ、前線兵士にも習熟が 可能なもの、という前提を重んずるならば、 これ以上の能力向上は、なにか特別な技術革 新でもない限り不可能であったのだ。
 しかし前線兵器であるからには、戦闘能力 の向上策は常に意識されなければならない。 戦場からフィードパックされる教訓ほと、次 世代のテクノロジーを主導するものはないの だ。そこで、いわば特例的措置として開発さ れた能力向上モデルがS型であった。
 すでにこ存じの通り、ザクは初めて本格的 実用化に成功した人型の戦術兵器である。そ れは人間的関節軸を設定したことにより、 AMBACというあたらしい機動を生み出した 反面、必然的に手首や足首といった末端部分 の運動による慣性質量対策という問題を背負 い込むこととなった。そのためのカウンター 制御に関しても、当然−「応の対策がされてい たのではあるが、操縦の難度との兼ね合いか ら、安定領域をある程度、大き目にとったも のだったのである。
 このため適応の早い者にとって、ザクの操 縦を慣熟するにしたがい、操作入力と、この 慣性からくる実際の動作との位相の遅れが、 さわめて不快なストレスとなっていったので ある。
 実は試験運用において、蛇行のような反復 機動を試みた場合、気が急いたパイロットが 遅れてくる機動を待ち切れず、反復運動方向 へ入力を加えたり、緒動を抑えようとする操 作を悪いタイミングて加えるなどして、むし ろ楕動を大きくすることとなり、最後にはコ ントロール不能に陥るか、構造破壊へと至る という事態が発生していたのだ。
 これはそれなりの重量を有する大きな運動 体にとって、原埋的に回避できないものであ るっそこで実用化を急ぐ公園側は、コンピュ ーターの安定領域を拡大し、反復機動時の操 作入力を抑制するダンピング制御ロジックを 組み込んだのである。だがそれは、ザクの横 造限界をフルに引き出すはるか以前の段楷で、 運動性にタガをはめる行為でもあった。一部 の先鋭的なテクニックの持ち主にとって、そ れはますます耐えられないことだったのであ る。
 ほどなく戦場において、このダンパーを手 っ取り早くバイパスきせるべくヒューズを外 し、機動力を少しでも向上させようと試みる 猛者が現われたという。
 この実掛まほどなくして公園側開発陣の耳 にも達することとなる。そこで反応速度向上 にのみ的を絞り、あえてバランスを崩してで も、一部のエリートパイロットの希望に応え る運動性を付与しようと試みた機体が作られ ることとなった。
 そもそもザクのOSに組み込まれている、3 軸廻りのSAS(安定増強装置)は、技術者によ る綿密な生体学的事前調査により、G制御値 が決定された経緯がある。しかし、あえてこ のGリミツターを外した状態のテストベッド を用意し、ベテランパイロットを搭乗させて みたところ、当初の予測をはるかに超えた適 応能力を示す人間の存在が明らかとなったの だ。そこでこの”選ばれし者”に限定する範 囲でアバンギャルドな進化型を供給しようと いうプロジェクトが芽生えたのである。
 この経緯から明らかなように、量産型サグ タイプ名称が与えられてはいても、S型の実 体は特別誂えの増加試作型であったのだ。
 では具体的な要素技術を検証していこう。 まず機関出力の30%向上があげられる。しか しこれはエンジン単体出力ではなく、ハイブ リッドアクチュエーターに供給されるエネル ギーの総量比である。実際そのほとんどはレ ギュレーターのキャパシティ拡大による、電 力の増加分であった。
 また、関節軸やアクチュエーターのフリク ションロスも徹底的に軽減された。これは生 産行程において量産機用部品を検品したなか から、製造誤差のもっとも少ないものを選別 し、さらに熟練工による手作業で精度を向上 させるという前近代的手法による。
 また、スラスターの追加や能力向上が試み られ、一説には30%もの推力増強を達成した ともいわれる。これは単に機動性をあげるた めだけでなく、より高迎角、高沈下率での着 地衝撃に対し、先述の高精度アクチュエータ ーやヒンジを保護するためにも重要な措置で あったのだ。
 また、より高次になった運動部位の加速G 情報を的確にコンピューターに入力するため、 頭部前方に角のようなセンサーを設置してい る。これは上級士官に供給されることが多か ったS型において必要とされた、長距離秘話 通信装置のアンテナを兼ねていると信じられ ている。
 こうしてとりあえずは機動性のさらなる向 上に成功したかに見えたS型。しかし得たも のは大きかったが、失ったものもあった。そ の最大のものは、末端の軽量化を目的とした 装甲用素材の変更にともなう耐弾性の低下で あった。このため、戦時損抑止の観点から、 後年ニュータイプとして認知されたような高 度な予測能力を備えた人間でなくしては搭乗 は許されなかったらしい。
 また、出力向上による影響で、一補給あた りの稼動時間も若干の低下をみたという。
 さらに消耗/定期交換部位に専用選別部品 を多用したため、初期性能の維持期間も決し て長いものではなかったという。ただし機械 的精度が落ちたところで、量産型ザクと同レ ベルになるというだけの話ではあり、前線で のメンテナンスもそれらに準じたことから、 特に問題は発生しなかったようだ。

 MS創世期に生まれた機体ながら、進化する 人間の能力に高度に対応しつづけたMS−06 ザク。その本質をとちえた基本設計の優秀さ は、この世に兵器があるかぎり、末長く語り 継がれていくであろう。

HJ誌 88P G-TECHNOLOGY 参照