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▼『豚が飛ぶとき』の作品データ▼
#19.椅子 (2000.12)
 「21世紀はどんな時代になるんだろっ?」私が子供の頃に想像していたのは、『フィフス・エレメント』に出てくるような街の風景でした。また「科学の発展によって、どんな謎も解き明かされているはず」とも考えていたのです。しかし、新世紀が間近に迫った現在も、不思議な出来事は起きているようですね。いまだ記憶に新しい某県の団地で起こった幽霊騒ぎもそのひとつです。

今回ご紹介する『豚が飛ぶとき』には、無邪気な幽霊が登場します。

父親の残した家に住むマーティ(アルフレッド・モリーナ)は、生き甲斐もなく、散らかり放題の部屋で一日中寝てばかりいる男性です。僅かばかりの収入は、家の2階に下宿している踊り子シーラからの家賃と、ジャズピアノを習いにやってくる子供の月謝だけ。町の人々はマーティのことを、「洋服や靴の趣味が悪い・変わり者!」と呼んでいました。

□□□酒場『エリンの薔薇』のオーナー、フランク(シーモア・カッセル)は、ケチで嫌味な初老の男。店に勤めているシーラにもフランクは横柄な態度で雑用を言いつける。今日の雑用はフランクの外出中に物置小屋を整理することだ。いやいや入った物置小屋の片隅でシーラは、一脚の古ぼけた椅子に目を留めた。□□□

シーラは、なぜかふとマーティのことを思い出し、古い椅子を持って帰宅します。やっと目の覚めたマーティは、家の前に置かれているシーラの走り書きメモが貼られた椅子を見つけ、不思議に感じながらも椅子を地下室へと運びました。

□□□脚の両側下部分に、ゆるくカーブした木ぎれのついた椅子は、ロッキング・チェアタイプだが、座板も外れかけた年代物である。別にどこにでもあるような古い揺り椅子。きっとマーティにも忘れ去られる運命・・・?ではなかった!彼は一生、この古い椅子を忘れることなどできなくなるのだから。□□□

『エリンの薔薇』のマダム、リリー(マリアンヌ・フェイスフル)は美しく、とても歌の上手な女性でした。古い椅子は、リリーが以前がらくた市で買ったもの。今、この椅子には、マダム・リリー&ルーシーという幼い女の子、ふたりの幽霊がとりついています。リリーは、椅子にもたれて眠っていたとき、夫フランクに殴り殺されており、ルーシーは、リリーよりも早くに死んでいて同じ椅子に住んでいるのです。

□□□「ジーザス・・・・怖い・・・・悪夢か・・・天罰か?」幽霊を前に取り乱すマーティだったが、リリーの顔を見て、過去のことを思い出していく。リリーが『エリンの薔薇』に居た頃、マーティはよく酒場へ通っていたのだ。□□□

リリーとルーシーの願いを聞き入れ、椅子をバラバラに分解したマーティは椅子の部材を抱えて町を歩きます。幽霊の見えない町の人達には奇異な行動にしか映りませんが、マーティは自分の父親をはじめ、過去に亡くなった人々を町のいたるところに発見し、やっと幽霊の存在を信じる気持ちになりました。

□□□いつのまにか、リリーとルーシーに対する怖れは消え、マーティはシーラとともに幽霊の話に耳を傾けていた。リリーの願いは、フランクに対する恨みを晴らすことと、ひとり娘キャスリーンの行方を探すこと。□□□

□□□リリーはフランクが大金を隠している場所をマーティに教え、それをキャスリーンへ届けたいのだと言う。言われた通りにすると、本当に大金が!!!!!□□□

拳銃片手に妨害するフランクは、自分が殺めた妻の姿に怖れおののき、駆けつけた警官に「(妻を)殺した(はずな)のに?」と喋ったため、その場で逮捕されてしまいました。

□□□お金と古い椅子は、マーティとシーラの手でキャスリーンの元へ。海に近い家の前で、ゆらりゆらりと前後に揺れる椅子。マーティとシーラは仲良く椅子に腰掛けている幽霊に手を振った。□□□

この映画は、まずシーラと椅子の出会いがあり、それからマーティと幽霊との再会があって、その後、幽霊の復讐と念願が叶えられ、ラストにはシーラとマーティに恋が芽生える・・・不思議なめぐり会いのお話です。

幽霊が椅子へとりついているという設定ですから、どんな場面でも椅子を大切に持ち歩く主人公の姿は滑稽で、笑いを誘うと同時にまた、彼のやさしい人柄を観客に知らせる小道具としての役割を古い椅子が果たしていたともいえるでしょう。

 主人公のマーティ役、アルフレッド・モリーナは『マグノリア』にも出演しているそうですが、登場人物が多すぎたため、残念ながら私はよく覚えておりません。リリーの夫フランク役、シーモア・カッセルは『イン・ザ・スープ』『あなたに降る夢』などでも、ちょっとひと癖ある役柄をうまく演じている役者さんです。そして監督サラ・ドライヴァーは、ジム・ジャームッシュ監督のパートナーだそうです。

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