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▼『運命の饗宴』の作品データ▼
#16.燕尾服 (2000.8)
 わが家にCSを取り付けて約3ヶ月、夏休みの到来です。でもタイマー録画した作品は溜まる一方で、私は、なかなかゆっくりとそれらを観る時間がありません。そんな中、先日偶然つけた映画チャンネルで、面白いオムニバス映画にめぐり会うことができました。(嬉!)

今回は、1着の 燕尾服にまつわる 6つのお話を集めた作品、『運命の饗宴』について、書いてみたいと思います。

注:ご存知だと思いますが、念のため「燕尾服」の説明をしておきますね。(笑)
「燕尾服(えんびふく)・・・洋装の男子礼服のひとつ。上着はウエストのあたりから前すそが無く、後ろがツバメの尾のように割れて長い。」

□□□1話目は・・・舞台俳優のお話。新作舞台劇が好評なひとりの俳優が、新しい燕尾服に袖を通す。付き人が「いかがですか?襟の感じなど・・・」と問う。「あぁ いい感じだ」と 答える俳優。□□□

しかし、その燕尾服を仕立てた職人と付き人の間で、襟の形に対する意見の相違があり、売り言葉に買い言葉の喧嘩の末、仕立て屋はクビになっていました。

□□□仕立て屋が吐いた捨てぜりふが恐い。「この燕尾服を呪う、着ると不幸になる!」という内容のものだからだ。付き人は、呪いのかかった燕尾服のことが気がかりでたまらない。□□□

俳優は、美しい人妻と愛人関係にあり彼女の夫の目を盗んでは、逢瀬を重ねる日々でした。今日も舞台の後、燕尾服のまま人妻の元へ車を走らせます。

□□□いつものように逢い引きをしているところへ人妻の夫がやってくる。夫は狩猟が趣味なので、部屋中いたるところに猟銃が並べてあった。自慢の猟銃を手入れしながら、俳優に嫌味な言葉をぶつける夫。夫の目は俳優を睨みつけ、銃口は俳優に向けられていた。バンッ!銃声とともに脇腹を押さえて倒れる俳優。悲鳴をあげる人妻と「これは事故だ」と言い張る夫。□□□

やはり燕尾服には呪いがかかっていたのでしょうか?

致命傷を受けている俳優の傍らで、人妻と夫は口論になりますが、いつしか「これは事故だ」「そうね」と自らを守るべく夫婦で口裏を合わせ始めました。

□□□突然、立ち上がった俳優は、「これは演技だよ!」と笑う。驚きのあまり言葉を失う人妻たち。愛人の本心を見てしまった俳優は、その場を立ち去る。だが、燕尾服にはあきらかに弾の通った穴があいていた。俳優の脇腹からは血がにじみ出ている。愛人の夫が銃を撃った時、相手の本心を見抜くため、俳優は咄嗟に演技をしたのだった。□□□

人妻は自分の身かわいさに夫を選んでしまった訳ですが・・・、傷を負いながらも演技した俳優にとってもまた、後腐れなく愛人と別れる機会が与えられたのです。

□□□◆弾の穴のあいた燕尾服は、俳優の運転手から、彼の友人である金持ちの家で働く使用人へと渡る。◆□□□

□□□2話目は・・・ 結婚式当日を迎えた若いお金持ちの お話。□□□

□□□お金持ちの男性には他にもつき合っている女性のいたことが、ひょんなことから今日彼の妻となる婚約者にばれてしてしまう。慌てたこの男性は、自分の親友を家に呼び、婚約者との間をうまく取りなしてもらおうとたくらむが結局、すべての嘘が暴露されていき、最後には婚約者と親友が腕を組んで部屋を出ていくのだった。□□□

□□□◆燕尾服は、お金持ちの家で働く使用人が古着屋へ売りに行く。◆□□□

□□□そして3話目・・・ピアノ弾き(音楽家)が主人公のお話。□□□

私は3番目のお話が最も気に入りました。モノクロ作品ならではの面白さも味わえます。

□□□家族を養うために、ピアノを弾いて日銭を稼いでいる貧しい音楽家。ある日のこと、音楽家にとても大きなチャンスが訪れる。□□□

有名なマエストロに才能を認められた音楽家は、オーケストラの指揮者に抜擢され、自分の曲で演奏会デビューすることになったのです。

□□□公演当日。指揮者の服装、つまり燕尾服を持っていないことに初めて気付く音楽家とその妻。妻は、慌てて古着屋へ向かい、なんとか燕尾服を手に入れ楽屋へ急ぐ。少しサイズが小さいような気もしたが、音楽家は燕尾服に袖を通した。いよいよ本番だ!指揮棒を握る音楽家にあわせて、オーケストラは美しい音色を奏で始める。□□□

しばらくすると、観客席から笑い声がもれ、その笑い声はやがて爆笑の渦と化していきました。不思議に思いながらも演奏を続ける音楽家とオーケストラ。でも、笑い声は小さくなるどころか、反対にどんどん大きくなっていき、ついにオーケストラは演奏を中止せざるをえなくなってしまいます。

□□□あろうことか・・・音楽家の燕尾服は後ろの袖部分がほつれ、彼の全く知らないうちに背中で観客の目を楽しませていたのである。その事を知り、ガクリと肩を落とした音楽家は、なすすべもなく指揮台の上に座り込んでしまった。□□□

□□□彼の夢はここで消えてしまうのか?その時・・・おもむろに立ち上がったマエストロは、自分の燕尾服を脱ぎ、白いシャツ姿のまま「さぁどうぞ、続けて」と音楽家を促した。□□□

マエストロの温かさに触れた音楽家は、躊躇することなく燕尾服を脱ぎ捨て、再び指揮台にのぼります。そして演奏の再開。素晴らしい演奏に酔いしれる観客達は、ひとりまたひとりと燕尾服を脱ぎ、最終的には、ホールの観客すべてが白いシャツ姿になっていました。

由緒あるオーケストラ公演で、男性の正装である黒い燕尾服を脱ぎ白いシャツ姿になることはマナーに反することだと思いますが、マエストロの優しさと機転により、この時ホールの中ではごく自然に音楽家を受け入れるべく、観客達が燕尾服の上着を脱いでいったのです。

□□□さきほどまで嘲笑と黒い燕尾服で埋まっていた観客席は、いつのまにか感嘆のため息と白いシャツ姿に変化していた。音楽家の才能は、こうして世間に認められたのである。□□□

□□□◆家族とともに公演の成功を祝った音楽家は、その日の帰り道、街角の慈善団体に燕尾服を寄付する。◆□□□

さらに・・・4話目、5話目、6話目と燕尾服の行く先々では、さまざまな出来事が起こります。「4話目は、高学歴を持ちながら今はホームレスとなっている男がこの燕尾服を着て、大学の同窓会へ出掛けるお話」「5話目は、盗品の燕尾服を着込んだ強盗が、高級カジノから大金をせしめたものの飛行機で逃亡する途中に燕尾服と大金もろとも農村へ落としてしまうお話」「6話目は、農村に住む黒人労働者が、大金の入った燕尾服を拾うところから始まり、村中の人々のささやかな願いをかなえていく」というものです。

ラストには“とても楽しいオチ”まで用意されているので、私は笑いながらこの映画を見終わることができました。

 原題は『Tales of Manhattan』なのですけれど、邦題である『運命の饗宴』は本当にピッタリ!だと感じます。シャルル・ボワイエ、リタ・ヘイワース、トーマス・ミッチェル、ヘンリー・フォンダ、ジンジャー・ロジャースなどなど、出演俳優&女優の顔ぶれもすごく豪華です。

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