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▼『ストレイト・ストーリー』の作品データ▼
#25.束ねた木ぎれ (2001.11)
 11月、秋本番。わが家の小学4年の娘は林間学校へ行っています。子供は初めての宿泊研修をとても楽しみにしていて、何週間も前から、ウォーク・ラリーや木工芸体験、バイキング料理を食べること、友達みんなでお風呂に入ること等・・・毎日、毎日、色々な計画を話していました。なかでも一番のお楽しみは、星空の下、たき火を囲み歌い踊るキャンプ・ファイヤー!

今回は、満天の星空と、たき火のシーンが心に残った映画、『ストレイト・ストーリー』 について書いてみます。・・・。

□□□アルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)は73歳。もうずいぶんと足腰が弱り、立ち上がる際には杖が必要だ。視力の衰えも著しく、車の運転はできない状態である。そんなアルヴィンは娘のローズ(シシー・スペイセク)とアイオワ州、ローレンスで暮らしていた。□□□

アルヴィンにはライル(ハリー・ディーン・スタントン)という兄がいるのですが、10年前に些細なことから大喧嘩となり、お互いを許せぬまま絶縁しています。しかし、ライルが心臓発作で倒れたことを知ったアルヴィンは、「もう一度兄に会いたい。仲直りをしたい。」と強く思うのでした。

□□□ライルの住まいはウィスコンシン州、マウント・ザイオン。ローレンスからマウント・ザイオンまでの距離は560q。車で行けば1日で行くことができるが、今のアルヴィンにとって車を運転するのは到底無理というもの。アルヴィンが運転できるのは古いトラクターだけ。【トラクターを修理し、手製の荷車をつけた乗り物にまたがり、兄と再会するための旅へ出る】父親の無謀な思いつきに、ローズはもちろん反対したけれど止めることはできなかった。□□□

□□□時速8qのトラクター、6週間に及ぶアルヴィンのひとり旅。行く先々でさまざまな人と出会い、助けられたり、話したり・・・。ある夜、アルヴィンは、家出して放浪している少女と一緒にたき火を囲み話をする。□□□

毛布にくるまった少女が「私は家族から嫌われているの。もしも妊娠が家族に知れたらますます嫌われる。」と言ってさみしそうな顔を見せたとき、アルヴィンは静かに自分の昔話を始めました。「昔、息子や娘にゲームをさせた。枝を渡して「折ってみろ」と言う。(子供たちは)むろんたやすく枝を折る。そこで今度は枝を束ねて同じようにさせると枝は簡単には折れない。・・・家族とはそんなもの。」

□□□少女は黙ってアルヴィンの言葉の意味を考えていた。次の朝。少女の姿はどこにもない。目覚めたアルヴィンの前には毛布と燃え尽きてしまった、たき火のあと。そして、もうひとつ残されていたのが、一束の木ぎれ。□□□

少女は、アルヴィンが眠った後も、たき火の炎と星空を見つめて自分の将来や家族について思いをめぐらせたのでしょう。立ち去る時、少女が「束ねた木ぎれ」は、アルヴィンが話した事への答えなのです。

□□□マウント・ザイオンへ向かう途中、幾人もの見知らぬ人と語り合ったアルヴィン。(家出少女,裏庭に泊まらせてもらった家の主人,酒場で戦争の話をした老人,牧師さん...等)見知らぬ人に昔のことを話すたび、アルヴィンは、「早くライルと会って、お互いのわだかまりをぬぐいさりたい。」「また星空を見上げ語り合える、仲の良い兄弟に戻りたい。」と願っていた。□□□

ライルとアルヴィン、10年ぶりの再会は歩行器と2本の杖も一緒でした。名前を呼びあう...ただそれだけで、長年に渡るふたりのわだかまりは満天の星空へ消えてゆきました。

 アルヴィンの娘役、シシー・スペイセクはブライアン・デ・パルマ監督作『キャリー』(1976)で一躍有名になった女優さんですが、彼女の芸域は広く、今回取りあげた『ストレイト・ストーリー』とは「トラクター」「トウモロコシ畑」つながり(?)の『ザ・リバー』(1984)でもメル・ギブソンの妻役でした。最近の作品では、『タイム・トラベラー/きのうから来た恋人』(1999)にて、クリストファー・ウォーケンと共にブレンダン・フレイザーの両親役を楽しげに演じています。
※ストレイトお爺さんを演じた、リチャード・ファーンズワースさんが亡くなられて1年たちました。『ストレイト・ストーリー』という作品を遺してくれた同氏に哀悼の意を捧げます。※

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