HOMEへ戻る | バックナンバーへ |
▼『黙秘』の作品データ▼ |
#04.オルゴール (1999.7) |
雨の降る夜にミステリーはいかがでしょうか?恐い映画、『キャリー』『シャイニング』『ミザリー』『ペット・セメタリー』等の原作者スティーヴン・キングは、ホラー小説で有名な作家ですが、彼の作品にはホラー小説以外にも『スタンド・バイ・ミー』(同名映画化)や『刑務所のリタ・ヘイワース』(映画名『ショーシャンクの空に』)もあります。 ■今回は、このスティーヴン・キング原作のミステリー、『ドロレス・クレイボーン』を映画化した、『黙秘』からの小道具です。■ □□□主人公ドロレス・クレイボーン(キャシー・ベイツ)は、リトル・トール・アイランドに住む初老の女性。ドロレスは、20年以上もの長い間、気難しい女主人、ヴェラの別荘でメイドとして働いていた。□□□ □□□ヴェラが年老いて、寝たきりになってからは、ドロレスが別荘に住込んで彼女の世話を続けていたが、ある日、ヴェラが階段から転落して(突き落とされて?死亡してしまう。その場にいたのは、ドロレスただひとり。□□□ □□□ドロレスには一人娘のセリーナ(ジェニファー・ジェイソン・リー)がいるが、現在は疎遠な関係である。セリーナはニューヨークで雑誌記者をしている。□□□ ■突然、仕事中のセリーナ宛に「君のお母さんでは?」というFAXが届きます。母親のドロレスに女主人(ヴェラ)を殺害した容疑がかかっているという内容のもの。セリーナは暗い記憶を抱えて、何年かぶりに故郷の島へ帰ることに・・・。■ □□□警察(町役場内)に勾留されている母親と再会するセリーナ。美しく成長した娘の姿に目を細めるドロレス。しかし、セリーナは過去の忌まわしい記憶のせいで母親に対して素直になれず、他人行儀にふるまう。□□□ ■ドロレスには過去にも殺人容疑に問われた経験がありました。まだ、セリーナがリトル・トール・アイランドに住んでいた少女時代のこと。”皆既日蝕”を見るために訪れた観光客で島全体が賑わった日、セリーナの父親ジョーが行方不明となり・・・、数日後、自宅裏庭の古井戸から遺体で発見されたのです。ジョーの失踪当時、自宅にいたドロレスには殺人容疑がかかりますが、その後、殺人における確かな証拠は見つからず、結局、ジョーの死は殺人ではなく、事故死として処理されました。■ □□□成長したセリーナは島を出て、大学へ進み、今では有能な記者として仕事をこなしている。だが、彼女の心の奥底では、人に言えない”恐ろしい記憶”が蠢いていた。”蘇る記憶”の恐怖と不安から逃れるため、セリーナは、数種類の薬(安定剤??)を常用している。□□□ ■ドロレスが法の裁きを受けなかったものの、セリーナは、自分の母親が父親を殺したのではないかという疑念に苦しんでいます。そして「今回の女主人殺害も母親の仕業かもしれない・・・。」の疑惑も・・・。ドロレスの審理までの数日間。寒々とした生家で、母親と過ごすセリーナ。■ □□□懐かしい家にはセリーナが忘れたくない記憶と、決して思い出したくない記憶とが混在しているかのようだ。無邪気な少女だった頃の楽しい記憶。父親と母親にかわいがられていた自分の面影。いつしか母親を疑い、遠ざけるようになった記憶。夜中、父と母の言い争う声を聞いて驚き、2階の寝室から駆け下りたセリーナが見たものは・・・。ドロレスに食器で殴られ、頭から血を流す父親の姿だった。□□□ ■打ち消しても、打ち消しても、恐ろしい記憶の断片はセリーナを襲うようにまとわりつくのでした。ドロレスは取り乱したセリーナの様子を目にして、自分が愛してやまない一人娘からも疑われていることを悟ります。■ □□□やがて、セリーナに過去の真実を語り始めるドロレス。その真実をまっすぐには受け止められないセリーナ。ドロレスの話は、夫ジョーの酒癖(暴力)から始まり、ヴェラとの生活(苦労の数々)にまで及ぶ。□□□ ■気難しく、寝たきりになった老女(ヴェラ)との生活は、大変なものでした。もともとヴェラは「自分のルールに従わない者は許さない」という頑固な女性ですが、晩年は、正気の時とそうでない時が交互に表れドロレスの手を焼かせていました。■ □□□ヴェラが眠る寝室での一場面。正気を失いかけたヴェラにドロレスが使ったのは、「オルゴール」。(陶器のブタのオルゴール=青いギフトボックスに乗ったピンクのブタ)ヴェラのガラス・キャビネットには、彼女がコレクションしているブタの置物が200個もある。様々な表情のブタ達が並ぶ棚。(〜シャンパンを飲むブタ、豆を食べるブタなど〜)□□□ □□□ドロレスはキャビネットに置かれたブタ達から、慣れた手つきでひとつのオルゴールを選び出し、何度かネジを巻き、泣いているヴェラの近くに置く。しずかに音楽を奏でながら回るブタのオルゴール。□□□ □□□ヴェラに微笑むドロレスは、まるで何かに怯えて泣きじゃくる赤ん坊をあやす時の母親のようだ。こうしてヴェラはかろうじて正気を取り戻すのだったが・・・。□□□ ■『黙秘』は、ふたつの殺人(容疑)を絡めて進んでいくミステリーなので、これから先のあらすじを私が語るのは控えます。■ ■本当にドロレスは恐ろしい殺人鬼なのでしょうか?またセリーナは、ドロレスの娘である自分を呪うことになるのでしょうか?物語の結末は・・・・?ただひとつ、ドロレスがセリーナのことを心から愛していたことだけは、紛れもない事実です。■ ■この映画は原作と少し設定が異なっていますが、どちらも根底に流れているものは母親の愛でしょう。原作『ドロレス・クレイボーン』は、スティーヴン・キングが彼の実母に捧げた作品だそうです。今回の小道具、「ブタのオルゴール」は原作にはでてきません。(原作では、「ブタの貯金箱」のみです。)映画のラストシーン近く、セリーナの台詞に、ドロレスとヴェラの関係を説明する部分があって、ブタのオルゴールの役割についても、「なるほどね・・・。」と私は納得しました。(注:台詞に小道具名はでてきませんが・・・。)■ ■もうひとつ気になった小道具は、セリーナが頻繁に使うハンドクリーム。長年メイドとして働き続けてきたドロレスの指は、とても荒れていて痛々しいのです。映画中、ドロレスが「手は人生をあらわす・・・」とセリーナに語るシーンがあります。高学歴を持ち、NYの雑誌記者として生きている娘と、メイドとして他人に仕えてきた母親。ハンドクリームは、親子である2人の女性を対照的に映す小道具のひとつだと感じました。■ お気付きの方も多いと思いますが、『黙秘』”ドロレス”役の キャシー・ベイツは『ミザリー』(’90)でも主演しています。『ミザリー』もS・キング原作。 確か、この映画にもブタがでてきましたね。彼は豚がお好き?”アニー”(キャシー・ベイツ)のペット=本物の豚、名前は”ミザリーちゃん”!!です。キャシー・ベイツは、『ミザリー』 のキレた演技でアカデミー主演女優賞獲得。 同じくキレた演技を見せたのは、『黙秘』”セリーナ”役の ジェニファー・ジェイソン・リー 。彼女は『ルームメイト』(’92) でブリジット・フォンダを恐怖に陥れた”へドラ”役を演じています。最初のうち地味な女性だった”へドラ”が段々と派手に変身していくのは、ちょっと恐い反面、すごく興味深くて面白かったです。(いいえ、やっぱり恐いけど・・・。) 『黙秘』では、親子役として共演の二人。この作品では殆どキレません。しかし、どちらも抑えた演技ながら観る者を納得させる芸達者ぶりです。それぞれに明るい役どころでは、キャシー・ベイツ=『フライド・グリーン・トマト』(’91)等、ジェニファー・ジェイソン・リー=『未来は今』(’94)等があります。 |
HOMEへ戻る | バックナンバーへ |
原作/『ドロレス・クレイボーン』 著者/スティーヴン・キング 訳者/矢野 浩三郎 発行所/株式会社 文藝春秋 (文春文庫版) |