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▼『カラー・オブ・ハート』の作品データ▼
#22.テレビ・リモコン (2001.4)
 色とりどりの花が咲き揃い、春風そよぐ爽やかな季節ですが、「もしも・・・これが白黒の世界だったら・・・」と考えたことはありませんか?

『カラー・オブ・ハート』 では、白黒だけの景色から極彩色の風景へと、目にも鮮やかな変化を体験することができます。双子のデイビッド( トビー・マグワイア)とジェニファー(リース・ウィザースプーン)は、対照的な兄妹です。

□□□兄はケーブル・テレビで放送中の『プレザントヴィル』という、50年代のアメリカン・ホームドラマに夢中な、いわばオタク君。妹は、 流行に敏感で、クールな彼氏とのデートを夢見ているいまどきの女子高生。□□□

母親が家をあける週末も、兄妹それぞれに予定があり、デイビッドは、『プレザントヴィル』の連続放送を観ることを、一方のジェニファーは、 ボーイフレンドを家に招き、一緒にMTVを観ることを楽しみにしていました。

□□□週末の夕刻。リビングにある大型テレビのチャンネル権をめぐって兄妹喧嘩が勃発。激しく「テレビ・リモコン」を 奪い合うデイビッド&ジェニファー。ふたりが言い争いを続けているうち、「リモコン」は宙を舞い、壁にぶつかって壊れてしまった。□□□

タイミング良く(?)現れたのは、謎めいた電器屋のおじいさん。デイビッドが『プレザントヴィル』に詳しいことを知った電器屋は、自分の持って来た「テレビ・リモコン」を残して帰っていきます。訝しく思いながらも、電器屋の置いていった「リモコン」を使った途端、デイビッドとジェニファーは50年代のアメリカへとタイムスリップ!

□□□目に映るすべてのものが白黒の世界。なぜだか、デイビッドにとっては見慣れた風景ばかり。・・・暴力・セックス・不道徳な行為など皆無、摂氏22度に保たれた気温・いつも快晴・事件や事故ゼロの町、“プレザントヴィル”そのものだったからである。□□□

突然、『プレザントヴィル』の登場人物、健康的かつ仲の良い兄妹を演じるはめになったデイビッドとジェニファー。

□□□『プレザントヴィル』オタクのデイビッドは住人と同じくらいか、それ以上に“プレザントヴィル”をよく知っていたため、町の暮らしにすんなりと溶け込んでいけた。だが、ジェニファー(=90年代の女子高生)には退屈で、窮屈なこときわまりない“プレザントヴィル”生活。(笑)□□□

やがて、ジェニファーの行動がきっかけとなり、『プレザントヴィル』に変化のきざしが見え始めます。

□□□白黒の世界に咲いた、一輪の赤い薔薇。初めて起きる本物の火事。真っ白なページに刻まれてゆく本の文字や挿し絵。色づく木立ち、咲き誇る花々、つややかに実った果実。そして・・・どしゃぶりの雨。風景だけではなく、変化は住人達にも広がる。家事の手を抜く主婦。仕事を嫌がる若者。鮮やかな絵を描くカフェテリアの主人。不倫・喧嘩・・・・・・抑圧と反発。□□□

白黒とカラーに二分された“プレザントヴィル”の人々は、家族・恋人・友達・同僚・隣人といった枠を越え、思い思いに行動するようになりました。

□□□平和なドラマ、『プレザントヴィル』のストーリーは破綻寸前!驚き、慌てふためいたのが、デイビッドとジェニファーに「リモコン」を手渡した電器屋のおじいさん。電器屋は、急いでふたりを元の世界へ戻そうとする。□□□

しかし、再び不思議なリモコンを使って元の生活へ戻ることを選んだのは、デイビッドひとりだけ。ジェニファーは白黒の世界にとどまり、大学へ進学することを決意したのでした。

「リモコン」で瞬時に切り替わるテレビ画面を、私達は当たり前だと思っています。画面の中で起きる出来事が、実は虚構含みである事も、薄々わかっているでしょう。そのくせ嘘だと知っていながら虚構の世界にどっぷりつかりたい時だってあるのです。タイムスリップ前、虚構の世界『プレザントヴィル』に憧れていたデイビッドの方がそこで暮らすことにより、決して楽しくはなかった90年代の生活に戻りたいと願い、逆にジェニファーは、90年代の自分を空しく感じて虚構の世界へ残る・・・なんとなく意外なラストでしたが、『カラー・オブ・ハート』の小道具=「テレビ・リモコン」は、色彩の変化と共に「憧れの世界での偽り」と「虚構の世界への憧憬」を同時進行で見せる役割を担っていたように思います。

もしも本当にこんなリモコンがあったとしたら、貴方はどちらの世界で暮らしますか?(笑)

 『プレザントヴィル』母親役(ジョアン・アレン)、父親役(ウィリアム・H・メイシー)、どちらも名演技でした。また、コンピュータ・グラフィックによる色彩変化は鮮やかで、特に恋人達がデートで使う場所(湖周辺)が段々と色づいてゆくシーンなどはとても美しかったです。
【P.S.】 エンディングのBGM、「アクロス・ザ・ユニバース」(byフィオナ・アップル)も印象的!

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