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▼『ベティ・ブルー・インテグラル』の作品データ▼
#01.鍋  (1999.5)
 はじめまして。映画の小道具話、初回は「鍋」についてです。というのは、私が大好きな映画、 『ベティ・ブルー・インテグラル』の小道具だから。この作品をラブ・ストーリーとして括っていいものかどうか?私には疑問です。

主人公ベティ(ベアトリス・ダル)とゾルグ(ジャン・ユーグ・アングラード)。ふたりの生活を通して物語は展開していくのですが、ゾルグと深く愛しあいながらも、ベティの心は憑かれたごとく次第に病んでゆきます。目の前にいるゾルグを通り越し、ベティが信じた彼の文才のみを愛するかのように・・・。それでもゾルグはありのままのベティを受け止めようとして、ますますふたりは現実から離れ、孤立していきました。【愛】・【信じること】といった甘い言葉では説明することができないくらいに激しい感情。悲しい結末。(遅すぎる朗報。)

美しい映像と音楽で綴られる『ベティ・ブルー・インテグラル』には、いくつかのキッチンが登場します。

□□□まず、ゾルグが独りで暮らしていた家のキッチン。ベティが自分の荷物を持ってゾルグの所へやってくるシーン。よく使い込まれた平らな「鍋」でグツグツとチリが煮えている。ゾルグはひとりでチリを食べ始める。ベティと出会うまでの彼はもはや希望もなく、「自分の人生なんてこんなものさ」と、なかば諦めかけた30代の男だった。□□□

その後、ふたりはゾルグの住んでいた町を離れ・・・
・ベティの友人である未亡人が住む家。(昔はホテルだった)
・未亡人の恋人から任されたピアノ店。(田舎町にある古い屋敷)
・ゾルグがベティのために買った別荘。(丘の上にある小屋)
などで暮らします。

□□□環境を変える度、それなりに新しい生活を楽しんでいたものの、どこで暮らそうともベティの心が壊れるのをゾルグは止めることができなかった。□□□

やがて、先に逝ってしまうベティ。(彼女の意志は別にして)
再び、独りになったゾルグ。ラストシーン。

□□□キッチンでは「鍋」が煮立っている。(たぶん鍋の中身はゾルグとベティの好物、チリだろう。)もう、チリを味見して「おいしい」というベティはいなくなったのに・・・。□□□

地味な小道具の「鍋」。私はゾルグに感情移入してしまったので、よけい心に残ったのかもしれません。

 同作中、他にも素敵な小道具や場面がたくさん出てくる事を付け加えておきます。

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原作/『ベティ・ブルー』
37,2゜LE MATIN
ベティ・ブルー(原作)
著者/フィリップ・ディジャン
訳者/三輪 秀彦
発行所/株式会社 早川書房
(ハヤカワ文庫版)