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▼『アントニアの食卓』の作品データ▼
#06.食卓  (1999.8)
 子供たちは夏休み。わが家の「食卓」は一日中にぎわっています。食事やおやつの時間はもちろんのこと、宿題するのも、お絵かきや工作をするのも食卓にて・・・。元気な子供のパワーにおされて、母(私)はちょっとバテ気味かな?

今回は、小道具名の「食卓」が題名にもついている作品、『アントニアの食卓』を取り上げてみます。

□□□主人公であるアントニア(ヴィルケ・ファン・アメローイ)は、母親の最期を看取るため、娘、ダニエル(エルス・ドッターマンス)を連れて、故郷の生家へ戻ってくる。母親の葬儀を終えてからも、アントニアとダニエルは、緑が多く、静かなだけが取り柄の村に残り、自分たちのペースで生活を始める。ここは、20年もこの土地に住んでいる農夫、バズ(ヤン・デクレイル)さえも、新参者として扱われる閉鎖的な村だった。この村で育ったアントニアのことも、村人たちは「帰ってきた放蕩娘」と思いながら、それでもじっと見守っていた。(というか、見て見ぬふりをしている節もある)アントニアとダニエルが村での月日を重ねていく間に・・・、人間らしく、毅然とした態度で暮らすアントニアの周りには次第に人が集うようになる。□□□

アントニアの所に集まる人々は、いまだに村の新参者として扱われているバズとその息子達や、どこかにハンデを持っていたり、家族から虐待を受けていたり、異国の人間だったり、神職を捨てた助祭や、妊娠・出産することだけが生き甲斐の女性など・・・、一般的な社会からは疎外されやすい部分を持っている(行き場のない)人々に見受けられます。しかし、アントニアはそれらの人々を自然に受け容れ、一緒に働き、泣いたり笑ったり、生活を共にしていくことによって、いつしか本当の家族のようになって「食卓」を囲むのでした。作品中、幾度かアントニア宅の庭に大きな「食卓」を用意して、大皿に盛った料理を並べ、談笑しながら、皆で食事するシーンが出てきます。その「食卓」に集うメンバーも、年月を経るうちに顔ぶれが変化します。(生と死・自然の摂理)アントニアだけをとってみても、 娘のダニエル、 孫のテレーズ、 ひ孫のサラというように、4世代の女性が登場するのです。

□□□4世代の女たちは、直系でありながら、それぞれに個性的である。ダニエルは絵画、テレーズは数学&音楽の才能に恵まれ、サラは詩を作っている。ひ孫のサラは、まだ子供だから先のことはわからないが、アントニア、ダニエル、テレーズに共通している点は、「男性に寄りかからない生き方をしている」ことだ。自分たちの食べる物は自分たちの手で作り、また、自己の才能を満足させる生活を送っている。とにかく、彼女たちは自分の気持ちに正直なのである。□□□

アントニアの生涯や、「食卓」に集う人々の人生が淡々と描かれていくこの作品、「年月は流れても、何事も終わることはない。(また繰り返される)」をテーマにした佳作だと思います。唐突ですが、ここでお詫びを・・・。(笑)この作品、題名に「食卓」という言葉が使われていますけど、原題は確か、『アントニア』だったと記憶しています。そう、実は、「この作品には、わざわざ”食卓”ってつかなくてもいいんじゃないかな?」とも感じる私でした。(いまさらこんなこと言って・・・すみません・・・。)

なので、『アントニアの食卓』と 少し手触りの似ている作品、『月の輝く夜に』からも、小道具の「食卓」について書いてみます。『月の輝く夜に』は、とても有名な作品なので、かいつまんで・・・。

□□□ロレッタ(シェール)はジョニーという婚約者がいる身ながら、ある日突然、彼の弟ロニー(ニコラス・ケイジ)と恋に落ちる。□□□

□□□(シーン1)ロレッタ自宅の「食卓」。ロレッタがジョニーとの再婚を決めたことを父親に報告する。父娘はシャンパンに角砂糖(?)を入れて飲む。□□□

□□□(シーン2) 初対面なのになぜか弟の部屋で食事を作っているロレッタ。この時は、一人暮らしである弟の「食卓」(小さめの丸テーブル)をはさんで座り、お互いに言いたいことをぶちまけていくうちに、激しい口論となる。 が・・・。”満月のいたずら”により(?)一夜を共に過ごしてしまう二人だった。□□□

□□□(シーン3)レストランの「食卓」。ロレッタの父親が恋人と食事をしている。ロレッタの父親は仕事の自慢話をし、それをうっとりと聞く恋人。(その後、彼は恋人にブレスレットをプレゼントする。)□□□

□□□(シーン4)レストランの「食卓」。ロレッタの母親はひとりで食事にやってくる。隣のテーブルでは、年の離れた恋人たちが食事を楽しんでいる(はずだった)。ところが、そのカップル、若い女性の方が怒り始め、恋人にコップの水をかけて去っていく。残された男性は、ロレッタの母親に謝罪し、一緒に食事をする。□□□

□□□(シーン5)ロレッタの自宅の「食卓」。ロレッタの両親、祖父、伯父伯母が食事している。祖父は、自分の皿に盛られた食事を愛犬たちにやってしまう。(で、怒られる)伯父の口からは、”満月の不思議な力”についての話が・・・。□□□

□□□(シーン6)ロレッタの自宅台所にある「食卓」。ロレッタの母親は朝食の準備をしている。朝帰りのロレッタが、あわててパジャマに着替えているところに、ロニーがやってくる。ロレッタの家族(両親&祖父)、ロニーで囲む「食卓」。そこへ、伯父と伯母、婚約者のジョニーまで加わり・・・。慌ただしい展開の中、ロレッタとジョニーは婚約を解消。晴れてロレッタ&ロニーは結ばれることに。□□□

ざっと思い出しても、『月の輝く夜に』の方が「食卓」という小道具を沢山の場面で使っていました。「食卓」、それは単に食事をするだけでなく、人と人を出会わせ、結びつける役割をし、時には「食卓」に集う人達の気持ちの行き違いや喧嘩をも見守る役目をします。私は映画の「食卓」を眺めては、献立や食器、ランチョンマット等の小物も興味深く観察しています。(「食卓」には、お国柄をはじめ、主人公の人柄・経済力なども表れますね。)

 『アントニアの食卓』と『月の輝く夜に』の類似点ですが・・・。
(1)アントニアの母親の臨終シーンとジョニーの母親の臨終(ホントは死なないけど/笑) シーン。二人とも、”凄いお母さん”です!(どんな風に凄いかは、映画をご覧になってくださいね〜。)
(2)どちらの作品も、”満月”をクローズ・アップして見せます。
(3)ちょっと苦しいけど、やっぱり「食卓」シーンかなぁ・・・。(?)

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