■最初で最後の遺作展■


過日私の主宰する教室展の会場で、悲しい知らせを聞いた。
一人の画家が亡くなった・・・
昨年の個展の折にお会いし別れて6ヶ月後の逝去だったとか。
定年後から水彩画を始められて30年、私とは20年近くのお付き合いであった。
M氏はその間一度も自らの作品展は開かれたことが無く、ただ淡々として
好きな絵を描き続けられていた。
傍ら、そんな人柄に引かれてか大勢の生徒さんに何時も囲まれていた。
私如き若輩にも、「あんたはプロじゃ・・わしわ趣味じゃ・・」と笑っておられた。
生涯無所属で通され、個展すらも開かれる事なく亡くなられてしまったことはとても残念だが、
私にはM氏のそんな姿勢になにか崇高な精神を感じられて、ご本人はきっと満足されて
いたのではないかと推察するのである。
最初で最後の遺作展・・・それはM氏が私たちに無言で最後のメッセージを投げかけているような
気がしてならない。
吹く風に身を任せるように、ひょうひょうとして無欲の心境で何時になったら描くことが出来るのか・・・
訃報を知らせてくださった方が、奥様からのご伝言ですと、
「元気で居れば必ずお伺いしましたのに」と遺作展のご案内状を託して頂いた。
氏だけではなく過去何人もの先輩を見送ったが、その度に私は思う。
毛頭筆者にそんな力はないけれども、先に逝かれた方々の分までも頑張っていきたいと。。。
それが共鳴し合って後に残された者の出来る唯一の恩返しではないかと思う。
数日後に開催される同展を、悲しみと作品に会える期待の入り交じった複雑心境を秘めて
私は最後のお別れに会場に出掛けたいと思っている。
M氏のことだから、かの地に旅立たれても好きな絵を雲ににでも乗って描いておられのではないか・・・と
思いつつ心からご冥福を祈りたい。






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