ロマンは一日にしてならず
第45回(2003.2.6)
新米医者と看護婦
私がまだ医学部を卒業したばかりの新米の医者だった頃の話です。私の勤務する大学病院にはベテランから新米まで様々な医者がいました。看護婦さん方は医者の技量を見て、それなりに気配りをしています。
あるとき病棟で仕事をしていると、一本の電話が入りました。対応している看護婦の会話から、どうやら他の科のドクターが、皮膚病の専門的知識について問い合わせてきたようです。私に聞かれたら困るなあ、と内心どきどきしていたら、その看護婦は私の方をちらりと見ると
「こちらにはドクターは一人もおりませんので、医局の方にかけなおしてください」
きっぱりと言いました。
私は嬉しいやら悲しいやら、目をしょぼしょぼさせながら目の前のカルテをめくりました。
また、あるとき。私のまだ小さな子供が風邪をこじらせたため、入院させて点滴をすることにしました。小児科医の手を煩わせるほどではないと思い、自分の勤務する皮膚科の病棟に入院させ、父親である自分が主治医となり治療しました。
3日ほどたったある日、ベテラン看護婦が、ふと私の顔を見ると
「先生。お子さん、医者に見せなくてもいいんですか?」
真顔で言われてしまいました。
「あの〜、僕も一応医者なんですけど・・」私は蚊のなくような小さな声で言いましが、その看護婦は
「ほっほっほ」となぞの笑いです。
心配になった私がこっそりと小児科医に相談すると、そのベテランドクターは
「先生、この治療で大丈夫ですよ。自信を持ってください。あの看護婦さんには私も育ててもらいました。はっはっは」
と豪快に笑いました。
つられて私も笑いましたが、まだまだ弱弱しい笑い声しか出ませんでした。
本日の回文
「怪しい医者ぁ!」
(あやしいいしやあ)