ロマンは一日にしてならず
第44回(2003.1.31)


患者さんからの贈り物



 昔々の大学病院での出来事です。患者のNさんは全身に湿疹が出て皮膚科に入院していました。主治医が回診に行くといつも深々とお辞儀をする、とても礼儀正しい人でした。

 Nさんの病状は日に日に快方に向かい、真っ赤だった皮膚も一皮むけ、また一皮むけ、きれいになり、退院の日が来ました。

 その日、医師たちが仕事を終え医局に戻ってみると机の上にエイのヒレの干物がどっさりあります。そしてそこには主治医のT先生の字で

患者のNさんより」とメモが添えられています。

「そうか、今日はNさんの退院の日だったな」
「そういえばNさんの出身地はエイの干物が特産品なんだよ。」
「それにしてもこんなにたくさん、ずいぶん気張ったね」医師たちは思い思いのことを口にしながら、テーブルを取り囲み、冷蔵庫からビールを出すと宴会が始まりました。しかし干物はなかなか噛み切れません。


「ずいぶん硬いね」
「うん、それに薄味だ。」
「これは醤油をかけたほうがいいよ」

などと言っているとそこにT先生が入ってきました。彼は一瞬たじろいだ様子です。

「T先生もこっちに来て、一緒に干物を食べませんか」と誰かが言うとT先生は顔を真っ赤にしてうつむいています。彼はいすに座ったものの干物には手を出しません。そして意を決したように言いました。

「皆さん!申し訳ありません。実は、これは干物ではなくNさんのかかとの皮なんです。まさか本当に食べるとは思いませんでした!」この言葉に皆びっくり仰天。目を白黒させるもの、思わず吐き出すものもあり大騒ぎです。

「研究用にむけた皮を集めていたんですが、余ったのでつい・・・」T先生は悪びれずにすべて白状しました。翌日から彼は

干物先生」と呼ばれました。

しかし今では立派に出世して大病院の病院長になったそうです。


本日の回文


「わ!硬い!むいた皮」
(わかたいむいたかわ)