ロマンは一日にしてならず
第41回(2003.1.10)
現代のロミオとジュリエットその2
舞台は東北の小さな地方都市。私は6ヶ月間の出向を終え、新潟に戻ることになり、病院の講堂で地元の音楽愛好家の仲間たちと「さようならコンサート」をやることにしました。仲間の一人、Mさんは交際相手の父と自分の父が仇同士のため、コンサート後の駆け落ちのチャンスを伺っていました。
さて演奏会当日。演奏を始めたMさんの様子が突然おかしくなりました。聴衆の中にスパイがいるのです。彼は、スパイが家族に連絡する前に逃げなければ駆け落ちは失敗するとあせっています。
あわてたのは彼だけではありません。印刷したプログラムを演奏できなければコンサートはめちゃくちゃです。そこで急遽演奏の順番を入れ替えて、Mさんが出演する曲を早く終わらせました。演奏を終えたMさんは「みんなに迷惑をかけるから行く先は言わないが、心配しないでくれ」と言い残すと、別れを惜しむ間もなく裏口から脱出しました。その直後、Mさんの父親の会社の制服を来た人たちがぞろぞろ会場に入ってきました。間一髪、間に合ったのです。
その後、私は新潟に戻り、Mさんの消息は全くわからないまま数年が過ぎました。そんなある日、自宅の郵便受けに手を入れた私は、Mさんからの結婚式の招待状を発見しました。私は結婚に至った事実にほっとし、駆け落ちした先の仙台での結婚式に向かいました。
結婚式にはあの懐かしい合奏団の面々がそろっており、全員で懐かしい曲を演奏しました。本当の両親はやはり欠席で、勤務先の会社の社長さん夫妻が父親代わり、母親代わりと書かれた席に座っています。
正に新しい門出を祝う感動的な結婚式でした。その後、Mさんは夫婦で力をあわせ独立し、会社を経営するに至りました。現代のロミオとジュリエットは自力で道を切り開き、幸せをつかんだのでした。
「良い男性多い仙台よ」
(よいだんせいおおいせんだいよ)